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心拍変動HRVと職場ストレス|タニカワ久美子のパイロット研究
職場のストレス状態は、本人の自覚だけでは見えにくいことがあります。「大丈夫です」と答えていても、実際には緊張が続いていたり、疲労が抜けにくくなっていたりすることがあります。
この記事では、タニカワ久美子が行った職場ストレス研究のパイロットスタディとして、心拍応答、心拍変動HRV、顕在性不安、運動習慣の関係を探索的に紹介します。
本記事は、一般的なセルフケア方法を紹介する記事ではありません。職場ストレスを感覚や自己申告だけに頼らず、心理面と身体面の両方から見るための研究記録です。
なお、本研究はパイロットスタディであり、得られた結果をすべての職場やすべての社員にそのまま当てはめることはできません。ここでは、職場のストレス管理を多面的に考えるための手がかりとして扱います。
職場ストレス研究で心拍応答とHRVを見る理由
職場のストレスは、気分や性格だけで起こるものではありません。業務量、対人関係、休憩の取りにくさ、睡眠、疲労、緊張、運動習慣など、複数の要因が重なって心身に表れます。
そのため、近年は心拍数や心拍変動HRVなどの生理指標を用いて、ストレス状態や自律神経の変化を客観的に捉える研究が進んでいます。
心拍数は、運動、緊張、疲労、心理的負荷によって変化します。一方、心拍変動HRVは、心拍と心拍の間隔のゆらぎを見る指標であり、自律神経の調整状態を考える手がかりになります。
ただし、心拍数とHRVは同じものではありません。本記事では、心拍数の変化を「心拍応答」とし、HRVを含む自律神経指標とは区別して扱います。
この区別をしておくことで、職場ストレスを「気持ちの問題」だけでなく、身体の反応も含めて見る視点が明確になります。
運動習慣と心拍応答の関連性
先行研究では、定期的な運動習慣が心拍数の調整能力と関連する可能性が報告されています。
一方で、本パイロットスタディでは、運動習慣の有無と心拍応答との間に、一貫した関連を示す結果は確認されませんでした。
この背景には、参加者の健康状態、自律神経バランス、心理的ストレス感受性、日常の身体活動量、測定時の体調など、複数の要因が影響している可能性があります。
運動習慣のある参加者では、中等度の活動時に心拍数が比較的安定して変化し、身体負荷に対して過度に乱れにくい様子が見られました。
一方、運動習慣のない参加者では、負荷に対する心拍反応に個人差があり、同じ活動であっても反応の出方が一様ではありませんでした。
この結果は、運動習慣の有無だけで職場のストレス反応を単純に判断することの難しさを示しています。
職場で運動施策や健康教育を行う場合も、「運動すればよい」と一律に伝えるのではなく、社員の体力、運動経験、不安感、疲労状態を踏まえた設計が必要です。
顕在性不安度と心拍応答の関係
本パイロットスタディでは、顕在性不安度と心拍応答の関係についても検討しました。
顕在性不安度とは、本人が自覚しやすい不安傾向を示す考え方です。職場では、同じ出来事でも、不安を感じやすい人と、比較的落ち着いて受け止められる人がいます。
今回の検討では、顕在性不安度と心拍応答の間に、明確な相関は認められませんでした。
ただし、顕在性不安度が高い参加者の中には、運動中に心拍数が大きく変動した例がありました。このような反応には、心理的緊張や交感神経の働きが関係している可能性があります。
一方で、不安度が高い人すべてに過剰な心拍応答が見られるわけではありません。また、不安度が低い人であっても、身体活動量、睡眠状態、職場での緊張、測定時の環境によって心拍応答が変わる可能性があります。
このことから、顕在性不安度だけで職場ストレスを判断するのではなく、本人の心理状態、身体活動、勤務環境、生理指標を組み合わせて見る必要があります。
性差による心拍応答の違い
同じ運動負荷条件下でも、男性と女性の間で心拍応答に違いが見られる場面がありました。
男性参加者では、高負荷時に心拍数が急に上昇する例があり、交感神経活動が高まりやすい可能性が示唆されました。
一方、女性参加者では、心拍数の増加が比較的緩やかで、一定範囲内で推移する例が見られました。
この違いは、性別による自律神経バランス、体力、運動経験、心理的反応の差が関係している可能性があります。
ただし、本研究はパイロットスタディであり、性差について断定することはできません。今後は、対象者数を増やし、年齢、運動習慣、職種、勤務時間、睡眠状態などを含めて検討する必要があります。
職場ストレス管理に必要な個人差の視点
本パイロットスタディから、職場のストレス管理では、一律の運動プログラムやセルフケア指導だけでは個人差を十分に捉えきれない可能性が見えてきました。
たとえば、同じ運動でも、ある人には気分転換になり、別の人には負担になることがあります。また、同じ業務量でも、強い緊張を感じる人もいれば、比較的安定して対応できる人もいます。
この違いを「性格」や「気合い」の問題として扱うのではなく、心理的反応や身体的反応の違いとして捉えることが重要です。
人事総務・健康経営担当者が職場のストレス対策を考える際には、次のような視点が必要になります。
| 確認する視点 | 職場で見るポイント | 施策への活かし方 |
|---|---|---|
| 運動習慣 | 日常的に体を動かしているか | 運動施策の強度や参加方法を調整する |
| 心理的緊張 | 不安や緊張が強まりやすいか | 呼吸法や休憩設計を組み合わせる |
| 身体反応 | 心拍数や疲労感の変化が大きいか | 本人の状態に合わせて無理のない対策を考える |
| 職場環境 | 業務量、人間関係、相談しやすさ | 個人任せにせず、組織側の改善点も確認する |
職場ストレス管理では、個人の努力だけでなく、職場環境と本人の反応を同時に見ることが必要です。
タニカワ久美子が企業研修でこの研究をどう活かすか
タニカワ久美子の企業研修では、心拍応答やHRVの話を、専門用語のまま受講者に伝えることはありません。
たとえば、心拍数の変化は「緊張や活動に対して、体がどう反応しているかを見る手がかり」として説明します。HRVは「心身が緊張した後に、回復へ戻る力を見る補助的な視点」として扱います。
研修現場では、社員さんから「自分では大丈夫だと思っていたけれど、体は疲れていたのかもしれない」という声が出ることがあります。反対に、数値を見せすぎると不安になる社員さんもいます。
そのため、けんこう総研の研修では、測定値を社員評価に使うのではなく、自分の状態に気づくための材料として扱います。人事総務の担当者にも、数値だけで判断せず、本人の体感や職場環境と合わせて見ることをお伝えしています。
研究で得た視点を、職場で安心して使える言葉に変えること。これが、タニカワ久美子の産業ストレス管理研修で重視している点です。
限界と今後の課題
本研究はパイロットスタディであり、サンプルサイズは小規模です。また、対象者の職種や勤務環境も限定されているため、本研究の結果をすべての職場にそのまま当てはめることはできません。
今後は、より多様な対象者を含む調査を行い、心拍数、心拍変動HRV、顕在性不安度、運動習慣、睡眠状態、職場ストレス要因を組み合わせた分析が必要です。
さらに、単回の測定だけでなく、長期的な追跡調査を行うことで、職場で使いやすいストレス管理指標の検討につながります。
まとめ:HRVは職場ストレスを考える補助指標になる
本パイロットスタディでは、顕在性不安度、運動習慣、性差が心拍応答にどのように関係するかを探索的に検討しました。
結果として、単一の要因だけで心拍応答を説明することは難しく、心理的要因、身体的要因、職場環境が複合的に関係している可能性が示されました。
心拍数や心拍変動HRVは、職場ストレスを判断するための唯一の答えではありません。しかし、本人の自覚だけでは見えにくい変化を捉える補助指標として、健康経営や産業ストレス管理に活かせる可能性があります。
職場のストレス管理では、感覚だけに頼らず、心理面と身体面の両方から状態を見る視点が重要です。
職場のストレス状態を、感覚だけでなく科学的な視点から捉えたいご担当者様へ
けんこう総研では、心拍応答や心拍変動HRVなどの研究知見をもとに、企業の人事総務・健康経営担当者が現場で活用しやすい産業ストレス管理研修を設計しています。
職場のストレス状態を、感覚だけでなく制度設計やKPIの視点から見直したいご担当者様へ
けんこう総研では、心拍応答や心拍変動HRVなどの研究知見を、社員評価ではなく、職場のストレス管理・役割分担・健康経営施策を考えるための材料として扱います。人事総務が進めるストレス管理の全体像は、以下のページで紹介しています。