ストレス計測・行動変容|健康経営のKPI設計と研修効果測定
ウェアラブルで行動変容は起きるのか|健康経営で失敗しない導入前の考え方
ウェアラブルを使えば、社員の行動は本当に変わるのか
ウェアラブルデバイスと行動変容について解説します。
ただし、本記事で見るのは、心拍数やHRVなどの細かなデータの読み方ではありません。ウェアラブルを配れば社員の健康行動が自然に変わる、という期待をどう扱うかに絞って考えます。
「せっかく導入しても、使われなかったらどうしよう」。人事総務・健康経営担当者がそう感じたとき、導入前に確認しておきたい点をお伝えします。
ウェアラブルは「使えば変わる」道具ではない
健康経営では、ウェアラブルデバイスへの関心が高まっています。
歩数、心拍数、睡眠、心拍変動HRVなどが見えるようになると、社員が自分の状態に気づき、自然に健康行動が増えるのではないかと期待されます。
しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。
ウェアラブルは、身につけただけで人の行動を変える道具ではありません。
この前提を持たないまま導入すると、あとから次のような悩みが出やすくなります。
- 最初は使われたが、だんだん見られなくなる
- データは取れているのに、行動が変わらない
- 社員によって使い方に差が出る
- 人事総務が、集めたデータをどう活かせばよいか迷う
- 健康経営施策として効果を説明しづらい
つまり、ウェアラブルの導入で大切なのは、デバイスそのものではありません。
社員がそのデータをどう受け止め、どのように行動につなげられるかです。
行動変容は、データだけでは起きにくい
ウェアラブルを使うと、これまで見えにくかった身体の状態が数字として表示されます。
歩数が少ない、睡眠時間が短い、心拍数が高い。こうした情報は、健康行動を考えるきっかけになります。
ただし、数字が見えたからといって、すぐに行動が変わるわけではありません。
たとえば、歩数が少ないと分かっても、仕事が忙しければ歩く時間を増やせないことがあります。
睡眠時間が短いと分かっても、家庭の事情や勤務時間の影響で、すぐには変えられない人もいます。
ストレス反応が見えても、「だから何をすればいいのか」が分からなければ、行動にはつながりません。
人事総務が見落としやすいのは、この部分です。
データは行動変容のきっかけにはなりますが、行動を変えるには、本人が納得できる説明と、続けやすい職場環境が必要です。
ウェアラブル利用者には、行動が変わる人と変わらない人がいる
ウェアラブルを使った行動変容に関する研究では、同じようにデバイスを使っていても、行動が変わる人と変わらない人がいることが示されています。
たとえば、ウェアラブル利用者の反応には、次のような違いがあります。
- 通知や数値をそのまま受け取る人
- 通知を見ても、行動にはつながらない人
- 自分の感覚とデータを合わせて考える人
- データをもとに、自分で行動を工夫できる人
重要なのは、ウェアラブルを使っている人が、全員4つ目の状態になるわけではないことです。
多くの場合、通知を見て終わる、数字を確認して終わる、最初だけ使って終わるという状態が起こります。
これは社員の意識が低いという話ではありません。
データを見たあとに、何をすればよいのかが分からないままでは、行動は続きにくいのです。
行動変容を分けるのは、自分で考えて動ける状態かどうか
ウェアラブルが役立ちやすいのは、すでに自分の健康行動を見直す準備ができている人です。
たとえば、次のような人です。
- 自分の生活を見直したいと思っている
- 数字を見て、自分なりに意味を考えられる
- 小さな行動を試してみる余裕がある
- 失敗しても、また調整しようと思える
このような社員にとって、ウェアラブルは行動を助ける道具になります。
一方で、仕事に追われている社員、ストレスが高い社員、健康行動に苦手意識がある社員にとっては、データが負担になることもあります。
「また歩数が足りない」「睡眠が悪い」「ストレスが高い」と表示されることで、かえって気持ちが重くなる場合もあります。
そのため、ウェアラブルを健康経営で使うときは、社員に数字を見せるだけでは不十分です。
数字をどう受け止めればよいのか、無理なく何を試せばよいのかまで伝える必要があります。
企業導入で起こりやすい誤解
健康経営の現場では、ウェアラブルについて次のような誤解が起こりやすくなります。
- データを見せれば、社員は自分から変わる
- デバイスを配れば、健康施策として成立する
- 歩数や心拍数が見えれば、ストレス管理も進む
- 行動が変わらないのは、社員本人の意識の問題である
- 利用率が高ければ、施策は成功している
しかし実際には、ウェアラブルは行動を変えさせる装置ではありません。
社員が自分の状態を振り返るための材料です。
この違いを見誤ると、導入後に「データはあるのに、施策として何が変わったのか分からない」という状態になりやすくなります。
タニカワ久美子の企業研修で見ている現場の反応
タニカワ久美子の企業研修では、ウェアラブルやストレスデータを扱うとき、最初に「数字を見れば行動が変わるわけではありません」と伝えます。
現場で見ていると、社員さんの反応は大きく分かれます。
数値を見て「少し歩いてみよう」と前向きになる人もいれば、「また悪い数字を見せられた」と感じてしまう人もいます。
特に、すでに疲れている社員さんほど、健康データを改善課題のように受け止めてしまうことがあります。
そのため研修では、ウェアラブルの数字を「良い・悪い」で見るのではなく、自分の状態に気づくためのサインとして扱います。
人事総務の担当者からも、デバイス導入だけで終わらず、社員が数字をどう受け止めればよいかまで扱う点を評価されています。
人事総務が導入前に確認しておきたいこと
ウェアラブルを健康経営施策として導入する前に、人事総務は次の点を確認しておく必要があります。
- ウェアラブルを何のために使うのか
- 社員にどのデータを見せるのか
- そのデータを、社員にどう説明するのか
- 行動が変わらなかった場合、どう受け止めるのか
- 管理職には、どこまで関わってもらうのか
- 研修や面談と、どのようにつなげるのか
- データを見ることが負担になる社員に、どう配慮するのか
この確認がないまま導入すると、ウェアラブルは「配っただけ」の施策になりやすくなります。
社員にとっても、人事総務にとっても、データをどう扱えばよいのか分からないままになってしまいます。
ウェアラブルを健康経営に活かすために必要なこと
ウェアラブルを健康経営に活かすには、デバイスの配布だけでなく、社員が行動を変えやすい流れをつくる必要があります。
たとえば、次のような流れです。
- まず、自分の状態を知る
- 次に、無理なく変えられる行動を一つ選ぶ
- その行動を短期間で試してみる
- データと実感を合わせて振り返る
- 続けられる形に調整する
この流れがあると、ウェアラブルは単なる記録装置ではなく、行動を見直すきっかけになります。
反対に、この流れがないまま数値だけを見せると、社員は「だから何をすればいいのか」が分かりません。
結果として、最初は使っていても、次第に見なくなる可能性があります。
ウェアラブルは、健康経営の入口にすぎない
ウェアラブルは、健康経営に役立つ可能性があります。
しかし、単独で完結する施策ではありません。
行動変容が起こるかどうかは、次の要素に大きく左右されます。
- データの見せ方
- 社員への説明の仕方
- 管理職の声かけ
- 職場で試せる小さな行動
- 研修や面談で振り返る機会
つまり、健康経営で大切なのは、「使えば変わる」という期待を一度外すことです。
そのうえで、社員が自分の状態に気づき、無理なく行動を試せる支援を用意する必要があります。
健康経営施策としての結論
ウェアラブルは、社員の健康状態や行動を考えるための有効な材料になります。
ただし、身につけただけで社員の行動が変わるわけではありません。
人事総務が見るべきなのは、次の3点です。
- 社員がデータを見て、自分の状態に気づけるか
- その気づきから、無理のない行動に移せるか
- 職場として、行動を続けやすい支援を用意できているか
ウェアラブルは、社員を管理するための道具ではありません。
社員が自分の状態を知り、職場が支援方法を考えるための入口です。
この前提を持つことで、健康経営施策はデバイス導入で終わらず、研修や行動変容につながりやすくなります。
健康経営の研修や施策を、実施後の効果測定まで含めて設計したい企業担当者は、以下のページをご覧ください。