感情労働ストレス
MBI-ESの点数を教師評価に使わない判断
MBI-ESの結果を見たとき、学校管理職や人事総務は迷います。
情緒的消耗感が高い先生を、ストレスに弱い先生として見てよいのか。脱人格化の点数が低ければ、まだ大丈夫と考えてよいのか。個人的達成感が下がっている先生に、励ましの言葉だけで足りるのか。
教師のバーンアウトを見るときに大切なのは、点数で教師を評価することではありません。その点数の背景に、学校内のどの負担が残っているのかを見ることです。
MBI-ESそのものの基本は、MBI-ESとはで扱っています。この記事では、尺度の説明ではなく、結果を教師評価に使わず、職場の負担として見る判断に絞ります。
MBI-ESの点数を教師評価に使わない
MBI-ESは、教師を選別するためのものではありません。
点数が高いから弱い。点数が低いから問題ない。そう見ると、学校現場で起きている負担を見落とします。
情緒的消耗感が高い場合、その先生の気持ちが弱いのではなく、保護者対応、困難ケース、校務、職員間調整が重なっている可能性があります。
点数は、本人を評価する材料ではなく、学校としてどこを見直すかを考える入口です。
情緒的消耗感が高いときに見ること
情緒的消耗感が高い先生は、外から見ると普段どおりに働いていることがあります。
授業では明るく話す。保護者には冷静に説明する。職員室では弱音を出さない。だから、周囲からは「まだ大丈夫そう」に見えます。
けれども、対応できていることと、回復できていることは別です。
人事総務や管理職が見たいのは、保護者対応後に緊張が残っていないか。生徒指導後に表情が戻っているか。難しい案件が、いつも同じ先生に戻っていないかです。
情緒的消耗感は、本人の弱さではなく、感情を使う仕事が戻り続けているサインとして見る必要があります。
脱人格化の点数が低くても安心しない
脱人格化は、児童生徒や保護者に対して、心の距離を取り、事務的になりやすい状態を見ます。
ただし学校現場では、この点数が低く出ても安心とは言い切れません。
教師は、児童生徒に冷たく接していると思われることを避けます。本人も「そんなふうに思ってはいけない」と感じて、つらさを表に出さないことがあります。
そのため、脱人格化の点数だけを見て「問題は少ない」と判断すると、情緒的消耗感や抱え込みを見落とすことがあります。
見るべきなのは、点数そのものより、対応のあとに人との距離を取りたくなっていないか、職員室で会話が減っていないか、相談を避けるようになっていないかです。
個人的達成感の低下を励ましだけで終わらせない
個人的達成感が下がっている先生には、「頑張っていますよ」「大丈夫ですよ」と声をかけたくなります。
もちろん、承認の言葉は大切です。けれども、それだけでは届かないことがあります。
授業準備をしても成果が見えにくい。保護者対応に時間を使っても感謝されるとは限らない。学級経営や校務の努力が、誰にも見えにくい。
こうした状態が続くと、先生は「自分の仕事に意味があるのか」と感じやすくなります。
人事総務や管理職が見たいのは、その先生の気持ちの持ち方ではなく、努力が見えないままになっていないか、難しい役割だけが戻っていないか、手応えを共有する場が失われていないかです。
学校で見たい判断材料
| MBI-ESで見えた状態 | 本人評価にしてしまう見方 | 学校として見る判断 |
|---|---|---|
| 情緒的消耗感が高い | ストレスに弱い先生と見る | 保護者対応や困難ケースが集中していないか |
| 脱人格化が低い | まだ問題は少ないと見る | つらさを表に出していない可能性を見る |
| 個人的達成感が低い | やる気が下がっていると見る | 努力や成果が見えないままになっていないか |
| 複数の負担が重なる | 本人の抱え方の問題と見る | 業務・対応・相談役の偏りを見る |
専門職でも迷う判断ポイント
専門職でも迷うのは、MBI-ESの結果をどう扱うかです。
点数を見れば状態は分かります。けれども、点数を見ただけでは、学校の中で何が起きているかまでは分かりません。
情緒的消耗感が高い先生に、休養だけを勧めればよいのか。脱人格化が低い先生は、本当に安心してよいのか。達成感が下がっている先生に、励ましだけでよいのか。
ここで必要なのは、点数を本人の問題に戻さない判断です。
どの対応が続いているのか。誰に難しい案件が戻っているのか。管理職が一人で聞き役を抱えていないか。人事総務に共有される前の違和感が、職場内で止まっていないか。
MBI-ESの結果は、診断名を探すためではなく、学校の負担の偏りを見るために使う必要があります。
研修前に整理したいこと
研修前に整理したいのは、MBI-ESの点数の高低ではありません。
その点数の背景に、どの負担が残っているのかです。
保護者対応が同じ先生に集まっていないか。困難ケースを担任だけが抱えていないか。校務や行事の調整が特定の先生に寄っていないか。職員間で相談しにくい空気がないか。
ここを見ないまま研修を行うと、受講者は「バーンアウトは大切なテーマだ」と理解しても、現場ではまた同じ負担が同じ先生に戻ります。
タニカワ久美子の研修で扱う領域
タニカワ久美子の教育機関向け研修では、MBI-ESの結果を教師評価として扱いません。
研修で扱うのは、点数の背景にある現場の見方です。
情緒的消耗感が高い先生の後ろに、どの対応が続いているのか。脱人格化が低くても、つらさを表に出せていない可能性がないか。個人的達成感の低下を、本人のやる気の問題にしていないか。
この部分は、一般的な尺度解説だけでは動きません。学校ごとの保護者対応、困難ケース、校務分担、管理職の関与、人事総務への共有のされ方を見ながら、問題の見方をそろえる必要があります。
MBI-ESを学校の負担を見る入口にする
MBI-ESは、教師を評価するためではなく、学校の負担を見直す入口として使うものです。
点数だけを見ると、本人の問題に見えます。けれども、現場に戻して見ると、保護者対応の集中、困難ケースの抱え込み、校務の偏り、相談しにくい空気が見えてくることがあります。
教師のバーンアウトを、本人の弱さや努力不足で終わらせず、学校として見るべき負担に変えられていますか。
参考文献
- Maslach, C., Jackson, S. E., & Leiter, M. P. (1996). Maslach Burnout Inventory Manual.
- 奥村太一ほか「日本版MBI-ESの作成と信頼性・妥当性の検証」心理学研究, 2015, 86(4), 323-332.
- 久保真人(2004)日本版バーンアウト尺度に関する研究。
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。