ストレス対策として社員に運動をすすめる前に、「その負荷は、今の社員に合っていますか」と確認できていますか。
職場の運動施策では、運動の種類や実施回数が先に決まりがちです。しかし、疲労が強い人、運動習慣がない人、肩や腰に痛みがある人に、全員一律の強度を求めれば、健康施策そのものが負担になる場合があります。
運動強度の選択は、社員の頑張りを評価するためではありません。「何を目的に、誰に、どの程度の負荷を、どの条件で取り入れるか」を判断し、休息や相談も選べるようにすることが目的です。
本記事では、タニカワ久美子が学会発表で扱ったものとして既存記事に掲載している運動強度別の集計値と、査読論文・厚生労働省の指針を手がかりに、法人の人事・総務・健康経営担当者が運動施策を設計する際の判断を整理します。
株式会社けんこう総研の代表取締役・産業ストレス管理専門家 タニカワ久美子は、ストレス反応への気づきとセルフケアを、仕事中の対処、早期相談、管理職の対応につなげる法人向け研修を提供しています。本記事は運動を医学的に処方するものではなく、企業の研修・施策担当者が負荷を選ぶための専門情報です。
ストレス対策の運動強度は、「今の切り替え」と「体力づくり」を分けて考える
同じ「運動」でも、仕事の合間に身体を動かして気分を切り替えることと、中長期的に体力を高めることでは、目的も必要な条件も異なります。運動には一定の身体的負荷が伴い、その負荷が本人の状態に合っているかを確認することが必要です。
| 比較項目 | 仕事中の切り替え | 中長期的な体力づくり |
|---|---|---|
| 目的 | 座位や作業の連続をいったん区切る、身体や気分の変化に気づく | 体力や持久力、身体活動習慣の維持・向上を目指す |
| 負荷の考え方 | 短時間・低負荷から、本人が無理なく選べる内容 | 健康状態・運動経験に合わせて段階的に調整する内容 |
| 確認すること | 痛み・息苦しさ・めまいがないか、参加を望んでいるか | 健康状態、運動歴、疲労、休息、継続可能性 |
| 職場側の役割 | 休憩や参加選択を認め、無理をさせない | 強度を一律に強制せず、必要に応じて専門家に相談する |
「軽い運動なら全員に適する」「強い運動ほどストレスに効く」といった単純な結論にはできません。まず目的を分け、本人が運動以外の選択肢も取れるようにします。
学会発表で示された運動強度別データを、どう読み取るか
タニカワ久美子が日本ストレス学術総会で発表したデータとして、従来の記事ではMET(メッツ)別のストレスレベルと心拍数を紹介してきました。METは安静時のエネルギー消費を1とした身体活動の強さの単位です。METだけで心理的ストレスや運動の安全性を判定することはできません。
掲載データ1|運動強度とストレスレベル
| 比較群 | ストレスレベルの中央値 | 統計情報 |
|---|---|---|
| 1MET | 40.5 | U = 795.0、p = 0.0228(原稿掲載値) |
| 2~3MET | 50.5 |
上記は既存記事に掲載されている集計値を保持したものです。ストレスレベルの測定尺度、対象人数、調査対象、実施条件、統計処理の原資料が現在の掲載原稿には示されていないため、数値の大小をそのまま「2~3METの運動はストレスを悪化させる」と解釈してはいけません。集計値を再検証するには発表資料と測定方法の照合が必要です。
掲載データ2|運動強度と心拍数
| 運動強度 | 心拍数の中央値 |
|---|---|
| 1MET | 73 |
| 2~3MET | 79 |
| 4MET以上 | 93 |
原稿に掲載されていた統計値:H = 515.86、p = 9.61 × 10−113。この値も原資料で再確認する必要があります。心拍数が高くなること自体は運動に伴う自然な反応であり、数値のみで「危険」「効果が高い」とは判断できません。
掲載データ3|運動習慣の有無による心拍数の違い
| 運動強度 | 運動習慣あり:中央値 | 運動習慣なし:中央値 |
|---|---|---|
| 1MET | 68 | 75 |
| 2~3MET | 74 | 80.5 |
| 4MET以上 | 92 | 105 |
この表は、運動習慣が異なる群では心拍数の分布が異なり得ることを示す掲載データです。ただし、年齢、体格、測定条件、対象人数などの影響を確認できないため、運動習慣が差の原因であると断定しません。職場で引き出す実務上の判断は、社員全員に同じ運動強度を設定しないことです。
データの位置づけ:上記3表は元記事の掲載値を維持しています。研究の正式名称・発表年月・対象人数・測定尺度・原資料へのリンクは提示資料に含まれていないため、未確認の詳細を補っていません。研究結果を商品効果や医学的な適応判定として使用するものではありません。
研修の運動強度を決める前に、社員の行動目標を整理したい方へ
職場に運動を導入する際は、「何METを全員に行わせるか」よりも、社員が自分の状態を確認し、軽い活動・休息・相談から適切な行動を選べるかを先に決める必要があります。
人事総務・健康経営担当者向けに、実在する資料「ストレスマネジメント研修 行動変容設計シート」をご案内します。研修で伝える内容と研修後に確認したい行動を整理するための資料であり、医療的な運動許可や最適な運動強度を判定するものではありません。
研修の実施時期や人数が未定の法人担当者も、社内検討にご活用ください。
査読論文が示すのは「運動効率」だけでは決められないという視点
DeckerとEkkekakis(2017)は、身体活動量の少ない肥満のある女性24人を対象に、高強度インターバル運動と中強度の連続運動を比較しました。運動中の快・不快感と運動後の楽しさは、中強度の連続運動で良好な結果を示しました。原著論文。
この研究の対象は限定され、すべての職場や社員に一般化はできません。それでも、時間効率がよい運動が、必ずしも本人にとって心地よく、続けやすい運動とは限らないという判断材料になります。
またBergerとOwen(1988)は、水泳、ボディコンディショニング、ハタヨガ、フェンシングなど異なる運動形式と気分変化を検討しています。単に「運動すればよい」と決めるのではなく、競争性、実施条件、本人の受け止め方にも注目するための先行研究です。論文情報。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、普段の身体活動量や健康状態を踏まえ、適切な強度・量から段階的に始める安全対策が示されています。身体活動・運動を安全に行うためのポイント。
運動強度を選ぶときは、実施前・実施中・実施後の3段階で判断する
職場での強度選択は、METの数値だけでは完結しません。本人の健康状態、運動経験、疲労、痛み、実施中の反応、終了後の状態を順番に確認します。
| 判断の時点 | 本人が確認すること | 職場で用意すること |
|---|---|---|
| 実施前 | 今日は運動を希望するか、疲労・痛み・体調不良がないか | 低負荷・見学・休息・不参加を選べる案内 |
| 実施中 | 息苦しさ、めまい、痛みの増悪、強い不快感がないか | 本人の判断で中断できる運営と必要な連絡先 |
| 実施後 | 強い疲労・痛みが残らないか、次回も無理なく続けられるか | 次回の強度・時間・実施方法の見直し |
強い疲労、体調不良、痛みの増悪などがある場合は、運動を追加するのではなく休息や医療・産業保健への相談を優先します。突然の胸痛、強い息苦しさ、意識障害、急な麻痺などがある場合は、直ちに運動を中止し緊急対応を行います。
これらは研修運営のための判断視点です。医学的な運動許可、治療、リハビリテーション上の負荷設定は医師等の専門職が判断します。
一般社員・管理職・人事総務では、運動強度について学ぶ内容が違う
研修を職場の行動につなぐには、全員に同じ説明を繰り返すのではなく、役割によって「研修後に何を判断するか」を区別します。
| 対象 | 研修で扱う判断 | 職場で期待する行動 |
|---|---|---|
| 一般社員 | 自分の疲労・運動経験・痛みと、活動強度の関係を理解する | 無理に強度を上げず、軽い活動・休息・相談を選ぶ |
| 管理職 | 運動を強制せず、業務負担と参加の選択肢を整える | 休憩や参加方法を認め、困りごとを適切な窓口につなぐ |
| 人事・総務・健康経営担当者 | 研修の目的、対象、強度、実施条件と評価指標を決める | 参加率だけでなく、無理のない実践行動と職場の障壁を評価する |
例えば、社員向けには「今は軽い活動と休息のどちらを選ぶか」を考え、管理職向けには「体調が悪い人が参加しないことを認められるか」を検討します。人事総務は、研修後に実践できない理由が業務設計側にないかも確認します。
タニカワ久美子の専門性を、法人研修のどの項目に使うのか
けんこう総研が販売しているのは、研究論文そのものでも、社員全員に同じ運動をさせるプログラムでもありません。産業ストレス管理の専門知見を使い、社員が自分の負担に気づき、適切な行動を選び、職場で相談できる状態をつくる法人研修サービスです。
実在する商品は「企業向けストレスマネジメント研修」です。商品ページでは、ストレス反応への気づき、セルフケア、早期相談、職場での行動・ケース演習を扱い、60分・90分・半日・1日を構成例として案内しています。運動強度の選択を主題にする場合は、対象者・所要時間・実技の可否に応じて内容の組み込みを相談する形です。
| 研修項目 | タニカワ久美子が活用する専門性 | 受講者の判断・行動 |
|---|---|---|
| ストレス反応・身体反応の理解 | 産業ストレス管理、疲労・身体反応に関する知見 | 疲労や身体の変化を運動の効果と混同せずに把握する |
| セルフケアの選択 | 運動強度と身体反応の違いを説明する知見 | 活動を軽くする、休む、相談する選択肢を持つ |
| 職場でのケース演習 | ストレス要因と働き方を結びつける実務視点 | 忙しい日や疲労時に、無理のない対応を選ぶ |
| 管理職の関わり方 | 職場コミュニケーションと早期相談の支援 | 参加を強制せず、必要な業務調整と相談につなぐ |
| 健康経営への展開 | 施策設計・職場運用・研修後の評価の知見 | 受講後の行動と職場の実施条件を見直す |
このように、研究で示された数値をそのまま社員に当てはめるのではなく、研究の読み取りを、研修での判断練習と職場の行動に変えることが、専門サービスとしての価値です。
この研修が適している案件・適していない案件
| 適している案件 | 適していない案件 |
|---|---|
| 社員のストレス反応への気づきとセルフケアの選択を学びたい | 腰痛・肩こりの医学的診断や治療、個別リハビリテーションが目的 |
| 運動経験や疲労の違いに配慮し、無理な参加を防ぎたい | 医師等による個別の運動処方・負荷試験・運動可否判定が必要 |
| 管理職と社員の役割を分け、相談・職場対応まで学びたい | 運動を強制し、全社員に同一の強度・回数を課すことが前提 |
| 研修後に実行する行動や、職場での定着条件を決めたい | 建物・設備の専門測定や医療上の効果保証のみを求める |
社員の行動や運用の見直しまで求める企業に適した研修です。一方、個別の医学的判断が主目的の場合は、医療・産業保健等の専門的な対応が先になります。サービスの適合性を見極めてから、研修時間や内容を検討してください。
研修後は「強い運動をしたか」ではなく、適切に選べたかを評価する
研修後の成果を参加率だけで評価すると、無理をして運動した社員や、休息を必要としていた社員を見落とす可能性があります。次のような行動面の指標を検討できます。
- 社員が運動をする目的と、無理を避ける判断を説明できるか
- 軽い活動・休息・相談など、複数の選択肢を使えるか
- 管理職が参加を強制せず、休憩や相談を認めているか
- 人事総務が運動施策の参加障壁や改善点を把握できるか
本人の痛み・病歴やストレス状態を、管理職が個人別に収集・評価することは避け、プライバシーと任意性に配慮します。必要に応じて、研修後の職場定着支援や施策評価について別途相談することもできますが、研修受講だけで身体症状の改善や組織の制度変更が保証されるわけではありません。
ストレッチを職場へ導入するための時間・場所・参加ルールの設計は職場ストレッチ導入の記事、実施・軽減・中止の安全判断そのものは職場セルフケアの判断基準の記事で詳しく扱います。本記事5272は、研究データを踏まえた運動強度の選択に役割を限定します。
ストレス対策の運動強度を、職場で選べる行動に変える
運動強度に関する研究データは、社員全員に同じ負荷を決めるためのものではありません。疲労、運動経験、実施中の反応、実施後の回復を踏まえて、本人が適切な活動・休息・相談を選ぶための判断材料です。
けんこう総研の企業向けストレスマネジメント研修では、タニカワ久美子が産業ストレス管理の専門性を生かし、身体反応への気づき、職場でのセルフケア選択、早期相談、役割別の行動を学ぶ研修を提供しています。運動強度を扱う内容は、企業の対象者と課題に合わせて研修設計時に確認します。
法人研修を比較する|対象者・時間・料金・見積条件
実在する研修商品:企業向けストレスマネジメント研修(講師:タニカワ久美子)
主な対象は一般社員、新入社員、若手・中堅社員など。企業の課題に応じて管理職・人事総務の役割も組み込み、対面・オンラインでの実施を相談できます。公開されている構成例は60分・90分・半日・1日です。料金、開催条件、個別の実技や演習の組み込み可否、正式見積もりは商品ページで確認してください。
企業向けストレスマネジメント研修の内容・対象者・料金・見積条件を確認する
医学的な診断・治療、運動処方、法定講習の代替を目的とする商品ではありません。
参考文献・根拠資料
- タニカワ久美子:日本ストレス学術総会での発表データとして元記事に掲載された運動強度別集計値(発表年月・対象人数・測定尺度などの書誌情報は本稿未掲載)。
- Decker, E. S., & Ekkekakis, P. (2017). More efficient, perhaps, but at what price? Psychology of Sport and Exercise, 28, 1–10.
- Berger, B. G., & Owen, D. R. (1988). Stress Reduction and Mood Enhancement in Four Exercise Modes. Research Quarterly for Exercise and Sport, 59(2), 148–159.
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:身体活動・運動を安全に行うためのポイント。
執筆・文責:タニカワ久美子(株式会社けんこう総研代表取締役/産業ストレス管理専門家)
