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睡眠中HRVと朝の調子|精神面・身体面をどう測るのか
「体は動きそうだけれど、気持ちが重い」「気分は悪くないのに、朝から体がだるい」。このように、朝の心と体の調子がぴったり一致しない日はあります。
本記事では、睡眠中にウェアラブルで測定した心拍変動HRVの研究で、翌朝の精神的な調子と身体的な調子をどのように質問し、どのように分析したのかを紹介します。
これは、ウェアラブルデバイスを導入するかどうかを決める記事ではありません。
睡眠中HRVという研究テーマを通じて、数値で見える体の反応と、本人が感じる朝の調子の違いを見ていきます。
この記事で扱う中心テーマは、睡眠中HRVの研究で、翌朝の「心の準備」と「体の準備」をどう分けて測ったのかです。
研究では、翌朝の心身の調子を2つの質問で見ている
この研究では、参加者に朝の状態について2つの質問をしています。
- 私は身体的に健康だと感じる
- 私は精神的に健康だと感じる
参加者は、この2つの質問に対して、0から10までの11段階で答えました。
0はまったく当てはまらない状態、10はとてもよく当てはまる状態として、自分の朝の調子を評価します。
ここで大切なのは、この質問が病気の有無を診断するものではないという点です。
本人がその朝に、自分の心と体をどう感じているかを見るための質問です。
身体的な調子とは何を指すのか
身体的な調子とは、体が動けそうか、疲れが残っていないか、仕事や活動に入れる感じがあるかという感覚です。
たとえば、次のような状態に近いものです。
- 体が軽い
- 疲れが抜けている
- 朝から動き出せそう
- だるさが少ない
- 体力的に一日を始められそう
研究の対象者は軍人であり、身体を使って任務に向かう準備ができているかどうかが重要になります。
そのため、身体的な調子は、単なる健康感ではなく、身体的にパフォーマンスを発揮できそうかという感覚として扱われています。
精神的な調子とは何を指すのか
精神的な調子とは、気持ちが落ち着いているか、集中できそうか、判断や対応に入れる状態かという感覚です。
たとえば、次のような状態です。
- 気持ちが安定している
- 不安が強すぎない
- 集中できそう
- 判断する余裕がある
- 人と関わる準備ができている
身体の調子が良くても、気持ちが重い日があります。
反対に、気持ちは落ち着いていても、体が重い日もあります。
この研究では、心と体の調子を分けて質問している点が重要です。
Acute Readiness Monitoring Scaleとは何か
原稿に出てくる Acute Readiness Monitoring Scale は、活動や任務に向かう準備状態を見るための尺度です。
日本語では、「急性の準備状態を確認する尺度」と考えると理解しやすくなります。
ここでいう準備状態とは、単に元気かどうかではありません。
その日の活動に入れるだけの心と体の状態があるかを見ます。
| 見ている状態 | 意味 | 職場で置き換えると |
|---|---|---|
| 身体的な準備 | 体が動ける状態か | 疲れが残らず、業務に入れる感覚があるか |
| 精神的な準備 | 集中や判断に入れる状態か | 気持ちが整い、落ち着いて仕事に入れるか |
| その日の即応性 | 必要な活動に対応できる状態か | 朝の時点で無理なく仕事へ向かえるか |
この尺度は軍人を対象にした研究で使われています。
そのため、一般企業の社員にそのまま当てはめるものではありません。
ただし、朝の時点で心と体の準備状態を見るという考え方は、職場の健康支援にも参考になります。
研究では、何を比べたのか
この研究では、睡眠中の心拍変動HRVと、翌朝の心身の調子の関係を見ています。
具体的には、次のような情報を比べています。
- 睡眠中のHRV
- 全睡眠時間
- 翌朝の身体的な調子
- 翌朝の精神的な調子
- 参加者ごとの違い
- 同じ人の中での日ごとの変化
ポイントは、参加者ごとの違いだけでなく、同じ人の中で日によってどう変わるかも見ていることです。
たとえば、AさんとBさんを比べるだけではありません。
Aさんの中で、ある日はHRVが高く、別の日は低い。その違いが、翌朝の体や気持ちの感じ方と関係するのかを見ています。
データ分析では、参加者ごとの違いを考慮している
この研究では、Rという統計ソフトを使って分析が行われています。
原稿では、RStudio、lme4、階層的線形混合モデルといった専門用語が出てきます。
ここでは、健康管理や職場支援に関わる方が読みやすいように、意味だけを押さえます。
この分析で大切なのは、参加者全員を同じ条件の人として扱わないことです。
人によって、もともとのHRV、睡眠、体力、精神的な調子の感じ方は違います。
そのため、研究では次の2つを分けて見ています。
| 見方 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 人と人の違い | 参加者ごとのもともとの違いを見る | Aさんは普段からHRVが高め、Bさんは低め |
| 同じ人の中での違い | 同じ人の中で、日によってどう変わるかを見る | Aさんの中で、よく眠れた日と疲れが残る日を比べる |
職場で考える場合も同じです。
社員同士を単純に比べるより、その人自身のいつもの状態と比べるほうが、変化に気づきやすくなります。
結果として何がわかったのか
この研究では、HRVの指標としてrMSSDが使われています。
さらに査読の過程で、SDNNという別のHRV指標でも分析が行われました。
SDNNとは、心拍間隔のばらつきを見る指標の一つです。
しかし、睡眠中のSDNNは、翌朝の精神的な調子や身体的な調子とは有意な関係を示しませんでした。
わかりやすく言うと、別のHRV指標でも確認してみたものの、睡眠中の心拍変動が翌朝の心と体の元気さを強く説明する結果にはならなかった、ということです。
この結果は、HRVだけで翌朝の心身の調子を判断できないことを示しています。
HRVの指標によって見えるものは違う
HRVには、いくつかの指標があります。
同じ心拍変動を見ていても、指標によって注目している部分が違います。
| 指標 | 見ていること | 注意点 |
|---|---|---|
| rMSSD | 短い時間での心拍間隔の変化 | 副交感神経活動の手がかりとして使われることがある |
| SDNN | 心拍間隔全体のばらつき | 測定時間や条件の影響を受ける |
どの指標を使うかによって、結果の見え方が変わることがあります。
そのため、HRVを読むときは、「HRVが高い・低い」だけではなく、どの指標を使っているのかを見る必要があります。
この研究を職場の健康支援でどう読むか
この研究は、軍人を対象にしたものです。
一般企業の社員にそのまま当てはめるものではありません。
しかし、職場の健康支援に活かせる考え方があります。
それは、朝の心身の調子を、本人の感覚として分けて聞くことです。
たとえば、次のように確認できます。
- 体の疲れは残っていないか
- 気持ちは落ち着いているか
- 集中できそうか
- 仕事に向かう準備ができているか
- 睡眠時間だけでは説明できないだるさがないか
これは、社員を評価するためではありません。
本人が自分の状態に気づき、必要な休息や相談につなげるためです。
職場では、数値より「本人の感じ方」も見る
ウェアラブルやHRVの数値は、心身の状態を考える手がかりになります。
しかし、数値だけでは見えないことがあります。
たとえば、HRVに大きな変化がなくても、本人は強い疲労感を感じているかもしれません。
反対に、数値が乱れていても、本人はまだ無理をして「大丈夫です」と言うこともあります。
職場では、数値と本人の感じ方を対立させないことが大切です。
どちらかを正解にするのではなく、両方を見て、その人に必要な支援を考えます。
タニカワ久美子の研修でこの知見をどう扱うか
タニカワ久美子の企業研修では、睡眠中HRVや統計分析の話を、そのまま専門用語として伝えることはしません。
研修では、「朝の体の調子」と「朝の気持ちの調子」を分けて考える視点として扱います。
社員さんには、睡眠時間だけで自分の状態を判断せず、体の重さ、気持ちの落ち着き、集中しやすさを一緒に見ることを伝えます。
管理職には、部下の「大丈夫です」という言葉だけではなく、表情、反応、ミスの増加、疲れの残り方にも目を向ける視点を伝えます。
健康管理や職場支援に関わる方には、数値を社員評価に使うのではなく、本人の声と合わせて支援につなげる考え方をお伝えしています。
人事総務の担当者からも、難しい研究内容を、現場で使える声かけや確認の視点に置き換える点を評価されています。
この研究紹介で押さえたいポイント
本記事で押さえたいポイントは、次の3つです。
- この研究では、翌朝の身体的な調子と精神的な調子を2つの質問で分けて見ている
- SDNNというHRV指標では、翌朝の心身の調子との有意な関係は見られなかった
- HRVだけで翌朝の調子を判断せず、本人の感じ方と合わせて読むことが大切である
睡眠中HRVは、心身の状態を考えるうえで重要な手がかりです。
ただし、どの指標を使うか、何を質問しているか、どの対象者で研究されたかによって、結果の意味は変わります。
まとめ|睡眠中HRVは、朝の心身の調子を考える一つの手がかり
この研究では、睡眠中HRVと、翌朝の精神的・身体的な調子との関係が検討されました。
参加者は、朝の身体的な調子と精神的な調子について、0から10までの尺度で回答しました。
分析では、参加者ごとの違いや、同じ人の中での日ごとの違いも考慮されています。
その結果、SDNNというHRV指標では、翌朝の精神的・身体的な調子との有意な関係は見られませんでした。
この結果は、睡眠中HRVだけで翌朝の心身の状態を判断することが難しいことを示しています。
健康経営や職場研修で活かす場合は、HRVを社員管理の数値として使うのではなく、本人の朝の体調感、気持ちの状態、疲労感と合わせて見ることが重要です。
けんこう総研では、睡眠、心拍変動HRV、自律神経、疲労、感情調整に関する研究知見を、企業研修や健康経営の現場で日々の対応に重ねやすい形で伝えています。
睡眠や疲労を、気合いや自己管理だけの問題にせず、本人の声と職場支援につなげるストレス管理研修をご検討の場合は、以下のページをご覧ください。
文責:タニカワ久美子