看護師の感情労働とメタ認知|患者感情と自己感情の整え方

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ストレス管理

看護師の感情労働とメタ認知|患者感情と自己感情の整え方

看護師の感情労働では、患者さんの感情を受け止めるだけでなく、看護師自身の感情にも気づく必要があります。

患者さんの不安、怒り、悲しみ、痛みに向き合う一方で、看護師自身も疲労、不安、戸惑い、焦り、葛藤を抱えています。

このとき大切になるのが、患者さんの感情だけを優先するのでもなく、自分の感情だけを優先するのでもなく、両方の感情を確認しながら対応する力です。

この記事では、看護師の感情労働で必要になる「メタ認知」と「両感情調整対処」を、人事総務・看護部・現場管理者が職場支援に活かせる視点で見ていきます。

看護師の感情労働ストレス全体を確認したい場合は、看護師の感情労働ストレスも参考になります。

感情労働によるストレスを職場全体で見直したい場合は、感情労働ストレスの考え方で確認できます。

看護師の感情労働では、患者さんの感情と自分の感情が同時に動きます

看護師の感情労働は、単に笑顔で対応することではありません。

患者さんの不安を受け止め、苦痛に寄り添い、安心できる関わりをつくりながら、医療現場として必要な判断や行動を続ける仕事です。

そのため、看護師の中では、いつも二つの感情が動いています。

  • 患者さんの不安や苦痛に向き合う感情
  • 看護師自身が感じている疲労、不安、怒り、戸惑い

患者さんの感情だけを優先し続けると、看護師自身の感情が置き去りになります。

反対に、自分の感情だけを優先すると、患者さんへの関わりが硬くなり、必要な支援が届きにくくなることがあります。

看護師のメンタルヘルスを守るには、患者さんの感情と自分の感情の両方を見る視点が必要です。

看護師の感情対処には4つの型があります

看護師の感情対処には、いくつかの傾向があります。

ここでは、医療現場で使いやすいように4つに分けて見ていきます。

感情対処の型 特徴 職場で起こりやすい状態
患者感情優先対処 患者さんの感情を優先し、自分の感情を後回しにする 「自分が我慢すればよい」と抱え込みやすい
自己感情優先対処 自分の感情を優先し、患者さんの感情への配慮が弱くなる 対応が硬くなり、関係づくりが難しくなる
両感情調整対処 患者さんの感情と自分の感情の両方を確認し、折り合いをつける 感情労働を続けながら、消耗を抑えやすい
両感情回避対処 患者さんの感情にも、自分の感情にも深く向き合わない 一時的には楽になるが、問題が残りやすい

この中で、看護師が長く働き続けるうえで重要なのが、両感情調整対処です。

患者さんに寄り添うことと、自分の心を守ることを、対立させない考え方です。

両感情調整対処とは何か

両感情調整対処とは、患者さんの感情と看護師自身の感情の両方を見ながら、対応の仕方を選ぶことです。

たとえば、患者さんが強い不安を訴えている場面では、看護師はその不安を受け止める必要があります。

しかし同時に、看護師自身が疲れていたり、焦っていたり、戸惑っていたりすることもあります。

患者さんの感情だけを優先し続けると、看護師は自分の感情を押し込めることになります。

一方で、自分の感情だけを優先すると、患者さんへの関わりが冷たくなったり、必要な支援が不足したりする可能性があります。

両感情調整対処では、次のように考えます。

  • 患者さんはいま何に不安を感じているのか
  • 自分はいま何に疲れているのか
  • この場面で必要な対応は何か
  • 自分ひとりで抱える場面なのか
  • チームに共有したほうがよい情報は何か

両感情調整対処は、感情を我慢する技術ではありません。感情に気づき、業務判断につなげる技術です。

メタ認知は、自分の感情に巻き込まれないための力です

両感情調整対処の土台になるのが、メタ認知です。

メタ認知とは、自分の考え方や感じ方を、少し離れた位置から確認する力です。

たとえば、次のように自分の状態に気づくことです。

  • いま私は焦っている
  • この患者さんの言葉に強く反応している
  • 疲れているため、受け止める余裕が下がっている
  • 自分だけで対応しようとしている
  • この場面はチームに共有したほうがよい

メタ認知が働くと、感情そのものに巻き込まれにくくなります。

反対に、メタ認知が弱い状態では、患者さんの反応や現場の忙しさに振り回されやすくなります。

看護師の感情労働研修では、感情を抑える練習よりも、自分の感情状態に気づく練習が重要です。

メタ認知があると、患者対応後の疲れを言葉にしやすくなります

看護師は、患者さんの前では落ち着いて対応できていても、そのあとに強い疲れが出ることがあります。

忙しい病棟では、すぐに次の業務へ移るため、自分がどれほど感情を使ったのかを振り返る時間がありません。

メタ認知があると、「疲れているけれど、なぜ疲れたのかわからない」という状態から、一歩進めます。

よくある状態 メタ認知で見えること 職場支援につなげる視点
患者さんに強い言葉を受けて疲れた 怒りよりも、傷つきや緊張が残っている 対応後に短い共有時間を入れる
説明しても不安が収まらない患者さんに焦った 自分が「何とかしなければ」と抱え込んでいる チームで対応方針を確認する
看取りや急変対応後に気持ちが戻らない 悲しみや責任感が残っている 振り返りと心理的フォローを行う
患者さんに優しくした後ほど疲れる 深く共感し続けて消耗している 共感疲労として職場で扱う

自分の感情が見えると、必要な支援も見えやすくなります。

看護師本人のセルフケアだけでなく、管理職の声かけやチーム内の支援にもつなげやすくなります。

看護師が感情を抑え続けるとバーンアウトにつながります

看護師の仕事では、患者さんを優先する姿勢が強く求められます。

もちろん、患者さんへの配慮は看護の中心です。

しかし、患者さんの感情だけを優先し続け、看護師自身の感情を無視し続けると、情緒的な疲れが進みます。

次のような状態が続く場合、感情労働ストレスが高まっている可能性があります。

  • 患者さんに優しく接した後に、強い疲労感が残る
  • 不安や怒りを受け止める場面が続くと、気持ちが戻りにくい
  • 「自分が我慢すればよい」と考えることが増える
  • 患者さんとの関わりに距離を置きたくなる
  • 仕事への達成感より、消耗感が上回る

これは、本人の弱さではありません。

患者さんの感情を受け止める仕事が続くことで起こる、看護職特有の感情労働ストレスです。

感情対処は個人努力だけでは限界があります

感情対処の研修やセルフケアは大切です。

しかし、看護師の状態不安やストレスには、感情対処だけでは解決できない要因も含まれます。

たとえば、次のような職場要因です。

  • 労働過多
  • 人員不足
  • 医療事故への不安
  • 夜勤や不規則勤務
  • 患者対応後の振り返り時間の不足
  • 相談しにくい職場風土

そのため、看護師の感情労働ストレス対策は、個人の感情管理だけで終わらせないことが重要です。

職場として、感情負担を共有し、チームで支える仕組みが必要です。

タニカワ久美子が医療・介護・福祉現場の研修でこのテーマをどう伝えているか

医療・介護・福祉現場の研修で、私はよく「患者さんや利用者さんの気持ちを大切にすること」と「自分の心を守ること」は、対立するものではないとお伝えしています。

現場には、とても責任感が強く、相手の不安を全部受け止めようとする方がいます。

そういう方ほど、研修中にこう話されることがあります。

「患者さんのためと思うと、自分が疲れているとは言いにくいです」

「自分の感情を出すことは、プロとしてよくないと思っていました」

「忙しい職場で、感情の話をしてよいのか迷います」

私は管理職の方に、こうお伝えしています。

「看護師の感情労働は、個人の優しさに依存させてはいけません。患者さんの感情と看護師自身の感情の両方を扱える職場づくりが必要です。」

研修では、感情を抑える方法ではなく、感情に気づき、言葉にし、チームに共有し、必要な支援につなげる方法を扱います。

これにより、看護師一人ひとりのセルフケアだけでなく、管理職によるラインケア、チーム内の支援、離職防止につながる職場改善へ展開できます。

看護師の感情労働ストレスを減らす職場支援

看護師の感情労働ストレスを減らすには、次の支援が重要です。

  • 患者対応後に感情を確認できる時間を設ける
  • 難しい対応を個人に固定しない
  • 「自分が我慢すればよい」という職場文化を見直す
  • 管理職が感情労働を業務負荷として認識する
  • チーム内で感情負担を共有できる場をつくる
  • メタ認知を高める研修を実施する

看護師の感情労働は、患者さんとの関係を支える大切な力です。

しかし、それを個人の献身だけに任せると、離職やバーンアウトのリスクが高まります。

感情労働を職場の支援対象として扱うことが、看護師のメンタルヘルスを守る第一歩です。

まとめ|看護師の感情労働には、患者さんの感情と自分の感情の両方を見る視点が必要です

看護師の感情労働では、患者さんの感情を受け止める力が求められます。

しかし、患者さんの感情だけを優先し続けると、看護師自身の感情が置き去りになります。

重要なのは、患者さんの感情と自分の感情のどちらか一方を選ぶことではありません。

両方を確認し、折り合いをつけながら、必要な対応を選ぶことです。

そのためには、自分の感情状態を少し離れた位置から見るメタ認知が欠かせません。

看護師のメンタルヘルス対策では、感情を抑える教育ではなく、感情を扱える職場づくりが必要です。

感情労働ストレス研修への活用

けんこう総研では、看護師・医療職・介護職など、対人支援職に多い感情労働ストレスを見えるようにし、患者さんの感情と自分の感情の両方を扱うための研修を行っています。

バーンアウトや離職を防ぎ、医療現場で働く人のメンタルヘルスを守りたい医療機関・福祉施設・企業のご担当者様は、こちらをご確認ください。


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参考文献

  • 金子多喜子ほか「感情労働に伴う感情対処育成のためのWeb版教育プログラムの検討」日本看護科学会誌, 2019, 39, 45-53.

文責:タニカワ久美子

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