感情労働ストレス
患者さんの感情を優先しすぎる看護師を支える感情対処と職場支援
「患者さんには丁寧に対応しているのに、看護師本人の疲れが見えにくい」
「若手看護師が、患者さんや家族の言葉を自分の責任として受け止めすぎている」
「看護部として支えたいけれど、どこから職場支援にすればよいか迷う」。
医療機関、看護部、人事総務・健康経営担当者として、このような違和感を持つことはありませんか。
看護師のストレスは、仕事量の多さや夜勤の負担だけでは説明できないことがあります。看護の現場では、患者さんの不安、痛み、怒り、悲しみを受け止めながら、看護師自身は落ち着いた表情や声かけを保つことが求められます。患者さんに安心してもらうために、自分の感情を整え続ける。この働き方が、看護師の感情労働です。
患者さんを大切にするほど、自分の感情が後回しになる
看護師は、患者さんを支える専門職です。不安を和らげたい、苦痛を少しでも軽くしたい、安心して治療を受けてほしい。その思いが強いほど、看護師自身の怒り、不安、悲しみ、疲れは後回しになりやすくなります。
たとえば、強い言葉を受けても落ち着いて対応する。痛みや不安の訴えを受け止めたあとも、すぐ次の業務に入る。家族対応で緊張したあとも、記録や処置を続ける。忙しくて十分に寄り添えなかったことを、自分の責任として抱える。こうした積み重ねは、外からは見えにくい疲労として残ります。
これは、看護師のやさしさや責任感が足りないからではありません。むしろ、患者さんを大切にしようとする姿勢が強いほど、自分の感情を消してしまうことがあります。
患者さんの感情と看護師自身の感情を分けて見る
看護現場で起きている負担を整理するとき、患者さんの感情だけを見ると、看護師の疲れが見えにくくなります。患者さんが不安だったのか、怒っていたのか、悲しんでいたのかを見ることは大切です。しかし同時に、看護師自身が何を感じていたのかも確認する必要があります。
患者さんから強い言葉を受けたとき、看護師は傷つき、怒り、不安を感じているかもしれません。看取りや急変に関わったときには、緊張、無力感、悲しみが残ることもあります。十分に寄り添えなかったと感じたときには、罪悪感や自責感が強まることもあります。
看護師の感情対処で大切なのは、患者さんの感情を大切にしながら、看護師自身の感情もなかったことにしないことです。
専門職でも迷うポイントは、共感と抱え込みの境目です
専門職でも迷うポイントは、患者さんに共感するかどうかではありません。どこまでが専門職としての共感で、どこからが一人で抱え込みすぎている状態なのかという判断です。
患者さんから強い言葉を受けたあと、「痛みや不安が強かったのだろう」と受け止め直すことは、看護に役立つ場合があります。しかし、そのたびに「自分の対応が悪かった」と受け止め続けると、看護師本人の感情が削られていきます。
院内で動かしにくいのは、ここです。看護師の感情対処は、個人の性格や経験に任されやすく、看護部全体の支援テーマになりにくいことがあります。しかし、若手看護師の定着や中堅看護師の疲弊を考えるなら、感情の受け止め方を個人任せにしない仕組みが必要です。
認知再構成は、前向きに考えることではない
看護師の感情対処で役立つ考え方に、認知再構成があります。難しい言葉に聞こえますが、現場では「自分を責めすぎる受け止め方を、少し現実に戻すこと」と考えると分かりやすくなります。
患者さんから強い言葉を受けたとき、「私の対応が悪かった」と考えるだけでは、看護師本人の負担が強くなります。患者さんの不安や痛みが強く、言葉がきつくなっていた可能性もあります。十分に話を聞けなかったときも、「看護師として足りない」と責めるだけでなく、安全を守るために優先順位を選んだ場面だったのかもしれません。
認知再構成は、無理に明るく考えることではありません。出来事、患者さんの感情、自分の感情、業務上の判断を分けて見直す方法です。
看護部が確認したいこと
看護師の感情対処を個人任せにしないために、看護部、医療機関、人事総務・健康経営担当者は、患者さんの感情だけでなく看護師自身の感情も振り返れているかを確認する必要があります。
若手看護師が患者さんの言葉を自分の責任として抱えすぎていないか。強い言葉を受けた後に、共有やフォローの時間があるか。看取り、急変、家族対応の後に、感情を整理する場があるか。対応が上手な看護師に、難しい患者・家族対応が偏っていないか。こうした視点を、病棟や看護部の支援として扱うことが重要です。
タニカワ久美子の研修ではどう扱うか
けんこう総研の研修では、看護師の感情労働を「患者さんにもっとやさしくしましょう」という話にはしません。看護師は、すでに患者さんの感情に多く配慮しています。
研修では、患者さんの感情、看護師自身の感情、業務上の判断を分けて整理します。そのうえで、認知再構成、振り返りの進め方、管理職の声かけ、若手看護師を一人で抱え込ませない支援を扱います。
看護師の感情対処は、知識として理解するだけでは現場で動きません。病棟ごとの患者対応、家族対応、急変・看取り後の共有、主任・師長の声かけ、研修後の振り返りまで合わせて設計する必要があります。
まとめ|患者さんの感情と看護師自身の感情を分けて支える
看護師の感情労働ストレスは、患者さんの感情を受け止めることと、自分の感情を抑え続けることの間で起こります。患者さんを大切にすることは、看護の重要な専門性です。しかし、患者さんの感情だけを優先し続けると、看護師自身の怒り、不安、悲しみ、疲れが置き去りになります。
看護師の感情対処を、個人の性格や我慢にせず、病棟や看護部の支援として整えたい場合は、感情労働ストレス研修をご確認ください。
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。