ウェアラブル・HRV・ストレス計測|健康経営のKPI・行動変容
仕事中に心拍数が上がると、「ストレスが高いのでは」と考えたくなります。
しかし、心拍数は心理的ストレスだけで変わるものではありません。歩行、作業、気温、睡眠不足、カフェイン、体調、緊張など、さまざまな影響を受けます。
そのため職場で心拍数を見るときに重要なのは、数値の高低ではなく、「どの場面で変化したか」「負荷が終わったあとにどう戻ったか」「本人の疲労感や勤務状況とどう重なるか」です。
この記事では、人事総務・健康経営担当者向けに、仕事中の心拍数を社員のストレス判定に使わず、職場の負荷と回復を考える手がかりとしてどう読むかを整理します。
心拍数やスマートウォッチのデータを法人利用する前に
測れるからといって、すべてのデータを会社が見る必要はありません。何を測るのか、誰が見るのか、社員へどう説明するのか、何には使わないのかを導入前に整理するための判断シートです。

心拍数が高い=職場ストレスが高い、ではない
心拍数は、身体がその場の状況へ対応すると変化します。
たとえば、急いで移動したとき、階段を上ったとき、会議で発言するとき、期限の迫った仕事をしているときにも上がることがあります。
そのため、
- 心拍数が高いから高ストレス
- 心拍数が低いから問題なし
- 社員同士の心拍数を比較して負担を判断する
という読み方は避けます。
心拍数は「ストレス値」ではなく、身体反応が変化したことを示す一つの情報として扱います。
職場では「数値」より「変化した場面」を見る
心拍数を見るときは、まず「そのとき何をしていたのか」を確認します。
| 見るポイント | 確認したいこと |
|---|---|
| 変化した場面 | 会議、対人対応、移動、集中作業など何をしていたか |
| 変化の大きさ | 本人の普段の状態と比べてどうだったか |
| 負荷後の戻り方 | 休憩や業務終了後に落ち着いていったか |
| 本人の体感 | 疲労、緊張、不安、息苦しさなどを感じていたか |
| 勤務状況 | 残業、睡眠不足、休憩不足などが続いていないか |
一回の心拍数だけを切り取るのではなく、仕事の場面と時間の流れの中で読むことが重要です。
「上がったか」だけでなく「その後どう戻ったか」を見る
仕事中に心拍数が上がること自体は、必ずしも問題ではありません。
重要なのは、負荷の高い場面が終わったあとに、身体が落ち着く時間を取れているかです。
たとえば、
- 会議後も次の仕事へ追われ続けている
- クレーム対応後も休憩できない
- 緊張する仕事が連続している
- 昼休みを取らず働き続けている
といった状況では、本人が「大丈夫」と感じていても、回復の機会そのものが不足している可能性があります。
心拍数を見る目的は、「高い人」を探すことではなく、負荷のあとに回復できる働き方になっているかを考えることです。
仕事中・休憩後・運動後では意味が違う
| 場面 | 心拍数の変化 | 職場での読み方 |
|---|---|---|
| 仕事中 | 緊張、移動、作業負荷などで変化する | どの仕事場面だったか確認する |
| 休憩後 | 落ち着く場合がある | 回復する時間を取れているかを見る |
| 運動中 | 運動強度に応じて上昇する | ストレス悪化とは判断しない |
| 運動後 | 時間とともに低下していく | 本人ごとの回復の様子を見る |
同じ「心拍数が高い」という結果でも、仕事中なのか運動中なのかで意味はまったく異なります。
デスクワーカーの測定例でも個人差が見られる
けんこう総研では、デスクワーク中心の20代から50代の男女10名を対象に、手首型ウェアラブルを用いて運動中・運動後の心拍数などを確認した例があります。
運動習慣や質問紙による不安傾向も確認しましたが、同じ運動を行っても身体反応や戻り方には個人差が見られました。
対象者は10名と少なく、この結果を一般化することはできません。
ここから職場実務で参考になるのは、「同じ介入をすれば全員が同じ心拍反応になる」と考えないことです。
本人の体調、運動経験、睡眠、測定時の状態などを合わせて見る必要があります。
心拍数と本人の感じ方が一致しないこともある
本人が「疲れている」と感じていても、心拍数には大きな変化が見えない場合があります。
反対に、本人は特にストレスを感じていなくても、移動やカフェイン、身体活動などで心拍数が高くなることがあります。
そのため、
「数値と本人の感覚のどちらが正しいか」を決める必要はありません。
心拍数、本人の体感、仕事内容、睡眠、勤務状況などを合わせて、「もう少し確認した方がよいことはないか」を考えます。
心拍数とHRVは同じものではない
心拍数とHRV(心拍変動)は、どちらも心臓の拍動に関係する情報ですが、見ているものは異なります。
心拍数は一定時間あたりの拍動数を見ます。一方、HRVは心拍と心拍の間隔のゆらぎを見ます。
そのため、心拍数が同じでもHRVが同じとは限りません。
両者の違いと職場ストレスでの使い分けについては、
心拍数とHRVの違い|職場ストレスを健康経営で見る視点
で整理しています。
心拍数が高かったとき、人事総務がすぐ判断しない
ウェアラブルで心拍数の変化が見えても、人事総務がその数値から社員の状態を診断する必要はありません。
| 避けたい判断 | 代わりに確認すること |
|---|---|
| 心拍数が高いのでストレスが高い | その時間に何をしていたか |
| 数値が高いので休ませるべき | 本人の体感や勤務負荷はどうか |
| 数値が正常だから問題ない | 疲労、睡眠、相談状況に変化はないか |
| 社員同士で数値を比較する | 本人自身の普段との変化を見る |
測定値は対応を自動的に決めるものではなく、状況確認のきっかけとして扱います。
職場で心拍数を見るなら「回復できない条件」を探す
健康経営で心拍数を活かすなら、個人の数値だけを見るのではなく、回復を妨げる職場条件も確認します。
- 休憩を飛ばしていないか
- 対人対応が連続していないか
- 長時間労働が続いていないか
- 業務の切り替え時間がないのではないか
- 相談や業務調整をしにくくなっていないか
心拍数から「社員に問題がある」と考えるのではなく、負荷が続き、回復しにくい働き方になっていないかを見る方が職場支援につながります。
ウェアラブルの誤差も前提にする
スマートウォッチなどの心拍数測定は便利ですが、装着状態、体動、発汗、気温などによって誤差が生じることがあります。
そのため、一回の高値や低値を確定的に解釈しません。
ウェアラブル測定の精度や誤差については、
ウェアラブルのストレス測定は信頼できる?|精度・誤差・アーティファクト
で詳しく整理しています。
会社が個人データを見る範囲は別に設計する
心拍数をどう読むかと、会社が個人の心拍数データをどこまで閲覧してよいかは別の問題です。
法人利用では、利用目的、閲覧範囲、本人への説明、人事評価との分離などを事前に整理する必要があります。
スマートウォッチのデータを人事施策で利用する際の運用については、
スマートウォッチのストレスデータを人事利用する判断基準|閲覧範囲・評価・同意
をご覧ください。
タニカワ久美子の企業研修では「数値の意味」より仕事場面を振り返る
タニカワ久美子の企業研修では、心拍数を「良い・悪い」と判定する数字として扱いません。
心拍数などの変化がある場合も、
- そのとき何をしていたか
- 身体はどう感じていたか
- 休憩は取れていたか
- その後に落ち着けたか
を振り返ります。
そこから、短い休憩、業務の切り替え、軽い身体活動、相談、業務調整など、職場で選べる行動を考えます。
心拍数を見ること自体が研修の目的ではありません。
身体反応に気づき、自分や職場が次に何を変えられるかを考えるために使います。
まとめ|心拍数は「ストレス判定」ではなく「反応と回復」を見る
心拍数は、職場ストレスを考える手がかりの一つです。
ただし、心拍数が高いから高ストレス、低いから問題なしとは判断できません。
人事総務・健康経営担当者が確認したいのは、
- どの仕事場面で変化したか
- 負荷が終わったあとにどう戻ったか
- 本人はどう感じていたか
- 睡眠・疲労・休憩・勤務状況はどうだったか
- 回復を妨げる職場条件がなかったか
という点です。
仕事の場面 → 心拍数の変化 → 回復の様子 → 本人の体感 → 職場条件
の順に見ることで、心拍数を社員評価ではなく職場支援の材料として扱えます。
心拍数やウェアラブルデータを、社員管理ではなく健康支援へつなげたいご担当者様へ
けんこう総研では、測定値を集めるだけでなく、本人の気づき、セルフケア、管理職の声かけ、職場改善へつなげる健康経営支援を行っています。
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。