ウェアラブルは、なぜ「使うだけ」では行動を変えないのか

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ウェアラブルは、なぜ「使うだけ」では行動を変えないのか

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ストレス計測・行動変容

ウェアラブルは、なぜ「使うだけ」では行動を変えないのか

ストレス計測と行動変容を健康経営で成立させるための前提整理

本記事は、
「ストレス計測・行動変容」という健康経営領域において、
ウェアラブルデバイスをどう位置づけるべきかを整理する
基礎となる考え方(Authority)をまとめたものです。

個別のデバイス選定や施策設計に進む前に、
まず共有しておくべき前提を扱います。


ウェアラブルは「使えば変わる」わけではない

―― 健康経営における行動変容とウェアラブル活用の現実

こんにちは。
ストレス研究を専門とし、企業の健康経営支援を行っているタニカワです。

健康経営の文脈でウェアラブルデバイスが注目されるようになって久しくなりました。
歩数、心拍数、心拍変動(HRV)などのデータを可視化することで、
「社員の行動が自然に変わるのではないか」
「ストレスマネジメントが自動化できるのではないか」
そう期待される場面も少なくありません。

しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。

ウェアラブルデバイスは、身につけただけで人の行動を変える道具ではありません。

この事実を、健康経営の意思決定者が「理解する」だけでなく
“そう判断してよい”と自分に許可することが、
実は最も重要な出発点になります。

本記事では、
ウェアラブルを用いた行動変容に関する国際的な研究をもとに、
なぜ「使えば変わる」とは限らないのか、
そして企業がどこを見誤りやすいのかを整理します。

行動変容は「データ」ではなく「人と文脈」で起こる

ウェアラブルを用いた行動変容研究の中で、
実務的に非常に示唆に富む論文があります。

Behavior change through wearables:
the interplay between self-leadership and IT-based leadership
(Christiane Lehrer et al., Electronic Markets, 2021)

この研究は、
ウェアラブルの「性能」や「精度」を評価するものではありません。

焦点は、
同じようにウェアラブル・デバイスを使っていても、なぜ行動が変わる人と変わらない人が生まれるのか
という点にあります。

少人数でも意味を持つ理由――質的研究という選択

この研究では、
スイス在住の長期ウェアラブル利用者50名を対象に、
ナラティブ・インタビュー(語りを重視した質的調査)が行われました。

健康経営の担当者の中には、
「サンプル数が少ないのでは?」
と感じる方もいるかもしれません。

しかし本研究の目的は、
平均的な効果を示すことではなく、行動変容の“型”を明らかにすることです。

実際、インタビューを重ねる中で
利用の仕方や意味づけが繰り返され、
理論的飽和が確認されています。

企業の現場で起きている問題を考えるとき、
このような質的研究は、
「なぜうまくいかないのか」を理解するための強力な材料になります。

ウェアラブル利用者に見られた4つの行動パターン

研究の結果、
ウェアラブル利用者の行動は、大きく4つのパターンに分類されました。

  1. フォローする
     デバイスの指示や数値を、そのまま受け取る
  2. 無視する
     通知やデータを見ても、行動には結びつかない
  3. 組み合わせる
     自分の判断とデータを併用する
  4. 自己リードする
     データを材料に、自ら意味づけし行動を設計する

重要なのは、
ウェアラブルを使っている=④に到達する、わけではない
という点です。

多くの人は①や②に留まり、
行動変容にまでは至りません。

行動変容を分ける鍵は「セルフリーダーシップ」

この研究で軸となっているのが、
セルフリーダーシップ理論です。

セルフリーダーシップとは、
他者から指示されなくても、
自分で自分の行動を方向づけ、修正し続ける力を指します。

ウェアラブルは、
このセルフリーダーシップが既にある人にとっては
「強力な補助輪」になります。

一方で、
セルフリーダーシップが育っていない状態では、
ウェアラブルは
数字を突きつけるだけの存在になり、
かえってストレスを増やすこともあります。

企業導入で起こりがちな誤解

健康経営の現場では、次のような誤解が起こりがちです。

データを見せれば社員は自発的に変わる

行動変容は個人の問題であり、組織は関与しなくてよい

デバイスを配布すれば健康施策として成立する

しかし研究が示しているのは、
行動変容は個人と環境の相互作用で起こるという事実です。

ウェアラブルは
「行動を変えさせる装置」ではなく、
行動を振り返る材料にすぎません。

健康経営における重要な判断ポイント

ここで、健康経営の意思決定者にお伝えしたいことがあります。

  • ウェアラブルを導入しても、行動が変わらないのは「失敗」ではない
  • それは技術の限界ではなく、設計の問題である
  • 行動変容を期待するなら、組織的な支援が不可欠である

「ウェアラブルだけでは変わらない」
そう判断することは、正しい判断です。

そしてその判断は、
健康経営を後退させるものではなく、
むしろ次の一手を考えるための前提になります。

ウェアラブルは“入口”にすぎない

研究から明らかなように、
行動変容が起こるかどうかは、

  • データの解釈のされ方
  • 周囲との対話
  • 管理職の関わり方
  • 学び直す機会の有無

といった要素に大きく左右されます。

つまり、
ウェアラブルは単独で完結する施策ではありません。

健康経営において重要なのは、
「使えば変わる」という期待を一度手放し、
どう支えれば変化が起こり得るのか
という視点に立つことです。

次に考えるべきこと

ウェアラブルを
単なるデバイス導入で終わらせないためには、
次の問いを整理する必要があります。

  • 誰が、どのようにデータを解釈するのか
  • 管理職はどこまで関与するのか
  • 行動変容を支える学習や対話の場はあるのか

これらを整理せずに導入を進めると、
ウェアラブルは「使われない施策」になりかねません。

本記事で整理したのは、
ウェアラブルを「導入すべきかどうか」を判断する前の前提です。

この前提に立ったうえで、次に整理すべき論点は3つあります。

  1. 企業として、どの段階で支援を入れるべきか(判断整理)

  2. 現場では、実際に何が起きやすいのか(現象理解)

  3. 行動変容を成立させるために、何を設計すべきか(施策設計)

本カテゴリでは、これらを段階的に扱っていきます。

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