ラインケア・管理職支援
仕事の不安を訴える社員への声かけ|管理職ラインケアの対応
社員から「仕事のことを考えると不安です」と相談されたとき、管理職はどう返せばよいのか迷うことがあります。
不安は、責任感や向上心から出ることもあります。けれども、眠れない、疲れが抜けない、相談できない状態が続いているなら、早めに支援が必要です。
ここでは、仕事の不安を訴える社員に、管理職がどう声をかけ、人事総務がどのように支えるかを見ていきます。
仕事の不安は、誰にでも起こる
仕事の不安は、特別な人だけに起こるものではありません。
新しい仕事を任されたとき、上司から注意を受けたとき、納期が近いとき、失敗できないと感じるとき、人は不安を感じやすくなります。
不安そのものは、必ずしも悪いものではありません。
「きちんとやりたい」「期待に応えたい」「失敗を避けたい」という気持ちがあるからこそ、不安が出ることもあります。
問題は、不安が長く続き、仕事や生活に影響している場合です。
- 眠れない
- 疲れが抜けない
- 相談できない
- 仕事に行くのがつらい
- 小さなミスが増えている
- 報告や相談を先延ばしにしている
このような状態がある場合は、「気の持ちよう」で済ませず、職場として早めに気づく必要があります。
準備につながる不安と、注意が必要な不安
職場で大切なのは、不安があること自体を問題にしないことです。
その不安が、準備や確認につながっているのか、それとも疲労や不調につながっているのかを見分けます。
| 状態 | 準備につながる不安 | 注意が必要な不安 |
|---|---|---|
| 本人の感覚 | 緊張するが、取り組めそう | どうにもならない、逃げ場がない |
| 行動 | 準備する、確認する、相談する | 先延ばし、報告遅れ、相談回避が増える |
| 身体 | 一時的に緊張する | 不眠、胃腸不調、疲労感が続く |
| 仕事への影響 | 達成感や学びにつながる | ミス、欠勤、意欲低下につながる |
管理職が見るべきなのは、「不安があるかないか」だけではありません。
不安があることで、本人が準備できているのか、それとも動けなくなっているのかを見ることが大切です。
責任感の強い社員ほど、不安を抱え込みやすい
仕事の不安は、責任感の強い社員ほど抱え込みやすいことがあります。
「周囲に迷惑をかけたくない」「期待に応えたい」「弱音を吐きたくない」と考える社員ほど、不安や疲労を表に出さない場合があります。
表面上は落ち着いて見えても、内側では強い緊張が続いていることもあります。
特に、次のような社員には注意が必要です。
- 普段から仕事を抱え込みやすい
- 「大丈夫です」と言うことが多い
- 人に頼ることが苦手
- ミスを強く恐れる
- 評価や期待に敏感
- 相談する前に一人で解決しようとする
責任感は、職場にとって大切な力です。
ただし、責任感が強すぎると、疲労や不調のサインを本人も周囲も見逃しやすくなります。
仕事の不安が強くなっているサイン
仕事の不安は、本人の言葉だけでなく、行動や表情にも表れます。
人事総務や管理職は、次のような変化を確認します。
| 領域 | 見えやすいサイン | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 仕事の進め方 | 確認が増える、先延ばしが増える、報告が遅れる | 何を不安に感じているか |
| 対人面 | 相談が減る、表情が硬い、会議で発言しない | 話しやすい相手がいるか |
| 身体面 | 睡眠不足、疲労、頭痛、胃腸不調を訴える | 休息や回復が取れているか |
| 感情面 | イライラ、不安、落ち込み、焦りが続く | 仕事量や役割が過重でないか |
| 勤務面 | 遅刻、欠勤、早退が増える | 早めの面談や支援が必要か |
これらのサインがある場合、本人の性格や努力不足として扱わないことが重要です。
仕事量、役割、相談先、休息、管理職の関わり方を合わせて確認します。
「大丈夫です」だけで判断しない
仕事の不安は、外から見えにくいストレスです。
本人が言葉にしない限り、周囲には分かりにくいことがあります。
だからこそ、管理職には「普段との違いに気づく力」が必要です。
- いつもより表情が硬くないか
- 返事が短くなっていないか
- 確認や謝罪が増えていないか
- 相談が減っていないか
- 一人で抱え込んでいないか
- 疲れているのに休もうとしない状態が続いていないか
「いつもと違う」と感じたら、早めに短い声かけを行います。
大きな面談にする前に、小さく確認することが、本人の負担を軽くします。
仕事の不安を訴えた社員への最初の返答
部下や社員が「仕事のことが不安です」「最近、体の調子が悪いです」と話してきた場合、最初の返答が重要です。
ここで不安を軽く扱う言葉をかけると、本人はそれ以上相談しにくくなります。
| 避けたい返答 | 問題点 | 望ましい返答 |
|---|---|---|
| 顔色は悪くないけど、気分的なものでは | 本人のつらさを否定してしまう | 話してくれてありがとうございます。いつ頃から続いていますか |
| 〇〇さんがそんなこと言うなんて | 本人に「言ってはいけなかった」と感じさせる | そう感じるほど負担があったのですね |
| 無理しないで休んでください | 善意でも、具体的な支援につながらないことがある | 今の仕事量や休めそうなタイミングを一緒に確認しましょう |
| みんな大変だから | 相談を止めてしまう | 今一番つらいのは、仕事の量ですか、人間関係ですか、体調ですか |
最初に必要なのは、評価や助言ではありません。
相手が「話してよかった」と感じられる受け止めです。
管理職の声かけで大切なこと
管理職が部下の不安に向き合うときは、原因を決めつけないことが大切です。
「気にしすぎ」「考え方を変えよう」「もっと前向きに」といった言葉は、本人の不安を軽く扱っているように聞こえる場合があります。
まずは、相手の状態を確認する問いを使います。
- 最近、どのあたりが一番負担になっていますか
- 仕事量、納期、人間関係の中で、特に気になることはありますか
- 眠れていますか
- 休めている感覚はありますか
- 相談できる人はいますか
- 今すぐ調整したほうがよい仕事はありますか
これらの問いは、本人を問い詰めるためではありません。
不安の背景にある負担を、一緒に見つけるためのものです。
傾聴で注意したいこと
傾聴とは、相手の話をただ聞くことではありません。
相手が何に困っているのか、どのような不安を抱えているのかを、急いで結論づけずに確認することです。
「そうですね」「なるほど」という相づち自体が悪いわけではありません。
ただし、機械的に相づちを繰り返すだけでは、相手は理解されたと感じにくい場合があります。
職場での傾聴では、次の点を意識します。
| ポイント | 避けたい対応 | 望ましい対応 |
|---|---|---|
| 急いで励まさない | 大丈夫、何とかなるよ | 今はかなり負担が大きいのですね |
| 原因を決めつけない | それは考えすぎだよ | どの場面で特に不安が強くなりますか |
| 比較しない | 他の人も同じだよ | あなたにとって、どこが一番つらいですか |
| すぐ解決策を押しつけない | こうすればいいよ | 今できそうな調整を一緒に考えましょう |
傾聴の目的は、相手の不安をすべて解決することではありません。
本人が一人で抱え込まず、必要な支援につながる入口をつくることです。
仕事の不安とユーストレスの関係
仕事の不安は、条件が整えば、準備や成長につながることがあります。
たとえば、新しい仕事に不安を感じても、目標が明確で、相談できる上司がいて、負荷が本人に合っていれば、その不安は行動を助けることがあります。
このように、適度な緊張や不安が、集中、準備、達成感につながる場合、ユーストレスとして考えることができます。
一方で、不安が強すぎる、休めない、相談できない、失敗が許されない状態では、同じ不安でもディストレスになります。
ユーストレスの定義やディストレスとの違いは、以下のページで紹介しています。
人事総務・健康経営担当者が確認したいこと
仕事の不安を職場で扱う場合、個人の不安だけを見ても不十分です。
人事総務・健康経営担当者は、次の点を確認します。
- 管理職が、部下の不安を軽く扱っていないか
- 「大丈夫です」と言う社員ほど抱え込んでいないか
- 仕事量や納期が慢性的に過重になっていないか
- 相談できる上司や同僚がいるか
- ストレスチェック後の面談が、形式だけになっていないか
- 管理職ラインケア研修で、声かけと傾聴を扱っているか
- 不調のサインが出たとき、産業保健スタッフや相談窓口につなげる流れがあるか
仕事の不安は、本人の気持ちの問題だけではありません。
仕事の量、役割、管理職の関わり方、相談しやすさ、休息できる環境が大きく関係します。
職場で対応するときの基本手順
社員から不安や体調不良の相談があった場合は、次の流れで対応すると実務に落としやすくなります。
| 手順 | 対応内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 話してくれたことを受け止める | 否定や評価をしない |
| 2 | いつから、どの場面でつらいかを確認する | 原因を決めつけない |
| 3 | 仕事量、納期、人間関係、休息状況を見る | 本人の問題だけにしない |
| 4 | 当面の業務調整を検討する | 休む、減らす、分担する選択肢を持つ |
| 5 | 必要に応じて専門職や相談窓口につなぐ | 管理職だけで抱え込まない |
管理職がすべてを解決する必要はありません。
大切なのは、早めに気づき、本人を孤立させず、必要な支援につなげることです。
タニカワ久美子が企業研修で伝えていること
タニカワ久美子の企業研修では、仕事の不安を「気にしすぎ」や「本人の性格」として扱いません。
研修の現場では、管理職から「部下が不安そうなのはわかるが、どこまで聞いてよいのかわからない」という質問を受けることがあります。人事総務の担当者からも、「責任感の強い社員ほど相談してこないので、声をかけるタイミングが難しい」という相談があります。
そのため研修では、不安の原因を決めつけず、見えている変化から声をかける方法を確認します。
たとえば、「最近、確認が増えているように見えます」「仕事量や納期で気になっていることはありませんか」といった言葉なら、相手を責めずに話の入口をつくれます。
また、管理職が一人で抱え込まないことも重視しています。部下の不安が強く、睡眠や体調、勤務状況に影響している場合は、人事総務や産業保健スタッフにつなぐ判断が必要です。
仕事の不安を早めに扱える職場は、社員が限界まで我慢する前に相談しやすくなります。
まとめ|仕事の不安は、軽く見ず、決めつけずに扱う
仕事の不安は、責任感や向上心から生まれることがあります。
適度な不安は、準備、確認、相談、学習につながる場合があります。
しかし、不安が長く続き、眠れない、疲れが抜けない、相談できない、仕事に行くのがつらい状態になっている場合は、早めの支援が必要です。
管理職に必要なのは、「大丈夫」「考えすぎ」と励ますことではありません。
本人が何に不安を感じているのかを確認し、仕事量、相談先、休息、職場の支援を一緒に整えることです。
人事総務・健康経営担当者は、仕事の不安を個人の問題だけで扱わず、ラインケア、職場改善、管理職研修とつなげて考える必要があります。
参考資料
- 佐渡島庸平(2021)『観察力の鍛え方』SB新書。
- Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, Appraisal, and Coping. Springer.
文責:タニカワ久美子