ラインケア・管理職支援
「自分は大丈夫」が招く過信ストレス|管理職と人事総務のラインケア
「自分は大丈夫です」と言っている人ほど、実はかなり無理をしていることがあります。
管理職、教員、介護職、相談対応の多い社員など、人を支える立場にいる人は、疲れていても弱音を見せにくいものです。
ここでは、「まだ平気」「自分は強い」と思い込む過信が、ストレスやメンタル不調の見逃しにつながる理由を、人事総務・健康経営担当者の視点で見ていきます。
過信ストレスとは何か
ここでいう過信ストレスとは、医学的な診断名ではありません。
「自分は大丈夫」「このくらいなら平気」「自分はメンタルが強い」と思い込み、疲れや不調のサインを軽く見てしまう状態を指します。
一見すると前向きで、責任感があるように見えることもあります。しかし、本人が不調を認めないまま働き続けると、相談が遅れ、判断ミスや対人関係の摩擦が起こりやすくなります。
特に管理職や教員、介護職、接客・相談対応の多い職場では、周囲から頼られる立場にいるため、「自分が崩れてはいけない」と考えやすくなります。その結果、疲れていることを自分でも見ないようにしてしまうことがあります。
「自分は大丈夫」が危ないサインになる理由
「自分は大丈夫」という言葉そのものが悪いわけではありません。
問題は、その言葉が、必要な休息や相談を遠ざける理由になっている場合です。
たとえば、次のような状態が続いている場合は注意が必要です。
- 疲れているのに休憩を取らない
- 周囲に頼らず、一人で仕事を抱え込む
- ミスが増えても「たまたま」と片づける
- イライラしているのに「問題ない」と言う
- 部下や同僚への言い方が強くなる
- 眠れていないのに出勤を続ける
- 相談を勧められても「そこまでではない」と断る
これらは、本人の性格の問題と決めつけるものではありません。むしろ、支える側に回ることが多い人ほど起こりやすい反応です。
人事総務や管理職は、「本人が大丈夫と言っているから大丈夫」と受け止めるだけでなく、仕事の様子や周囲との関わり方に変化が出ていないかを見る必要があります。
管理職ほど過信ストレスに気づきにくい
管理職は、部下の相談を受ける立場です。業務の判断をし、上司へ報告し、職場全体の雰囲気にも気を配ります。
そのため、自分自身が疲れていても、「管理職なのだから弱音を言えない」と考えやすくなります。
また、責任感の強い管理職ほど、部下の不調には気づけても、自分の不調には気づきにくいことがあります。
次のような変化がある場合は、管理職本人にも支援が必要かもしれません。
- 部下への注意が以前より強くなる
- 細かい確認が増え、周囲が緊張している
- 会議での判断が遅くなる
- いつも仕事を持ち帰っている
- 休暇を取らず、忙しさを当然のように話す
- 「自分がやるしかない」が口ぐせになっている
管理職を支えることは、本人だけを守る話ではありません。管理職が余裕を失うと、部下への声かけや判断にも影響します。
ラインケアでは、部下を見る管理職だけでなく、管理職自身も支援を受ける対象として見ていくことが大切です。
教員や対人支援職で過信が起こりやすい理由
教員、介護職、相談対応職、医療・福祉職、窓口対応の多い社員は、相手の感情に配慮しながら働く場面が多くあります。
こうした仕事では、自分の気持ちが疲れていても、相手に安心感を与える表情や言葉を選ばなければならないことがあります。
たとえば、学生や保護者に対応する教員は、授業以外でも「先生らしく」振る舞うことを求められやすい立場です。介護職や相談対応職も、相手の不安や怒りを受け止めながら、落ち着いた対応を続ける必要があります。
このように、自分の感情を抑えながら相手に合わせる働き方は、感情労働と呼ばれます。
感情労働そのものが悪いわけではありません。問題は、感情を整え続ける負担が大きいのに、本人も周囲も「慣れているから大丈夫」と見過ごしてしまうことです。
過信ストレスは、このような職場で起こりやすくなります。本人が「自分は対応できる」と思っていても、内側では疲労や緊張が積み重なっていることがあります。
過信が続くと、職場で何が起きるのか
過信によるストレスは、最初から大きな問題として表れるとは限りません。
初期には、少し言い方がきつくなる、確認漏れが増える、周囲に頼らなくなるといった小さな変化として出ることがあります。
しかし、そのまま放置すると、次のような問題につながります。
- 本人の疲労が強まり、休職や欠勤につながる
- 部下や同僚との関係が悪くなる
- 判断ミスや確認漏れが増える
- 相談が遅れ、対応が後手に回る
- 周囲も「相談しにくい」と感じるようになる
- 職場全体に緊張感が広がる
過信ストレスは、本人だけの問題ではありません。
特に管理職や対人支援職の場合、本人の余裕のなさが、部下、同僚、利用者、学生、保護者への関わり方にも影響します。
だからこそ、健康経営では「休んでいないから問題ない」と見るだけでは足りません。無理をして出勤し続けている人にも目を向ける必要があります。
人事総務が見ておきたい過信ストレスのサイン
人事総務・健康経営担当者が見ておきたいのは、本人の言葉だけではありません。
「大丈夫です」という言葉と、実際の仕事ぶりにずれがないかを見ることが重要です。
- 本人は大丈夫と言うが、ミスや遅れが増えている
- 以前より表情が硬く、会話が少ない
- 部下や同僚から相談しにくい雰囲気が出ている
- 仕事を抱え込み、周囲に任せられない
- 休暇取得を避けている
- 家庭や介護の事情を抱えているが、職場に話せていない
- 周囲から「最近少し変わった」という声が出ている
これらの変化がある場合、いきなり「メンタル不調ですね」と決めつける必要はありません。
まずは、「最近、仕事量が重なっていませんか」「休める時間は取れていますか」「一人で抱えていることはありませんか」と、業務の負担から確認する方が受け入れられやすくなります。
管理職ができる声かけ
過信している人に対して、「あなたは無理をしています」と正面から言うと、本人が防御的になることがあります。
声をかけるときは、性格やメンタルの強さではなく、見えている変化から伝えます。
- 「最近、かなり仕事が重なっているように見えます」
- 「このところ休憩を取れていないように見えました」
- 「一人で抱えている仕事が多くなっていませんか」
- 「今の仕事量で、少し調整した方がよいものはありますか」
- 「必要なら、人事総務にも一緒に相談できます」
このような声かけなら、相手を否定せずに話の入口をつくれます。
大切なのは、「強い人だから大丈夫」と見ないことです。強く見える人ほど、支援を求めるタイミングが遅くなることがあります。
人事総務が準備しておきたい支援
過信ストレスを防ぐには、本人に「早めに相談してください」と言うだけでは足りません。
相談したときに不利にならない、責められない、仕事を調整できるという安心感が必要です。
人事総務が準備しておきたいのは、次のような支援です。
- 管理職自身が相談できる窓口
- 業務量を一時的に見直す流れ
- 産業医、保健師、外部相談窓口へのつなぎ方
- 休暇取得を言い出しやすい職場の空気
- 部下を支える管理職を孤立させない仕組み
- 感情労働の多い職場で、疲労を言葉にできる研修
「本人が大丈夫と言っているから様子を見る」だけでは、対応が遅れることがあります。
人事総務は、本人の言葉を尊重しながらも、仕事の変化、周囲からの声、勤務状況を合わせて見ていく必要があります。
タニカワ久美子が企業研修で伝えていること
タニカワ久美子の企業研修では、「メンタルが強い人ほど安心」という見方をしません。
研修の現場では、管理職から「自分はまだ大丈夫だと思っていたが、部下への言い方が強くなっていたかもしれない」という声が出ることがあります。人事総務の担当者からも、「責任感の強い管理職ほど相談してこないので、どこで気づけばよいのか迷う」という相談を受けます。
そのため研修では、ストレスに強いか弱いかではなく、どのような変化が出たら負担が重なっているサインなのかを確認します。
たとえば、休憩を取らない、仕事を任せられない、言い方が強くなる、相談を避けるといった変化は、本人の能力不足ではなく、支援が必要なサインとして見ることがあります。
「自分は大丈夫」と言う人を責めるのではなく、早めに負担を下ろせる職場にすることが、管理職支援にもラインケアにもつながります。
まとめ|過信ストレスは、相談の遅れとして表れやすい
過信ストレスは、「自分は大丈夫」「まだ平気」と思い込むことで、疲労や不調への対応が遅れる状態です。
管理職、教員、介護職、相談対応職など、人を支える立場にいる人ほど、弱音を見せにくく、無理を続けてしまうことがあります。
人事総務・健康経営担当者は、本人の言葉だけでなく、仕事の進み方、表情、休み方、周囲との関わり方の変化を見ることが大切です。
過信している人を責める必要はありません。必要なのは、早めに気づき、相談しやすくし、仕事の負担を調整できる職場にすることです。
「自分は大丈夫」と抱え込む管理職を、職場で支えるために
けんこう総研では、管理職と人事総務がメンタル不調のサインに早く気づき、社員を孤立させないためのストレスマネジメント研修を行っています。
参考文献
Arlie Russell Hochschild, The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling.