ストレス管理
感情労働ストレスを感情社会学で読み解く |日本型感情労働ストレスの理論的基礎
2000年頃までの感情労働研究は、
主として情動制御研究の知見とモデルを援用し、
統制された条件下における即時的な感情制御方略の効果検証にとどまっていた。
しかしこのアプローチは、
仕事を継続する中で生じる中長期的な感情経験の役割と機能を
理論的にも実証的にも十分に捉えていなかった。
感情労働の本質の問題点
感情労働の本質的な問題は、
「感情をどのように抑えるか」ではなく、
抑え続けることが労働者の自己経験に何をもたらすかにある。
事例・(適応と破綻が同時に起こる)
看護師が本心では怒りを感じているにもかかわらず、
それを不適切な感情として「感じないふり」をする場合、
即時的にはストレス低下という適応的効果をもたらす。
しかし中長期的には、
自己の感情経験を否認し続けることによる自己欺瞞が蓄積し、
バーンアウトのリスクを高める。
再評価検討とストレス帰結の分岐
再評価方略の3類型
・対象帰責「対人の人格的問題だから仕方ない」
・自己帰責「自分の対応不備が招いたから仕方ない」
・文脈帰責「仕事が忙しいから仕方ない」
再評価方略は、
いずれが「正しい/誤り」かではなく、
どの文脈で、どの程度、どの期間用いられるかによって
心理的帰結が大きく異なる。
社会通念
「感情」は、意思によってコントロール不能と思われている。
「感情}=「個性」と認識されている。
山田(1996)
「感情=個性」という社会通念がもたらす日本的歪み
日本社会では、
感情は「意思によってコントロールできないもの」
あるいは
**「個性の一部」**として理解されてきた。
その結果、
職場で生じる感情の調整・抑制・演技は
労働負荷として可視化されにくい。
心理学的感情労働研究の混乱と再定義の必要性
「自然な感情経験」と「作られた感情経験」は、
本質的に異なる概念である。
両者の乖離がもたらすストレスは、
必ずしも負の影響に限定されない。
なぜなら、
労働に伴うストレスには
期待、やりがい、達成感といった
正の心理的側面も含まれるからである。
感情麻痺と日本型感情労働ストレス
深層演技が継続されることで、
自然な感情に対する感受性が低下した状態は
Hochschild(1983)によって「感情麻痺」として指摘されている。
日本においては、
「おもてなし」や同調を重視する組織文化が、
この状態を構造的に生み出しやすい。
日本型感情労働ストレスとは、
業務遂行以上に感情の調整・抑制・配慮が求められる職場環境において、
中長期的な自己経験の歪みとして蓄積される心理的負荷を指す。
▶ 社会実装論へのリンク
感情労働が日本の職場でどのように「働き方改革の課題」として現れているか(社会実装論)
▶ 健康影響モデルへのリンク
感情労働ストレスが心身機能に及ぼす影響の連鎖モデル(健康影響モデル)
本稿は、感情社会学および心理学の先行研究を踏まえ、
日本の職場文化における感情労働ストレスを
理論的に再定義したものである。