介護職の感情労働ストレス|利用者との共有時間が負担になる理由

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介護職の感情労働ストレス|利用者との共有時間が負担になる理由

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ストレス管理

介護職の感情労働ストレス|利用者との共有時間が負担になる理由

介護職のストレスは、仕事量の多さや人手不足だけでは説明できません。

介護現場では、利用者さんの不安、怒り、混乱、寂しさ、痛み、家族の心配を受け止めながら、職員自身は落ち着いた表情や声かけを保つことが求められます。

このように、自分の感情を調整しながら相手に安心感を与える働き方を、感情労働といいます。

介護職の感情労働が重くなりやすい理由の一つは、利用者さんとの共有時間が長いことです。

接客業や航空業のように、相手との関わりが一定時間で終わる仕事とは異なり、介護職は同じ利用者さんと長期間にわたって関わります。

この記事では、介護職の感情労働ストレスを、利用者さんとの共有時間、共感疲労、同僚間の関係、職場支援の視点から整理します。

介護職の感情労働は、利用者との共有時間が長い

感情労働の負担は、相手とどのくらい深く、どのくらい長く関わるかによって変わります。

たとえば、客室乗務員が乗客と関わる時間は、基本的にはフライト中に限られます。

一方で、介護施設やグループホームでは、職員と利用者さんの関係が日々続きます。

食事、排泄、入浴、移動、服薬、会話、見守り、夜間対応、家族対応など、生活の多くの場面で関わります。

そのため、介護職は単発の接客ではなく、生活全体に寄り添う感情労働を担っています。

仕事の種類 相手との共有時間 感情労働の特徴
一般的な接客業 来店・対応時間に限られる 短時間で表情や言葉づかいを整える
航空・交通サービス 移動時間に限られる 安全確保と接遇を同時に行う
コールセンター 通話中に限られる 声だけで相手の感情を受け止める
介護職 日常生活の中で長く続く 生活支援、共感、見守り、感情調整が継続する

介護職の感情労働は、短時間の接客とは違います。

同じ利用者さんと毎日顔を合わせ、その人の体調、気分、家族関係、認知機能の変化を見ながら関わり続けます。

この長い共有時間が、介護職の感情労働を重くする大きな要因です。

介護現場では「感情を切り替える時間」が少ない

介護職は、利用者さんの感情を受け止めた後、すぐに次の業務へ移ることが多い仕事です。

認知症の利用者さんから同じ質問を何度も受ける。怒りや不安をぶつけられる。排泄や入浴の介助で拒否を受ける。家族から厳しい言葉を受ける。

このような対応の後でも、次の利用者さんには落ち着いて声をかけなければなりません。

つまり介護職は、感情を整理する時間がないまま、次の感情労働へ入ることが多いのです。

介護現場の場面 職員に起こりやすい感情 求められる対応
認知症の利用者さんが同じ質問を繰り返す 焦り、疲れ、いら立ち 落ち着いて何度も説明する
入浴や排泄介助を拒否される 困惑、焦り、無力感 尊厳を守りながら安全に支援する
利用者さんから強い言葉を受ける 怒り、傷つき、悲しさ 感情的に返さず、状況を整える
家族から厳しい要望を受ける 緊張、不安、プレッシャー 説明し、記録し、組織対応につなげる
看取りや急変に関わる 悲しみ、責任感、緊張 本人・家族・職員への配慮を続ける

介護職のストレス対策では、単に「気分転換しましょう」と伝えるだけでは不十分です。

感情を使う業務の後に、短い振り返りや交代、相談の時間を入れられるかが重要になります。

介護職の人間関係にも感情労働が影響する

介護現場の人間関係は、単なる性格の合う・合わないだけで起こるものではありません。

利用者さんへの関わり方の違いが、同僚間のストレスになることがあります。

たとえば、ある職員は「利用者さんとゆっくり話すことも大切なケアだ」と考えます。

一方で、別の職員は「今は業務を早く終わらせないと全体が回らない」と考えます。

どちらも現場を支えようとしているのですが、感情労働への考え方が違うため、互いに不満が生まれます。

職員の考え方 大切にしていること 同僚間で起こりやすい摩擦
利用者さんと丁寧に関わりたい 安心感、信頼関係、尊厳 「仕事が遅い」と見られやすい
決められた業務を早く進めたい 全体の流れ、安全、時間管理 「冷たい対応」と見られやすい
感情を抑えて淡々と対応したい 安定した業務遂行 「寄り添いが足りない」と見られやすい
深く共感して支えたい 本人理解、関係性 「抱え込みすぎ」と見られやすい

介護現場の人間関係を考えるときは、「あの人は冷たい」「あの人は要領が悪い」と個人評価にしないことが大切です。

その背景には、介護における感情労働の考え方の違いがあります。

コーピングやアンガーマネジメントだけでは足りない理由

介護職のストレス対策では、コーピング、ソーシャルスキル、ソーシャルサポート、アンガーマネジメントがよく取り上げられます。

これらは大切な考え方です。

しかし、介護職の感情労働ストレスを考えるときは、個人の対処法だけでは不十分です。

考え方 主な内容 限界
コーピング ストレスにどう対応するか ストレスの発生源そのものは変わらない
ソーシャルスキル 相手に合わせた会話や行動を選ぶ力 人手不足や業務過多があると実行しにくい
ソーシャルサポート 周囲からの支援を受けること 支援する側にも余裕が必要
アンガーマネジメント 怒りを適切に扱う方法 怒りが生まれる職場構造を変えるわけではない
感情労働の視点 感情を扱う仕事そのものを職場負担として見る 個人ではなく組織設計として扱う必要がある

コーピングやアンガーマネジメントは、ストレス反応を軽くするために役立ちます。

しかし、感情労働は介護職にとって、ストレスへの反応ではなく、仕事そのものの中に含まれる負担です。

だからこそ、個人の対処法だけでなく、介護施設としての業務設計、記録、情報共有、支援体制、管理職の声かけが必要になります。

介護職の感情が軽く扱われやすい問題

ホックシールドは、社会的地位によって感情の扱われ方に差があることを指摘しています。

地位が高い人の感情は周囲から配慮されやすく、地位が低く見られやすい人の感情は、見過ごされたり、軽く扱われたりしやすいという問題です。

介護職の現場でも、これに近いことが起こります。

利用者さんや家族の感情には細かく配慮する一方で、介護職自身の怒り、不安、疲れ、悲しみは「仕事だから仕方ない」と扱われることがあります。

しかし、介護職の感情を軽く扱う職場では、共感疲労やバーンアウトが蓄積しやすくなります。

利用者さんを大切にするためにも、職員の感情を無視してはいけません。

介護施設で必要な感情労働ストレス対策

介護職の感情労働ストレスを減らすには、職員に「もっと上手に気分転換しましょう」と伝えるだけでは足りません。

現場で必要なのは、感情を使う仕事を業務として見える化し、支援する仕組みを作ることです。

1. 感情を使う業務を見える化する

入浴拒否、認知症対応、家族対応、看取り、苦情対応、夜間の不安対応など、感情を使う業務を記録・共有します。

件数だけでなく、対応の重さも見ることが大切です。

2. 特定の職員に難しい対応を集中させない

対応が上手な職員ほど、難しい利用者さんや家族対応を任されがちです。

しかし、それが続くと感情労働が偏ります。

チームで分担し、管理職が負担の偏りを確認する必要があります。

3. 対応後に短い振り返りを入れる

強い感情労働の後には、短時間でも振り返りが必要です。

「何が大変だったか」「次にどう支えるか」「誰がフォローするか」を確認するだけでも、職員の孤立を防ぎやすくなります。

4. 同僚間の価値観の違いを言葉にする

利用者さんと丁寧に関わりたい職員と、業務全体を早く進めたい職員の間には、摩擦が起こりやすいものです。

どちらかを否定するのではなく、場面ごとに何を優先するかを職場で共有することが重要です。

5. 管理職が職員の感情負担を扱う

管理職は、職員の勤務時間や業務量だけでなく、感情を使う場面を把握する必要があります。

「あの対応は感情的に大変だったと思う」「一人で抱えなくてよい」と言葉にすることで、職員は相談しやすくなります。

タニカワ久美子が介護施設研修でこのテーマをどう扱うか

けんこう総研の介護施設向け研修では、感情労働を「利用者さんにやさしくしましょう」という話にはしません。

介護現場で私が何度も感じてきたのは、職員さんが利用者さんの生活を支えるために、自分の感情を後回しにしているということです。

認知症の利用者さんに何度も同じ説明をする。入浴を拒否されたときも、怒らずに声をかける。家族から厳しい言葉を受けても、施設の顔として丁寧に対応する。

それを毎日続けている職員さんがいます。

私は研修で、「介護職の感情労働は、やさしさだけで続けられるものではありません」と伝えます。

そして、利用者さんへの共感、業務を回す責任、同僚との連携、家族対応を分けて整理します。

管理職向けには、「対応が上手な職員ほど、感情労働が集中していないか見てください」と伝えます。

介護職の感情労働を扱う目的は、職員を評価することではありません。

職員が安心して働き続けられるように、どこに感情負担が集まっているのかを職場で共有することです。

よくある質問

介護職の感情労働とは何ですか?

介護職の感情労働とは、利用者さんや家族に安心してもらうために、自分の感情を調整しながら、表情・声・言葉・態度を選び続ける働き方です。

なぜ介護職の感情労働は重くなりやすいのですか?

利用者さんとの共有時間が長く、生活の多くの場面に関わるためです。短時間の接客とは異なり、日々の関係が続くため、感情の負担も蓄積しやすくなります。

共感疲労と感情労働は同じですか?

同じではありません。共感疲労は、相手に深く寄り添うことで心が疲れていく状態です。感情労働は、仕事として感情を調整し続ける働き方です。介護現場では、この二つが重なりやすくなります。

介護職の人間関係にも感情労働は関係しますか?

関係します。利用者さんへの関わり方、業務の進め方、共感の深さに違いがあると、同僚間で不満や誤解が生まれることがあります。

介護施設では何から始めればよいですか?

まず、感情を使う業務を見える化します。認知症対応、入浴拒否、家族対応、苦情対応、看取りなど、職員が感情的に消耗しやすい場面を共有することから始めます。

まとめ|介護職の感情労働は共有時間の長さで蓄積する

介護職の感情労働は、利用者さんとの共有時間が長いことに大きな特徴があります。

同じ利用者さんと日々関わり、生活のさまざまな場面で安心感を支え続けるため、感情の負担は蓄積しやすくなります。

介護職のストレス対策では、個人のコーピングやアンガーマネジメントだけでは不十分です。

感情労働を業務として見える化し、難しい対応を分担し、対応後に振り返り、管理職が感情負担を言葉にすることが必要です。

利用者さんを大切にするためには、職員の感情も大切に扱う必要があります。

感情労働ストレス研修への活用

けんこう総研では、介護施設、福祉現場、医療機関、対人サービス職に向けて、感情労働ストレス研修を行っています。

介護職の感情労働を、個人のやさしさや我慢の問題にせず、職場で支えるべきストレス要因として整理します。

介護職員の離職防止、共感疲労対策、管理職のラインケア、職場改善に課題があるご担当者様は、以下のページをご覧ください。


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参考文献

  • 園木清「介護労働者の感情労働と職場の人間関係」に関する研究。
  • Hochschild, A. R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.
  • 小杉ほか(2002)ストレス理論・コーピング概念に関する文献。
  • 相川(2000)ソーシャルスキルに関する文献。
  • 嶋(1991)ソーシャルサポートに関する文献。

文責:タニカワ久美子

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