ウェアラブル・HRV・ストレス計測|健康経営のKPI・行動変容
「本人は大丈夫と言っている。でも、以前より疲れて見える」「ウェアラブルを見るとHRVも普段より低い」。人事総務や健康経営担当者が、このような状況に出会うことがあります。
ここで注意したいのは、HRVが低いから「不安が強い」「メンタル不調である」と判断しないことです。
HRVは、心拍間隔の変動を表す生理指標です。不安や心理的負荷との関連を検討した研究はありますが、睡眠、疲労、運動、呼吸、体調、飲酒、測定条件などでも変化します。
そのため職場では、HRVを「不安を発見する検査」ではなく、本人の体感、睡眠、勤務負荷、休憩、相談状況をもう一度確認するきっかけとして扱います。
HRVが低いとき、不安と決めつける前に4つ確認する
HRVの変化が見られたとき、人事総務が最初に確認するのは診断名ではありません。
| 確認すること | 本人に起きていないか | 職場で確認すること |
|---|---|---|
| 体感 | 疲れ、緊張、落ち着かなさが続いていないか | 本人の言葉を数値より先に確認する |
| 睡眠・回復 | 眠れているか、休んでも疲れが残っていないか | 勤務時間や夜間対応などを確認する |
| 業務負荷 | 仕事のことを離れても考え続けていないか | 業務量、期限、役割の偏りを確認する |
| 相談状況 | 困っていても一人で抱えていないか | 上司や相談窓口へ話しやすい状態か確認する |
HRVは、この4項目を確認する入口にはなりますが、どれが原因かを決める数値ではありません。
不安とHRVには関連があるが、個人の判定には使えない
不安とHRVの関係については、多くの研究があります。
不安障害のある集団では、健康な対照群と比べて安静時HRVが低い傾向を示した研究やメタ解析があります。
一方で、個人の不安の強さとHRVの関係は、すべてのHRV指標で一貫して確認されているわけではありません。
つまり研究から言えるのは、不安とHRVには集団レベルで関連がみられることがあるというところまでです。
一人の社員について、
- HRVが低いから不安が強い
- HRVが高いから問題ない
- 数値が回復したから心理状態も改善した
と判断することはできません。
「休んでいる」と「回復できている」は同じではない
人事総務が注目したいのは、勤務時間外かどうかだけではありません。
本人は仕事を終えていても、
- 翌日の仕事を繰り返し考えている
- 失敗やトラブルが頭から離れない
- メールや連絡が気になり続ける
- 休憩中も仕事の段取りを考えている
- 布団に入っても仕事の心配が続く
という状態では、本人が「休んだつもり」でも十分な心理的切り替えができていない場合があります。
ただし、ここでもHRVを「回復度の正解」とはしません。
本人の疲労感、睡眠、仕事から離れられている感覚、HRVなどを並べ、同じ方向の変化が続いているかを見る方が職場支援には使いやすくなります。
一時的なHRV低下と、支援を考えたい状態を分ける
HRVは日々変動します。1回低かったからといって、会社が対応を始める必要はありません。
人事総務が支援を考えるときは、数値よりも変化の重なりを見ます。
| 状態 | 見方 | 職場での対応 |
|---|---|---|
| HRVだけが一時的に変化 | 測定条件、睡眠、運動なども確認する | 社員を呼び出して評価しない |
| 本人も疲労を感じている | 勤務状況や休息を合わせて確認する | 本人がセルフケアを選べるようにする |
| 不安や心配が続いている | 何が負担になっているか本人に確認する | 相談先や業務調整の選択肢を示す |
| 仕事や生活への支障が出ている | ウェアラブルだけで判断しない | 産業保健スタッフや専門職につなぐ |
会社が見るのは「HRVの異常者」ではなく、「支援が必要になっていないか」です。
「本人は大丈夫と言っている」ときに数値で反論しない
HRVデータがあると、本人が「大丈夫です」と話したときに、「でも数値は悪いですよ」と伝えたくなることがあります。
これは避けたい使い方です。
HRVは本人の気持ちを否定するための証拠ではありません。
代わりに、
- 最近、疲れが残る日はありますか
- 仕事を離れても気になることはありますか
- 睡眠や休憩は取れていますか
- 負担になっている仕事はありますか
- 調整した方がよいことはありますか
など、本人が答えられる範囲から確認します。
本人の回答とHRVが一致しない場合も、「数値と本人のどちらが正しいか」を決める必要はありません。
不安の原因を社員個人だけに戻さない
心配や不安が続いている場合、セルフケアだけを勧めても解決しないことがあります。
背景に、
- 業務量が多い
- 責任や役割が曖昧
- 失敗へのプレッシャーが強い
- 相談すると評価に響きそうで不安
- 上司が忙しく声をかけにくい
- 休憩を取りにくい
などの職場要因があれば、本人だけに「リラックスしてください」と伝えても十分ではありません。
| 本人側でできること | 管理職ができること | 人事総務が確認すること |
|---|---|---|
| 疲労や緊張に気づく | 業務量や期限を確認する | 過度な業務偏在がないか |
| 休憩・セルフケアを行う | 休憩を取りやすくする | 休憩しにくい運用がないか |
| 早めに相談する | 相談を評価と結びつけず受け止める | 相談ルートが機能しているか |
HRVの変化を見つけることより、その経験から企業内の行動を何に変えるかが健康経営では重要です。
社員のストレスへの気づきを、研修後の行動までつなげたいご担当者へ
セルフケア、休憩、相談行動、管理職の声かけなど、研修後に社員・管理職・人事総務が何を変えるかを整理するための設計シートです。
管理職へHRVの個人データを渡さなくても支援はできる
管理職が社員を支援するために、個人のHRV一覧を見る必要はありません。
むしろHRVの高低を管理職へ直接渡すと、「ストレスが高い社員」「回復できていない社員」と分類されるリスクがあります。
管理職に共有したいのは、データそのものより支援方法です。
- 最近の業務量を確認する
- 締切や優先順位を調整できないか検討する
- 休憩や休息を取りやすくする
- 相談を受けたときに本人を評価しない
- 必要に応じて人事総務や専門職につなぐ
HRVを共有する設計より、支援行動を共有する設計を先に考えます。
HRV一般論を確認したい場合は専用記事で分けて読む
HRVとは何か、測定方法、ストレス指標としてどこまで解釈できるかは、不安への職場支援とは別の判断です。
HRVそのものの定義・測定・解釈については、HRV一般論を扱う専用記事で確認し、ここでは「不安や心配が続いている社員を職場でどう支援するか」に絞って考えます。
相談しにくさが続いているなら、HRVより相談環境を先に見る
本人が不安を感じていても相談できない状態なら、HRVを詳しく分析することより、相談しにくい理由を確認した方が職場改善につながる場合があります。
上司への不安、評価への心配、相談先が分からない、相談しても何も変わらないと思っているなど、職場側の要因があるからです。
この場合は、社員本人のセルフケアだけではなく、管理職の受け止め方や相談導線も合わせて見直します。
タニカワ久美子の企業研修では、HRVより先に本人の体感を見る
タニカワ久美子の企業研修では、HRVの数値を見てから社員の状態を決めることはしません。
まず本人に、疲労感、睡眠、呼吸のしやすさ、身体のこわばり、休憩状況、仕事から気持ちを切り替えられているかなどを振り返ってもらいます。
そのうえで、HRVなどの情報がある場合は、「数字と自分の感覚はどうだったか」を考える材料にします。
また、呼吸や軽い運動を実践して、その場で身体の変化を感じてもらいます。
しかし「少し楽になった」で研修を終わらせません。
| 研修で気づいたこと | 本人の次の行動 | 会社側で動かすこと |
|---|---|---|
| 仕事を離れても緊張が続いている | 切り替える時間をつくる | 勤務時間外の連絡・業務運用を確認する |
| 休憩を飛ばしている | 短い休憩を取る | 休憩できる業務設計か確認する |
| 一人で抱え込んでいる | 早めに相談する | 管理職の声かけと相談導線を見直す |
| 業務量が不安の原因になっている | 負担を言葉にする | 業務量、期限、優先順位を調整する |
本人が経験した「気づき」を、社員のセルフケアだけで終わらせず、管理職と人事総務の行動まで動かすことを重視しています。
強い不安や生活への支障がある場合はHRVで判断しない
HRVやウェアラブルデータは、不安障害やその他の疾病を診断するものではありません。
強い不安や不眠などが続いている場合、仕事や日常生活に支障が出ている場合、本人から相談があった場合は、HRVの高低で対応を決めず、産業保健スタッフや医療専門職など適切な相談先につなぎます。
人事総務や管理職の役割は診断ではなく、本人が早めに支援へつながれる職場をつくることです。
心拍変動HRVと不安は「判定」ではなく支援の入口として読む
不安や心配とHRVには関連を示す研究がありますが、HRVだけから一人の社員の不安状態を判断することはできません。
人事総務が確認したいのは、
- 本人自身も疲労や不安を感じているか
- 睡眠や休息が取れているか
- 仕事を離れても心配が続いていないか
- 業務量や役割に負担がないか
- 困ったときに相談できるか
です。
HRVを「この社員は不安が強い」と分類する数字ではなく、「もう少し本人の状態と職場環境を確認した方がよいかもしれない」と考える補助情報として扱う。
そのうえで、本人のセルフケア、管理職の声かけ、人事総務の業務・相談環境の見直しへつなげます。
ストレスへの気づきを、社員・管理職・職場の行動変化につなげたいご担当者へ
けんこう総研では、HRVなどの数値だけで社員を評価せず、本人の体感、セルフケア、相談行動、管理職の声かけ、職場改善までつなげる健康経営支援を行っています。
参考文献
- Chalmers JA, Quintana DS, Abbott MJA, Kemp AH. Anxiety Disorders are Associated with Reduced Heart Rate Variability: A Meta-Analysis. Front Psychiatry. 2014.
- Heart rate variability in patients with anxiety disorders: A systematic review and meta-analysis. Psychiatry Clin Neurosci. 2022.
- Tomasi J, et al. Heart rate variability: Evaluating a potential biomarker of anxiety disorders. Psychophysiology. 2024.
- Quigley KS, Gianaros PJ, Norman GJ, et al. Publication guidelines for human heart rate and heart rate variability studies in psychophysiology-Part 1. Psychophysiology. 2024.
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。
