ストレス研究memo
ストレスと睡眠:特定のニューロンの働きで不安を軽減
2024年4月28日更新
この記事は、働く人の健康管理とストレスコントロールに長年携わっているけんこう総研タニカワの執筆です。このストレス研究の最前線記事を通して、皆さまがストレスに強くなるための実践的な方法をご提供しています。
ストレスと睡眠:特定のニューロンの働きで不安を軽減
ストレスを感じると、特定のニューロンが睡眠の質を向上させ、ストレスホルモンの過剰な分泌を抑えることで不安を軽減することが、動物実験により明らかになりました。このニューロンをターゲットにすることで、将来的にはストレス障害の治療に役立つ可能性があります。これは、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究によるものです。
哺乳類全体で睡眠のメカニズムは類似しているため、この結果は人間の脳にも当てはまる可能性があります。
ストレスと睡眠の関係
私たちは一般的に、ストレスが不眠を引き起こすと考えがちですが、実はある種のストレスは睡眠を促す可能性があります。インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究グループは、マウスを使った実験で、ストレスがどのように睡眠を誘発するか、そしてその睡眠が翌日の不安レベルをどのように下げるかを明らかにしました。
睡眠の2つのタイプとストレス
睡眠には、レム睡眠(浅い睡眠で夢を見やすい)とノンレム睡眠(深い睡眠で夢を見ない)の2つのタイプがあります。PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ人々はレム睡眠が減少する傾向にあるため、レム睡眠はストレスや困難な感情を処理する役割があると考えられています。
研究チームの主任研究者、ウィスデン教授は、今回の結果がレム睡眠がストレス処理に役立つという考えを裏付けられます
「今回の研究で、レム睡眠を誘発するメカニズムを解明し、適切なニューロンをターゲットにすることで、睡眠のストレス解消効果を高める可能性が示されました」とウィスデン教授は語っています。
ストレスと睡眠の神経メカニズム
今回の実験では、マウスに「社会的敗北」と呼ばれる一種の心理社会的ストレスを与え、ストレスによって睡眠がどのように影響を受けるかを調べました。ストレスを受けたマウスの血中には、「闘争・逃避」に関連するホルモンが上昇し、ストレスを受けていることが示されました。
その後、マウスが眠った際に、脳細胞の活動を調査しました。結果として、ストレスホルモンレベルに反応し、ノンレム睡眠とレム睡眠の両方を促進する特定のニューロンが見つかりました。
さらに、これらのニューロンの活動は、約5時間の睡眠中、高いレベルを維持していました。この期間中、他のストレスホルモンを調節するニューロンにも信号を送り、さらなるホルモンの放出を抑えました。
ストレス軽減への応用
この研究の結果から、ストレスを検出して睡眠を誘発し、さらにストレスホルモンのレベルを低下させるニューロンが特定されました。この発見に基づいて、研究グループは、これらのニューロンをターゲットにして、睡眠を介したストレス軽減の効果を高めるさらなる研究をしています。
今後の研究と応用の可能性
今回の研究結果は、ストレス障害の新しい治療法の開発に役立つでしょう。特に、特定のニューロンをターゲットにした薬や他の介入法により、睡眠のストレス軽減効果を高める道が開かれます。
参考文献
Xiao Yu,Guango Zhao,Dan Wang et al.(2022):A specific circuit in the midbrain detects stress and induces restorative sleep;Science(377)6601,63-72