ストレス・セルフケアを組み合わせた健康経営研修

良いストレスと言える職場条件を見誤らない|MEDS尺度

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ストレス科学を職場研修に変える研究ノート

良いストレスと言える職場条件を見誤らない|MEDS尺度

「良いストレスを活かしたい」と考える企業は増えています。

けれども、職場で注意したいのは、その負荷が本当に社員の成長につながっているかどうかです。

同じ仕事でも、ある社員には「やりがい」になります。別の社員には、重圧になります。本人が前向きに見えていても、身体や行動には疲れのサインが出ていることもあります。

ここで見誤ると、健康経営の施策が「前向きに頑張ろう」という精神論に近づいてしまいます。

良いストレスと言える職場には、負荷だけでは足りません。裁量、支援、相談先、回復時間が必要です。

MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動のしるしから分けて見るための研究知識です。ただし、尺度名を知るだけでは職場は動きません。

人事総務担当者に必要なのは、社員の反応を見ながら、その負荷が挑戦になっているのか、消耗に向かっているのかを見直す視点です。

ストレスの重さを支える人形のイメージ

良いストレスと悪いストレスを分けて見るには、感情だけでなく身体や行動の変化も重ねて見る必要があります。

良いストレスと言える前に見る職場条件

ユーストレスは、前向きな行動や成長につながるストレスとして説明されます。

一方で、ディストレスは、心身を消耗させるストレスです。

この違いは、言葉だけでは見分けにくいものです。

「大変だけど頑張ります」と言っている社員が、本当に挑戦できているのか。それとも、周囲に心配をかけないように無理をしているのか。

ここは、現場で判断が止まりやすい場面です。

本人の表情、睡眠の乱れ、休憩の取り方、ミスの増え方、相談の減り方。言葉以外の変化も重ねて見る必要があります。

良いストレスと言えるかどうかは、気持ちの前向きさだけでは決まりません。

  • 仕事の目的が本人に伝わっているか
  • 進め方を選べる余地があるか
  • 相談できる相手がいるか
  • 失敗したときに責められすぎないか
  • 終わったあとに回復できる時間があるか

この条件が欠けると、同じ負荷でもディストレスへ傾きます。

MEDS尺度で見る感情・身体・行動のしるし

MEDS尺度は、Measure of Emotional, Physical, and Behavioral Markers of Eustress and Distress の略です。

ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動のしるしから見ようとする心理尺度です。

職場で参考になるのは、ストレスを「多い・少ない」だけで見ない点です。

同じ忙しさでも、活力につながっている場合があります。反対に、疲労や孤立につながっている場合もあります。

見るしるし ユーストレスに傾く反応 ディストレスに傾く反応
感情 前向きさ、活力、挑戦したい気持ち 不安、いらだち、落ち込み、圧迫感
身体 ほどよい緊張感、集中しやすい状態 疲労感、頭痛、胃の不調、眠りにくさ
行動 行動を起こす、工夫する、相談する 避ける、先延ばしする、孤立する、ミスが増える

この表は、社員を分類するためのものではありません。

「前向きに見える社員にも、疲れが出ていないか」を見るための補助線です。

特に注意したいのは、感情だけで判断しないことです。本人が「やりがいがあります」と言っていても、身体は疲れているかもしれません。行動は止まり始めているかもしれません。

言葉、身体、行動。この3つを別々に見てから重ねる。

職場での判断は、ここから始まります。

感情だけで「良いストレス」と判断しない

ユーストレスでは、緊張があっても、前向きさや挑戦したい気持ちが出ることがあります。

新しい役割を任された。発表の機会がある。難しい仕事に挑戦している。こうした場面では、適度な緊張が集中につながることもあります。

ただし、職場では「前向きな発言」が判断を難しくします。

社員は、期待されていると感じるほど「大丈夫です」と言いやすくなります。管理職も「本人がやる気だから任せよう」と受け止めます。人事総務としても、どこから介入すればよいのか迷いやすいところです。

研修現場では、管理職から次のような声が出ます。

  • 本人が前向きなので、負荷を下げるべきか判断しにくい
  • 期待して任せているつもりが、プレッシャーになっていないか不安
  • 声をかけると、かえって本人のやる気を削ぐのではないかと迷う

ここで必要なのは、「頑張れるか」を聞くことではありません。

業務量、期限、相談先、休憩、終了後の回復。この条件を確認することです。

身体のしるしは、本人の言葉より早く出ることがある

ストレスがかかると、心拍、呼吸、筋肉のこわばり、睡眠、胃腸の状態に変化が出ることがあります。

良い緊張であれば、集中や準備につながります。

しかし、負荷が長引くと、疲労として残ります。

  • 眠りが浅い
  • 朝から表情が硬い
  • 休憩しても疲れが抜けない
  • 肩や首のこわばりが強い
  • 胃の重さや食欲の乱れがある
  • 休日も仕事のことが頭から離れない

本人が「まだ大丈夫です」と言う場面でも、身体の反応は別のサインを出していることがあります。

ここを見落とすと、職場では「やる気のある社員」に負荷が集まり続けます。

そして、ある日突然、遅刻、欠勤、ミス、表情の変化として表に出ます。

健康経営で見たいのは、症状がはっきり出てからの対応だけではありません。疲れが積み上がる前の小さな変化です。

行動の変化は、職場で見える重要なサイン

MEDS尺度が示す視点の中で、職場が最も拾いやすいのは行動の変化です。

ユーストレスに傾いているとき、社員は行動を起こしやすくなります。工夫する。質問する。周囲と相談する。次の一手を考える。

一方で、ディストレスに傾くと、行動が止まり始めます。

  • 報告が遅くなる
  • 相談が減る
  • 先延ばしが増える
  • 確認漏れが出る
  • 会議で発言しなくなる
  • 周囲との雑談が減る

これらは、本人の性格だけでは説明できません。

仕事量が多すぎるのか。裁量が少ないのか。相談しにくい雰囲気があるのか。管理職の期待が強すぎるのか。休憩が取れていないのか。

行動の変化を見るときは、個人を責める方向ではなく、職場条件を見直す方向に置く必要があります。

ラザルスのストレス評価から見る職場の受け止め方

ストレス研究では、同じ出来事でも、人によって受け止め方が違うと考えられています。

新しい仕事を任されたとき、ある人は「成長の機会」と感じます。別の人は「失敗したらどうしよう」と感じます。

この違いには、本人の経験だけでなく、支援の有無、仕事の進め方を選べるか、相談できる相手がいるかが関係します。

職場で大切なのは、社員に「前向きに考えましょう」と伝えることではありません。

同じ負荷が、なぜ一人には挑戦になり、別の一人には消耗になるのか。

その条件を見ることです。

ここを見ずにユーストレスという言葉だけを使うと、社員には「前向きに受け止めるべき」と聞こえてしまうことがあります。

これは、健康経営の現場で避けたい誤解です。

セリエのストレス概念を職場実務に置き換える

ハンス・セリエは、ストレスを体が刺激に反応する仕組みとして捉えました。

同じ刺激でも、適度であれば行動や成長につながることがあります。強すぎたり、長く続いたりすれば、心身を消耗させます。

職場で必要なのは、理論名を覚えることではありません。

社員が感じている負荷が、活力につながっているのか。疲れに変わり始めているのか。

この見極めです。

そのためには、負荷の量だけでなく、期間、裁量、支援、回復の条件を合わせて見る必要があります。

職場でMEDS尺度を使うときの注意点

MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを分けて考えるうえで参考になります。

ただし、職場でそのまま社員に当てはめれば、すぐに健康経営が進むわけではありません。

注意したいのは、尺度を「判定ラベル」にしないことです。

  • 社員を点数で決めつけない
  • 良いストレスが高いから安全だと考えない
  • 本人の前向きな発言だけで判断しない
  • 身体の不調や行動の変化も合わせて見る
  • 結果を管理ではなく支援につなげる
  • 職場条件を変えずに、個人の受け止め方だけを求めない

現場で難しくなるのは、ここです。

本人は「大丈夫です」と言う。管理職は「期待して任せている」と考える。人事総務は、どこまで業務調整に入るべきか迷う。

このまま進むと、良いストレスのつもりが、いつの間にか消耗に変わっていることがあります。

前向きな言葉だけでは足りません。負荷、裁量、支援、回復時間を同時に見る設計が必要です。

人事総務が確認したい5つの判断点

MEDS尺度の考え方を職場に置き換えると、人事総務が見るべき点は明確になります。

判断点 確認したいこと 見落とすと起きやすいこと
負荷 仕事量、期限、責任が一人に集中していないか 期待の名目で負担が積み上がる
裁量 進め方や優先順位を本人が調整できるか 挑戦ではなく、逃げ場のない重圧になる
支援 相談先、確認相手、代替要員があるか 孤立し、相談が遅れる
回復 休憩、睡眠、休日、勤務間の余白があるか 疲労が抜けず、ミスや不調が出る
変化 表情、発言、行動、ミス、相談頻度に変化がないか 不調の初期サインを見逃す

この5つは、社内で共有しやすい視点です。

ただし、共有するだけでは定着しません。管理職がどの場面で、どの言葉で、どこまで確認するのか。ここで実務が止まります。

研修現場では、「この聞き方は詰問に聞こえませんか」「本人が大丈夫と言ったら、そこで終わってよいのでしょうか」「仕事量の調整は誰が決めるべきですか」という声が出ます。

ここに、外部講師による研修設計の必要性があります。

良いストレスを職場で活かす前に見ておきたいこと

ユーストレスは、前向きな行動や成長につながるストレスとして語られることがあります。

けれども、職場でその言葉を使うときには、少し立ち止まる必要があります。

本人が「やりがいがあります」と言っていても、休憩が取れていない。管理職は「期待している」と声をかけているが、相談できる相手がいない。周囲からは前向きに見えていても、睡眠の乱れやミスの増加が出始めている。

こうした場面では、良いストレスか悪いストレスかを言葉だけで分けることはできません。

必要なのは、負荷の大きさだけを見ることではなく、裁量、支援、相談のしやすさ、終わったあとの回復まで重ねて見ることです。

ただ、この確認は社内資料を配っただけでは動きにくい部分です。部署ごとの忙しさ、管理職の声かけ、本人の受け止め方、人事総務の関わるタイミングが重なるためです。

「どこまで声をかけてよいのか」「本人が大丈夫と言ったら見守るべきなのか」「業務調整に入る基準はどこなのか」。現場では、ここで判断が止まりやすくなります。

MEDS尺度は、感情・身体・行動のしるしを分けて見るための研究知識です。けれども、職場で大切なのは尺度を覚えることではありません。

社員の反応を、職場の負荷と回復の条件に結びつけて見られるかどうか。

良いストレスを健康経営に活かすには、前向きな言葉だけでは足りません。社員の状態、管理職の関わり方、職場の回復設計をつなげて考える研修が必要になります。

タニカワ久美子の研修で扱う実務視点

タニカワ久美子の企業研修では、ユーストレスを「前向きに頑張る話」として扱いません。

社員の反応を見ながら、負荷・裁量・支援・回復の条件を確認し、良いストレスとして働く場面と、消耗に変わる場面を分けて考えます。

研修では、管理職がよく使う声かけも確認します。

「期待しているから任せた」

この言葉は、社員に力を与えることもあります。けれども、支援や回復がないまま使われると、断りにくい重圧にもなります。

同じ言葉でも、職場条件によって受け取られ方は変わります。

ここは、一般的な説明資料だけでは見えにくい部分です。社員の反応、管理職の言葉、人事総務の判断をつなげて設計する必要があります。

まとめ|良いストレスと言う前に職場条件を見る

MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動のしるしから分けて見る心理尺度です。

ただし、職場で大切なのは、尺度の名前を覚えることではありません。

社員の前向きな発言、身体の疲れ、行動の変化を重ねて見ながら、その負荷が挑戦になっているのか、消耗に変わっているのかを見直すことです。

良いストレスと言える職場には、負荷だけでなく、裁量、支援、相談先、回復時間が必要です。

本人が「大丈夫です」と言っていても、休憩が取れていない。管理職は期待して任せているが、相談先がない。人事総務は気になっているが、どこから業務調整に入るべきか迷う。

こうした場面は、どの職場にも起こります。

ユーストレスを健康経営に活かすには、前向きな言葉だけでは足りません。社員の反応を見ながら、職場条件を整える研修設計が必要です。

職場のストレス管理研修への活用

けんこう総研では、企業・介護施設・教育機関向けに、ユーストレス、ディストレス、ストレス反応、管理職の声かけをつなげたストレスマネジメント研修を行っています。

良いストレスを職場で活かしたい場合は、社員に前向きな考え方を求めるだけでは進みません。

負荷、裁量、支援、回復の条件を確認し、管理職の声かけと人事総務の判断をつなげる必要があります。

自社の職場場面に置き換えて進めたい場合は、以下のページをご覧ください。


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引用文献

文責:タニカワ久美子

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