ストレス科学ラボ・用語バンク
EustressとDistressの評価: MEDS尺度の開発
ユーストレスとディストレスは、「良いストレス」「悪いストレス」と説明されることがあります。
しかし、実際の職場では、その違いを言葉だけで見分けるのは簡単ではありません。
たとえば、同じ仕事の負荷でも、ある人には「やりがい」になり、別の人には「つらさ」になることがあります。また、本人が前向きに見えていても、身体や行動には疲れのサインが出ていることもあります。
そこで注目されるのが、MEDS尺度です。
MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動のしるしから分けて見ようとする心理尺度です。この記事では、MEDS尺度の意味、見ているポイント、健康経営や職場のストレス管理で使うときの注意点を、人事総務・健康経営担当者にもわかりやすい言葉で解説します。

ユーストレスとディストレスを分けて見るには、感情だけでなく身体や行動の変化も見ることが大切です。
MEDS尺度とは
MEDS尺度とは、Measure of Emotional, Physical, and Behavioral Markers of Eustress and Distress の略です。
日本語では、「ユーストレスとディストレスの感情・身体・行動のしるしを測る尺度」と考えるとわかりやすいです。
この尺度は、ストレスを単に「多い・少ない」で見るのではなく、そのストレスが前向きな反応につながっているのか、つらさや疲れにつながっているのかを分けて見るために開発されました。
MEDS尺度では、ユーストレスとディストレスを、それぞれ感情、身体、行動の3つの面から見ます。
| 見るポイント | ユーストレスで見られやすい反応 | ディストレスで見られやすい反応 |
|---|---|---|
| 感情 | 前向きさ、活力、挑戦したい気持ち | 不安、いらだち、落ち込み、圧迫感 |
| 身体 | ほどよい緊張感、集中しやすい状態 | 疲労感、頭痛、胃の不調、眠りにくさ |
| 行動 | 行動を起こす、工夫する、周囲と関わる | 避ける、先延ばしする、孤立する、ミスが増える |
このように、MEDS尺度は「気持ち」だけを見るものではありません。身体の反応や行動の変化も合わせて見る点に特徴があります。
なぜMEDS尺度が注目されるのか
これまでのストレス対策では、ストレスを「悪いもの」「減らすべきもの」として扱うことが多くありました。
もちろん、心身を消耗させるストレスは減らす必要があります。
しかし、すべてのストレスを悪いものとして扱うと、仕事への挑戦、成長、集中、達成感まで見えにくくなります。
MEDS尺度が注目される理由は、ストレスを一律に悪いものとして見るのではなく、ユーストレスとディストレスを分けて考える手がかりになるからです。
特に職場では、同じ仕事でも、本人の受け止め方、仕事量、相談先、休息の取りやすさによって、良いストレスにも悪いストレスにも変わります。
MEDS尺度が見る3つのしるし
MEDS尺度では、ストレス反応を3つの面から見ます。
1. 感情のしるし
まず見るのは、感情の変化です。
ユーストレスでは、緊張はあっても、前向きさ、やる気、挑戦したい気持ちが生まれることがあります。
一方で、ディストレスでは、不安、焦り、怒り、落ち込み、無力感が強くなりやすくなります。
職場では、社員が「大変だけどやってみたい」と感じているのか、「もう無理だ」と感じているのかを見分けることが大切です。
2. 身体のしるし
次に見るのは、身体の変化です。
ストレスがかかると、心拍、呼吸、筋肉のこわばり、睡眠、胃腸の状態などに変化が出ることがあります。
ユーストレスでは、ほどよい緊張感が集中を助けることがあります。
しかし、ディストレスでは、疲れが抜けない、眠れない、頭痛が続く、胃が重い、肩こりが強いといった状態につながることがあります。
本人が「まだ大丈夫」と言っていても、身体にサインが出ている場合は注意が必要です。
3. 行動のしるし
最後に見るのは、行動の変化です。
ユーストレスでは、行動を起こす、工夫する、周囲に相談する、学ぼうとするなどの行動が出やすくなります。
一方で、ディストレスでは、仕事を避ける、先延ばしする、ミスが増える、孤立する、相談しなくなるといった変化が出ることがあります。
人事総務や管理職にとっては、本人の言葉だけでなく、日々の行動の変化を見ることが重要です。
MEDS尺度とラザルスの考え方
ストレス研究では、同じ出来事でも、人によって受け止め方が違うと考えられています。
たとえば、新しい仕事を任されたとき、ある人は「成長のチャンス」と感じます。別の人は「失敗したらどうしよう」と感じます。
この違いには、本人の経験、支援の有無、仕事の進め方を選べるかどうか、相談できる相手がいるかなどが関係します。
MEDS尺度は、このような受け止め方の違いを、感情・身体・行動の面から見ようとする考え方と相性があります。
職場で大切なのは、社員に「前向きに考えましょう」と言うことではありません。同じ負荷が、なぜある人には成長になり、別の人には負担になるのかを見ることです。
MEDS尺度とセリエのストレス概念
ハンス・セリエは、ストレスを体が刺激に反応する仕組みとして考えました。
同じ刺激でも、それが適度であれば行動や成長につながることがあります。一方で、強すぎたり長く続いたりすると、心身を消耗させることがあります。
この考え方は、ユーストレスとディストレスを分けるうえで重要です。
ただし、現代の職場で大切なのは、理論そのものを覚えることではありません。
社員が感じているストレスが、活力につながっているのか、疲れにつながっているのかを見分けることです。
職場でMEDS尺度を使うときの注意点
MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを分けて考えるうえで参考になります。
ただし、職場で使うときには注意が必要です。
尺度をそのまま社員に当てはめれば、すぐに健康経営が進むわけではありません。
特に注意したいのは、次の点です。
- 社員を点数で決めつけない
- 良いストレスが高いから安全だと考えない
- 本人の感情だけで判断しない
- 身体の不調や行動の変化も合わせて見る
- 結果を管理のためではなく、支援のために使う
健康経営で大切なのは、社員を分類することではありません。
社員がどのような負荷を受けているのか、どこで疲れが出ているのか、どこに支援が必要なのかを見つけることです。
人事総務・健康経営担当者が見るべきポイント
MEDS尺度の考え方は、職場のストレス対策を見直すときに役立ちます。
特に人事総務・健康経営担当者は、次のような点を確認するとよいでしょう。
- 社員のストレスを「多い・少ない」だけで見ていないか
- 本人が前向きでも、身体の疲れが出ていないか
- 挑戦している社員に、相談先や休息があるか
- ミスや先延ばしを、本人の性格だけで見ていないか
- 研修後に、社員の行動や相談のしやすさが変わっているか
このように見ることで、ストレス対策は「リラックス方法を教えるだけ」ではなく、仕事量、相談、休憩、管理職の声かけを見直す取り組みになります。
MEDS尺度はユーストレス理解を深める補助知識
MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスをより詳しく理解するための補助知識です。
そのため、このページではMEDS尺度の考え方を紹介していますが、ユーストレス全体の説明は別ページに分けています。
ユーストレスの意味、ディストレスとの違い、職場での活かし方については、ユーストレスとは|職場での活用と科学的エビデンス解説で詳しく整理しています。
まとめ|MEDS尺度はストレスのしるしを分けて見る考え方
MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動のしるしから分けて見るための心理尺度です。
ストレスを「良い」「悪い」と言葉だけで分けるのではなく、社員の気持ち、身体の状態、行動の変化を合わせて見る点に特徴があります。
職場では、ストレスを単に減らすだけでは不十分です。
活力につながる負荷なのか、疲れにつながる負荷なのかを見分け、必要に応じて仕事量、相談先、休息、管理職の声かけを見直すことが大切です。
MEDS尺度は、健康経営やストレス管理研修を考えるうえで、ユーストレスとディストレスを見分けるための研究知識として役立ちます。
引用文献
- Pluut, H., Curșeu, P. L., & Fodor, O. C. (2022). Development and Validation of a Short Measure of Emotional, Physical, and Behavioral Markers of Eustress and Distress (MEDS). Healthcare, 10(2), 339. https://doi.org/10.3390/healthcare10020339
文責:タニカワ久美子