社員のストレスを点数だけで見ない職場判断|MEDS尺度

ストレス・セルフケアを組み合わせた健康経営研修

社員のストレスを点数だけで見ない職場判断|MEDS尺度

ホーム » ストレス管理 » ストレス研究ノート » MEDS尺度と職場判断

ストレス研究ノート|研修現場から読むストレス科学

社員のストレスを点数だけで見ない職場判断|MEDS尺度

社員のストレス状態を、できるだけ客観的に見たい。

健康経営や職場改善に関わる担当者であれば、一度は考えることです。感覚だけで判断するより、研究に基づいた尺度や質問項目を参考にしたい。そう感じるのは自然です。

ただし、ここで注意したいことがあります。

尺度は、社員を点数で決めるためのものではありません。まして、ユーストレスが高いから安全、ディストレスが高いから問題社員という見方に使うものでもありません。

MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動のしるしから捉えようとした研究知見です。職場で活かすには、点数よりも、その背景にある負荷、支援、裁量、回復の条件を見る必要があります。

ここを飛ばしてしまうと、せっかくの研究知識が「社員を分類する道具」に見えてしまいます。

職場に必要なのは、測ることだけではありません。社員の反応をどう受け止め、管理職の声かけや研修後の行動につなげるかです。

ストレスの感情的反応を表すフィギュアと雨雲のイラスト

MEDS尺度の研究は、ストレス反応を感情・身体・行動の3つの面から捉える視点を与えてくれます。

研究尺度を職場に入れる前に考えたいこと

MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを区別して捉えるために開発された短い測定尺度です。

正式名称は、Markers of Eustress and Distress Scaleです。

Pluut, Curșeu, Fodorによる研究では、ストレスを単に「ある・ない」や「多い・少ない」で見るのではなく、同じストレス状況でも、人によって前向きな反応として現れる場合と、負担や不調として現れる場合がある点に注目しています。

この視点は、職場でも重要です。

同じ業務量。同じ責任。同じ異動。同じ新規プロジェクト。

ある社員には成長機会として働き、別の社員には疲労や不安として働くことがあります。

問題は、ここからです。

研究尺度を知ると、社内でもすぐに測定したくなります。しかし、職場では点数だけを見ても、実際の支援にはつながりにくいことがあります。

「数値が出たあと、誰が声をかけるのか」

「本人が大丈夫と言った場合、どこまで確認するのか」

「部署の業務量や管理職の関わり方まで見直せるのか」

ここで止まりやすいのです。

ユーストレスとディストレスを数字だけで分けない

ユーストレスは、前向きな行動や集中につながるストレス反応として説明されます。

ディストレスは、不快感、疲労感、焦り、回避行動などにつながるストレス反応です。

ただし、職場ではこの違いを言葉だけで分けることはできません。

本人が「やりがいがあります」と話していても、休憩が取れていない。新しい仕事に前向きでも、睡眠が乱れている。管理職は期待して任せているが、本人は断れない空気を感じている。

こうした場面は珍しくありません。

ストレス要因そのものを「良い」「悪い」と決めつけると、現場の判断を誤ります。

同じ出来事でも、本人の状態、職場環境、支援体制、経験、体調によって、ユーストレスにもディストレスにも傾きます。

そのため、職場のストレス管理では、ストレスをすべてなくすという発想だけでは足りません。

社員が前向きに取り組める負荷なのか。心身を消耗させる負荷なのか。

その違いを、職場条件と合わせて見る必要があります。

MEDS尺度が見る感情・身体・行動の反応

MEDS尺度の特徴は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動の3つの側面から捉える点にあります。

見る側面 ユーストレスに傾く反応 ディストレスに傾く反応 職場で見落としやすい点
感情 前向きさ、活力、挑戦への意欲 不安、不快感、焦り、落ち込み 前向きな発言だけで安全と見てしまう
身体 適度な覚醒、集中しやすい状態 疲労感、緊張、体調不良、消耗感 本人が言わない不調を拾いにくい
行動 取り組み、行動開始、課題への集中 回避、停滞、ミスの増加、対人摩擦 性格や能力の問題として見てしまう

この表で大切なのは、社員を分類することではありません。

前向きに見える社員にも、身体や行動の変化が出ていないかを見ることです。

たとえば、本人は「挑戦したい」と言っている。けれども、朝の表情が硬くなり、確認漏れが増え、周囲への相談が減っている。

この場合、感情の言葉だけを見るとユーストレスに見えます。しかし、身体と行動を重ねると、消耗に向かっている可能性があります。

職場で必要なのは、こうしたズレに気づく視点です。

開発研究から見える職場への示唆

Pluutらの研究では、学業場面や組織場面において、ユーストレスとディストレスを感情的、身体的、行動的なマーカーから測定できるかが検討されました。

研究では、MEDSが短い尺度として提示され、複数の検証を通じて信頼性や妥当性が確認されています。

この研究の意義は、ユーストレスとディストレスを抽象的な言葉のままにせず、感情・身体・行動という見えやすい反応に分けた点にあります。

ただし、研究で使われた尺度を、そのまま社内運用に移せばよいわけではありません。

職場では、質問項目に答えてもらう前後に、説明の仕方、結果の扱い、相談導線、管理職の理解が必要になります。

ここが整っていないまま測定だけを行うと、社員は「評価されるのではないか」と感じることがあります。

本来は支援のための視点であっても、伝え方を誤ると、管理や選別のように受け取られる危険があります。

職場のストレス管理で活かすときの注意点

MEDS尺度の考え方から学べるのは、ストレスを強さだけで見ないことです。

新しい仕事を任されたとき、やりがいを感じて集中できる社員もいます。不安や疲労が強まり、行動が止まってしまう社員もいます。

そのため、職場のストレス管理では、次のような見方が必要になります。

  • 社員が前向きに取り組めている負荷なのか
  • 疲労感や不安が強まり、行動が止まっている負荷なのか
  • 身体の緊張や睡眠不調が出ていないか
  • ミス、回避、対人摩擦などの行動変化が出ていないか
  • 管理職が「成長機会」と思っている業務が、本人には過負荷になっていないか

この視点があると、ストレス対策は不調対応だけに閉じません。

業務設計、管理職教育、相談しやすさ、休憩の取り方、研修後の職場行動につながります。

一方で、ここを社内だけで進めようとすると、判断が難しくなる場面があります。

数値は取れた。けれども、部署ごとの忙しさが違う。管理職の受け止め方も違う。社員にどう伝えれば不安を与えずに済むのかも迷う。

この状態では、尺度を入れても職場改善に結びつきにくくなります。

点数よりも、現場で起きている反応を見る

職場で大切なのは、点数の高低だけではありません。

点数の背景に、どのような職場場面があるのかを見ることです。

職場で起きる場面 表面上の見え方 確認したい背景
新しい役割を任された 本人は前向きに見える 相談先、裁量、期限、回復時間があるか
繁忙期が続いている 全員で頑張っているように見える 休憩が削られ、疲労が蓄積していないか
管理職が期待を伝えている 動機づけの声かけに見える 断りにくさや過度な責任感につながっていないか
ミスや先延ばしが増えた 注意力や意欲の問題に見える 負荷、睡眠、孤立、相談のしにくさがないか

この確認は、チェックリストを配るだけでは定着しません。

どの場面で声をかけるのか。どの言葉なら責められていると受け取られにくいのか。どこから業務調整につなげるのか。

ここは、研修の中で職場場面に置き換えて考える必要があります。

タニカワ久美子の企業研修で扱う視点

タニカワ久美子の企業研修では、ユーストレスとディストレスを「良いストレス」「悪いストレス」という単純な二分法だけでは扱いません。

同じ出来事でも、社員の状態や職場環境によって、成長につながる負荷にも、消耗につながる負荷にも変わるからです。

社員本人には、自分のストレス反応を感情、身体、行動の変化として見直す視点を伝えます。

管理職には、部下の反応を「やる気がある・ない」だけで判断せず、疲労感、表情、ミス、回避行動、相談のしやすさまで含めて見る視点を伝えます。

研修現場では、管理職から「期待して任せた仕事が、本人の負担になっていないか不安です」という声が出ることがあります。

一方で、社員側からは「期待されていると思うと、つらくても断れない」という反応が出ることもあります。

このズレは、資料を読んだだけでは見えにくい部分です。

だからこそ、研究知識をそのまま伝えるのではなく、社員の反応、管理職の声かけ、人事総務の判断をつなげる研修設計が必要になります。

研究知識を職場の支援につなげるために

MEDS尺度の開発研究は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動のしるしから見る視点を与えてくれます。

ただし、職場で大切なのは、尺度そのものを覚えることではありません。

社員の前向きな発言、身体の疲れ、行動の変化を重ねて見ながら、その負荷が挑戦になっているのか、消耗に変わっているのかを考えることです。

ユーストレスの全体像については、ユーストレス(良性ストレス)とは|職場で活かすストレス資源の全体像をご覧ください。

MEDS尺度を使った職場条件の見方については、良いストレスと言える職場条件を見誤らない|MEDS尺度をご参照ください。

研究知識は、職場での使い方によって価値が変わります。

点数化だけで終わらせるのではなく、社員の反応を支援につなげる。ここに、健康経営研修として設計する意味があります。

職場のストレス管理研修への活用

けんこう総研では、企業・介護施設・教育機関向けに、ユーストレス、ディストレス、ストレス反応、管理職の声かけをつなげたストレスマネジメント研修を行っています。

ストレス評価を職場で活かすには、社員にアンケートを取るだけでは進みません。

結果をどう伝えるか。管理職がどう受け止めるか。社員が安心して相談できる流れをどう作るか。部署ごとの負荷の違いをどう見るか。

この部分は、社内資料だけでは形になりにくいところです。

自社の職場場面に置き換えて、ストレス対策と健康経営を実務につなげたい場合は、以下のページをご覧ください。


ストレスマネジメント研修を見る

引用・参考文献

Pluut, H., Curșeu, P. L., & Fodor, O. C. (2022).

Development and Validation of a Short Measure of Emotional, Physical, and Behavioral Markers of Eustress and Distress (MEDS)
.
Healthcare, 10(2), 339.

文責:タニカワ久美子

夜間・土日祝の無料相談も随時受け付けております。
まずはお気軽にお問い合わせください。