感情労働化する社会とは|仕事の疲労と心理的ストレスが増える理由

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感情労働化する社会とは|仕事の疲労と心理的ストレスが増える理由

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感情労働化する社会とは|仕事の疲労と心理的ストレスが増える理由

かつて感情労働といえば、接客業やサービス業を中心に語られることが多くありました。

しかし現在では、対人サービス職だけでなく、医療、介護、教育、行政、営業、管理職、社内調整業務など、多くの仕事で「感情を整えて働くこと」が求められています。

背景には、おもてなし、ホスピタリティ、顧客満足、クレーム回避、職場内の空気読みなど、働く人に感情面の配慮を求める場面が増えていることがあります。

本記事では、山口和代氏らの「働く人をめぐる感情労働とその影響要因」を参考に、なぜ多くの職業が感情労働化しているのか、そしてそれが働く人の疲労や心理的ストレスにどうつながるのかを整理します。


感情労働はサービス業だけの問題ではなくなっています

感情労働とは、仕事上求められる表情、態度、言葉づかい、感情表現を保つために、自分の感情を調整する働き方です。

以前は、接客業、客室乗務員、販売職、飲食業などが代表的な感情労働職と考えられていました。

しかし現在では、次のような職場でも感情労働が増えています。

職場・職種 求められやすい感情労働 起こりやすい負担
医療・介護 不安な患者・利用者や家族への落ち着いた対応 共感疲労、情緒的消耗
教育現場 児童生徒・保護者への冷静な説明と感情調整 緊張、怒りの抑制、孤立感
営業・顧客対応 クレームや要望に対する丁寧な対応 不満や怒りの抑圧
管理職 部下の不安を受け止めながら冷静に判断する 感情の板挟み、相談疲れ
社内調整業務 部署間の対立を和らげる配慮や根回し 空気読み疲労、心理的負担

つまり、感情労働は「お客様の前で笑顔を作る仕事」だけではありません。職場内外の相手に対して、感情を整え続ける仕事全般に広がっています。


過剰な「お客様扱い」が働く人の負担を増やしている

日本では、「おもてなし」や「ホスピタリティ」が高く評価されてきました。

本来のもてなしは、相手を大切にする姿勢であり、一方的な服従ではありません。もてなす側ともてなされる側の間に、互いを尊重する関係があって成立するものです。

しかし職場によっては、おもてなしが「お客様を絶対に不快にさせてはいけない」「相手が理不尽でも笑顔で対応しなければならない」という過剰な要求に変わっていることがあります。

このとき、働く人は本来の業務に加えて、次のような感情調整を求められます。

  • 怒りを感じても表情に出さない
  • 理不尽な要求にも丁寧に対応する
  • 疲れていても明るく振る舞う
  • 相手の不機嫌を自分の責任のように受け止める
  • 職場の空気を壊さないように本音を抑える

このような状態が続くと、働く人の感情は消耗します。本人の接遇力や性格の問題ではなく、職場が求める感情調整の量が過剰になっている可能性があります。


おもてなしとホスピタリティは同じではありません

感情労働化する社会を考えるうえで、「おもてなし」と「ホスピタリティ」の違いを整理しておくことは重要です。

概念 本来の意味 職場で誤用されると起こる問題
おもてなし 相手と自分が互いを尊重する関係の中で行う配慮 相手だけを優先し、働く人の負担が見えなくなる
ホスピタリティ 相手を癒し、安全に休める場を与える自発的な行為 従業員の態度・表情・感情まで管理対象になりやすい
ビジネス上のサービス 利益を伴う業務として提供される行為 顧客満足のために過剰な感情抑制が求められる

本来、もてなしは働く人の自己犠牲によって成り立つものではありません。

ところが、ビジネスの現場では「顧客満足」が強調されるあまり、働く人の感情負荷が見落とされやすくなります。


「お客様は神様です」が一人歩きすると何が起こるか

日本では「お客様は神様です」という言葉が広く知られています。

しかしこの言葉が、顧客の要求をすべて受け入れるべきだという意味で使われると、働く人に過剰な感情労働を強いることになります。

特に、理不尽な要求、強い口調のクレーム、過度な謝罪要求、長時間の対応が続く職場では、従業員は業務遂行以上に感情の抑制を求められます。

その結果、次のような状態が起こりやすくなります。

  • 顧客対応後に強い疲労が残る
  • 勤務前から不安や緊張が強くなる
  • 怒りや悔しさを出せずに抱え込む
  • 職場内で愚痴や相談をしにくくなる
  • 接客や対人対応そのものを避けたくなる

これは、単なる接客疲れではありません。職場に感情労働の負荷が蓄積しているサインです。


なぜ多くの職業が感情労働化しているのか

感情労働が広がっている理由は、サービス業の拡大だけではありません。

現在の職場では、業務の成果だけでなく、相手への配慮、感じのよさ、場の空気を読む力、クレームを起こさない対応が重視されるようになっています。

そのため、感情労働は次のような形で広がっています。

  • 顧客満足を高めるための笑顔や丁寧さ
  • クレームを防ぐための過剰な配慮
  • 職場内の対立を避けるための本音の抑制
  • 上司・部下・顧客の感情を先回りする働き方
  • 「感じのよい人」であることを評価される職場文化

このような職場では、仕事の量が同じでも、感情を使う量が増えます。

そして、感情を使う量が増えているにもかかわらず、それが業務負荷として認識されない場合、疲労や心理的ストレスは見えにくくなります。


感情労働化する社会で起こる職場リスク

感情労働が増えること自体が、すぐに問題になるわけではありません。

問題は、感情労働があるにもかかわらず、職場がそれを「本人の感じのよさ」「接遇力」「我慢強さ」として扱い続けることです。

この状態が続くと、次のようなリスクが高まります。

リスク 職場での現れ方 組織への影響
情緒的消耗 人と関わること自体が重くなる サービス品質の低下
心理的ストレス 不安、イライラ、無気力が増える 欠勤・休職リスクの増加
離職意向 「この仕事を続けられない」と感じる 採用・教育コストの増加
職場内不信 感情負担をわかってもらえないと感じる チーム連携の低下
クレーム対応疲労 対応後に回復できない 管理職・現場双方の疲弊

感情労働化した職場では、個人のセルフケアだけでは限界があります。職場として、どの場面で、誰に、どの程度の感情調整を求めているのかを見直す必要があります。


タニカワ久美子が企業研修でこのテーマをどう扱うか

企業研修でこのテーマを扱うとき、私は「もっと丁寧に接客しましょう」「もっと感じよく対応しましょう」とは伝えません。

現場で見てきた社員さんの中には、接客も電話対応も非常に丁寧なのに、研修中のワークで「本当は、毎日ずっと気を張っていて疲れる」と話してくださった方がいました。

また、管理職の方からは「うちの社員は笑顔で対応できているので問題ないと思っていたが、実はクレーム対応後にかなり消耗していた」と聞いたこともあります。

私は研修で、感情労働を個人の接遇力ではなく、職場が設計すべき業務負荷として扱います。

社員には、自分の感情疲労を責めるのではなく、「どの場面で感情を使いすぎているのか」を言語化してもらいます。管理職には、顧客満足だけでなく、従業員の感情回復まで含めて職場を設計する必要があると伝えています。

感情労働化する社会では、感じのよい人ほど疲れます。だからこそ、企業研修では、感情を我慢する方法ではなく、感情労働を職場全体で見える化し、支援する方法を扱う必要があります。


職場で必要な感情労働ストレス対策

感情労働が多い職場では、次のような対策が必要です。

  • クレーム対応後の回復時間を確保する
  • 過剰な笑顔や謝罪を求めるルールを見直す
  • 顧客対応の負担を一人に集中させない
  • 管理職が感情労働の負荷を把握する
  • 接遇研修だけでなく、感情疲労の研修を行う
  • 従業員が安心して相談できる職場環境をつくる

重要なのは、働く人に「もっと我慢しなさい」と求めることではありません。

顧客満足と従業員の健康を両立させるために、感情労働を組織の健康経営課題として扱うことです。


まとめ:感情労働化する社会では、働く人の感情を守る設計が必要です

感情労働は、サービス業だけの問題ではなくなっています。

おもてなし、ホスピタリティ、顧客満足、空気読み、クレーム回避が重視される職場では、多くの職業が感情労働化しています。

その結果、働く人は業務量だけでなく、感情を整え続けることによる疲労や心理的ストレスを抱えやすくなります。

これからの健康経営では、感情労働を「本人の性格」や「接客スキル」の問題として扱うのではなく、職場環境・業務設計・管理職支援の課題として捉えることが重要です。


感情労働ストレス研修への活用

けんこう総研では、感情労働が多い職場に向けて、離職防止、クレーム対応、メンタルヘルス対策、管理職支援を含めた研修を行っています。

感情労働化する職場で、従業員の疲労や心理的ストレスを見逃さず、顧客対応と働く人の健康を両立させたい企業・団体のご担当者様は、以下をご覧ください。


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参考文献

山口和代・木村恵子・大塚弥生. 働く人をめぐる感情労働とその影響要因.

文責:タニカワ久美子

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