ストレス研究memo
感情労働での本当の仕事とそうでない仕事の線引きできますか?/ストレス研究memo
2023年1月19日更新
こんにちは。けんこう総研のタニカワです。今日は園木清先生が2022年3月に論文発表されたご研究を紐解きます。
介護労働者の離職の原因
・職場の同僚との人間関係
・介護は、感情規則を厳格に守ることを要求する職場環境
介護労働者にストレスと感情管理の失敗⇒人間関係に悪い影響
職場の感情規則の明確さが人間関係に良い影響を与える事柄
・介護労働者間のケアの方法や意見の 相違を少なくさせている
・同僚間の関係に良い影響を与える.
・介護労働者の表層演技のスキルの高さが同僚間の サポート機能の強化と相まって労働者間の信頼感の醸成につながることが明ら
<表層演技のスキルを高めるための研修>
・利用者への関わり方に焦点を当てた事例検討会
・感情規則の明確化のために職員間で利用 者への関わり方に関する十分な話し合いの機会の確保
・表層演技のスキルの向上および 感情規則の明確化を通じて,感情規則を厳格に守ることを要求する職場環境の改善
介護現場の人手不足は深刻である.厚生労働省 7 割近くの事業所が介護職員の不 足を感じて,その理由は、9 割が「採用が困難」であるからと
介護労働者の離職率 16.5% と高い(厚生労働省,2017: 5)
介護労働者の離職要因
過半数が同僚 との関係に大なり小なりストレス
介護 労働者のおかれている労働環境と待遇の影響
介護職 員の賃金は明らかに低くなっている(根本的な要因のひとつ
介護労働者間での利用者との関り方の違い、関りのために用いられる感情労働の違いに着目
介護士さんの気持ち
・「相手(利用者)の抱える切迫感に応えてあげたいという思い
・『日常業務』を こなさないといけないという思いとで葛藤し続ける人 たち」
(利用者ともっとよくかかわりたいという思いと、目の前の山積みの日常業務への焦りとの間で葛藤をかかえ る介護労働者の実態を)
介護労働者のこの葛藤は,客室乗務員の葛藤と同じ
飛行機の大型化や高速化で客室乗務 員の業務が増大する(高速化する)なかで、客室乗務 員の乗客への関わり方に次のような変化が表れ
「深層演技をしたいと思っている人はたくさんい るが,高速化が起こっている状況では,それはうまく やりぬくことができないため,表層演技へと後退して しまうのである」(A. R. Hochschild=2000: 154)
ここに 見えるのは,
・顧客ともっとよくかかわりたいという思 いと
・膨大な目の前の業務をこなさなければならない という焦りのあいだでの感情労働者の葛藤
そ の葛藤の中で多くの客室乗務員が乗客とのかかわり方 をより表面的なものに変えていった.
しかし,そのよ うな状況の中でもあくまで顧客とのよいかかわりにこ だわる客室乗務員も存在する.そのような者は「『ペー スを乱す奴』として他の労働者の怒りを買う」(A. R. Hochschild 1983=2000: 150)
↓
感情 労働の違いが人間関係に与える影響
同じ葛藤の構造を持つ介護労働者にもそれは当てはま る
感情労働のあり方の違い による同僚間の反発や違和感を
例えば
理想は、
「仕事に慣れてのびのびやれるようになる」と⇒看護師はさめた見方をするようになりますね。 だから新鮮な気持ちでいる新人がいるのはいいことなんです。ましてや患者さんとおしゃべりするのも得意でない新人だとしたら、おおいに対話をしてじっくりと患者さんの信頼関係をつくればよいことです。
現実は
けれどもその新人さんは、たぶん、やらなくてはならない仕事の全体像が見えていないからお喋りするのでしょうね。(Pam. Smith=2000: 186)
このお話は、病院で看護実習を行 3 年生 1 年生の患者とのかかわりを見て感じたことを述べています。
・3年生は,患者とじっくり関わる 1 年生を仕事のわかっていない人と捉えました。
・患者に関わる仕事のある部分(=たわいない世間話など)が、本当の仕事ではないと考える看護3年生生の存在があります。
「“お話すること”は,“本当の”仕事が完全に 終わった後でやることと考えられていました」(Pam. Smith=2000: 187)
患者との関りを重視する看護教員
業務を重視し関りを軽視する教員への批判には、「“看護過程支持派”を自任する 二人の教員はいまだに『ひどい業務に片寄った医学モデルに基づいた』ことを教えている同僚の看護教員をあげています。ここでいう“看護過程支持派”とは,ケアにおいて患者 の関りを重視する看護教員のことです。『学生たちに必要なコミュニケーショ ンや面接の技能を身につけさせるのに向いていない』 というのです」(Pam. Smith 1989=2000: 61).これらの記述から感情労働が同僚間の人間関係に影響を与えている様子をうかがうことができます。また、介護労働者にとっての感情労働の負担の大きさも見逃してはいけません。
感情労働が負担となる理由
感情労働が負担となる理由はいくつかあります。
一つは、介護労働者の支援対象の特性です。対象者には認知症の高齢者や、ターミナル期の高齢者、精神疾患を抱えた高齢者などさまざまです。
感情労働が 負担となるような場面
感情労働が 負担となるような場面をひとつ挙げれば、認知症の高齢者は、同じ質問を際限なく繰り返します。介護士はその繰り返しにいら立つことなく根気強く対応することが求められます。同じ感情労働であっても客室乗務員より介護職の方が、相手をする対象者の特性ゆえに強い感情管理を求められるのはどなたでも想像に難くないでしょう。
長くなりました。今日はこのへんにしておきます。