健康経営
運動が苦手な人でも実践できるストレス対策と心理的効果
この健康経営カテゴリーでは、運動が苦手な社員にも配慮した職場の健康支援について解説します。
同じ健康支援でも、本記事は運動の効果を一方的に勧める内容ではなく、運動に苦手意識がある人でも参加しやすい職場施策の設計に焦点を当てています。
人事総務・健康経営担当者が、職場改善や研修設計に活かせる視点で整理します。

運動が苦手な人にとって、運動施策はストレスになることがある
健康経営では、運動習慣づくりが重要なテーマとして扱われます。
歩数イベント、体操、ストレッチ、ウォーキング、健康運動セミナーなどは、社員の健康づくりに役立つ施策です。
しかし、すべての社員が運動を前向きに受け止めるわけではありません。
運動が苦手な人、過去の体育授業に嫌な記憶がある人、人前で体を動かすことに抵抗がある人にとって、職場の運動施策は新たなストレスになる場合があります。
そのため、人事総務・健康経営担当者は「運動は健康によいから全員に勧めればよい」と考えるのではなく、運動に苦手意識を持つ人も安心して参加できる設計にする必要があります。
運動の強制感は、心理的な負担を生みやすい
運動そのものが悪いわけではありません。
身体活動には、気分転換、血流の促進、睡眠リズムの改善、緊張の緩和など、心身の健康に役立つ側面があります。
一方で、職場で運動を取り入れる場合、伝え方や実施方法によっては、社員に強制感を与えてしまうことがあります。
たとえば、次のような設計は注意が必要です。
- 全員参加を強く求める
- 人前で体を動かすことを前提にする
- 運動量や歩数を社内で比較する
- 運動が得意な人に合わせた内容にする
- 参加しない社員を消極的だと見なす
このような進め方では、運動が苦手な社員ほど「また評価される」「恥ずかしい」「参加しづらい」と感じやすくなります。
健康支援の目的は、社員を追い込むことではありません。社員が自分の体調に気づき、無理なく健康行動を選べる状態をつくることです。
運動は心理的な利益をもたらす一方、個人差がある
運動には、ストレス対策や心理的健康に役立つ可能性があります。
研究では、身体活動が心理的健康、ストレス負荷、回復、学業パフォーマンスなどと関係することが検討されています。
また、青少年を対象とした研究では、身体運動と心理的苦痛の関連が検討され、問題のある携帯電話使用や学習燃え尽きがその関係に関わる可能性も示されています。
ただし、これらの研究知見を職場にそのまま当てはめるのは適切ではありません。
年齢、体力、運動習慣、体調、業務負荷、心理的抵抗感は人によって異なります。
そのため、職場の健康支援では、「運動がよい」という結論だけを伝えるのではなく、「誰に、どの程度、どのような形なら負担にならないか」を考える必要があります。
学生の研究知見は、職場の健康支援にも置き換えられる
学生を対象とした運動研究では、学業ストレス、デジタル学習、集中力、疲労、心理的苦痛などが扱われます。
これらは学校だけの問題ではありません。
職場でも、長時間のデスクワーク、オンライン会議、資料作成、顧客対応、管理職からの評価、将来不安などによって、社員の心身には負荷がかかります。
たとえば、デジタル学習中の短い運動休憩が注目される背景には、座りっぱなしの状態や注意力の低下があります。
これは、職場で長時間パソコン作業を続ける社員にも近い課題です。
人事総務・健康経営担当者は、学生研究の知見をそのまま社員に当てはめるのではなく、「職場ではどのような休憩や軽い動きなら取り入れやすいか」という実務の形に置き換えることが大切です。
運動が苦手な社員に配慮する職場施策の考え方
運動が苦手な社員にも参加しやすい健康支援にするには、強度や参加方法を調整する必要があります。
重要なのは、運動能力を高めることではなく、社員が自分の心身の状態に気づき、無理なく体を動かせる選択肢を持つことです。
| 配慮する視点 | 避けたい進め方 | 健康経営で取り入れやすい進め方 |
|---|---|---|
| 参加方法 | 全員に同じ動きを求める | 座ったまま、立ったまま、見学など複数の参加方法を用意する |
| 強度 | 息が上がる運動を前提にする | 肩回し、深呼吸、軽いストレッチなど低負荷にする |
| 心理的負担 | 人前で目立つ動きをさせる | 周囲と比較されにくい小さな動きにする |
| 評価 | 歩数や運動量を競わせる | 体調への気づきや継続しやすさを重視する |
| 目的 | 運動不足の改善だけを目的にする | 疲労・緊張・呼吸・姿勢への気づきを目的にする |
このような設計にすると、運動が得意な社員だけでなく、運動に苦手意識がある社員も参加しやすくなります。
健康経営では、運動を「参加しやすい行動」に変える
健康経営の現場では、正しいことを伝えるだけでは社員の行動は変わりません。
「運動しましょう」と言われても、忙しい、疲れている、苦手、恥ずかしい、続かないと感じる社員は多くいます。
そのため、職場の健康支援では、運動を大きな目標ではなく、小さな行動に変えることが重要です。
たとえば、次のような形です。
- 会議前に30秒だけ肩を回す
- 昼休みに建物の外へ少し出る
- 座ったまま足首を動かす
- 仕事の区切りで深呼吸を入れる
- 長時間座ったあとに一度立ち上がる
- 疲労感を感じたら、姿勢と呼吸を確認する
こうした小さな行動であれば、運動が苦手な社員でも取り入れやすくなります。
職場の健康支援では、継続できない大きな目標より、日常業務の中で無理なく実践できる行動を設計することが大切です。
不参加の社員にも配慮した設計が、健康支援の質を高める
職場の運動施策では、参加者だけでなく、不参加の社員にも配慮する必要があります。
体調、障害、けが、服薬、妊娠、家庭事情、心理的抵抗感など、参加しにくい理由は人によって異なります。
そのため、健康支援では「参加しない人」を責めない設計が重要です。
たとえば、次のような案内にすると、社員は安心して選びやすくなります。
- 体調に不安がある場合は見学できます
- できる範囲で参加してください
- 痛みや違和感がある場合は中止してください
- 座ったままでも参加できます
- 周囲と比べる必要はありません
このような一言があるだけで、運動施策に対する心理的ハードルは下がります。
タニカワ久美子の研修では、運動を強制ではなく気づきとして扱う
タニカワ久美子の健康経営研修では、運動を競技や体力づくりとして扱うのではなく、心身の状態に気づくための時間として取り入れます。
受講者には、肩のこわばり、呼吸の浅さ、姿勢の崩れ、疲労感などを確認してもらいます。
そのうえで、全員が無理なくできる軽い動きや呼吸を組み合わせます。
人事総務の担当者からも、座学だけではなく、全員で実際にできる軽い運動がある点を評価されています。
ただし、研修では参加を強制しません。体調に不安がある人、運動が苦手な人にも配慮し、できる範囲で参加できる形にします。
この進め方により、運動が苦手な社員も「健康支援は自分にも関係がある」と受け止めやすくなります。
人事総務が運動支援を設計する前に確認したいこと
運動を健康経営施策として取り入れる前に、人事総務・健康経営担当者は次の点を確認しておくと安全です。
- 運動が苦手な社員にも配慮した案内になっているか
- 参加を強制する印象になっていないか
- 体力差、年齢差、健康状態に配慮しているか
- 服装や会場が無理のない内容になっているか
- 不参加や見学を選べる設計になっているか
- 運動の目的が、評価や競争ではなく健康支援として伝わっているか
- ストレス対策やメンタルヘルス教育とつながっているか
この確認を行うことで、運動施策が一部の社員だけのものにならず、職場全体の健康支援として機能しやすくなります。
まとめ:運動が苦手な人への配慮が、健康経営の実効性を高める
運動は、ストレス対策や健康づくりに役立つ可能性があります。
しかし、運動が苦手な社員にとっては、進め方によって心理的な負担になることもあります。
健康経営で大切なのは、運動を強制することではありません。
社員が自分の体調に気づき、無理なく参加でき、続けやすい健康行動を選べるようにすることです。
運動が苦手な人にも配慮した職場の健康支援は、社員の安心感を高め、ストレス対策やメンタルヘルス施策にもつながります。
運動が苦手な社員にも配慮した健康経営施策を設計したいご担当者様へ
けんこう総研では、社員の体力差や心理的負担に配慮しながら、健康経営フォローアップ、ストレス管理研修、職場改善支援を行っています。運動を強制するのではなく、社員が無理なく参加できる健康支援として設計します。
参考文献・参考資料
- Teuber, M. et al. Physical activity improves stress load, recovery, and academic performance during digital learning in university students. BMC Public Health, 2024.
- Li, Y. et al. Physical Exercise and Psychological Distress: The Mediating Roles of Problematic Mobile Phone Use and Learning Burnout among Adolescents. International Journal of Environmental Research and Public Health, 2021.
- ScienceDaily. Forced exercise may still protect against anxiety and stress. 2013.