ストレス管理
ストレスを抱え込みすぎる社員への職場支援|適応的諦観
人事総務のご担当者が現場で気になるのは、明らかに休んでいない社員ほど「大丈夫です」と答える場面ではないでしょうか。
出勤はしている。仕事も止まっていない。けれど表情が硬い、休憩を取らない、眠れていない様子がある。こうした状態が続いているなら、「本人が大丈夫と言っているから問題ない」と判断するのは危険です。
この記事では、社員がストレスを抱え込みすぎる前に、人事総務・健康経営担当者が確認したい職場支援の視点を整理します。
「大丈夫です」の裏にある抱え込み
ストレス対策では、自分の状態に気づくことが大切です。眠れていない、疲れが抜けない、イライラしやすい、集中しにくい。こうした変化に早く気づければ、休息や相談、業務調整につなげやすくなります。
ただし、社員によってはストレスへの気づきが、かえって自己否定につながることがあります。「また疲れている」「自分は弱いのではないか」「周りは頑張っているのに自分だけできていない」と考え続けてしまう状態です。
この場合、必要なのは「もっと自分のストレスを見つめましょう」という指導だけではありません。気づいたあとに、自分を責めすぎない支援が必要です。
個人の弱さではなく職場で起きている反応
社員が相談しない理由は、本人の意識が低いからとは限りません。迷惑をかけたくない、忙しい時期に休むのは申し訳ない、この程度で相談してはいけないと思い込んでいる場合があります。
日本の職場では、周囲との調和を大切にするあまり、自分の疲れよりも「職場にどう見られるか」を優先しやすくなります。その結果、無理をしているのに「大丈夫です」と答えてしまいます。
この状態を個人の我慢強さや性格の問題にすると、職場は重要なサインを見落とします。人事総務が見るべきなのは、本人の根性ではなく、相談しにくい空気、休みにくい業務量、管理職が声をかけにくい構造です。
一般的なセルフチェックだけでは止まる理由
ストレスチェックやセルフチェックは、不調予防の入口として有効です。けれど、結果を見た社員が「自分はこんなにストレスをためていたのか」と不安だけを強めることがあります。
チェック後に必要なのは、休む、相談する、業務の優先順位を見直すなど、次の行動へつなげる職場側の受け皿です。受け皿がないまま気づきだけを求めると、社員は「分かっているけれど言えない」状態に残されます。
専門職でも迷う判断構造
本人が「大丈夫」と言うとき、どこまで見守り、どこから声をかけるかは専門職でも迷う場面です。本人の意思を尊重しながら、疲労や睡眠、相談しにくさをどう確認するかに判断の難しさがあります。
社内で動かしにくい理由
抱え込みの支援は、人事総務だけでも、管理職だけでも動きません。声かけの基準、相談先、業務調整、医療的対応が必要な場合のつなぎ方を、社内でそろえる必要があります。
研修現場で見える社員と管理職のすれ違い
タニカワ久美子の企業研修では、セルフチェック後に「自分ではストレスがあると思っていませんでした」と話す社員さんがいます。表情は落ち着いていて、仕事もきちんとこなしているように見えます。
けれど話を聞くと、眠りが浅い、朝から疲れている、休日も仕事のことを考えている、休憩を取る時間がないという状態が続いていることがあります。
一方で管理職の方からは、「本人が大丈夫と言うので、それ以上は聞きにくかった」という声が出ます。人事総務の方からは、「相談窓口はあるのに、なぜ早く言ってくれなかったのか分からない」という違和感も聞かれます。
ここに職場支援の難しさがあります。社員は迷惑をかけたくない。管理職は踏み込みすぎを避けたい。人事総務は制度を用意しているのに、必要な人ほど相談につながらない。このずれを職場の判断材料に変えるには、研修の中で社員の反応、管理職の迷い、人事総務の役割を同じ場で整理する必要があります。
管理職・人事総務が確認したい場面
| 見えている様子 | 起きている可能性 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 大丈夫ですと答える | 迷惑をかけたくない | 本当に相談できる空気があるか |
| 休憩を取らない | 仕事を止められない | 業務量や優先順位が過剰でないか |
| いつも通り働く | 無理をしている | 睡眠や疲労が続いていないか |
| 相談しない | 自分の問題だと思っている | 相談してよい目安が伝わっているか |
声をかけるときは、「ストレスが高いですか」と聞くよりも、「最近、無理に大丈夫と言っていることはありませんか」「全部自分で何とかしようとしていませんか」「休んでもよい場面で休みにくさを感じていませんか」と確認する方が、社員は話しやすくなります。
医療的な対応が必要な場合
この記事は、職場のストレス管理と不調予防の視点から書いたものです。医学的な診断や治療を行うものではありません。
強い不眠、不安や落ち込み、出勤困難、食欲低下、涙が止まらない、仕事や日常生活への支障が続く場合は、自己判断せず、医療機関や専門職につなぐ必要があります。職場は診断するのではなく、以前との違いに気づき、相談しやすい状態を作ることが役割です。
社員の「大丈夫です」を職場支援につなげるために
ストレスへの気づきは大切です。しかし、気づいたあとに社員が自分を責めてしまうと、不調予防にはつながりません。
適応的諦観は、投げ出すことではありません。変えられることと変えられないことを分け、すべてを自分の責任にしないための見方です。
人事総務・健康経営担当者が確認したいのは、社員が弱いかどうかではありません。「大丈夫です」の奥にある疲れ、相談しにくさ、抱え込みを職場として見える形にできているかです。
社員の抱え込みを減らし、管理職の声かけと相談しやすい職場づくりを研修で整えたい場合は、けんこう総研の企業向けストレスマネジメント研修をご覧ください。
参考文献
- 菅沼慎一郎ほか「精神的健康における適応的諦観の意義と機能」『心理学研究』89巻3号,229-239,2018年
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。