ストレスを抱え込みすぎる社員を支える職場支援|適応的諦観

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ストレス管理

ストレスを抱え込みすぎる社員を支える職場支援|適応的諦観

職場で社員に声をかけると、「大丈夫です」と返ってくることがあります。

けれども、表情が硬い、休憩を取っていない、眠れていない、休日も仕事のことを考えている。このような様子が続いているなら、その「大丈夫です」をそのまま安心材料にしないほうがよい場合があります。

ストレスに気づくことは大切です。ただし、気づいたあとに「自分が弱いからだ」「もっと頑張らなければ」と考え続けると、かえって不安や落ち込みが強くなることがあります。

このページでは、社員がストレスを抱え込みすぎないために、人事総務・健康経営担当者が見ておきたい職場支援の視点を確認していきます。

ストレスに気づいても、自分を責めてしまう社員がいます

ストレス対策では、自分の状態に気づくことが大切です。

眠れていない、疲れが抜けない、イライラしやすい、集中しにくい。このような変化に早く気づければ、不調が大きくなる前に休む、相談する、仕事量を見直すといった行動につなげやすくなります。

一方で、ストレスを細かく見つめすぎると、社員によっては自分を責める方向へ進んでしまうことがあります。

  • また疲れている
  • また落ち込んでいる
  • 自分は弱いのではないか
  • 周りは頑張っているのに自分だけできていない
  • 相談するほどではないから、我慢したほうがよい

このような考えが続くと、ストレスへの気づきが、不調予防ではなく自己否定につながることがあります。

職場のメンタルヘルス対策では、「ストレスに気づくこと」と「気づいたあとに抱え込みすぎないこと」の両方が必要です。

精神的健康は、不安が少ないだけでは判断できません

精神的健康は、不安や落ち込みが少ないことだけで決まるものではありません。

安心して相談できること、仕事の見通しを持てること、自分なりに対応できている感覚があること、周囲とつながっている感覚があることも大切です。

反対に、表面上は落ち着いて見えても、内側では強い疲労や緊張を抱えている社員もいます。

表面上の様子 内側で起こっている可能性 人事総務が見たいこと
いつも通り出勤している 無理をして出勤している 睡眠や疲労感が続いていないか
大丈夫ですと答える 迷惑をかけたくないと思っている 本当に相談できる雰囲気があるか
仕事をこなしている 休憩を削って対応している 業務量や優先順位が過剰でないか
表情は落ち着いている 感情を抑えて働いている 緊張や気疲れが続いていないか

社員の精神的健康を見るときは、「不調を訴えていないから大丈夫」と決めつけないことが重要です。

適応的諦観は、投げ出すことではありません

適応的諦観とは、すべてを自分で抱え込みすぎず、変えられることと変えられないことを分ける考え方です。

「諦める」という言葉には、悪い印象を持つ方もいます。努力をやめる、責任を放棄する、何もしないという意味に聞こえることがあるからです。

しかし、ここでいう適応的諦観は、投げ出すことではありません。

自分では変えられないことまで抱え続けて、心身をすり減らさないための見方です。

ただの諦め 適応的諦観
どうせ無理だと止まる 今できることを選ぶ
自分には何もできないと思う 自分で変えられる範囲を確認する
相談しても意味がないと抱え込む 相談できる相手を選ぶ
全部を我慢する 休むことや助けを求めることも選択肢にする

適応的諦観は、あきらめて止まることではありません。抱え込みすぎて動けなくなる前に、力を入れる場所を変えることです。

日本の職場では「迷惑をかけたくない」が負担になりやすい

日本の職場では、周囲との調和や空気を読むことが大切にされる場面があります。

そのため、社員は自分の疲れよりも、周囲にどう見られるかを優先してしまうことがあります。

  • 迷惑をかけてはいけない
  • 忙しい時期に休むのは申し訳ない
  • この程度で相談してはいけない
  • 自分だけ弱いと思われたくない
  • 管理職に心配をかけたくない

このような気持ちは、職場で協力するうえで役立つこともあります。

しかし、強くなりすぎると、自分の疲れや限界に気づきにくくなります。

本当は休みたいのに休めない。相談したいのに言えない。無理をしているのに「大丈夫です」と答えてしまう。この状態が続くと、ストレスを見つめること自体が、自分を責める材料になってしまいます。

レジリエンスは、我慢し続ける力ではありません

レジリエンスという言葉は、困難な状況から回復する力として使われます。

ただし、職場で必要なレジリエンスは、どんな状況でも耐え続ける力ではありません。

つらい状況に気づくこと、必要なときに助けを求めること、変えられないことを抱え込みすぎないこと、いったん距離を取ることも、回復する力の一部です。

適応的諦観は、職場で働く人が自分を守るためのレジリエンスとして活かせます。

人事総務・健康経営担当者がこの視点を持つと、社員に「もっと強くなりましょう」と伝えるのではなく、「一人で抱え込みすぎていないか」を確認しやすくなります。

企業研修で見える「大丈夫です」と言い続ける社員

タニカワ久美子の企業研修では、ストレスのセルフチェックを行ったあとに、「自分ではストレスがあると思っていませんでした」と話す社員さんがいます。

表情は落ち着いていて、仕事もきちんとこなしているように見えます。

けれども話を聞くと、眠りが浅い、朝から疲れている、休日も仕事のことを考えている、休憩を取る時間がないという状態が続いていることがあります。

ある研修では、管理職の方が「うちの部署の社員は、みんな大丈夫と言うので安心していました」と話されました。

しかし、ワークの中で社員さん同士が話し始めると、「大丈夫と言わないと迷惑をかけると思っていた」「相談するほどではないと思っていた」という声が出てきました。

このときタニカワ久美子が伝えるのは、「もっと自分のストレスを見つめましょう」だけではありません。

見つめたあとに、自分を責めないことが必要です。

疲れている自分を否定するのではなく、「今は抱えすぎているのかもしれない」「全部を自分で何とかしなくてもよい」と受け止めることが、次の相談や行動につながります。

人事総務・健康経営担当者にとって大切なのは、社員の「大丈夫です」をそのまま安心材料にしないことです。

大丈夫と言いながら無理をしている社員がいないか、相談しにくい空気がないか、回復する時間が取れているかを見ることが、職場のメンタルヘルス対策では重要です。

認知行動療法やマインドフルネスと近い考え方があります

認知行動療法では、出来事そのものだけでなく、その出来事をどう受け止め、どのように行動するかを見ます。

ストレスを感じたときに、自分の考え方や行動のくせに気づくことは、不調予防に役立つことがあります。

また、マインドフルネスやアクセプタンスでは、今起きていることをいったん受け止め、必要以上に巻き込まれない視点が重視されます。

適応的諦観も、この考え方と近い部分があります。

無理に前向きになろうとするのではなく、今の状態をいったん受け止める。変えられないことをすべて自分の責任にしない。そのうえで、今できる行動を選ぶ。

職場では、この流れがあることで、社員が自分を責めすぎず、相談や休息につながりやすくなります。

ストレス教育はセルフチェックだけで終わらせない

職場のストレス教育では、自分のストレスに気づくことが大切です。

何が負担になっているのか、どのような身体反応や気分の変化が出ているのかを知ることは、不調予防の出発点になります。

ただし、気づくだけで終わると、社員によっては「自分はこんなにストレスをためていたのか」と不安が強くなることがあります。

そのため、研修では気づいたあとの受け止め方まで入れておく必要があります。

セルフチェック後に起こりやすい反応 職場で必要な支援
自分は弱いのではないかと思う ストレス反応は心身のサインだと伝える
何をすればよいか分からない 休息、相談、業務整理の選択肢を示す
誰にも相談できないと感じる 相談先と相談してよい目安を具体的に伝える
全部自分で何とかしようとする 変えられることと変えられないことを分ける

ストレスに気づいた社員が、自分を責めずに次の行動へ進めることが重要です。

時間の見方が狭くなると、抱え込みやすくなります

ストレスが強いときは、今のつらさがずっと続くように感じることがあります。

その状態では、「もう無理だ」「自分が悪い」「ここで失敗したら終わりだ」と考えやすくなります。

けれども、今の状態だけで自分を決めつけないことも大切です。

今はつらい時期かもしれない。けれど、これが自分のすべてではない。今すぐ変えられないこともあるが、相談できることや調整できることはある。

このように少し時間の幅を持って見ることは、抱え込みすぎを防ぐ助けになります。

人事総務が使いやすい声かけ

社員のストレスが気になるときは、いきなり「ストレスが高いですか」と聞くよりも、抱え込みや休めなさを確認する方が話しやすくなります。

  • 最近、無理に大丈夫と言っていることはありませんか
  • 全部自分で何とかしようとしていませんか
  • 考え続けて、かえって疲れてしまうことはありませんか
  • 休んでもよい場面で、休みにくさを感じていませんか
  • 変えられないことまで、自分の責任にしていませんか
  • 誰かに相談する前に、自分で抱え込んでいませんか

このような声かけは、社員を弱いと決めるためではありません。

自分を責めすぎていないか、抱え込みすぎていないかを早めに確認するための入口です。

職場で適応的諦観を活かすポイント

適応的諦観を職場で活かすときは、「諦めなさい」と伝えてはいけません。

必要なのは、「すべてを一人で抱えなくてよい」と伝わる職場にすることです。

  • 変えられることと変えられないことを分ける
  • 社員の不調を努力不足にしない
  • ストレスチェック後に不安だけを残さない
  • 相談してよい空気をつくる
  • 管理職が「大丈夫です」の裏にある疲れを見る
  • 休むことや助けを求めることを否定しない

職場のメンタルヘルス対策では、社員を無理に前向きにさせることだけが目的ではありません。

無理をしている社員が、少し力を抜いて、必要な支援につながれることが重要です。

医療的な対応が必要な場合

この記事は、職場のストレス管理と不調予防の視点から書いたものです。医学的な診断や治療を行うものではありません。

強い不眠、強い不安や落ち込み、出勤困難、食欲低下、涙が止まらない、仕事や日常生活に支障が出ている状態が続く場合は、自己判断せず、医療機関や専門職に相談してください。

職場では、管理職や人事担当者が診断をする必要はありません。以前との違いに気づき、本人が相談しやすい状態を作り、必要な相談先につなぐことが重要です。

まとめ:ストレスを見つめたあとに、自分を責めないこと

ストレスへの気づきは大切です。

しかし、気づいたあとに自分を責めてしまうと、メンタルヘルス不調の予防にはつながりにくくなります。

適応的諦観は、投げ出すことではありません。現実を受け止めながらも、すべてを自分の責任にしないことです。

人事総務・健康経営担当者がこの視点を持つことで、社員の「大丈夫です」の奥にある疲れや抱え込みに気づきやすくなります。

ストレスを見つめるだけで終わらせず、社員が自分を責めすぎない職場づくりにつなげることが大切です。

社員の抱え込みを減らす研修を検討しているご担当者へ

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参考文献

  • 菅沼慎一郎ほか「精神的健康における適応的諦観の意義と機能」『心理学研究』89巻3号,229-239,2018年

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