ストレス科学ラボ・用語バンク
ストレスホルモンとは|心臓と血管への影響を解説
このストレス科学ラボ・用語バンクカテゴリーでは、ストレスホルモンと心臓・血管の関係について解説します。
同じストレス管理でも、本記事は具体的な治療や医学的判断ではなく、慢性的なストレス負荷が続いたときに体で起こる反応を理解するための基礎知識に焦点を当てています。
人事総務・健康経営担当者が、職場の過重負荷やストレス管理研修に活かせる視点で整理します。

ストレスホルモンとは何か
ストレスホルモンとは、強い緊張や負荷を受けたときに、体が対応しようとして分泌するホルモンや神経伝達物質を指す言葉として使われます。
代表的なものには、コルチゾール、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミンなどがあります。
これらは、心拍、血圧、血糖、覚醒、集中、緊張、エネルギー利用などに関わります。
ストレスホルモンは、短期的には危機に対応するために必要な反応です。
しかし、強い緊張や過重負荷が長く続き、休息や回復が不足すると、心身への負担が大きくなりやすくなります。
職場のストレス管理では、「ストレスホルモンを悪者にする」のではなく、体が負荷に反応しているサインとして理解することが重要です。
コルチゾールとは何か
コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンです。
ストレス反応、血糖調整、炎症反応、エネルギー利用などに関わります。
コルチゾールは、急な負荷や長期的なストレス状態で注目されることが多いホルモンです。
ただし、職場の記事で「コルチゾールが高いから病気になる」と断定するのは避けるべきです。
コルチゾールは本来、体に必要な働きを持っています。
問題として見るべきなのは、強い負荷が続き、睡眠不足、長時間労働、休息不足、心理的緊張が重なっている状態です。
エピネフリン・ノルエピネフリンとは何か
エピネフリンはアドレナリン、ノルエピネフリンはノルアドレナリンとも呼ばれます。
これらは、急な緊張や危機対応のときに働きやすい物質です。
心拍が上がる、血圧が上がる、呼吸が速くなる、体がすばやく動けるようになるといった反応に関わります。
職場で言えば、急なクレーム対応、締め切り直前の作業、強い叱責、評価面談、重大なミスへの対応などで、体が緊張状態に入りやすくなります。
これらの反応そのものは、危機に対応するための自然な反応です。
しかし、こうした緊張状態が頻繁に起こり、回復する時間がないまま続くと、心身の負担につながりやすくなります。
ドーパミンを単純に副交感神経のホルモンと考えない
既存本文では、ドーパミンを副交感神経に働くストレスホルモンとして説明していました。
この表現は修正した方が安全です。
ドーパミンは、主に脳内で報酬、意欲、快感、学習、運動調整などに関わる神経伝達物質として知られています。
ストレス反応との関係もありますが、「副交感神経に働くホルモン」と単純に分類すると、Googleにも読者にも誤解されやすくなります。
職場研修では、ドーパミンを詳しく説明するよりも、ストレス反応には複数の体内反応が関わっていると整理する程度が適切です。
ストレスホルモンと心血管リスクに関する研究
ストレスホルモンと心臓・血管の関係を考えるうえで参考になる研究として、MESA研究の一部を用いた報告があります。
この研究では、高血圧のない成人412名を対象に、12時間の夜間尿を用いて、ノルエピネフリン、エピネフリン、ドーパミン、コルチゾールを測定しました。
その後、高血圧の発症や心血管イベントとの関連が追跡されています。
報告では、4種類のストレス関連ホルモンの尿中レベルが2倍になるごとに、高血圧発症リスクが21〜31%高いことと関連していました。
また、心血管イベントについては、コルチゾールが2倍になるごとに、心血管イベントリスクが高いことと関連していました。
ただし、これは「ストレスホルモンだけが原因」と断定するものではありません。
生活習慣、年齢、体質、睡眠、運動、食事、既往歴、社会的要因など、心臓・血管の健康には多くの要因が関わります。
職場でこの研究を扱う場合は、「ストレスホルモンを測ればよい」という話ではなく、慢性的なストレス負荷を放置しないための根拠として扱うのが安全です。
職場で見るべきはホルモン値ではなく、過重負荷の継続である
人事総務・健康経営担当者が、社員のストレスホルモンを測定する必要はありません。
職場で見るべきなのは、ホルモン値そのものではなく、強い負荷が長く続いていないかです。
| 職場で見えやすい状態 | 背景として考えたいこと | 人事総務・管理職の見方 |
|---|---|---|
| 残業が続いている | 回復時間が不足している可能性 | 勤務時間と業務量を確認する |
| 強い緊張が続いている | 交感神経系の負荷が続きやすい状態 | 休息と相談導線を整える |
| 朝から疲れている | 睡眠や回復が不足している可能性 | 業務負荷と生活リズムを分けて確認する |
| ミスや確認漏れが増える | 疲労や注意力低下が関係している可能性 | 叱責よりも負荷の整理を優先する |
| イライラや焦りが増える | 緊張状態が続いている可能性 | 本人の性格だけで判断しない |
ストレスホルモンの知識は、社員を検査するためではなく、職場の過重負荷を見落とさないために使います。
慢性的なストレス負荷と心臓・血管を切り離さない
職場のストレス対策は、メンタルヘルスだけの問題として扱われがちです。
しかし、ストレス反応は心と体の両方に関わります。
急な負荷を受けたときには、心拍が上がる、血圧が上がる、呼吸が浅くなる、筋肉が緊張するなどの反応が起こります。
この反応は短時間であれば自然なものです。
一方で、強い負荷が続き、休息や睡眠が不足すると、心身の回復が追いつきにくくなります。
そのため、健康経営では、メンタルヘルス、睡眠、疲労、血圧、生活習慣、働き方を分けずに見る必要があります。
ストレスホルモンを研修で扱うときの注意点
ストレスホルモンの話題は、社員の関心を集めやすいテーマです。
一方で、扱い方を誤ると、医学的な診断や健康不安をあおる内容になりやすくなります。
| 避けたい扱い方 | 理由 | 望ましい扱い方 |
|---|---|---|
| ストレスホルモンが病気の原因と断定する | 医学的な説明として過剰になる | 慢性的な負荷と体調変化に気づく視点として扱う |
| ホルモン値を職場で測る話にする | 個人情報・医療領域に踏み込みすぎる | 勤務時間、疲労、睡眠、相談体制を見る |
| 特定の生活改善でリスクが下がると断定する | 個人差や医学的背景を見落とす | 健康行動の選択肢を増やす |
| 本人の自己管理不足にする | 職場要因を見落とす | 業務負荷や職場風土も確認する |
| 治療・診断の話にする | 研修の範囲を超える | 必要時は産業保健スタッフや医療機関につなぐ |
研修で重要なのは、ストレスホルモンの詳細を暗記することではありません。
強い負荷が続いている状態に気づき、早めに休息、相談、業務調整につなげることです。
人事総務が確認したい職場要因
ストレスホルモンと心血管リスクの話題を、健康経営に活かす場合、人事総務・健康経営担当者は次の点を確認すると施策に落とし込みやすくなります。
- 長時間労働や休日対応が続いていないか
- 強い緊張を伴う業務が一部の社員に集中していないか
- 休憩や有給休暇を取りにくい雰囲気がないか
- 夜間や休日の業務連絡が心理的負担になっていないか
- ストレスチェック後の職場改善につながっているか
- 管理職が部下の疲労サインを責めずに確認できているか
- 体調不良が続く社員を専門職につなぐ導線があるか
この確認は、社員を管理するためではありません。
職場として、負荷と回復のバランスを整えるための視点です。
タニカワ久美子の研修では、ホルモン名を職場の行動に置き換える
タニカワ久美子のストレス管理研修では、ストレスホルモンを医学知識として暗記させることはしません。
受講者には、心拍、呼吸、疲労感、睡眠、集中力、体調変化など、自分で気づけるサインに置き換えて伝えます。
管理職には、社員の緊張や焦りを「性格」や「弱さ」と決めつけず、業務量、責任の重さ、相談しやすさ、休息不足を確認する視点を伝えます。
人事総務には、ストレスホルモンの研究知見を、長時間労働対策、健康経営、ストレスチェック後の職場改善、管理職研修へ接続する方法を整理します。
人事総務の担当者からも、専門的な生理学を、職場で使える健康支援の言葉に置き換える点を評価されています。
人事総務が押さえたいポイント
ストレスホルモンと心臓・血管の関係を職場の健康支援に活かすとき、人事総務・健康経営担当者が押さえたい点は次のとおりです。
- ストレスホルモンは、体が負荷に対応しようとする反応に関わる
- コルチゾールやカテコールアミンは、心拍・血圧・覚醒などと関係する
- 研究では、ストレス関連ホルモンと高血圧・心血管イベントとの関連が報告されている
- ただし、職場で医学的な診断やホルモン測定を行う必要はない
- 見るべきなのは、長時間労働、強い緊張、睡眠不足、休息不足、相談しにくさである
この視点を持つことで、ストレスホルモンの知識は、社員の健康不安をあおるものではなく、職場の過重負荷を早めに見直す材料になります。
まとめ:ストレスホルモンの知識は、過重負荷を見落とさないために使う
ストレスホルモンは、強い緊張や負荷に体が対応しようとするときに関わるホルモンや神経伝達物質です。
コルチゾール、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミンなどは、心拍、血圧、覚醒、エネルギー利用などと関係します。
研究では、尿中ストレス関連ホルモンと高血圧発症、コルチゾールと心血管イベントとの関連が報告されています。
ただし、職場で重要なのは、ホルモン値を測ることではありません。
長時間労働、強い緊張、睡眠不足、疲労、休息不足、相談しにくさを早めに見直すことです。
人事総務・健康経営担当者に求められるのは、医学的な診断ではなく、社員が自分の状態に気づき、管理職が過重負荷を見逃さず、職場として回復しやすい仕組みを整えることです。
ストレスホルモンの知識を、職場の過重負荷対策に活かしたいご担当者様へ
けんこう総研では、ストレスホルモン、自律神経、睡眠、疲労、心身の反応を、社員が理解しやすい言葉に置き換えたストレスマネジメント研修を行っています。医学的な断定ではなく、早めの気づきと職場の支援行動につなげます。
参考文献
- Inoue K, et al. Urinary Stress Hormones, Hypertension, and Cardiovascular Events: The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. Hypertension. 2021.
- American Heart Association. Elevated stress hormones linked to higher risk of high blood pressure and heart events. 2021.