健康経営
ストレスチェック制度を職場改善につなげる実務ポイント
ストレスチェック制度は、多くの企業で毎年実施される仕組みとして定着してきました。
一方で、人事総務・健康経営担当者からは「実施はしているが、職場改善につながっていない」「結果をどう活かせばよいかわからない」という声も聞かれます。
この記事では、ストレスチェック制度を職場改善につなげる実務ポイントを扱います。
同じストレスチェックでも、本記事は制度の概要説明ではなく、従業員が安心して受検できる説明、個人情報の扱い、集団分析の活かし方に焦点を当てた記事です。
健康経営を福利厚生で終わらせず、人と組織の力を引き出すために、人事総務・健康経営担当者が確認しておきたい運用の考え方をお伝えします。
ストレスチェック制度は「実施して終わり」ではない
ストレスチェック制度は、働く人が自分のストレス状態に気づき、メンタルヘルス不調を未然に防ぐための仕組みです。
また、集団分析を通じて、職場のストレス要因を把握し、職場環境の改善につなげる役割もあります。
しかし、現場では次のような状態になっていることがあります。
- 毎年実施しているが、結果を活かせていない
- 受検率はあるが、従業員が本音で回答しているかわからない
- 高ストレス者への対応が本人任せになっている
- 集団分析を見ても、次に何をすればよいかわからない
- 人事総務の事務負担だけが増えている
この状態では、ストレスチェック制度は「やった記録」にはなっても、健康経営の判断材料にはなりません。
大切なのは、実施後に何を見て、どの職場改善につなげるかです。
50人未満事業場も準備が必要になる流れ
ストレスチェック制度は、2015年12月から、一定規模以上の事業場で実施が義務づけられてきました。
これまで50人未満の事業場は努力義務とされていましたが、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の事業場にも実施義務が拡大されることになりました。
ただし、小規模事業場では人員や予算に余裕が少ないため、制度対応を急に始めると担当者の負担が大きくなります。
今後は、義務化への対応だけでなく、次のような準備が重要になります。
- 誰が実務を担当するのかを決める
- 個人結果を誰が見られるのかを説明できるようにする
- 外部委託する範囲を決める
- 高ストレス者への面接指導の流れを整える
- 集団分析を職場改善に活かす方法を考える
小規模な会社ほど、一人の不調や離職が職場に与える影響は大きくなります。
だからこそ、ストレスチェック制度を法令対応だけで終わらせず、早めに相談しやすい職場づくりへつなげる視点が必要です。
従業員が正直に答えにくい理由
ストレスチェック制度で最も重要なのは、従業員が安心して回答できることです。
制度があっても、「結果を会社に見られるのではないか」と感じていれば、本音で答えにくくなります。
従業員側には、次のような不安が生まれやすくなります。
- 上司に結果を知られるのではないか
- 人事評価に影響するのではないか
- 異動や昇進に不利になるのではないか
- 面接指導を希望したら、問題のある社員と思われるのではないか
- 誰がどこまで結果を見るのかわからない
この不安を放置すると、受検率が高くても、制度の質は下がります。
ストレスチェックは、正直に答えてもらえなければ、本人の気づきにも職場改善にもつながりにくくなるからです。
人事総務が最初に説明すべきこと
ストレスチェックを実施する前に、人事総務・健康経営担当者が説明すべきことは、実施日程だけではありません。
従業員が安心して受けられるように、情報の扱いを具体的に伝える必要があります。
| 説明すること | 従業員が知りたいこと | 伝え方のポイント |
|---|---|---|
| 目的 | なぜ受ける必要があるのか | 不調者探しではなく、早めの気づきと職場改善のためと伝える |
| 個人結果の扱い | 誰が結果を見るのか | 本人の同意なしに会社が個人結果を取得できないことを説明する |
| 面接指導 | 受けたら不利にならないか | 不利益取扱いをしないこと、健康確保のための支援であることを伝える |
| 集団分析 | 個人が特定されないか | 職場単位の傾向を見て、改善に活かすためのものと説明する |
| 相談先 | 結果を見て不安になったらどうするか | 産業医、保健師、外部相談先、人事総務の窓口を明確にする |
「制度だから受けてください」では、従業員は納得しにくくなります。
何のために行うのか、結果がどう扱われるのか、困ったときにどこへ相談できるのかを先に示すことが重要です。
会社の義務と従業員の権利を分けて考える
ストレスチェック制度では、会社側の義務と従業員側の権利を分けて考える必要があります。
事業者には制度を実施する義務がありますが、従業員に対して無理に受検を強制するものではありません。
この点を曖昧にすると、制度への不信感が生まれます。
人事総務が押さえておきたいのは、次の考え方です。
- 会社はストレスチェックを適切に実施する
- 従業員には安心して受けられる説明が必要である
- 個人結果は本人の同意なしに事業者へ提供されない
- 面接指導の申し出を理由に不利益な扱いをしてはならない
- 集団分析は職場環境改善に活かすために使う
制度を正しく運用するには、法律上の義務だけでなく、従業員との信頼関係が欠かせません。
個人情報管理で曖昧にしてはいけないこと
ストレスチェック制度では、個人情報の扱いが非常に重要です。
人事評価に関わる立場の人が、本人の同意なく個人結果を見ることはできません。
特に注意したいのは、次の点です。
- 個人結果を誰が取り扱うのか
- 実施者と実施事務従事者の役割が分かれているか
- 人事評価権限を持つ人が実施事務に関わっていないか
- 本人同意の取り方が適切か
- 記録の保存方法と保存期間が決まっているか
本人の同意によって事業者へ提供されたストレスチェック結果の記録は、事業者が5年間保存する必要があります。
保存期間だけでなく、誰が、どこで、どのように管理するのかまで決めておくことが大切です。
実施事務従事者の負担を軽く見ない
ストレスチェック制度では、実施事務従事者の役割が重要です。
実施事務従事者は、結果の回収、入力、通知、保存、面接指導の案内など、制度運用を支える立場になります。
ただし、人事総務の担当者が兼任する場合、業務負担や精神的な負担が大きくなることがあります。
- 情報管理の責任が重い
- 従業員から質問を受ける
- 高ストレス者への対応に迷う
- 集団分析後の職場改善まで手が回らない
- 通常業務と並行して進めなければならない
この負担を担当者個人に背負わせると、制度そのものが形だけになりやすくなります。
必要に応じて外部委託や専門家の支援を使い、社内で抱える部分と外部へ任せる部分を分けることが重要です。
外部委託は人事総務を楽にするためだけではない
ストレスチェック制度の一部を外部委託する企業は少なくありません。
外部委託は、人事総務の事務負担を減らすだけでなく、従業員の安心感を高める意味もあります。
| 外部委託で期待できること | 企業側の意味 | 従業員側の意味 |
|---|---|---|
| 個人情報管理の明確化 | 社内で結果を扱う範囲を減らせる | 会社に直接見られる不安が減る |
| 実施事務の効率化 | 担当者の負担を下げられる | 案内や通知がわかりやすくなる |
| 集団分析の支援 | 結果を職場改善に活かしやすい | 職場環境の改善につながりやすい |
| 専門家の関与 | 面接指導や相談につなげやすい | 安心して相談しやすくなる |
| 公平性の確保 | 社内の利害関係を減らせる | 本音で回答しやすくなる |
ただし、外部委託すれば自動的に制度が機能するわけではありません。
事業者として、制度の目的、情報管理、職場改善への使い方を社内で説明できることが必要です。
集団分析を見て終わらせない
ストレスチェック制度を健康経営に活かすうえで重要なのが、集団分析です。
個人結果を会社が勝手に見ることはできませんが、集団ごとの傾向を把握することで、職場の負担や改善点を見つけやすくなります。
集団分析では、次のような視点が役立ちます。
- 部署ごとのストレス傾向に偏りがあるか
- 管理職の負担が大きい部署はないか
- 業務量や裁量の少なさが影響していないか
- 相談しにくい職場になっていないか
- 前年と比べて悪化している項目はないか
集団分析は、職場を責めるための資料ではありません。
どこに負担が集まり、どの部署に支援が必要なのかを見つけるための材料です。
ストレスチェックを職場改善につなげる流れ
ストレスチェック制度を職場改善につなげるには、実施前から実施後までの流れを決めておく必要があります。
- 実施目的と情報管理のルールを従業員に説明する
- 安心して受検できる相談先を明確にする
- 個人結果と集団分析の扱いを分ける
- 高ストレス者への面接指導の流れを確認する
- 集団分析で職場ごとの負担を確認する
- 管理職と人事総務で改善テーマを一つ決める
- 数か月後に、行動や相談しやすさの変化を見る
この流れがあると、ストレスチェックは「年1回の制度」ではなくなります。
社員の気づき、管理職の声かけ、職場改善につながる健康経営の材料になります。
タニカワ久美子が企業研修で見ているストレスチェックの課題
タニカワ久美子の企業研修では、人事総務の担当者から「ストレスチェックは毎年実施しているが、その後の動きが作れない」という相談を受けることがあります。
一方で、社員さんからは「結果を見ても、どうすればよいかわからない」「会社に知られるのが不安」という声が出ることもあります。
このような職場では、制度を実施するだけでは足りません。
従業員が安心して答えられる説明、結果を見た後の相談先、管理職が職場でどう声をかけるかまで決めておく必要があります。
研修では、ストレスチェックを不調者探しとして扱いません。
疲れがたまったとき、相談しづらいとき、部署全体に負担が出ているときに、何を見て、どこにつなげるのかを扱います。
このように制度を職場の行動に置き換えることで、ストレスチェックは健康経営に活きてきます。
ストレスチェック制度は、信頼されて初めて機能する
ストレスチェック制度は、実施すれば自動的に職場がよくなるものではありません。
従業員が安心して回答できること。
人事総務が情報管理を説明できること。
管理職が結果を責める材料ではなく、職場改善の材料として扱えること。
この3つがそろって、制度は機能し始めます。
特に、50人未満の事業場にも対象が広がる流れの中で、小規模な会社ほど早めに運用を整えておく必要があります。
大きな制度を作る前に、まずは説明、相談先、情報管理、職場改善の流れを決めることが現実的です。
けんこう総研では、ストレスチェック制度を実施して終わらせず、集団分析、管理職支援、ストレス管理研修、健康経営フォローアップへつなげる支援を行っています。
人事総務・健康経営担当者が一人で抱え込まず、従業員に信頼される制度運用にしていくことを大切にしています。