ストレス科学ラボ・用語バンク
徹夜後の脳とランナーズハイ|高揚感と判断力低下のリスク
このストレス科学ラボ・用語バンクカテゴリーでは、職場で起こるストレス反応を、社員本人の気合いや性格の問題にせず、脳・身体・働き方の関係から説明します。
同じストレス管理でも、本記事は一般的なランナーズハイの説明ではありません。徹夜後や夜勤明けに起こる「妙に元気」「頭が冴えている」という高揚感に焦点を当てています。
人事総務・健康経営担当者の方が、徹夜後や夜勤明けの社員を「元気そうだから大丈夫」と判断せず、疲労、睡眠不足、判断ミス、確認漏れのリスクを見直すきっかけにできるように説明します。
徹夜後の脳で起こるランナーズハイに似た感覚
徹夜後や夜勤明けに、眠っていないのに「妙に元気」「頭が冴えている」「気分が軽い」と感じることがあります。
この状態は、一見すると前向きな集中力ややる気のように見えます。しかし実際には、疲労が回復したわけではなく、睡眠不足や強い負荷によって疲労感が一時的に感じにくくなっている可能性があります。
ランニング後に起こるランナーズハイに似た高揚感として語られることもありますが、徹夜後の脳で起こる高揚感を、そのまま健康的な活力やユーストレスと捉えるのは危険です。
この記事では、徹夜後にランナーズハイに似た爽快感が出る理由を、脳内反応、疲労感、判断力低下の視点から見ていきます。そのうえで、夜勤、交代勤務、長時間労働を抱える職場で、管理職や人事総務がどのように見極めるべきかを説明します。

徹夜後の「妙な爽快感」は回復ではない
徹夜後の早朝に、突然気分が高まり、「このまま仕事に行けそうだ」と感じることがあります。
しかし、その状態が長く続くとは限りません。出勤後や午前中の途中から、頭がぼんやりする、言葉が出にくい、判断が遅れる、確認漏れが増える、感情が不安定になることがあります。
これは、徹夜後の高揚感が本当の回復ではないからです。脳と身体は休息を必要としているにもかかわらず、一時的な覚醒状態によって疲労感が見えにくくなっている可能性があります。
職場では、この「元気そうに見える状態」を安心材料にしてはいけません。むしろ、疲労が自覚されにくくなっている危険信号として扱う必要があります。
ランナーズハイとは何か
ランナーズハイとは、長時間のランニングや持久運動のあとに、苦しさが軽くなり、気分が高揚したように感じる状態を指します。
この現象には、痛みや不快感をやわらげる脳内反応が関わります。一般にはエンドルフィンがよく知られていますが、現在ではエンドルフィンだけでなく、エンドカンナビノイド系を含む複数の仕組みが関係すると考えられています。
つまり、ランナーズハイは単なる「気分の問題」ではなく、強い負荷に対して脳と身体が反応している状態として理解できます。
徹夜後の高揚感はランナーズハイと同じなのか
徹夜後の高揚感は、感覚としてはランナーズハイに似ていることがあります。
ただし、運動によるランナーズハイと、徹夜後や夜勤明けの高揚感を同じものとして扱うのは適切ではありません。
運動によるランナーズハイは、身体活動に伴う負荷と回復の中で起こる反応です。一方、徹夜後の高揚感は、睡眠不足、疲労、緊張、ストレスが重なった状態で起こります。
このとき本人は「まだ動ける」「意外と大丈夫」と感じていても、注意力、反応速度、記憶、感情のコントロール、判断力が低下している可能性があります。
したがって、徹夜後の脳で起こる高揚感は、好調の証拠ではなく、疲労感が鈍っている状態として慎重に見る必要があります。
徹夜作業で起こりやすいストレス反応
徹夜作業は、脳と身体に大きな負荷をかけます。
正確には、睡眠不足、覚醒を保とうとする努力、集中作業、ストレス反応が重なり、身体の調整機能に負担がかかっている状態です。
この状態では、疲れているのに疲労感を感じにくい、判断が速くなったように感じる、普段より強気になるといった変化が見られることがあります。
しかし、それは能力が高まったというより、疲労を自覚しにくくなっている状態と捉えるほうが安全です。
| 本人が感じやすいこと | 実際に起こり得ること | 職場で注意したいこと |
|---|---|---|
| まだ動ける | 疲労感が鈍っている | 休憩を取らずに作業を続けていないか |
| 頭が冴えている | 判断が粗くなる | 重要判断を任せすぎていないか |
| 気分が軽い | 感情の波が大きくなる | 対人対応やクレーム対応を続けていないか |
| 勢いで進められる | 確認漏れが増える | ダブルチェックがあるか |
| 眠くない | 反応速度や注意力が落ちる | 運転、機械操作、夜間作業のリスクを見る |
職場で危険な判断ミス
徹夜後や夜勤明けの高揚感が問題になるのは、本人が元気そうに見える一方で、実際には判断力や確認力が落ちている可能性があるためです。
とくに、医療、介護、教育、運輸、製造、警備、情報システム対応、緊急対応を伴う職場では、疲労状態での判断ミスが事故、クレーム、確認漏れ、対人トラブルにつながることがあります。
次のような状態が見られる場合は、注意が必要です。
- 徹夜後や夜勤明けなのに、普段よりテンションが高い
- 休憩を取らずに作業を続けようとする
- 確認作業を省略する
- 判断が速い一方で、見落としが増える
- 感情の起伏が大きくなる
- 帰宅後や翌日に強い疲労感や落ち込みが出る
これらは本人の性格や意欲だけの問題ではありません。疲労によって、脳と身体の調整が乱れている可能性があります。
管理職・人事総務が見るべきポイント
管理職や人事総務は、徹夜後の社員を「元気そうだから大丈夫」と判断しないことが重要です。
特に、夜勤、交代勤務、長時間労働、緊急対応がある職場では、疲労管理を本人任せにしない仕組みが必要です。
| 確認したいこと | 職場リスク | 見直したい対応 |
|---|---|---|
| 夜勤明けや徹夜明けに重要判断を任せていないか | 判断ミス、事故、確認漏れ | 重要判断は時間を置く、別担当者が確認する |
| 長時間労働後の確認作業を本人だけに任せていないか | 見落とし、手順漏れ | ダブルチェックや引き継ぎを入れる |
| 疲労を申告しにくい職場になっていないか | 無理な継続作業、体調悪化 | 疲労申告を責めない雰囲気をつくる |
| 管理職が疲労サインを見極める知識を持っているか | 元気そうに見える社員を過信する | ラインケア研修で疲労サインを扱う |
| ストレス管理研修がリラクゼーションだけで終わっていないか | 業務リスクに結びつかない | 睡眠不足、疲労、判断力低下まで扱う |
徹夜後の高揚感を理解することは、単なる健康知識ではありません。職場の安全配慮、管理職教育、ラインケア、ストレス管理研修にも関わります。
ユーストレスと徹夜後の高揚感は違う
徹夜後の高揚感は、一見すると「良いストレス反応」のように見えることがあります。
しかし、これをユーストレスと同じものとして扱うべきではありません。
ユーストレスは、成長、達成、集中、前向きな行動につながる良性のストレス反応です。一方で、徹夜後の高揚感は、睡眠不足や疲労の蓄積を背景にした一時的な覚醒状態であり、回復を伴っていない場合があります。
つまり、徹夜後の高揚感は「ストレスを味方にできている状態」ではなく、「疲労を感じにくくなっている状態」として扱うべきです。
ユーストレスとディストレスの違いについては、ユーストレス(良性ストレス)とは|職場で活かすストレス資源の全体像で紹介しています。
タニカワ久美子の企業研修で伝えていること
タニカワ久美子の企業研修では、徹夜後や夜勤明けの高揚感を「やる気がある証拠」として扱いません。
研修では、参加者が自分の疲労サインに気づけるように、「眠くないのに確認ミスが増えていないか」「普段より強気な判断をしていないか」「夜勤明けに帰宅や運転のリスクを軽く見ていないか」といった問いを使います。
管理職向けには、部下が元気そうに見えても、睡眠不足や長時間労働の後には判断力、注意力、感情の安定が落ちている可能性があることを伝えます。
人事総務の担当者からも、ストレス管理をリラックス法だけで終わらせず、夜勤、交代勤務、長時間労働、確認ミス予防まで結びつけられる点を評価されています。
健康経営ご担当者が確認すべきこと
このテーマを人事総務、管理職、健康経営推進担当者が読む場合、重要なのは「徹夜後に気分が上がるかどうか」ではありません。
確認すべきなのは、職場で次のような状態を放置していないかです。
- 夜勤・交代勤務後の疲労管理が本人任せになっている
- 長時間労働後の判断ミスを個人の注意不足として処理している
- 管理職が疲労サインを見極める教育を受けていない
- メンタルヘルス研修が一般論にとどまり、現場の勤務実態に合っていない
- 健康経営施策が、睡眠不足・疲労・判断力低下の問題まで扱えていない
徹夜後の脳とランナーズハイに似た反応を理解することは、個人の興味で終わらせるものではありません。職場での判断ミス予防、管理職ラインケア、ストレス管理研修に活かすべき実務テーマです。
医療的な対応が必要な場合
この記事は、徹夜後の脳とランナーズハイに似た高揚感を、職場のストレス管理の視点から説明したものです。医学的な診断や治療を行うものではありません。
強い不眠、極端な眠気、動悸、気分の高ぶりが続く、出勤困難、仕事や日常生活に支障が出ている状態が続く場合は、自己判断せず、医療機関や専門職に相談してください。
職場では、管理職や人事担当者が診断をする必要はありません。以前との違いに気づき、本人が相談しやすい状態をつくり、必要な相談先につなぐことが重要です。
まとめ|徹夜後の爽快感は、好調ではなく疲労サイン
徹夜後や夜勤明けに感じる爽快感は、本人にとっては「まだ大丈夫」と思える状態かもしれません。
しかし、その裏側では、睡眠不足、疲労、ストレスによって、注意力や判断力が低下している可能性があります。
ランナーズハイに似た高揚感は、ストレス反応を理解する手がかりにはなります。ただし、徹夜後の高揚感をユーストレスや健康的な活力と見なすのは適切ではありません。
職場で重要なのは、社員が元気そうに見えるかどうかではなく、負荷と回復のバランスが保たれているか、判断ミスを防ぐ確認体制があるか、管理職が疲労サインを見極められるかです。
夜勤・長時間労働の疲労リスクを研修で扱う理由
けんこう総研では、企業・介護施設・教育機関向けに、睡眠不足、疲労感、判断力低下、夜勤明けの高揚感、管理職の声かけを扱うストレスマネジメント研修を行っています。
徹夜後や夜勤明けの社員を「元気そうだから大丈夫」と判断せず、疲労サイン、確認ミス、職場リスクを早めに見直したい場合は、以下のページをご覧ください。
参考文献
- Boecker H, et al. The runner’s high: opioidergic mechanisms in the human brain. Cerebral Cortex. 2008.
- Fuss J, et al. A runner’s high depends on cannabinoid receptors in mice. PNAS. 2015.
- CDC. About Sleep.
- NIOSH. Sleep is a Basic Need.
文責:タニカワ久美子