ストレス科学ラボ・用語バンク
疲憊期とは|ハンス・セリエのストレス理論を解説
このストレス科学ラボ・用語バンクカテゴリーでは、ハンス・セリエのストレス理論における疲憊期について解説します。
同じストレス管理でも、本記事は日常的なセルフケア方法ではなく、一般適応症候群における最終段階である疲憊期に焦点を当てています。
人事総務・健康経営担当者が、職場の過重負荷や慢性的なストレスを早めに見直すための視点で整理します。

疲憊期とは何か
疲憊期とは、ハンス・セリエが示した一般適応症候群における第三段階です。
疲憊は「ひはい」と読み、疲れ果てること、消耗しきることを意味します。
一般適応症候群では、強いストレス負荷に対して、体がどのように反応し、適応しようとするかを3つの段階で説明します。
| 段階 | 意味 | 職場での見え方 |
|---|---|---|
| 警告反応期 | 強い負荷に対して、体がすばやく反応する段階 | 緊張する、焦る、心拍が上がる |
| 抵抗期 | 負荷が続く中で、体が何とか適応しようとする段階 | 忙しくても何とか働き続けているように見える |
| 疲憊期 | 負荷が長く続き、回復が追いつきにくくなる段階 | 疲労感、不調、集中力低下、欠勤などが表れやすくなる |
疲憊期は、突然始まるものではありません。
警告反応期、抵抗期を経て、負荷が長く続き、休息や支援が不足したときに近づきやすい段階として理解できます。
疲憊期は「限界まで頑張った後」に見えやすい
職場では、疲憊期に近づく前に、社員がしばらく頑張れているように見えることがあります。
繁忙期を乗り切る、残業が続いても対応する、責任ある仕事を抱えながら働き続ける。
こうした状態は、周囲から見ると「仕事ができている」「問題なく対応している」と見えることがあります。
しかし、抵抗期が長く続くと、心身の回復が追いつきにくくなります。
その結果、疲労感、睡眠不調、集中力の低下、気分の落ち込み、体調不良などが表れやすくなります。
疲憊期を理解するうえで重要なのは、「働けていたから大丈夫」と判断しないことです。
疲憊期で見られやすい心身の変化
疲憊期に近づくと、心身の反応はさまざまな形で表れます。
ただし、これらは病気を診断するものではありません。
人事総務・管理職が見るべきなのは、社員を評価することではなく、早めに支援につなげるための変化です。
| 見えやすい変化 | 背景として考えたいこと | 職場での対応 |
|---|---|---|
| 疲労感が抜けない | 回復時間が不足している可能性 | 勤務時間、休憩、業務量を確認する |
| 睡眠の質が落ちる | 緊張状態が続いている可能性 | 働き方や業務連絡の時間帯も見る |
| 集中力が続かない | 心身の余力が低下している可能性 | 叱責ではなく負荷の整理を行う |
| ミスや確認漏れが増える | 注意力が落ちている可能性 | 業務量、手順、支援体制を確認する |
| 会話や表情が変わる | 心理的な余裕が少なくなっている可能性 | 早めの声かけや相談導線を整える |
大切なのは、一つのサインだけで判断しないことです。
疲労、睡眠、勤務時間、表情、会話量、ミスの変化などを合わせて見ることで、早めの支援につなげやすくなります。
疲憊期を「本人の弱さ」と見ない
疲憊期に近づいた社員を、本人の弱さや意欲不足として見てしまうと、支援のタイミングを逃します。
慢性的なストレス負荷は、本人の性格だけで起こるものではありません。
業務量、責任の重さ、役割のあいまいさ、人間関係、長時間労働、相談しづらい雰囲気、休みにくい職場風土などが重なって起こります。
そのため、職場では「なぜ本人が限界になったのか」だけではなく、「どのような負荷が続いていたのか」を確認する必要があります。
疲憊期の前に見直したい職場要因
人事総務・健康経営担当者が確認したいのは、社員が疲憊期に入ってからの対応だけではありません。
その前段階で、負荷が集中していないか、休息が取れているか、相談できる仕組みがあるかを確認することです。
- 残業や休日対応が特定の社員に集中していないか
- 繁忙期後にも疲労回復の時間が確保されているか
- 管理職が部下の疲労サインに気づけているか
- 仕事の優先順位や担当範囲が明確か
- 相談しづらい雰囲気がないか
- 休憩や有給休暇を取りにくい職場風土になっていないか
- ストレスチェック後の職場改善につながっているか
疲憊期を防ぐには、本人のセルフケアだけでは不十分です。
職場として、負荷と回復のバランスを整える必要があります。
疲憊期で必要なのは、さらに頑張らせることではない
疲憊期に近づいている社員に必要なのは、さらに努力を求めることではありません。
まず、心身の回復を優先する必要があります。
業務量を見直す、休息を確保する、相談先につなげる、必要に応じて産業保健スタッフや医療機関につなぐことが重要です。
| 避けたい対応 | 理由 | 望ましい対応 |
|---|---|---|
| もっと頑張るよう励ます | 負荷を増やす可能性がある | まず休息と業務量を確認する |
| 本人の性格の問題にする | 職場要因を見落とす | 業務、役割、相談体制を確認する |
| ミスだけを叱責する | 不安や緊張を強めることがある | 負荷や手順の問題を整理する |
| 相談を本人任せにする | 声を上げにくい社員がいる | 相談先と手順を明確にする |
| 制度だけ用意して終わる | 利用されない可能性がある | 管理職研修や声かけと組み合わせる |
疲憊期への対応は、個人の気持ちを強くすることではありません。
職場として、回復できる条件を整えることです。
セリエ理論を健康経営に活かす視点
セリエの一般適応症候群は、職場のストレス管理を考えるうえで、負荷と回復の流れを整理する助けになります。
健康経営では、社員が疲憊期に近づいてから対応するのでは遅くなります。
抵抗期の段階で、忙しい社員、責任感が強い社員、疲れを隠して働いている社員に気づくことが重要です。
そして、疲憊期に入らないように、働き方、休息、相談体制、管理職の関わり方を整える必要があります。
この視点を持つと、ストレス管理は「ストレスをなくすこと」ではなく、「負荷と回復を整えること」として設計しやすくなります。
タニカワ久美子の研修では、疲憊期を早期支援の視点で伝える
タニカワ久美子のストレス管理研修では、疲憊期を専門用語として暗記するのではなく、職場で見逃してはいけない状態として説明します。
たとえば、「まだ働けているから大丈夫」ではなく、「回復が追いついているか」を確認する視点を伝えます。
社員には、自分の疲労サインに早めに気づくことを伝えます。
管理職には、成果が出ている社員ほど疲労が見えにくいこと、ミスや表情の変化を責めずに確認することを伝えます。
人事総務には、ストレスチェック後の職場改善、相談導線、休息の取りやすさを研修後の施策につなげる視点を整理します。
人事総務の担当者からも、理論を職場の具体的な支援行動に置き換える点を評価されています。
人事総務が押さえたいポイント
疲憊期を職場のストレス管理に活かすとき、人事総務・健康経営担当者が押さえたい点は次のとおりです。
- 疲憊期は、慢性的な負荷により回復が追いつきにくくなる段階である
- 疲憊期に近づく前に、抵抗期のサインを見逃さないことが重要である
- 成果が出ている社員でも、心身に負荷が蓄積している場合がある
- 本人の努力だけではなく、業務量、休息、相談体制を確認する必要がある
- 不調が続く場合は、産業保健スタッフや専門職につなぐ導線が必要である
この視点を持つことで、職場のストレス管理は、個人の我慢に頼るものではなく、健康経営としての早期支援に近づきます。
まとめ:疲憊期を理解すると、職場の早期支援が見えてくる
ハンス・セリエの一般適応症候群では、ストレス反応を警告反応期、抵抗期、疲憊期の3段階で整理します。
疲憊期は、慢性的なストレス負荷が続き、心身の回復が追いつきにくくなる段階として理解されます。
職場では、疲憊期に近づく前に、社員の疲労、睡眠、業務量、相談しづらさ、休息不足に気づくことが重要です。
人事総務・健康経営担当者に求められるのは、社員が限界になってから対応することではありません。
抵抗期の段階で早めに声をかけ、負荷と回復のバランスを整え、必要な支援につなげる職場づくりです。
ストレス理論を職場の早期支援に活かしたいご担当者様へ
けんこう総研では、ハンス・セリエの一般適応症候群、ラザルス理論、睡眠、疲労、職場ストレスの視点を、社員が理解しやすい言葉に置き換えたストレスマネジメント研修を行っています。理論を職場の行動に変え、セルフケアと職場改善につなげます。
参考文献
- Selye, H. The Stress of Life. McGraw-Hill, 1956.
- Selye, H. The general adaptation syndrome and the diseases of adaptation. Journal of Clinical Endocrinology. 1946.