産後女性のストレス指標とスマートウォッチ研究|パイロットスタディ

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産後女性のストレス指標とスマートウォッチ研究|パイロットスタディ

このストレス科学ラボ・用語バンクでは、ストレス研究や測定技術に関する知見を、健康経営や職場研修に関心を持つ方にも読める形で紹介します。

本記事は、スマートウォッチの導入可否を判断する記事ではありません。

産後女性を対象に、スマートウォッチが表示するストレスレベルと、唾液コルチゾール、質問票、自律神経活動との関係を検討したパイロット研究を紹介します。

この記事で扱う中心テーマは、スマートウォッチのストレス表示が、産後女性のストレス状態をどこまで反映しているのかを考えることです。

産後期は、睡眠の乱れ、授乳、身体回復、育児負担などが重なり、心身の状態が大きく変化しやすい時期です。

そのため、ストレスを簡単にセルフモニタリングできる方法は、今後の研究テーマとして重要です。

一方で、スマートウォッチのストレスレベル表示を、そのまま心理的ストレスや抑うつ状態の判断に使えるかどうかは、慎重に見なければなりません。

産後女性のストレス状態とスマートウォッチのストレス指標研究を説明するスライド


紹介する研究の概要

今回紹介するのは、寺澤瑛利子、浅野美礼、岡山久代による「産後女性のストレス状態とスマートウォッチが測定するストレス指標との関連:パイロットスタディ」です。

この研究は、産後女性のストレス状態を、主観的な質問票、生理的データ、スマートウォッチのストレス指標から検討したものです。

対象者は初産婦3名です。

調査は産後1か月と産後2か月の時点で行われ、自宅でスマートウォッチを装着し、心拍数とストレスレベルが測定されました。

あわせて、唾液コルチゾールの測定や、抑うつ・気分状態に関する質問票も用いられています。

この研究は大規模研究ではありません。

サンプルサイズが3名のパイロットスタディであり、結果を一般化するには慎重さが必要です。

しかし、産後女性の日常生活に近い環境で、スマートウォッチのストレス指標を検討している点に価値があります。


研究目的|産後女性のストレス状態を簡便に測れるか

産後期には、身体的な回復だけでなく、心理的な変化も起こります。

産後うつ、疲労、不安、睡眠不足、育児負担などが重なるため、産後女性のストレス状態を把握する方法は重要です。

従来、産後女性のメンタルヘルス評価には、質問票が用いられてきました。

たとえば、エジンバラ産後うつ病スケール、気分状態を把握する尺度、抑うつ傾向を確認する質問などです。

また、生理的なストレス指標として、唾液コルチゾールや自律神経活動も使われます。

ただし、唾液コルチゾールは採取や保存に手間がかかります。

自律神経活動の測定にも、測定機器や分析環境が必要です。

そこで、日常生活の中で簡単に使えるスマートウォッチが、産後女性のストレス状態を測る手がかりになるのかが検討されました。


スマートウォッチで測定された項目

この研究では、Garmin vivosmart 4 が使用されています。

スマートウォッチでは、主に心拍数とストレスレベルが記録されました。

スマートウォッチが表示するストレスレベルは、心拍数や脈拍間隔の変化をもとに、自律神経活動を推定していると考えられます。

測定項目 意味 注意点
心拍数 1分間あたりの心拍の回数 運動、睡眠不足、体調、授乳、活動量の影響を受ける
ストレスレベル スマートウォッチが推定したストレス指標 メーカー独自の計算であり、詳細なアルゴリズムは公開されていない
RRI 心拍と心拍の間隔を示す値 スマートウォッチでは脈波から推定されるため誤差が含まれる
唾液コルチゾール 長期的または強いストレス反応の客観指標として使われる 採取時刻、起床後の変化、授乳、保存条件などの影響を受ける

このように、スマートウォッチは日常生活に近い状態でデータを取りやすい一方で、数値の解釈には注意が必要です。


唾液コルチゾールとは何か

唾液コルチゾールは、ストレス研究で使われる生理的指標の一つです。

コルチゾールは、ストレス反応に関わるホルモンとして知られています。

唾液から測定できるため、血液検査よりも負担が少ない方法として使われます。

ただし、唾液コルチゾールは測定条件の影響を受けます。

  • 起床後の時間
  • 食事
  • 運動
  • 歯磨き
  • 授乳
  • サンプルの保存状態

この研究でも、起床時と起床12時間後の唾液コルチゾールが扱われています。

産後女性の場合は、授乳や睡眠の乱れも関わるため、測定条件の整理が特に重要になります。


スマートウォッチのストレスレベルと唾液コルチゾールの関係

この研究で重要なのは、スマートウォッチが表示したストレスレベルと唾液コルチゾールとの間に、有意な相関が見られなかった点です。

つまり、このパイロット研究では、スマートウォッチのストレス表示が、唾液コルチゾールで示されるストレス反応をそのまま反映しているとは言えませんでした。

これは、スマートウォッチの価値がないという意味ではありません。

むしろ、次のように読む必要があります。

  • スマートウォッチのストレスレベルは、心理的ストレスを直接示すものではない
  • 唾液コルチゾールとは異なる側面を見ている可能性がある
  • 産後女性の日常生活では、授乳、睡眠、活動量など複数の要因が影響する
  • 一つの指標だけでストレス状態を判断するのは危険である

スマートウォッチのストレスレベルは、産後女性のストレス状態を考える手がかりにはなりますが、単独で判断に使うものではありません。


RRIとの強い相関が示したこと

一方で、この研究では、スマートウォッチが表示するストレスレベルと、RRIから計算されたストレスレベルとの間には強い相関が示されています。

RRIとは、心拍と心拍の間隔を示す値です。

心拍間隔の変化は、自律神経活動を考えるうえで重要な手がかりになります。

この結果から、スマートウォッチのストレス表示は、少なくとも心拍やRRIに基づく自律神経活動の変化と関係している可能性があります。

ただし、注意点があります。

スマートウォッチは、医療用心電図とは異なり、光学センサーで脈波を測定します。

脈波から推定される心拍数やRRIには、動き、装着状態、皮膚状態などによる誤差が含まれます。

そのため、RRIに基づくストレス推定にも誤差が含まれる可能性があります。


産後女性のストレス評価で難しい点

産後女性のストレス状態を評価することは、一般的なデスクワーカーのストレス評価とは異なる難しさがあります。

産後期には、次のような要因が重なります。

  • 睡眠不足
  • 授乳
  • 身体の回復過程
  • 育児負担
  • ホルモン変化
  • 心理的な不安
  • 日常生活リズムの乱れ

これらは、心拍数、RRI、唾液コルチゾール、気分状態に影響する可能性があります。

そのため、スマートウォッチのストレスレベルが変化していても、それが心理的ストレスによるものなのか、身体的負荷によるものなのか、睡眠不足によるものなのかを分けて考える必要があります。

この点が、産後女性を対象にしたストレス評価の難しさです。


研究の限界点

この研究はパイロットスタディであり、結果の読み方には注意が必要です。

限界点 読むときの注意
対象者が3名 結果を産後女性全体に一般化することはできない
日常生活での測定 授乳、睡眠、活動量など複数の要因が入り、統制が難しい
スマートウォッチのアルゴリズムが非公開 表示されたストレスレベルが、どの計算で出ているか完全には検証できない
脈波測定の誤差 動きや装着状態による心拍・RRIの誤差が含まれる
唾液コルチゾールとの相関が認められない スマートウォッチのストレス表示を、心理的ストレスの直接指標として扱えない

研究紹介記事では、成果だけでなく限界を一緒に読むことが重要です。

特にスマートウォッチのストレスレベルは、数値がわかりやすく表示されるため、過信しやすい指標です。

しかし、わかりやすい表示ほど、何を示しているのかを慎重に確認する必要があります。


この研究を職場のストレス管理でどう読むか

本研究は産後女性を対象とした研究であり、そのまま職場の健康経営施策に当てはめる記事ではありません。

しかし、職場のストレス管理にも通じる重要な視点があります。

  • スマートウォッチの数値は、心理的ストレスを直接示すものではない
  • 心拍やRRIは、身体的負荷や生活リズムの影響を受ける
  • 主観的評価、生理指標、日常記録を組み合わせて見る必要がある
  • デバイスのストレス表示は、セルフモニタリングのきっかけとして扱う
  • 単独の数値で人を判断しない

スマートウォッチは、ストレスを見える化する可能性を持っています。

しかし、見える化された数値は、解釈なしには使えません。

職場で扱う場合も、数値をそのまま評価や管理に使うのではなく、睡眠、疲労、働き方、休養の見直しにつなげる材料として扱う必要があります。


タニカワ久美子の研修でこの研究をどう扱うか

タニカワ久美子の企業研修では、この研究を「スマートウォッチを導入しましょう」という話にはしません。

むしろ、デバイスのストレス表示を過信しないための研究紹介として扱います。

研修現場では、社員さんがスマートウォッチに表示されたストレスレベルを見て、「自分はストレスが高いのだ」と不安になることがあります。

しかし、数値は心理的ストレスだけを表しているわけではありません。

睡眠不足、身体疲労、活動量、体調、生活リズムも影響します。

そのため研修では、スマートウォッチの数値を「自分を評価する点数」ではなく、「生活と体の反応を振り返るきっかけ」として説明します。

人事総務の担当者には、スマートウォッチの表示を社員管理に使わないこと、数値を出す場合は前提と限界をセットで説明することをお伝えしています。

研究は、職場でデバイスを使う前に、まず読み方を整えるための材料です。


この研究紹介で押さえたいポイント

本記事で押さえたいポイントは、次の3つです。

  • 産後女性3名を対象に、スマートウォッチのストレスレベルと唾液コルチゾール、質問票の関係が検討された
  • スマートウォッチのストレスレベルと唾液コルチゾールには有意な相関が見られなかった
  • スマートウォッチのストレス表示は、単独判断ではなく、セルフモニタリングの手がかりとして読む必要がある

この研究は、スマートウォッチによるストレス評価の可能性と限界を考えるうえで重要な読み物です。

とくに、数値が表示されるからといって、それがそのまま心理的ストレスを示すわけではないという点を押さえる必要があります。


まとめ|産後女性のスマートウォッチストレス指標研究から見えること

今回紹介した研究では、産後女性のストレス状態を、スマートウォッチのストレスレベル、唾液コルチゾール、質問票、自律神経活動の視点から検討しています。

対象者は初産婦3名であり、パイロットスタディとして読む必要があります。

スマートウォッチのストレスレベルと唾液コルチゾールとの間には、有意な相関は認められませんでした。

一方で、スマートウォッチのストレス表示とRRIから計算したストレスレベルには強い相関が示され、心拍やRRIに基づく自律神経活動の変化を反映している可能性が示唆されます。

ただし、スマートウォッチのストレス表示は、心理的ストレスを直接示すものではありません。

睡眠不足、授乳、身体疲労、生活リズム、活動量などの影響を受けるため、単独で判断に使うことは避けるべきです。

健康経営や職場研修で活かす場合は、研究成果をそのまま社員評価や管理に使うのではなく、ストレス指標の読み方を学ぶ研究紹介として扱うことが安全です。

けんこう総研では、スマートウォッチや自律神経、ストレス指標に関する研究を、企業研修や健康経営の現場でわかりやすく伝えています。

ストレスを精神論ではなく、心拍・自律神経・身体反応の視点から学ぶ企業向けストレス管理研修をご検討の場合は、以下のページをご覧ください。

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参考文献

  • 寺澤瑛利子, 浅野美礼, 岡山久代. 産後女性のストレス状態とスマートウォッチが測定するストレス指標との関連:パイロットスタディ. 看護理工学. 2023;10(0):194-203.
  • Reeder B, David A. Health at hand: A systematic review of smart watch uses for health and wellness. Journal of Biomedical Informatics. 2016;63:269-276.
  • Can YS, Chalabianloo N, Ekiz D, et al. Personal stress-level clustering and decision-level smoothing to enhance the performance of ambulatory stress detection with smartwatches. IEEE Access. 2020;8:38146-38163.

文責:タニカワ久美子

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