健康経営
ヒヤリハットと脳の自動化|確認漏れを防ぐ安全教育
慣れた作業ほど、確認したつもりで進めてしまうことはありませんか。
毎日くり返している作業は、手順を考えなくても体が動くようになります。これは仕事を早く進めるうえでは大切な力です。
一方で、慣れた作業ほど、いつもと違う変化に気づきにくくなることがあります。確認漏れ、見落とし、思い込みによる判断ミスは、本人のやる気だけでは防ぎきれません。
労働安全衛生全体の考え方は、労働安全衛生とは何かで詳しく紹介しています。このページでは、ヒヤリハットの手前で起こる「脳の自動化」に着目し、確認行動を安全教育でどう戻すかを考えます。

ヒヤリハットは、慣れた作業の中で起こりやすい
ヒヤリハットは、危険を知っていなかったから起こるとは限りません。
むしろ現場では、「いつも通りにやったつもり」「見たつもり」「確認したつもり」という場面で起こることがあります。
たとえば、次のような状況です。
- いつもの通路だから、周囲をよく見ずに進んだ
- 慣れた作業なので、確認を短く済ませた
- いつもと同じ音だと思い込み、機械の変化に気づかなかった
- 忙しさで、声かけを後回しにした
- 前にも大丈夫だったので、今回も大丈夫だと思った
このような行動は、本人がわざとルールを破っているとは限りません。
脳が慣れた行動を自動的に進めることで、確認や違和感への気づきが弱くなる場合があります。
脳の自動化とは何か
脳の自動化とは、何度もくり返した行動を、あまり意識しなくても進められるようになる働きです。
毎朝の身支度、通勤の道順、よく使う機械の操作、いつもの確認手順などは、くり返すほど体にしみ込みます。
この働きがあるからこそ、私たちは毎回すべてを最初から考えなくても仕事を進められます。
ただし、労働安全衛生の現場では、この自動化がリスクになることがあります。
脳が「いつも通り」と判断すると、いつもと違う小さな変化を見落としやすくなるからです。
| 脳の自動化で起こりやすいこと | 現場で見える行動 | 安全教育で戻したい行動 |
|---|---|---|
| いつも通りだと思い込む | 変化に気づくのが遅れる | 作業前に違いを確認する |
| 確認を短く済ませる | 見たつもり、聞いたつもりが増える | 声に出して確認する |
| 危険に慣れる | 小さな違和感を流してしまう | 違和感を共有する |
| 急ぎを優先する | 手順を省略しやすくなる | 一度止まってから進める |
自動化された行動がヒヤリハットにつながる流れ
慣れた作業では、脳が過去の経験をもとに「次はこう動けばよい」と予測します。
この予測がうまく働いているときは、仕事がスムーズに進みます。
しかし、現場では毎日まったく同じ状況が続くわけではありません。人の配置、道具の位置、作業順、周囲の音、疲労の状態が少しずつ変わります。
その変化に気づかないまま、いつもの行動を続けると、ヒヤリハットにつながります。
- いつもの置き場所に道具があると思い込む
- いつもの人が確認してくれていると思う
- いつもの作業順だから問題ないと思う
- 少し急いでも大丈夫だと思う
- 危ないと感じても、前にも大丈夫だったから進める
安全教育では、この「いつも通り」という思い込みに早く気づくことが重要です。
脳の自動化を責めても安全行動は続かない
ヒヤリハットが起きたとき、「もっと注意してください」と伝えるだけでは、同じことがくり返されることがあります。
注意しようと思っていても、人は忙しいときや疲れているときに、慣れた行動へ戻りやすくなるからです。
大切なのは、脳の自動化を悪いものとして責めることではありません。
自動化が起こることを前提にして、確認行動へ戻れる仕組みを作ることです。
たとえば、次のような工夫があります。
- 作業前に「今日いつもと違うこと」を共有する
- 確認を目だけでなく声に出して行う
- 慣れた作業ほど、あえて一度止まる場面を作る
- 違和感を言いやすい声かけを決めておく
- ヒヤリハットを責める材料ではなく、次の予防に使う
このようにすると、社員を責める安全教育ではなく、行動を戻しやすい安全教育になります。
認知バイアスが確認漏れを起こすことがある
ヒヤリハットの背景には、認知バイアスが関わることがあります。
認知バイアスとは、ものごとを見たり判断したりするときに起こる、思い込みのようなものです。
たとえば、現場では次のような考えが出やすくなります。
| 現場で起こりやすい思い込み | 起こりやすい行動 | 安全教育での見直し方 |
|---|---|---|
| 前にも大丈夫だった | 今回も同じように進める | 今日の条件が同じか確認する |
| 自分は慣れている | 確認を短くする | 慣れている作業ほど声に出す |
| みんなもやっている | 危険なやり方を疑わない | 職場全体で見直す場を作る |
| 急がないと迷惑がかかる | 手順を省略する | 止まることも安全行動だと伝える |
認知バイアスは、本人の性格の問題ではありません。
誰にでも起こり得るものとして扱うことで、社員は自分の行動を見直しやすくなります。
労働安全教育で扱いたい確認行動
脳の自動化を前提にすると、安全教育で大切になるのは、確認行動をどう戻すかです。
「気をつけましょう」だけでは、忙しい現場では行動に残りにくくなります。
研修では、次のような確認行動を具体的に扱うと、現場に戻ったあとも使いやすくなります。
- 作業前に、いつもと違う点を一つ確認する
- 声に出して、手順や変更点を共有する
- 急いでいると感じたら、一度止まる
- 違和感があれば、担当外でも声をかける
- ヒヤリハット後に、個人ではなく行動の流れを見直す
確認行動は、社員個人の注意力だけに任せるものではありません。
職場の中で、確認しやすい言葉やタイミングを共有しておくことが大切です。
タニカワ久美子の企業研修で見えている現場課題
タニカワ久美子の企業研修では、労働安全教育のご相談で、「安全教育は毎年しているのに、同じようなヒヤリハットが残ります」という声を聞くことがあります。
現場で多いのは、社員がルールを知らないのではなく、慣れた作業の中で確認が浅くなっているケースです。
また、責任感の強い社員ほど、忙しいときに「止まるより早く終わらせたい」と考えてしまうことがあります。
研修では、脳の自動化や思い込みを責めるのではなく、誰にでも起こる行動のクセとして伝えます。
そのうえで、確認する、声に出す、一度止まる、違和感を共有するなど、現場で使える安全行動につなげます。
ヒヤリハットを学びに変える研修の進め方
ヒヤリハットを研修で扱うときは、個人を責めないことが大切です。
「誰が悪かったのか」だけを見ると、社員は報告しにくくなります。
安全教育では、「どの場面で脳がいつも通りに動いたのか」「どこで確認に戻れたのか」を見る方が、次の予防につながります。
- ヒヤリハットが起きた場面を短く共有する
- いつも通りだと思った点を確認する
- 確認が浅くなった理由を見る
- 忙しさ、疲労、思い込み、声かけ不足を確認する
- 次に同じ場面で使う声かけを決める
- 研修後に、現場で使えたか振り返る
この流れがあると、ヒヤリハットは叱責の材料ではなく、職場の安全行動を育てる材料になります。
脳のはたらきを知ると、安全教育は自分ごとになる
安全教育は、危険を教えるだけでは行動に残りにくいことがあります。
社員が「なぜ自分は確認を省略しそうになるのか」「なぜ慣れた作業ほど見落とすのか」を知ると、安全行動を自分の問題として考えやすくなります。
脳の自動化は、誰にでも起こります。
だからこそ、労働安全教育では、社員を責めるのではなく、慣れた行動を一度止め、確認に戻るための言葉と場面を用意することが重要です。
けんこう総研では、脳のはたらき、ヒヤリハット、確認行動、職場の声かけをつなげた労働安全教育を支援しています。
ヒヤリハットや確認漏れを、責めない安全教育に変えたいご担当者へ
慣れた作業で起こる確認漏れやヒヤリハットは、本人の注意不足だけでは防ぎきれないことがあります。脳の自動化や思い込みを前提にした安全教育は、職場の確認行動と声かけを見直すきっかけになります。