ストレス科学ラボ・用語バンク
MEDS尺度の開発研究|ユーストレスとディストレスの評価法
MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動の3つの反応から捉えるために開発されたストレス評価尺度です。
ユーストレスは前向きな行動や集中につながるストレス反応、ディストレスは疲労感や不快感、行動の停滞につながるストレス反応として整理されます。
本記事では、Pluut, Curșeu, Fodor(2022)による
“Development and Validation of a Short Measure of Emotional, Physical, and Behavioral Markers of Eustress and Distress (MEDS)”
をもとに、MEDS尺度がどのような目的で開発され、職場のストレス管理にどのような示唆を持つのかを整理します。
医療的な診断や個人評価を目的とするものではなく、人事総務・健康経営担当者が、社員研修や職場のストレス対策を考えるための研究整理記事です。

MEDS尺度は、ストレス反応を感情・身体・行動の3つの面から捉えるための研究知見です。
MEDS尺度とは何か
MEDS尺度は、ユーストレスとディストレスを区別して捉えるために開発された短い測定尺度です。
正式名称は、Markers of Eustress and Distress Scaleです。
Pluutらの研究では、ストレスを単に「ある・ない」で見るのではなく、同じストレス状況でも、人によって前向きな反応として現れる場合と、負担や不調として現れる場合がある点に注目しています。
この考え方は、職場のストレス管理でも重要です。
同じ業務量、同じ責任、同じ変化であっても、ある社員には成長機会として働き、別の社員には疲労や不安として働くことがあります。
ユーストレスとディストレスを分けて見る意味
ユーストレスは、やる気、集中、前向きな行動につながるストレス反応です。
一方、ディストレスは、不快感、疲労感、焦り、回避行動などにつながるストレス反応です。
重要なのは、ストレス要因そのものを「良い」「悪い」と決めつけないことです。
同じ出来事でも、本人の状態、職場環境、支援体制、経験、体調によって、ユーストレスにもディストレスにもなり得ます。
そのため、職場のストレス対策では、「ストレスを全部なくす」だけでは不十分です。
社員が前向きに取り組める負荷と、心身を消耗させる負荷を分けて見る必要があります。
MEDS尺度の特徴
MEDS尺度の特徴は、ユーストレスとディストレスを、感情・身体・行動の3つの側面から捉える点にあります。
| 評価する側面 | ユーストレスで見られる反応 | ディストレスで見られる反応 |
|---|---|---|
| 感情 | 前向きさ、活力、挑戦への意欲 | 不安、不快感、焦り、落ち込み |
| 身体 | 適度な覚醒、集中しやすい状態 | 疲労感、緊張、体調不良、消耗感 |
| 行動 | 取り組み、行動開始、課題への集中 | 回避、停滞、ミスの増加、対人摩擦 |
このように整理すると、ストレスを単なる気分の問題としてではなく、職場で観察しやすい変化として捉えることができます。
研究では何が検証されたのか
Pluutらの研究では、MEDS尺度について3つの検証研究が行われました。
研究では、学業場面や組織場面において、ユーストレスとディストレスを感情的、身体的、行動的なマーカーから測定できるかが検討されています。
論文では、MEDSが18項目から構成され、ユーストレスとディストレスの複数側面を短く測定する尺度として提示されています。
また、研究全体を通じて、尺度の信頼性や妥当性が検討されています。
この研究の意義は、ユーストレスとディストレスを抽象的な概念のままにせず、職場や教育場面で検討しやすい評価枠組みにした点にあります。
職場のストレス管理でどう活かせるか
人事総務・健康経営担当者がMEDS尺度の考え方から学べるのは、ストレスを「強さ」だけで見ないという視点です。
職場では、同じ負荷でも、社員によって反応が異なります。
新しい仕事を任されたとき、やりがいを感じて集中できる社員もいれば、不安や疲労が強まり、行動が止まってしまう社員もいます。
そのため、職場のストレス管理では、次のような見方が必要になります。
- 社員が前向きに取り組めている負荷なのか
- 疲労感や不安が強まり、行動が止まっている負荷なのか
- 身体の緊張や睡眠不調が出ていないか
- ミス、回避、対人摩擦などの行動変化が出ていないか
- 管理職が「成長機会」と思っている業務が、本人には過負荷になっていないか
このように見ることで、ストレス対策は単なるメンタルヘルス不調対応ではなく、職場環境、業務設計、管理職教育とつながります。
タニカワ久美子の企業研修ではどう扱うか
タニカワ久美子の企業研修では、ユーストレスとディストレスを「良いストレス」「悪いストレス」という単純な二分法だけでは扱いません。
同じ出来事でも、社員の状態や職場環境によって、成長につながる負荷にも、消耗につながる負荷にも変わることを伝えます。
社員本人には、自分のストレス反応を感情、身体、行動の変化として見直す視点を伝えます。
管理職には、部下の反応を「やる気がある・ない」だけで判断せず、疲労感、表情、ミス、回避行動、相談のしやすさまで含めて見る視点を伝えます。
現場では、管理職が「よかれと思って任せた仕事」が、本人にとってはディストレスになっているケースがあります。
一方で、適切な支援や見通しがあると、同じ負荷がユーストレスとして働き、成長や達成感につながることもあります。
この違いを整理できると、健康経営担当者は、ストレスを単に減らす施策ではなく、働きやすさと成長機会を両立する研修設計につなげやすくなります。
本ページの位置づけ
本ページは、MEDS尺度の開発研究をもとに、ユーストレスとディストレスを評価する考え方を整理した研究参照記事です。
MEDS尺度そのものの詳しい解説は、
MEDS尺度とは
で整理しています。
また、ユーストレスの全体像については、
ユーストレス(良性ストレス)とは
をご参照ください。
職場のストレスを、単なる不調対応ではなく、成長につながる負荷と消耗につながる負荷に分けて整理したい場合は、ストレスマネジメント研修をご覧ください。
引用・参考文献
Pluut, H., Curșeu, P. L., & Fodor, O. C. (2022).
Development and Validation of a Short Measure of Emotional, Physical, and Behavioral Markers of Eustress and Distress (MEDS)
.
Healthcare, 10(2), 339.