ラインケア・管理職支援
女性管理職のストレスをラインケアで見逃さない健康経営
女性管理職がいつも通り出勤していると、「大丈夫そう」と見えてしまうことがあります。
でも、部下の相談を受け、上司に報告し、家庭のことも抱えながら、本当はかなり無理をしている場合もあります。
人事総務・健康経営担当者として、女性管理職のストレスを本人任せにしないために、どこに気づけばよいのかを見ていきます。
女性管理職のストレスは、表に出にくい
女性管理職は、職場では「部下を支える側」と見られやすい立場です。そのため、自分自身が疲れている、気持ちに余裕がない、判断に時間がかかるといった状態になっても、周囲に相談しにくいことがあります。
特に管理職になると、部下からの相談、上司への報告、目標達成への責任が重なります。そこに家庭内の役割や介護、子育て、家事負担などが加わると、職場のストレスだけでは説明できない疲労が蓄積しやすくなります。
重要なのは、女性管理職のストレスを「女性だから弱い」という話にしないことです。問題は本人の弱さではなく、管理職でありながら支援を受けにくい構造にあります。
研究で示されている女性管理職のメンタルヘルス要因
白木渚氏の研究では、女性管理職のメンタルヘルスに影響する要因として、職業性ストレス、仕事と家庭の両立に関する負担、家庭側からのストレスなどが検討されています。
この研究から人事総務が読み取るべき点は、女性管理職の不調を職場内の仕事量だけで判断してはいけないということです。業務量、責任の重さ、相談相手の少なさ、家庭側の負担が重なったとき、本人は休まず出勤していても、本来の力を出し切れない状態になることがあります。
また、この研究では「何が最も大きな原因か」を一つに断定するよりも、複数の負担が重なってメンタルヘルスに影響する視点が重要です。健康経営の現場では、単一の原因探しではなく、負担が重なる場所を見つけることが必要になります。
プレゼンティーイズムとは何か
プレゼンティーイズムとは、出勤はしているものの、心身の不調によって本来の力を発揮できていない状態を指します。
欠勤していないため、勤怠データだけでは見えにくいのが特徴です。人事総務から見ると「休んでいないから大丈夫」と見えてしまいます。しかし実際には、集中力の低下、判断の遅れ、部下への対応の荒さ、会議での発言の減少などとして現れることがあります。
女性管理職の場合、責任感が強く、周囲に迷惑をかけたくないという意識から、体調や気持ちの不調を隠して働き続けることがあります。この状態が続くと、本人の健康だけでなく、部下への関わり方や職場全体の雰囲気にも影響します。
アブセンティーイズムとの違い
アブセンティーイズムは、健康上の問題などによって欠勤や休業が発生している状態を指します。欠勤日数として見えるため、企業側も比較的把握しやすい指標です。
一方、プレゼンティーイズムは出勤しているため、数字だけでは見落とされやすくなります。特に管理職は「自分が休むと現場が回らない」と考えやすく、不調を抱えたまま働き続けることがあります。
健康経営では、欠勤者だけを見るのでは足りません。休まずに働いている管理職の中に、実は支援が必要な人がいるという視点が必要です。
ラインケアで見たい女性管理職のサイン
女性管理職のストレスは、本人から「つらいです」と言葉にされる前に、仕事の変化として表れることがあります。
- 以前より判断に時間がかかる
- 会議で発言が少なくなる
- 部下への言い方が強くなる
- 細かいミスや確認漏れが増える
- 休憩を取らず、常に仕事を抱えている
- 家庭や介護の事情を話しにくそうにしている
- 周囲に頼らず、一人で抱え込んでいる
これらは、本人の能力低下と決めつけるものではありません。むしろ、負担が重なりすぎているサインとして見る必要があります。
ラインケアでは、いきなり「メンタル不調ですか」と聞くのではなく、「最近、判断が必要な仕事が重なっていませんか」「一人で抱えている仕事はありませんか」「休める時間は取れていますか」と、業務の負担から確認する方が現場では受け入れられやすくなります。
人事総務が健康経営で取るべき支援
女性管理職への支援では、本人だけにストレス対処を求めないことが重要です。セルフケアだけで済ませると、「自分で何とかしてください」というメッセージになり、さらに相談しにくくなることがあります。
人事総務がまず確認したいのは、女性管理職に対して、相談先、業務調整、休みやすさ、上司からの支援が用意されているかどうかです。
たとえば、部下の相談を受ける立場の管理職にも、さらに上位者へ相談できる場が必要です。また、家庭側の事情を抱える社員に対して、制度はあっても実際に使いにくい雰囲気がある場合は、制度があるだけでは支援になりません。
健康経営として女性管理職を支えるには、「制度を作る」だけでなく、「使っても不利にならない」と本人が感じられる職場の空気が必要です。
タニカワ久美子の企業研修で扱う視点
タニカワ久美子の企業研修では、女性管理職だけを特別扱いするのではなく、管理職が抱えやすい「弱音を見せにくいストレス」を扱います。
企業研修の現場では、女性管理職から「自分がしっかりしなければいけない」「部下の相談は聞くが、自分の相談先がない」という声が出ることがあります。人事総務の担当者からも、女性管理職本人が休まず働いているため、どこまで支援が必要なのか見えにくいという相談を受けます。
そのため研修では、女性管理職本人に我慢を求めるのではなく、上司や人事総務がどのような変化に気づくかを具体的に扱います。出勤しているかどうかだけでなく、判断の遅れ、表情、部下への関わり方、会議での変化など、日常業務の中で見えるサインを確認します。
女性管理職のストレスを早めに見つけることは、本人を守るだけではありません。部下へのラインケアの質を守り、職場全体の安心感を保つことにもつながります。
健康経営では、休んでいない人にも目を向ける
健康経営では、欠勤者や休職者への対応だけでなく、休まずに働き続けている人の状態を見ることが重要です。
特に女性管理職は、周囲から頼られる立場にあるため、本人の不調が見過ごされやすくなります。プレゼンティーイズムの視点を持つことで、人事総務は「出勤しているから問題ない」という見方から一歩進むことができます。
ラインケアで大切なのは、不調を見つけて責めることではありません。負担が重なる前に声をかけ、本人が相談しやすい状態を作ることです。
まとめ
女性管理職のストレスは、欠勤として表れる前に、プレゼンティーイズムとして職場に残ることがあります。
本人が出勤していても、集中力、判断、部下への関わり方、表情や発言量に変化が出ている場合は、支援が必要なサインかもしれません。
人事総務・健康経営担当者は、女性管理職を「支える側」とだけ見ず、支援を受けるべき社員としても見る必要があります。管理職が安心して相談できる職場は、部下にとっても安心して働ける職場になります。
参考文献
白木渚「女性管理職のメンタルヘルスに影響を与える因子の検討:職業性ストレスからの考察」Nagoya Journal of Medical Science, 2020.