健康経営戦略・KPI・エビデンス
健康経営に取り組み、制度も研修も整えた。それなのに従業員から「何が変わったのか分からない」と言われることがあります。
会社が施策を実施したことと、社員がそのメリットを実感することは同じではありません。相談窓口を知らない、知っていても使いにくい、利用しても働きやすさが変わらない。この違いを見分けなければ、施策を増やしても従業員には届きにくいままです。
この記事では、健康経営の従業員メリットが「認知・利用・実感」のどこで止まっているのかを見極め、既存施策の何を見直すべきかを整理します。対象は人事総務・健康経営担当者です。健康経営研修の実施方法や導入設計ではなく、従業員から見た施策の届き方を扱います。

健康経営の従業員メリットは「制度があること」とは違う
健康経営では、健康診断後の支援、ストレス対策、相談窓口、休暇制度など、さまざまな施策を用意します。しかし、それらが存在するだけでは、社員にとってのメリットとは言い切れません。
従業員の立場で確かめたいのは、制度名を知っているかではなく、仕事や生活の中で必要な支援にアクセスでき、以前より働きやすいと感じられるかです。
| 会社が用意したもの | 従業員が感じるメリットの例 | 社員に確認したいこと |
|---|---|---|
| 健康相談・保健指導 | 困ったとき、安心して相談できる | 相談できる内容や利用方法を知っているか |
| 休暇・休憩の制度 | 必要なときに無理なく休める | 実際に利用しやすい雰囲気があるか |
| ストレス対策 | 困りごとを一人で抱え込まずに済む | 負担を感じたときに頼れる人や窓口があるか |
| 管理職による日常の配慮 | 体調や業務負荷について話しやすい | 困りごとを伝えたときに相談・調整につながるか |
| 健康情報や研修 | 自分に役立つ情報や方法を選べる | 情報が自分の働き方に関係すると感じるか |
ここでいうメリットは、すべての社員に同じ形で表れるものではありません。勤務形態、職種、家庭状況、体調によって、必要な支援も実感の仕方も異なります。
健康経営が伝わらない理由は「認知・利用・実感」の3段階で見分ける
社員にメリットが届かないとき、「周知が足りない」と決めつけると対応を誤ります。まず、どの段階でつまずいているかを確認します。
| 止まっている段階 | 従業員の声・反応の例 | 優先して確認すること |
|---|---|---|
| 認知 | 「そんな制度があると知らなかった」 | 案内が届く経路、説明の分かりやすさ、相談先の見つけやすさ |
| 利用 | 「知っているけれど使いにくい」 | 時間の確保、上司への伝えやすさ、利用時のプライバシー、手続きの負担 |
| 実感 | 「利用したが働き方は変わらなかった」 | 本人の困りごとと施策の一致、利用後の職場の対応、継続的な使いやすさ |
認知不足なら伝え方、利用の壁なら職場条件、実感が弱いなら施策と従業員の困りごとの一致を見直します。
例えば相談窓口の利用が少なくても、相談が不要な職場とは限りません。窓口を知らないのか、相談内容が分からないのか、秘密が守られるか不安なのかによって、必要な対応は異なります。
従業員がメリットを実感するのは、日常業務のどんな場面か
健康経営の効果は、制度の名称よりも、毎日の働き方に表れることがあります。次のような場面を従業員の言葉で確かめます。
休みたいときに休める
休暇制度があっても、仕事の引き継ぎが難しい、周囲に遠慮する、管理職自身が休まないといった状況では、使いやすさにつながりません。「有給休暇制度を知っていますか」だけでなく、「必要なときに休めると感じますか」を確認します。
体調やストレスについて早めに相談できる
相談窓口の設置と、相談しやすさは別です。社員が相談内容、連絡方法、情報の取扱いを理解しているか、相談後に不利益を受けないと感じられるかが重要です。
仕事の負担について声を上げられる
管理職の声かけが増えても、業務量や納期について話し合えなければ、社員の実感は変わりにくいものです。健康への配慮が、具体的な相談や仕事の調整につながっているかを見ます。
自分に合う健康行動を選べる
健康情報やセルフケアの方法が示されても、全員が同じ方法を使う必要はありません。働き方や体調に応じて選べること、自分に合わない方法を無理に続けなくてよいことも、従業員にとっての使いやすさです。
従業員の実感を確認する5つの質問
「健康経営に満足していますか」という総合評価だけでは、何を改善すればよいか分かりません。認知・利用・実感を分けた質問にすると、施策の届き方を把握しやすくなります。
| 確認の視点 | 質問例 | 回答から見直せること |
|---|---|---|
| 認知 | 体調や働き方の困りごとを相談できる窓口を知っていますか | 案内の届け方、相談先の表示 |
| 利用しやすさ | 必要なときに、休暇・休憩や相談制度を利用しやすいと感じますか | 利用を妨げる職場の条件 |
| 安心感 | 健康や仕事の負担について、不利益を心配せず相談できると感じますか | 説明不足、相談時の安心感 |
| 変化の実感 | 以前と比べて、働きやすさや相談しやすさに変化を感じますか | 実感が届いている領域 |
| 改善希望 | 現在の健康支援で、使いにくい点や改善してほしい点は何ですか | 既存施策の修正優先順位 |
回答方法は「分からない」「利用したことがない」も選べるようにします。利用経験がない人へ利用後の満足度を尋ねても、意味のある比較にはなりません。
自由記述は個人や少人数部署が特定されない範囲で扱い、健康状態の詳細や診断名を人事評価用に集めないことが前提です。
数値と従業員の声をどう組み合わせるか
社員の実感は主観的な情報ですが、だからといって軽視するものではありません。一方で、「働きやすくなった」という回答だけで、欠勤や離職の変化まで説明できるわけでもありません。
実感に関する回答を中心に置き、施策の利用状況や職場の情報を補助的に組み合わせます。
| 従業員の実感 | 合わせて確認する情報 | 誤って判断しないための視点 |
|---|---|---|
| 休みやすくなったか | 休暇取得状況、残業や業務負荷に関する職場の声 | 休暇日数だけで休みやすさを判断しない |
| 相談しやすくなったか | 窓口の認知状況、利用手順に関する意見、利用傾向 | 相談件数の増減だけで良し悪しを決めない |
| 仕事の負担を伝えやすくなったか | 業務調整の機会、上司への相談に関する声 | 声かけの回数と安心感を同一視しない |
| 支援を利用して役立ったか | 利用者が感じた困りごとの変化、使いにくい点 | 満足度の高さだけで全社員への到達を判断しない |
部署や職種による違いも確認できますが、回答者が少ない集団では比較や公表の方法に注意が必要です。欠勤・休職・離職などの長期指標は別の要因の影響も大きいため、単独で健康施策の効果と結びつけません。
従業員にメリットが届いているか、社内で整理したいご担当者様へ
施策の実施状況だけでなく、認知・利用しやすさ・実感のどこに課題があるのかを確認する際は、「健康経営KPI・施策評価設計シート」をご活用ください。
タニカワ久美子が研修現場で確認している「会社の施策」と「社員の実感」のずれ
タニカワ久美子の企業研修では、社員から「会社がいろいろ取り組んでいるのは知っているが、自分の仕事にどう関係するのか分からない」といった声が挙がることがあります。一方で、人事総務は健診、ストレス対策、相談窓口などを継続して運用しています。
このとき、会社側が実施した施策を並べるだけでは、従業員の疑問に答えられません。社員にとって必要なのは、「困ったらどこへ相談できるか」「実際に休みやすいか」「負担を伝えたらどう対応してもらえるか」といった日常に即した情報です。
研修現場で聞かれる声は、すべての従業員を代表する統計ではありません。それでも、制度の説明と受け止め方のずれを見つけ、社内で確かめる質問を考える手がかりになります。
従業員のメリット実感が弱いとき、何から見直すか
施策を増やす前に、社員の回答から改善の対象を絞ります。
| 確認できた課題 | 先に見直すこと | 見直し後に確かめること |
|---|---|---|
| 制度を知らない社員が多い | 案内経路、説明文、相談先へのアクセス | 必要な情報を見つけられるようになったか |
| 知っているが利用しにくい | 時間、手続き、上司への伝え方、利用時の安心感 | 使いにくい理由が減ったか |
| 利用してもメリットを感じにくい | 制度の内容と本人の困りごとのずれ、利用後の対応 | 必要な支援として役立ったか |
| 部署や職種で実感が異なる | 業務特性、勤務時間、制度へのアクセスの差 | 特定の働き方だけが取り残されていないか |
4616で決めるのは、「社員に届いていないメリットは何か」「その原因は認知・利用・実感のどこか」「既存施策の何を直すか」です。研修を何回実施するか、誰にどの内容を教えるかといった導入設計は、別の判断になります。
研修そのものの失敗原因、対象者の分け方、管理職支援、導入前の実装条件を見直す場合は、健康経営研修が定着しない原因|失敗を防ぐ導入設計をご確認ください。
よくある質問|健康経営の従業員メリット
Q. 健康経営の制度を知っている社員が多ければ、メリットも伝わっていますか?
制度を知っていることは第一段階です。必要なときに利用できるか、利用によって困りごとへの支援を受けられるかを分けて確認します。
Q. 相談窓口の利用が少ないのは、社員に必要とされていないからですか?
利用件数だけでは判断できません。窓口を知らない、相談内容が分からない、利用への不安があるなど、別の理由が考えられます。まず社員の認知と利用しやすさを確かめます。
Q. 従業員のメリット実感は、満足度アンケートだけで把握できますか?
満足度だけでは改善箇所が特定しにくいため、制度の認知、利用しやすさ、安心感、働きやすさの変化、改善希望を分けて尋ねます。結果は個人の評価ではなく、職場や制度の改善に利用します。
まとめ|健康経営の従業員メリットは、社員に届いているかで判断する
健康経営を実施したことと、従業員がメリットを実感したことは別です。認定や施策数では見えない課題が、制度を知らない、知っていても使えない、使っても変化を感じないという声に表れます。
人事総務・健康経営担当者は、認知・利用・実感を分けて確認し、社員の声と職場の状況を合わせて、いまある施策のどこを見直すかを決めることが重要です。
けんこう総研では、健康経営の取り組みを従業員の実感や職場改善につなげるための見直し・フォローアップを支援しています。
文責:タニカワ久美子
\n著者・実績・研修依頼
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。