ユーストレス(良性ストレス)
前向きな社員に任せ続けてよいか|ユーストレスを管理職判断で誤らないために
前向きに見える社員へ、管理職がどこまで仕事を任せ続けてよいのか。
この判断に迷う職場があります。
本人は「大丈夫です」「やります」「問題ありません」と答えている。管理職から見ると、責任感があり、成長機会を受け止めているように見える。人事総務から見ても、すぐに不調が表れているわけではない。
けれども、その前向きさをユーストレスと判断してよいとは限りません。
ユーストレスは、成長や集中、達成感につながる良性のストレスです。ただし、職場で扱う場合は、本人の気持ちだけで判断できません。
負荷が適度か。本人に裁量があるか。相談先があるか。回復の機会があるか。管理職が状態を見ているか。
これらが欠けたまま「本人が前向きだから大丈夫」と判断すると、成長機会ではなく、疲労の見落としになることがあります。
この記事では、ユーストレスの定義解説ではなく、前向きに見える社員へ管理職が仕事を任せ続けてよいかという判断課題に絞って整理します。
前向きに見える社員ほど負荷が見えにくい
職場で見落とされやすいのは、明らかに困っている社員だけではありません。
むしろ、責任感が強く、返事が早く、頼まれた仕事を引き受ける社員ほど、負荷が見えにくくなります。
管理職は「任せられる社員」と見ます。本人も「期待されているなら応えたい」と考えます。人事総務からも、問題が表面化していないため、支援対象として認識されにくいことがあります。
しかし、前向きに見えることと、健康的に負荷を受け止めていることは同じではありません。
退勤後も仕事が頭から離れない。確認漏れが増える。相談が減る。表情が硬くなる。休憩を取らなくなる。小さなミスを自分だけで抱え込む。
こうした変化がある場合、本人の前向きさの下に、疲労や緊張が蓄積している可能性があります。
違和感は「大丈夫です」の後に残る
タニカワ久美子の研修現場でも、管理職から「本人が大丈夫と言っていたので任せていました」という声を聞くことがあります。
一方で、社員側からは「大丈夫ですと言うしかなかった」「期待されていると思うと断れなかった」「相談しても仕事量が変わらないなら言いにくい」という反応が出ることがあります。
ここに、職場の違和感があります。
管理職は成長機会として任せている。本人は期待に応えようとして引き受けている。人事総務は、本人が前向きに見えるため、危険な状態とは判断しにくい。
それぞれの見方は間違いではありません。
しかし、同じ負荷を見ていても、立場によって意味づけが変わります。
管理職にとっては育成でも、本人にとっては断れない負担になっていることがあります。人事総務にとっては活躍人材でも、社内支援者から見ると疲労のサインが出ていることがあります。
判断課題は成長機会と丸投げの境界にある
ユーストレスを職場で活かすときの判断課題は、成長機会と丸投げの境界です。
新しい仕事を任せること自体が悪いわけではありません。適度な緊張や挑戦は、集中、学習、達成感につながることがあります。
問題は、任せたあとの支援が曖昧なまま、本人の前向きさだけに頼ってしまうことです。
目標は見えているのか。進め方に裁量はあるのか。相談してよい相手は明確なのか。失敗したときに責められない状態があるのか。終わったあとに回復する時間はあるのか。
これらがない負荷は、本人が「やります」と言っていても、ユーストレスではなくディストレスに近づきます。
特に、徹夜明けや深夜残業後の高揚感を、良い集中状態と見なしてはいけません。
眠っていないのに元気に見える。まだ働けそうに見える。本人も「大丈夫です」と言う。
この状態は、ユーストレスではありません。疲労感が鈍り、判断力や注意力が落ちている危険信号として扱う必要があります。
「本人が大丈夫と言っている」で終わらせない
健康経営やストレス管理で重要なのは、負荷の責任を本人の前向きさに置かないことです。
「本人がやりたいと言った」
「本人が大丈夫と言った」
「成長のためには必要だった」
この言葉だけで判断してしまうと、職場側が見るべき責任が抜け落ちます。
管理職には、仕事を任せる責任だけでなく、任せた負荷が過重になっていないかを見る責任があります。
人事総務には、研修や制度を入れるだけでなく、管理職が負荷を見誤りやすい場面を拾い上げる責任があります。
社内支援者や専門職には、本人の訴えだけでなく、表情、相談頻度、休憩、退勤状況、ミスの増加などから、見えにくい負担を確認する役割があります。
ユーストレスを職場で扱うなら、社員本人の前向きさだけでは判断できません。
社内の複数の立場が、同じ負荷をどう見るかをそろえる必要があります。
前向きな返事の裏に、疲れを隠していないかを見る
前向きな社員ほど、負担を言葉にしないことがあります。
期待されている。評価されたい。迷惑をかけたくない。弱いと思われたくない。自分が断ると周囲に負担が回る。
このような感情があると、本人は困っていても「大丈夫です」と答えます。
管理職が「無理なら言って」と声をかけていても、仕事量や期限が変わらない職場では、社員は本音を言いにくくなります。
ここで見落とされるのは、業務量そのものだけではありません。
期待に応え続ける心理的負担、相談しても変わらないという諦め、休んだ後の仕事を想像する不安、任された仕事を返せない責任感です。
この負担は、数値だけでは見えにくいものです。
だからこそ、ユーストレスを健康経営に取り入れる場合は、前向きに見える社員の奥にある沈黙を、職場の判断課題として扱う必要があります。
任せ続けるか、負荷を調整するかを管理職だけで抱えない
任せ続けるか、負荷を調整するかを管理職だけで抱えない
ユーストレス研修が必要になる理由は、用語を覚えるためではありません。
前向きに見える社員へ任せ続けてよいのか、管理職と人事総務が同じ基準で判断できるようにするためです。
職場では、同じ状態を見ても、立場によって受け止め方が変わります。
管理職は「成長してほしい」と考えます。人事総務は「活躍人材」と見ます。本人は「期待に応えたい」と感じます。社内支援者は「疲労が蓄積しているのでは」と見ます。
この見方がそろわないままでは、ユーストレスは「前向きに頑張ろう」という言葉に流れやすくなります。
けんこう総研の研修では、ユーストレスを本人の気持ちだけで判断しません。
業務量、裁量、相談先、回復機会、管理職の声かけを合わせて見ます。そして、成長機会として任せてよい負荷なのか、職場側が調整すべき負荷なのかを、管理職と人事総務が同じ言葉で確認できるようにします。
前向きな社員に任せ続けてよいかどうかは、本人の返事だけでは判断できません。
この職場課題は、社内だけでは「本人が大丈夫と言っている」「成長のために必要」で終わりやすいテーマです。
ユーストレスを健康経営や管理職研修に取り入れるなら、前向きさの裏にある負荷を見誤らないための研修設計が必要です。
参考文献
- Le Fevre, M., Matheny, J., & Kolt, G. S. (2003). Eustress, distress, and their interpretation in primary and secondary stress appraisal. Journal of Managerial Psychology, 18(7), 726–744.
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。