ストレス管理
ユーストレスの意味と企業での効果|健康経営に活かす考え方
職場のストレス対策というと、「できるだけストレスを減らすこと」が大切だと思われがちです。
もちろん、過度なストレスや長く続く不安は、心身の不調につながるため注意が必要です。しかし実際の職場では、まったくストレスのない状態で働くことはほとんどありません。
新しい仕事を任される、期限までに資料を仕上げる、部下や同僚と協力する、昇進や異動で役割が変わる。こうした場面には、少なからず緊張や負荷があります。
一方で、その緊張があるからこそ集中できたり、達成感を得られたり、自分の成長を実感できたりすることもあります。
このように、心身をただ疲れさせるのではなく、前向きな行動や成長につながるストレスをユーストレスと呼びます。
この記事では、ユーストレスの意味を整理しながら、職場での負荷を成長や行動につなげるために、人事総務・管理職がどのような視点を持つべきかを解説します。
ユーストレスは、職場の負荷を成長につなげるための考え方です。
ユーストレスの意味
ユーストレスとは、簡潔にいえば成長や前向きな行動につながるストレスのことです。
日本では「ストレス」と聞くと、疲れ、不安、体調不良、メンタル不調など、悪いイメージを持たれやすい傾向があります。しかし、ストレスはすべてが有害とは限りません。
たとえば、次のような経験はありませんか。
- 大事な会議の前は緊張するけれど、準備に集中できた
- 新しい仕事を任されて不安もあったが、終わった後に自信がついた
- 期限があることで、かえって優先順位を決めやすくなった
- 少し難しい課題に取り組んだことで、自分の成長を感じた
このようなストレスは、ただ人を追い詰めるものではありません。適度な緊張感や責任感が、集中力、学習意欲、達成感につながることがあります。
この「前向きに働くストレス」が、ユーストレスです。
ただし、ユーストレスは「楽しいストレス」や「我慢すべきストレス」という意味ではありません。本人が対処できる範囲の負荷であり、周囲の支援や回復の機会があるときに、成長や行動につながりやすくなります。
ユーストレスとディストレスの違い
ユーストレスとよく対比される言葉に、ディストレスがあります。
ディストレスとは、心身を消耗させ、不調やパフォーマンス低下につながるストレスです。一般的に「ストレスがつらい」「もう限界に近い」と感じる状態は、ディストレスに近いと考えられます。
| ユーストレス | ディストレス |
|---|---|
| 挑戦や成長につながる | 不安や消耗につながる |
| 緊張はあるが、対応できそうだと感じる | 負担が大きく、どうにもならないと感じる |
| 集中力や達成感が高まりやすい | 疲労、不眠、ミス、意欲低下につながりやすい |
| 周囲の支援や見通しがある | 支援が少なく、先が見えない |
| 回復する時間が確保されている | 緊張や疲労が長く続いている |
大切なのは、同じ出来事でも、人によってユーストレスにもディストレスにもなり得るという点です。
たとえば「新しい仕事を任される」という出来事は、ある人にとっては成長の機会になります。しかし、業務量が多すぎたり、相談できる上司がいなかったり、評価への不安が強すぎたりすると、同じ出来事が大きな負担になります。
つまり、ストレスの良し悪しは、出来事そのものだけで決まるのではありません。本人の受け止め方、経験、裁量、周囲の支援、休息できる環境によって変わります。
企業でユーストレスが必要になる理由
近年、企業では健康経営、人的資本経営、働き方改革、メンタルヘルス対策など、従業員の健康と働きがいを両立させる取り組みが重視されています。
その一方で、人事総務の現場では、次のような課題が起こりやすくなっています。
- ストレスチェックは実施しているが、その後の職場改善につながりにくい
- 管理職が部下の不調サインに気づくのが遅い
- 若手や中堅社員が、少しの負荷でも強い不安を感じやすい
- 一方で、成長のために必要な挑戦まで避けられてしまう
- 「ストレスを減らす」だけでは、職場の活力が上がらない
このような課題を考えると、ストレスをすべて悪いものとして扱うだけでは不十分です。
職場には、減らすべきストレスと、成長につながるように整えるべきストレスがあります。その違いを見分ける考え方として、ユーストレスは企業の健康経営でも重要になります。
人事総務にとって重要なのは、ユーストレスを個人の前向きさとして扱うのではなく、職場設計の問題として扱うことです。
ユーストレスが職場にもたらす効果
ユーストレスは、個人の気分を前向きにするだけの考え方ではありません。職場づくりや人材育成にも関係します。
適度なユーストレスが働くと、次のような効果が期待できます。
- 仕事への集中力が高まりやすくなる
- 新しい業務や役割に前向きに取り組みやすくなる
- 達成感や自己効力感が生まれやすくなる
- チーム内で相談や協力が起こりやすくなる
- 成長実感が、働きがいやエンゲージメントにつながりやすくなる
ただし、ここで注意が必要です。
ユーストレスは、単に「社員にもっと負荷をかければよい」という話ではありません。負荷だけを増やせば、むしろディストレスになり、不調や離職リスクを高める可能性があります。
ユーストレスとして働かせるには、負荷と支援のバランスが必要です。
ユーストレスを活かすための条件
職場でユーストレスを活かすには、従業員が「この負荷なら取り組めそうだ」「困ったときに相談できる」「努力の方向がわかる」と感じられる環境が必要です。
1. 目標が明確であること
何を目指せばよいのかわからないまま忙しくなると、ストレスは不安に変わります。
目標、期限、優先順位、期待されている役割が明確であれば、従業員は自分の行動を整理しやすくなります。
2. 相談できる人がいること
同じ業務量でも、相談できる上司や同僚がいるかどうかで、ストレスの感じ方は大きく変わります。
特に、初めての業務、異動直後、昇進直後、繁忙期には、相談しやすい環境があるかどうかが重要です。
3. 本人に一定の裁量があること
責任だけが大きく、やり方を自分で工夫できない状態では、ストレスは重くなります。
仕事の進め方、優先順位、相談のタイミングなどに一定の裁量があると、従業員は負荷を「自分で扱えるもの」と感じやすくなります。
4. 休息と回復が確保されていること
短期的な緊張は、必ずしも悪いものではありません。しかし、緊張が続き、睡眠や休日でも回復できない状態になると、ディストレスに変わります。
人事総務の現場では、残業時間だけでなく、疲労感、表情、ミスの増加、相談の減少なども合わせて見る必要があります。
人事総務が見落としやすい注意点
ユーストレスを考えるとき、人事総務担当者が特に注意したいのは、本人が「大丈夫です」と言っていても、実際には無理をしている場合があるという点です。
責任感の強い社員ほど、周囲に迷惑をかけないように頑張りすぎることがあります。管理職や中堅社員、対人支援の多い職場では、表面上は落ち着いて見えても、内側では疲労が蓄積していることがあります。
特に注意すべきなのは、挑戦、成長、期待という言葉で、過重な負荷を正当化してしまうことです。ユーストレスは、本人が対処可能だと感じられる範囲で成り立ちます。支援、裁量、回復が不足している状態では、同じ負荷でもディストレスに変わります。
次のような変化がある場合は、ユーストレスではなくディストレスに近づいている可能性があります。
- 以前より表情が硬くなった
- 小さなミスや確認漏れが増えた
- 相談や雑談が減った
- 睡眠不足や疲労感を口にするようになった
- 急に「大丈夫です」「問題ありません」と言うことが増えた
- 期限前に極端に焦る、または仕事を先延ばしする
職場のストレス対策では、本人の努力だけに任せないことが大切です。人事総務、管理職、産業保健スタッフが、同じ視点で従業員の状態を見られるようにしておく必要があります。
健康経営でユーストレスを活かす方法
健康経営でユーストレスを活かすには、ストレスチェックの結果を「高ストレス者の確認」だけで終わらせないことが重要です。
たとえば、次のような視点で職場を見直すことができます。
- どの部署で負荷が高くなっているのか
- その負荷は一時的なものか、慢性的なものか
- 管理職は部下の状態を把握できているか
- 相談しやすい雰囲気があるか
- 挑戦が成長につながる支援体制になっているか
- ストレスチェック後の職場改善が毎年同じ内容になっていないか
ユーストレスの考え方を取り入れると、健康経営は「不調者を減らす対策」だけではなく、「従業員が力を発揮しやすい職場づくり」へ広がります。
これは、人事総務担当者にとって大きな意味があります。健康経営の取り組みを、福利厚生や制度運用だけでなく、管理職教育、職場改善、人材育成とつなげて考えられるようになるためです。
管理職研修で扱うべき理由
ユーストレスとディストレスの違いは、資料を読んだだけでは現場に定着しにくいテーマです。
特に管理職には、次のような判断が求められます。
- 部下にとって必要な挑戦なのか、過重な負担なのかを見分ける
- 「頑張れ」と励ます場面と、負荷を調整する場面を分ける
- 不調のサインを早めに把握する
- 面談で、本人の受け止め方や不安を確認する
- 職場全体の負荷と支援のバランスを見る
管理職がこの視点を持たないまま「成長のためだから」「期待しているから」と負荷をかけ続けると、本人の状態を見誤る可能性があります。
一方で、すべての負荷を避けるだけでは、従業員の成長機会も失われます。管理職研修では、負荷をなくすのではなく、負荷をどう設計し、どう支援し、いつ調整するかを学ぶ必要があります。
従業員向け研修での活用
従業員向け研修では、自分のストレスを「悪いもの」と決めつけるのではなく、今の負荷が成長につながっているのか、消耗につながっているのかを振り返る視点が必要です。
同じ緊張でも、目標が明確で、相談できる相手がいて、休息が取れている場合は、前向きな行動につながりやすくなります。
一方で、何を求められているのかわからない、相談できない、休めない、失敗が許されないと感じる状態では、ストレスはディストレスに変わりやすくなります。
この視点があると、ストレス対策は単なる注意喚起ではなく、自分の働き方を整える実践的な学びになります。
ユーストレスの学術的背景
ユーストレスという考え方は、ストレス研究で知られるHans Selyeの理論に基づいています。Selyeは、ストレスを一律に悪いものとしてではなく、適応反応として捉える視点を示しました。
その後、職業性ストレス研究では、同じストレス要因であっても、本人の認知、意味づけ、対処可能性、周囲の支援によって、前向きなストレスにも有害なストレスにもなり得ることが議論されてきました。
また、LazarusとFolkmanのストレス認知評価理論では、人が出来事をどのように受け止め、対処できると感じるかが、ストレス反応に大きく関わると考えられています。
つまり、ユーストレスを職場で考える場合も、「どの仕事が良いストレスか」と単純に分けるのではなく、本人の受け止め方、支援、裁量、回復可能性を合わせて見る必要があります。
ユーストレスの定義や理論背景をさらに体系的に確認したい場合は、ユーストレス(良性ストレス)とは|最新研究・実務への応用で詳しく整理しています。
よくある質問
Q1. ユーストレスは、良いストレスという意味ですか?
はい。ただし、「楽しいストレス」という意味ではありません。緊張や負荷があっても、本人の成長、集中、達成感、行動改善につながるストレスをユーストレスと呼びます。
Q2. ユーストレスなら、社員に負荷をかけてもよいのですか?
いいえ。ユーストレスは、負荷と支援のバランスが取れているときに成り立ちます。負荷だけを増やすと、ディストレスになり、疲労や不調につながる可能性があります。
Q3. 人事総務は、何から取り組めばよいですか?
まず、ストレスチェック後の対応を「高ストレス者対応」だけで終わらせず、職場ごとの負荷、支援、相談体制、管理職の関わり方を見直すことが大切です。
Q4. 管理職研修では、どのように活用できますか?
管理職が、部下の負荷を「成長につながる挑戦」と「健康リスクになる過重負荷」に分けて見られるようにすることが重要です。面談、目標設定、業務配分、早期相談の質を高める研修に活用できます。
Q5. ユーストレスと健康経営はどのように関係しますか?
健康経営では、従業員の不調を防ぐだけでなく、力を発揮しやすい職場をつくることが求められます。ユーストレスの考え方は、負荷をすべて悪いものとして扱うのではなく、成長につながる負荷と健康リスクになる負荷を見分ける視点として活用できます。
まとめ:ユーストレスは負荷を成長に変える職場設計の考え方
ユーストレスとは、成長や前向きな行動につながるストレスのことです。適度な緊張や責任感は、集中力、達成感、自己効力感につながることがあります。
ただし、ユーストレスは単に負荷を増やせば生まれるものではありません。目標の明確さ、相談できる環境、本人の裁量、休息と回復の機会があって初めて、負荷は成長につながりやすくなります。
企業の健康経営では、ストレスを減らすだけでなく、どの負荷を減らすべきか、どの負荷を支援によって成長機会に変えられるかを見分けることが重要です。
人事総務・管理職がユーストレスとディストレスの違いを理解することで、ストレスチェック後の職場改善、管理職面談、人材育成、従業員のセルフケアをより実践的に設計できます。
健康経営・ストレス管理研修への活用
けんこう総研では、ユーストレスとディストレスの違いを、健康経営、ストレスチェック後の職場改善、管理職教育、従業員向けセルフケア研修に応用しています。
ストレスを単に「減らすもの」として扱うのではなく、従業員の成長を支える負荷と、健康リスクになる負荷を見分けることで、職場改善の方向性が明確になります。
自社のストレスチェック後対応、管理職研修、健康経営施策を見直したい場合は、以下のページをご覧ください。
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参考資料
- Selye, H. (1974). Stress without distress. New York: Lippincott.
- Le Fevre, M., Matheny, J., & Kolt, G. S. (2003). Eustress, distress, and their interpretation in occupational stress. Journal of Managerial Psychology, 18(7), 726–744.
- Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, Appraisal, and Coping. Springer.
- Merino, M. D., et al. (2021). Multidimensional approach to occupational stress during COVID-19. International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(7), 3737.