ストレス管理
運動で不安は減るのか|良いストレスになる人・負担になる人
ストレス対策として、職場で軽い運動を取り入れたいと考える人事総務の担当者は多いのではないでしょうか。
運動は、気分転換や不安の軽減に役立つことがあります。体を動かすことで、気持ちが少し軽くなったり、緊張がゆるんだりする社員もいます。
ただ、職場で運動施策を行うときに気をつけたいのは、社員全員に同じ効果が出るわけではないという点です。
運動後に安心する人もいれば、息が上がることや心拍数の変化によって、かえって不安を感じる人もいます。本人が「気分が軽くなった」と感じていても、体の中で起きているストレス反応が同じように変わっているとは限りません。
この記事では、運動と不安、心理的ストレス反応の関係をもとに、人事総務・健康経営担当者が職場で運動施策を行うときに見落としやすい点を見ていきます。
運動で不安がやわらぐ人がいる
運動には、不安や緊張をやわらげる可能性があります。
体を動かすと、呼吸が深くなり、血流が変わり、筋肉のこわばりがゆるみやすくなります。その結果、気分が落ち着いたり、頭がすっきりしたりすることがあります。
仕事中に強い緊張が続いている社員にとって、短時間の軽い運動が気持ちの切り替えになることもあります。
ただし、「運動すれば必ず不安が減る」とは言い切れません。
運動の感じ方は、人によって大きく違います。運動が好きな人にとっては気分転換になりますが、運動が苦手な人、体力に不安がある人、すでに疲れが強い人にとっては、運動そのものが負担になることがあります。
職場の健康づくりでは、運動を「よいこと」として一方的にすすめるよりも、社員が自分の体調に合わせて選べる形にしておくことが大切です。
運動前後の気分は、質問紙で確認されることがある
運動が気分にどのように関係するかを調べる研究では、運動の前後に質問紙を使うことがあります。
質問紙では、「不安」「安心感」「緊張」「気分の落ち込み」などを確認します。運動前と運動後の回答を比べることで、気分がどのように変わったかを見ることができます。
ただし、質問紙で見えることには限りがあります。
たとえば、運動後に不安は少し下がっていても、同時に疲れが増えていれば、全体としては大きな変化が見えにくくなります。反対に、本人は「特に変わらない」と感じていても、緊張の一部だけが下がっている場合もあります。
これは、職場の研修後アンケートにもよく似ています。
満足度だけを見ると、「よかった」「普通だった」で終わってしまいます。けれども実際には、社員が何に安心し、何に負担を感じたのかを分けて見る必要があります。
人事総務の担当者が確認したいのは、点数の高さだけではありません。社員が研修後に自分の体調へ気づけたか、無理なく続けられる方法を見つけられたか、そこまで見ることで施策の意味がはっきりします。
不安には、その場の不安と続きやすい不安がある
不安には、その場の状況によって高まる不安と、日頃から続きやすい不安があります。
たとえば、発表前に緊張する、初めての仕事で不安になる、上司への報告前に落ち着かなくなるといったものは、その場の状況に反応した不安です。
一方で、日頃から心配が強い、物事を悪い方向に考えやすい、少しの変化でも強く不安になるという場合は、もともとの不安の感じやすさが関係していることがあります。
運動の前後で不安を見るときも、この違いを分けて考える必要があります。
職場でも同じです。社員が一時的に緊張しているのか、長く不安を抱えているのかによって、必要な支援は変わります。
短時間の運動で気分転換になる人もいれば、まずは業務量の見直しや、相談しやすい環境づくりが必要な人もいます。
運動で不安が下がる人・上がる人がいる
運動後に不安が下がる人もいれば、反対に不安が上がる人もいます。
これは、運動の効果が人によって違うことを示しています。
運動に慣れている人は、体が温まり、気分転換になりやすいかもしれません。軽く汗をかくことで、気持ちが切り替わったと感じる人もいます。
一方で、運動が苦手な人は、息が上がることや心拍数が上がることを不安として感じることがあります。人前で体を動かすことに抵抗がある人もいます。
疲れが強い社員にとっては、運動よりも休息が必要な場合もあります。
そのため、職場で運動を取り入れるときは、「全員に同じ運動をしてもらう」という形にしない方が安全です。
立って行う運動、座ってできる運動、深呼吸、休息など、いくつかの選択肢を用意しておくと、社員は自分の体調に合わせて参加しやすくなります。
体のストレス反応は、気分と同じ動きをするとは限らない
ストレスがかかったとき、体の中ではさまざまな反応が起こります。
研究では、コルチゾール、α-アミラーゼ、SIgA、CgAなどの指標が使われることがあります。これらは、体がストレスや緊張にどう反応しているかを見るための手がかりになります。
ただし、本人の気分と体の指標が、いつも同じように変化するわけではありません。
本人は「不安が減った」と感じていても、体の指標には大きな変化が出ないことがあります。反対に、気分ではあまり変化を感じていなくても、体の中では反応が起きていることもあります。
ここで大切なのは、本人の感想だけでも、数値だけでも決めつけないことです。
職場のストレス対策では、アンケート、参加後の様子、欠勤や疲労感、管理職の声かけ、業務量などを合わせて見る必要があります。ひとつの数字だけで「効果があった」「効果がなかった」と判断すると、現場の実感とずれることがあります。
運動は良いストレスにも悪いストレスにもなる
運動は、本人に合っていれば、気分転換や達成感につながります。
心や体に軽い負荷はかかっても、その負荷が回復や前向きな行動につながる場合は、ユーストレス、つまり良いストレスとして考えることができます。
一方で、運動が強すぎたり、強制されたり、体調に合っていなかったりすると、悪いストレスになることがあります。
職場では、次のような場面に注意が必要です。
- 疲れている社員に運動参加を求める
- 体力差を考えずに同じ運動を行う
- 参加しない人が目立つ形にする
- 運動が苦手な人に「健康のためだから」と強くすすめる
- 休息が必要な人に、さらに活動を求める
健康経営では、運動そのものをよいものとして見るのではなく、「その人にとって無理のない負荷かどうか」を見ることが大切です。
同じ運動でも、ある社員にはユーストレスになり、別の社員にはディストレスになることがあります。ここを分けて考えることで、職場の健康施策は押しつけではなく、社員が自分の体調に気づく機会になります。
職場で運動施策を行うときに気をつけたいこと
人事総務や健康経営担当者が運動施策を行うときは、効果だけを強調しすぎないことが大切です。
運動は役立つ可能性がありますが、社員の体調、年齢、運動経験、疲れの状態によって受け止め方が変わります。
職場では、次のような形にすると取り入れやすくなります。
- 自由参加にする
- 短時間で終わる内容にする
- 立って行う運動と座ってできる運動を選べるようにする
- 強度を選べるようにする
- 運動が苦手な人には深呼吸や休息も選択肢にする
- 参加率だけを成果にしない
職場の健康づくりは、社員を管理するためのものではありません。
社員が自分の体調に気づき、自分に合った回復方法を選べるようにするためのものです。
人事総務の担当者は、参加率や実施回数だけでなく、「無理なく続けられる内容だったか」「参加しない社員にも配慮できていたか」を見ておきたいところです。
タニカワ久美子が企業研修で見てきたこと
タニカワ久美子の企業研修でも、運動を取り入れたストレス対策は評価されています。座学だけではなく、全員で実際にできる軽い運動がある点を、人事総務の担当者から評価されています。
ただし、現場には「体を動かすことが好きな社員」と「人前で動くことに抵抗がある社員」が同じ場所にいます。
疲れている部署では、健康のための活動であっても、追加の予定として負担に感じられることがあります。人事総務の担当者からも、「よい施策だとは思うけれど、忙しい部署にどう案内すればよいか迷う」という声を聞くことがあります。
そのため研修では、運動を一律にすすめるのではなく、座ったままできる動き、呼吸を整える方法、短い休息の取り方などを組み合わせて伝えています。
大切なのは、社員に「やらなければならない」と感じさせることではありません。自分の状態に気づき、「今日は軽く動く」「今日は休む」「呼吸だけ整える」と選べるようにすることです。
人事総務が確認したい職場の困りごと
運動と不安の関係は、個人の健康習慣だけで終わらせないことが大切です。
職場では、次のような困りごととして表れることがあります。
- ストレス対策として運動をすすめても、参加する人が限られる
- 運動が苦手な社員ほど、健康施策から遠ざかってしまう
- 疲れている部署に、追加のイベント参加が負担になっている
- 研修後にセルフケア行動が続かない
- アンケートの満足度は高いが、現場行動が変わらない
このような場合は、「社員の意識が低い」と考える前に、内容が現場に合っているかを見直す必要があります。
運動を入れるなら、休憩、睡眠、相談、業務量、管理職の声かけと合わせて考えることが大切です。
運動施策だけを単独で行うよりも、日々の働き方や職場の声かけとつなげた方が、社員にとって使いやすい支援になります。
研究結果を見るときの注意点
運動とストレス反応の研究は、健康経営に役立つヒントになります。
ただし、研究結果を職場に使うときは、注意も必要です。
たとえば、参加者が少ない研究では、結果をすべての社員にそのまま当てはめることはできません。また、体の指標に変化が出たからといって、それだけで「よい」「悪い」と判断することもできません。
研究は、職場施策を考えるための材料です。大切なのは、研究結果をそのまま押しつけることではなく、現場の社員が無理なく使える形にすることです。
人事総務の担当者が見ておきたいのは、「研究で効果があるとされているか」だけではありません。自社の社員にとって続けやすいか、参加しない人が不利益を感じないか、疲れている部署にさらに負担をかけていないかも確認しておきたい点です。
ユーストレスの全体像はこちら
本記事で紹介した運動によるストレス反応は、ユーストレスを考えるときの一つの具体例です。
ユーストレスの意味、ディストレスとの違い、職場での活かし方については、ユーストレスとは|職場での活用と科学的エビデンス解説で詳しく紹介しています。
けんこう総研が大切にしている考え方
けんこう総研では、ストレスを「悪いもの」と決めつけるのではなく、働く人が無理なく回復し、前向きに働き続けるための力として考えます。
ただし、運動によるストレス対策を、すべての社員に同じようにすすめることはしません。大切なのは、社員が自分の体調に気づき、自分に合った回復方法を選べる職場をつくることです。
タニカワ久美子は、東京大学大学院 情報学環での研究経験と、企業・教育機関・介護施設・労働組合での研修実務をもとに、ユーストレスとディストレスの違いを職場のストレス対策に活かす研修を行っています。
まとめ|運動の効果は人によって違う
運動は、不安やストレスをやわらげる可能性があります。
しかし、すべての人に同じ効果が出るわけではありません。運動後に安心する人もいれば、かえって不安が強くなる人もいます。
また、本人の気分の変化と、体のストレス反応が必ず同じように変わるとは限りません。
職場の健康経営では、「運動は良いこと」と一律に考えるのではなく、社員が自分に合った負荷を選べるようにすることが大切です。
けんこう総研では、ユーストレスとディストレスの考え方をもとに、社員のセルフケア、管理職の声かけ、ストレスチェック後の職場改善につながるストレスマネジメント研修を行っています。
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参考文献・関連文献
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文責:タニカワ久美子