ユーストレス(良性ストレス)
ユーストレスを健康経営研修に活かす方法|職場の負荷を見分ける
健康経営研修を考えるとき、「ストレスを減らす研修にするべきか」「前向きに働く力を高める研修にするべきか」で迷うことはありませんか。
職場のストレスには、早く減らした方がよいものがあります。長時間労働、ハラスメント、孤立、終わりの見えない不安、休めない状態などは、心と体を消耗させます。
一方で、職場には完全になくせない負荷もあります。新しい役割、期限のある仕事、部下育成、異動後の慣れない業務、責任ある立場での判断などです。
こうした負荷は、支援や回復の条件がそろっていれば、集中や達成感、成長につながることがあります。反対に、条件が崩れると、同じ負荷が疲労や不安、ミス、離職リスクにつながることもあります。
この「成長につながる可能性のあるストレス」が、ユーストレスです。
ただし、ユーストレスは社員に「もっと前向きに考えましょう」と求める言葉ではありません。
健康経営研修で見るべきなのは、本人のやる気だけではなく、仕事量、相談先、管理職の声かけ、裁量、退勤後の回復時間がそろっているかどうかです。
このページでは、ユーストレスを健康経営研修にどう活かすかを、人事総務・健康経営担当者が研修導入前に確認しやすい形で見ていきます。
健康経営研修でユーストレスを扱う理由
健康経営研修では、「不調者を出さない」「休職を防ぐ」「ストレスチェック後の対応を整える」といった守りのテーマが中心になりやすいのではないでしょうか。
もちろん、その視点は欠かせません。
ただ、ストレスをすべて悪いものとして扱うと、挑戦、成長、責任感、達成感まで弱めてしまうことがあります。
人事総務の方からも、「ストレス対策を進めたいけれど、現場からは“仕事を減らすだけでは回らない”と言われる」という相談を受けることがあります。
ここで見たいのは、負荷をなくすか、負荷をかけるかの二択ではありません。
どの負荷は減らすのか。どの負荷は支援をつけて成長につなげるのか。どの負荷はいったん止めて見直すのか。
ユーストレスを研修で扱うと、ストレス対策を「注意喚起」で終わらせず、職場の負荷をどう扱うかという実務の話へ戻しやすくなります。
研修で分けたい3つの職場負荷
健康経営研修で最初にそろえたいのは、ストレスを一括りにしない見方です。
職場の負荷は、次の3つに分けて見ると、管理職や人事総務が同じ言葉で話しやすくなります。
| 職場負荷の種類 | 現場で見える状態 | 研修でそろえたい見方 |
|---|---|---|
| 早く減らす負荷 | 過重労働、ハラスメント、孤立、慢性的な疲労、休めない状態がある | 本人の努力に戻さず、業務量・人員配置・相談体制へ戻して見ます |
| 支えながら活かす負荷 | 新しい役割、挑戦課題、期限のある仕事、部下育成などがある | 相談先、裁量、回復時間をそろえながら成長につなげます |
| 止めて見直す負荷 | 本人は頑張っているが、ミス、沈黙、表情の硬さ、疲労感が出ている | 「大丈夫です」で終わらせず、管理職面談と職場改善へ戻します |
ユーストレスとして扱えるのは、2つ目の「支えながら活かす負荷」です。
ただし、新しい仕事や責任ある役割だからといって、自動的にユーストレスになるわけではありません。
相談できない、休めない、断れない、失敗が責められる。この条件が重なると、成長機会に見える仕事も、社員を消耗させる負荷に変わります。

ユーストレスとディストレスを分けて見る理由
人事総務や健康経営担当者がストレス管理を考えるとき、避けたいのは、すべてのストレスを同じものとして扱うことです。
ストレスチェックの結果が高い、疲労感がある、仕事量が多いという情報だけでは、その負荷が本人を成長させているのか、疲れさせているのかまでは見えにくいことがあります。
たとえば、同じ「仕事量が多い」という状態でも、本人に進め方を選ぶ余地があり、周囲の支援があり、達成後に評価される環境であれば、挑戦や成長につながる場合があります。
一方で、進め方を選べず、相談先もなく、失敗だけが責められる環境では、同じ仕事量でもディストレスになりやすくなります。
| 確認する視点 | ユーストレスに近い状態 | ディストレスに近い状態 |
|---|---|---|
| 仕事量 | 一時的に多いが、優先順位を調整できる | 多い状態が続き、減らす仕事が決まっていない |
| 裁量 | 進め方や相談のタイミングを本人が選べる | 責任だけが増え、やり方を選べない |
| 相談先 | 困ったときに誰へ相談するかが見えている | 相談しても変わらないと感じている |
| 管理職の声かけ | 期待と同時に、調整できる余地も伝えている | 「期待している」「成長のため」で終わっている |
| 回復 | 終わったあとに休める時間がある | 退勤後も仕事が頭から離れない |
この見方があると、「ストレスをなくしましょう」だけではなく、「減らす負荷」と「支えながら活かす負荷」を分けて考えやすくなります。
研修導入前に見えている現場のサイン
ユーストレスを健康経営研修に入れるかどうかは、言葉の新しさで決めるものではありません。
自社の現場に、次のようなサインが見えているかどうかで考えると、研修の目的がはっきりします。
- ストレスチェック後の対応が、毎年同じ説明で終わっている
- 高ストレス部署は分かっているが、職場改善まで進みにくい
- 管理職が「頑張れ」と「無理するな」の間で迷っている
- 若手社員に挑戦させたいが、不安や離職リスクも気になっている
- 責任感の強い社員ほど、相談せずに抱え込んでいる
- 研修後に、現場で何を続けるかが決まらない
このような状態では、セルフケア資料を配るだけでは変わりにくいことがあります。
社員本人がストレスに気づいても、管理職の受け止め方や仕事量の調整が変わらなければ、職場の負荷はそのまま残ります。
健康経営研修でユーストレスを扱う意味は、社員に前向きさを求めることではありません。
職場の負荷を、健康リスクにするのか、成長機会に変えるのか。その分かれ目を、人事総務と管理職が同じ言葉で見直せるようにすることです。
専門職でも迷うポイント
ユーストレスを研修で扱うとき、専門職でも迷うポイントがあります。
それは、同じ負荷を「挑戦」と見るのか、「過重負荷」と見るのかの分岐です。
たとえば、若手社員に新しい仕事を任せる場面があります。
管理職は育成のつもりで任せています。本人も「やってみます」と答えます。人事総務から見ると、前向きな成長機会に見えるかもしれません。
けれども、本人がすでに複数の業務を抱えていて、相談する時間もなく、失敗すれば評価が下がると感じている場合、その負荷はユーストレスとは言い切れません。
| 判断場面 | 挑戦に見える理由 | 過重負荷に変わる条件 | 研修で確認したいこと |
|---|---|---|---|
| 新しい仕事を任せる | 成長機会になる | 既存業務が減らず、相談先もない | 任せる仕事と減らす仕事を同時に見ます |
| 管理職が期待を伝える | 本人の意欲を高める | 断れない圧力として受け取られる | 期待の後に、業務量と不安を確認します |
| 期限のある仕事を任せる | 集中力が高まりやすい | 期限が重なり、退勤後も考え続ける | 期限の重なりと回復時間を見ます |
| 昇進・役割変更を行う | 責任感と自信につながる | 役割だけ増え、裁量がない | 権限、相談先、判断範囲を確認します |
| ストレスチェック後に面談する | 本人の状態を聞ける | 面談だけで終わり、業務調整に戻らない | 面談後に職場で何を変えるかを決めます |
専門職でも迷うのは、ユーストレスが本人の気持ちだけでは判定できないからです。
本人の発言、管理職の関わり、業務量、裁量、相談体制、回復状況を合わせて見ていく必要があります。
ここを社内で共有しないまま「ユーストレス」という言葉だけを使うと、健康経営の言葉が、現場の負荷を正当化する言葉に変わってしまうことがあります。
社内で動かす難しさ
ユーストレスを社内で動かすときに難しいのは、理論そのものではありません。
人事総務、管理職、社員本人、社内支援者が、同じ負荷を別の角度から見ていることです。
人事総務は、健康経営施策やストレスチェック後対応として見ます。
管理職は、成果、納期、人員不足、育成の必要性として見ます。
社員本人は、「迷惑をかけたくない」「期待に応えたい」「弱いと思われたくない」と感じて、負荷を隠すことがあります。
社内支援者や専門職は、疲労、不眠、不安、休職リスクを見ます。
それぞれの見方は、どれも間違いではありません。
ただ、見ているものが違うままでは、職場改善に進みにくくなります。
たとえば、管理職が「期待している」と声をかけたとき、人事総務は育成的な関わりと受け取るかもしれません。
しかし、本人がその言葉を「断ってはいけない」と受け止めている場合、同じ声かけが負荷を強めることがあります。
相談で拾ったサインを、本人の気持ちの問題で終わらせるのか。業務量、期限、声かけ、相談体制の見直しに戻せるのか。
ここが、健康経営研修を実施する意味の分かれ目になります。
ユーストレスを社内で動かすには、知識共有だけでは足りません。
管理職が部下の反応をどう受け止め、人事総務がどの部署の負荷を職場改善に戻すかまで、研修の中で一緒に見直していきます。
管理職研修でそろえたい声かけの後工程
ユーストレスを健康経営研修に活かすには、管理職研修で用語を伝えるだけでは足りません。
研修でそろえたいのは、管理職の声かけそのものよりも、声をかけた後に何を確認するかです。
管理職の一言で、社員が話せるか、黙るかが分かれることがあります。
| よくある声かけ | 現場で起きやすい反応 | 研修でそろえたい受け止め方 |
|---|---|---|
| 大丈夫? | 「大丈夫です」で終わる | 今の業務量で、どこが一番残っていますか |
| 期待しているよ | 断れない圧力になる | 期待している仕事と、調整する仕事を分けましょう |
| 成長のためだから | つらさを言いにくくなる | 成長につなげるために、相談先と確認日を決めましょう |
| 無理しないで | 何を減らせばよいか分からない | 今週中に減らす業務を一つ決めましょう |
| 何かあったら言って | 言っても変わらないと感じる | 次回確認する日と、相談してよい内容を具体的にしましょう |
管理職研修で行いたいのは、きれいな声かけ例を覚えることではありません。
部下の反応を見て、その後に業務量、期限、相談先、回復時間を確認できるかどうかです。
声をかけても、業務量が変わらなければ、社員の負荷は変わりません。
相談を促しても、相談後に仕事の調整がなければ、社員は次から相談しにくくなります。
だからこそ、ユーストレスを扱う管理職研修では、声かけだけでなく、声かけの後に何を確認し、どの負荷を調整するかまで見直していきます。
従業員向け研修だけで終わらせない理由
ユーストレスは、従業員向けのセルフケア研修でも扱いやすいテーマです。
自分のストレスが、成長につながっているのか、疲労につながっているのかを振り返る視点は、社員にとっても役立ちます。
ただし、従業員向け研修だけで終わると、負荷の調整責任が社員本人に戻ってしまうことがあります。
社員が「今の仕事量はきつい」と気づいても、管理職が受け止められなければ、相談はそこで止まります。
社員が「休みたい」と思っても、業務量や期限が変わらなければ、回復時間は確保されません。
そのため、ユーストレスを健康経営研修に入れるなら、従業員のセルフケア、管理職のラインケア、人事総務の職場改善を切り離さずに設計します。
社員に気づかせるだけではなく、気づいた後に職場で何を変えるかまでつなげることが、研修後の定着につながります。
研究の評価視点を職場でどう使うか
ユーストレスとディストレスを分けて見るうえで、研究で使われる評価尺度の知見は参考になります。
たとえば、Valencia Eustress-Distress Appraisal Scale(VEDAS)では、職場のストレスをいくつかの面から見ようとしています。
人間関係、仕事への責任、在宅ワークを含む仕事と生活のバランス、仕事量などを見ながら、同じストレスでも、活力につながる面と疲れにつながる面を分けて考えるための参考になります。
ただし、評価尺度をそのまま会社に入れれば、健康経営が進むわけではありません。
大切なのは、社員を点数で分けることではなく、職場のどこに成長につながる負荷があり、どこに疲労につながる負荷があるのかを見つけることです。
研究の知見は、職場の実情に合わせて、管理職や人事総務が使いやすい言葉に直して使います。
タニカワ久美子が企業研修で見てきたこと
タニカワ久美子の企業研修では、ユーストレスを「前向きに考えましょう」という話だけで終わらせません。
研修現場でよく見えるのは、まじめな社員ほど「ストレスに強くならなければ」と抱え込んでしまうことです。
管理職も悪気があるわけではありません。「このくらいは成長のため」「期待しているから任せたい」と考えて、部下の疲れや不安を見逃してしまうことがあります。
一方で、負荷をすべて避けてしまうと、社員が新しい仕事に挑戦する機会や、達成感を得る機会まで少なくなります。
研修中に、管理職が「励ましているつもりだった」と気づく瞬間があります。
従業員側からは、「相談してよいと言われても、仕事量が変わらないなら言いにくい」という反応が出ることがあります。
このズレは、資料を配るだけでは見えにくいものです。
タニカワ久美子の研修では、成長につながる負荷と、疲労につながる負荷を分けて見ます。
社員には自分のストレスサインに気づくことを、管理職には「今の負荷は挑戦になっているのか、疲れにつながっているのか」を見ることを、職場の場面に置き換えて一緒に考えていきます。
人事総務の担当者からは、「ストレスを減らすだけでなく、職場でどう支えるかを考えやすくなった」という声をいただくことがあります。
自社でできること、研修支援が役立つこと
ユーストレスを活かしたストレス管理は、すべてを外部に任せるものではありません。
一方で、職場の負荷が複雑になっている場合や、管理職の関わり方まで見直す場合は、外部研修を使ったほうが進めやすいことがあります。
| 内容 | 自社で進めやすいこと | 研修支援が役立つこと |
|---|---|---|
| 基礎理解 | ユーストレスとディストレスの違いを社内で共有する | 自社の課題に合わせて、研修の主語を絞る |
| 管理職対応 | 面談で仕事量や負荷を確認する | 管理職が使える声かけと、その後の確認項目をそろえる |
| ストレスチェック後対応 | 部署別結果やアンケート結果を確認する | 結果を管理職研修や職場改善へ接続する |
| 従業員研修 | セルフケアやストレスサインを共有する | 社員本人の努力に戻さず、職場の支援へつなげる |
| 研修後の定着 | 社内通知や資料配布を行う | 研修後に何を見るか、どの行動を続けるかを決める |
自社でまず行いやすいのは、ストレスを「減らすもの」とだけ捉えていないかを確認することです。
そのうえで、活かせる負荷と減らすべき負荷を分け、現場で使える言葉にしていきます。
離職リスク、メンタルヘルス不調、管理職の負担、部署間の温度差がすでに見えている場合は、単発研修だけでは足りないことがあります。
その場合は、研修後に職場で何を確認し、どの行動を続けるかまで決めておくと、研修が現場に残りやすくなります。
研修導入前に確認したいこと
ユーストレスを扱う研修を導入する前に、次の点を確認しておくと、研修後の成果が見えやすくなります。
- ストレス対策が、不調者対応だけで止まっていないか
- 管理職が、部下の負荷を見分ける言葉を持っているか
- ストレスチェック結果を、現場の改善につなげているか
- 社員が相談しやすい職場になっているか
- 相談後に、業務量や期限を見直す流れがあるか
- 研修後に、どの行動を続けるか決まっているか
この確認ができていないと、研修は「よい話を聞いた」で終わりやすくなります。
研修の目的は、知識を増やすことだけではありません。
職場での声かけ、相談、仕事量の見直し、休憩の取り方が少しずつ変わることです。
ユーストレスの全体像はこちら
本記事で紹介した内容は、ユーストレスを健康経営研修で使うための具体的な視点です。
ユーストレスの意味、ディストレスとの違い、科学的な背景について詳しく知りたい場合は、ユーストレス(良性ストレス)とは|職場で活かすストレス資源の全体像をご覧ください。
まとめ|ユーストレスは研修で職場の見方に変えるものです
ユーストレスは、単なる心理学用語ではありません。
健康経営研修では、社員の挑戦、成長、達成感、働きがいを支えるための見方として使えます。
一方で、ユーストレスを強調しすぎると、過重労働や不調のサインを見逃す危険があります。
だからこそ、職場ではユーストレスとディストレスを分け、活かせる負荷と減らすべき負荷を見分けることが欠かせません。
健康経営研修でユーストレスを取り入れる目的は、社員に前向きさを求めることではありません。
職場のストレスを見直し、成長につながる負荷は支え、疲れにつながる負荷は減らすための共通の見方を持つことです。
けんこう総研では、ユーストレスとディストレスの違いをもとに、社員のセルフケア、管理職の声かけ、ストレスチェック後の職場改善につながるストレス管理研修を行っています。
自社の健康経営研修、管理職研修、ストレスチェック後対応を見直したい場合は、以下のページをご覧ください。
引用文献
- Di Fabio, A., Peiró, J. M., Rodríguez, I., & Kozusznik, M. W. (2018). The Valencia Eustress-Distress Appraisal Scale (VEDAS): Validation of the Italian Version. Sustainability, 10(11), 3903.
- Opening the Black Box of Psychological Processes in the Science of Sustainable Development: A New Frontier.
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。