ストレス管理
感情労働ストレス研修の効果測定|職場改善につなげる見方
感情労働ストレスへの研修や教育プログラムは、実施して終わりではありません。
人事総務や管理職が本当に見たいのは、「受講者が満足したか」だけではなく、研修後に職場で何が変わったかです。
患者さんや利用者さんへの対応で、自分の感情を抑え込みすぎていないか。
クレーム対応や難しい相談のあとに、気持ちを立て直せるようになったか。
管理職が、感情労働の負担を業務負荷として見られるようになったか。
この記事では、認知再構成法を用いたWeb版教育プログラムの研究をもとに、感情労働ストレス研修の効果をどのように測定し、職場改善につなげるかを見ていきます。
感情労働ストレスの職場支援全体を確認したい場合は、感情労働ストレスの考え方でも確認できます。
感情労働ストレス研修で見るべきもの
感情労働ストレス研修の効果測定で見るべきなのは、「研修がわかりやすかったか」だけではありません。
もちろん、受講者が理解できたか、参加しやすかったかは大切です。
しかし、それだけでは研修が職場改善につながったかまでは見えません。
本当に確認したいのは、研修後に受講者の感情対処がどのように変わったかです。
- 患者さんや利用者さんの感情を受け止めすぎていないか
- 自分の感情を無視して我慢し続けていないか
- 感情を抑えるだけでなく、言葉にして扱えるようになったか
- ストレス場面で不安が強まりすぎていないか
- 困ったときに、上司や同僚へ共有できるようになったか
- 職場として支援行動が変わったか
感情労働ストレスの研修評価では、知識の理解度だけでなく、感情対処と職場行動の変化を見ることが重要です。
認知再構成法とは何か
認知再構成法とは、ストレス場面で生じる考え方や受け止め方を見直し、感情反応を整える方法です。
たとえば、患者さんや利用者さんから強い言葉を向けられたとき、看護師や介護職は次のように考えてしまうことがあります。
- 自分の対応が悪かったのかもしれない
- もっと我慢しなければならない
- 専門職なのだから感情を出してはいけない
- 相手の不安をすべて受け止めなければならない
- 自分だけで何とかしなければならない
このような考え方が続くと、感情労働ストレスは蓄積します。
認知再構成法では、出来事そのものではなく、出来事の受け止め方を確認します。
そして、自分を責めすぎず、相手の感情にも飲み込まれすぎない見方へ整えていきます。
感情を無理に消すのではなく、感情が強くなる考え方を見直すことが、認知再構成法の中心です。
研究で行われた介入評価の概要
先行研究では、認知再構成法を用いたWeb版教育プログラムを実施し、感情対処傾向の変化を確認しています。
対象となったのは、感情労働の中でも表出抑制を多く体験している若手看護師です。
表出抑制とは、本当は不安や怒り、戸惑いを感じているにもかかわらず、業務上それを表に出さないように抑えることです。
若手看護師は、患者さんへの配慮、医療安全への不安、経験不足による緊張、先輩や上司への気遣いが重なりやすい立場です。
そのため、本人が「まだ大丈夫」と思っていても、感情労働ストレスが高まりやすくなります。
この研究では、Webを活用することで、不規則勤務の看護師でも自分の都合に合わせて学習できるように設計されています。
医療・介護・福祉現場の研修でも、この視点は重要です。
勤務時間が不規則な職場では、研修内容だけでなく、受講しやすい実施方法も研修効果に関わります。
感情労働ストレスの効果測定に使われる指標
感情労働ストレス研修の効果を確認するときは、一つのアンケートだけでは足りません。
「よかった」「わかりやすかった」という感想だけでは、受講後に感情対処が変わったか、職場で相談しやすくなったかまでは見えないからです。
研究では、研修効果を確認するために、複数の心理尺度が使われています。
| 測定指標 | 何を見るか | 職場での意味 |
|---|---|---|
| 看護師版感情対処傾向尺度 | 患者感情と自己感情への対処傾向 | 感情労働への向き合い方の変化を見る |
| STAI | 一時的な不安の程度 | 研修後に不安反応が変化したかを見る |
| SOC | ストレスに対応できる感覚 | 受講者が職場のストレスを整理しやすくなったかを見る |
| 基本属性 | 年齢、経験年数、勤務病棟など | 対象者の背景による違いを確認する |
| 研修後の行動 | 相談、共有、声かけ、回復行動 | 職場改善につながったかを見る |
企業や医療福祉施設で研修効果を見る場合も、複数の視点を組み合わせることが重要です。
感情対処、不安、ストレスへの見通し感、勤務背景、研修後の行動を合わせて見ることで、実務に使える評価になります。
看護師版感情対処傾向尺度で見る4つの対処
看護師版感情対処傾向尺度では、看護場面で生じる感情への対処を、患者さん側の感情と看護師自身の感情の両面から見ます。
主な下位尺度は、次の4つです。
| 対処傾向 | 意味 | ストレス上の注意点 |
|---|---|---|
| 患者感情優先対処 | 患者さんの感情を優先する | 自分の感情を抑え込みやすい |
| 自己感情優先対処 | 自分の感情を優先する | 患者対応が硬くなりやすい |
| 両感情調整対処 | 患者さんの感情と自分の感情の両方を調整する | 感情労働を続けるうえで重要な対処 |
| 両感情回避対処 | 患者さんの感情にも自分の感情にも深く向き合わない | 一時的な防衛にはなるが、問題が残りやすい |
感情労働ストレス研修で特に重要なのは、両感情調整対処を高めることです。
これは、患者さんや利用者さんの感情を大切にしながら、働く本人の感情も置き去りにしない対処法です。
看護師のメタ認知や両感情調整対処を詳しく確認したい場合は、看護師の感情労働とメタ認知も参考になります。
STAIで見る一時的な不安
STAIは、不安を測定するための尺度です。
不安には、もともとの感じやすさとしての特性不安と、その場面で一時的に高まる状態不安があります。
感情労働ストレス研修の評価では、特に状態不安が重要になります。
患者対応、クレーム対応、管理職面談、緊急対応などの場面では、一時的に不安が高まります。
研修によって、こうした場面での不安反応がどう変化したかを見ることで、研修の実務的な効果を確認しやすくなります。
ただし、不安は感情対処だけで決まるものではありません。
人員不足、業務量、医療事故への不安、勤務体制、管理職の支援も影響します。
研修効果を見るときは、個人の不安だけでなく、職場環境の要因も同時に見る必要があります。
SOCで見るストレスに対応できる感覚
SOCとは、Sense of Coherenceの略で、日本語では首尾一貫感覚と呼ばれます。
これは、自分の生活や仕事で起こる出来事を、ある程度理解でき、対処でき、意味があるものとして受け止められる感覚を指します。
SOCが高い人は、ストレス場面でも「何が起きているのか」「自分には何ができるのか」を整理しやすくなります。
感情労働ストレス研修では、単にストレスを減らすだけでなく、受講者がストレス場面を整理し、対応できる感覚を持てるかが重要です。
SOCは、研修後に受講者が職場の感情負担をどう受け止められるようになったかを見る指標になります。
研修効果は1回のアンケートだけで判断しない
研修直後は、多くの受講者が「わかった」「できそう」と感じます。
しかし、実際の職場に戻ると、忙しさ、対人対応、組織文化、上司や同僚との関係によって、学んだことを使えない場合があります。
そのため、研修効果は研修直後だけでなく、一定期間後にも確認する必要があります。
| 測定時期 | 確認すること | 人事総務・管理職が見る視点 |
|---|---|---|
| 研修前 | 現在の感情対処、不安、職場課題を把握する | どの部署・職種に負担が強いかを見る |
| 研修直後 | 理解度、気づき、対処意欲の変化を見る | 受講者が何に気づいたかを見る |
| 1か月後 | 実際の職場で使えたか、行動変化が残っているかを見る | 管理職の声かけや職場支援に変化があったかを見る |
感情労働ストレス研修では、研修直後の満足度よりも、職場に戻った後の変化を確認することが重要です。
統計手法よりも大切なのは、評価設計です
研究では、反復測定の分散分析や多重比較などの統計手法が使われます。
ただし、企業研修や医療福祉施設の研修実務では、統計手法を詳しく理解することよりも、何を、いつ、どのように測るかの設計が重要です。
感情労働ストレス研修の評価では、次の3点を押さえる必要があります。
- 研修前の状態を測る
- 研修直後の理解と気づきを測る
- 一定期間後の行動変化を測る
これにより、研修が単なる知識提供で終わらず、職場改善につながったかを確認できます。
特に感情労働ストレスは、本人の内面だけでなく、業務量、裁量、支援体制、管理職の関わり方にも影響されます。
効果測定は、個人を評価するためではなく、職場の支援設計を改善するために行うものです。
タニカワ久美子が企業研修でこのテーマをどう伝えているか
私が医療・介護・福祉分野の研修で大切にしているのは、「研修を受けてよかった」で終わらせないことです。
現場では、感情労働ストレスに悩んでいても、受講者本人がそれをうまく言葉にできないことが多くあります。
たとえば、研修で次のような声を聞くことがあります。
「患者さんには優しくしたいのに、家に帰ると何もする気が起きません」
「自分の感情を出してはいけないと思っていました」
「忙しすぎて、何に疲れているのかもわからなくなっています」
こうした声は、単なる疲労ではなく、感情労働ストレスの蓄積として見る必要があります。
管理職の方には、私はこうお伝えしています。
「研修の目的は、受講者を元気づけることだけではありません。感情労働の負担がどこで生じ、研修後に何が変わったのかを見える形にすることです。」
けんこう総研の研修では、受講前後の変化を見ながら、感情対処、ストレス反応、職場での支援課題を確認します。
その結果をもとに、管理職のラインケア、チーム内の声かけ、業務設計、離職防止策へつなげていきます。
感情労働ストレス研修の効果測定で見る実務ポイント
感情労働ストレス研修を職場改善につなげるには、次の視点が必要です。
- 受講者の満足度だけで評価しない
- 感情対処の変化を見る
- 不安や疲労感の変化を見る
- 研修後1か月程度の行動変化を見る
- 管理職が支援行動を変えたかを見る
- 職場として相談しやすくなったかを見る
- 難しい対応が特定の人に集中していないかを見る
感情労働ストレスは、本人の努力だけで解決するものではありません。
研修後に、職場として何を変えるかまで設計して初めて、効果測定に意味が出ます。
まとめ|感情労働ストレス研修は、職場で使えたかまで見る
認知再構成法を用いた介入研究は、感情労働ストレスへの支援を考えるうえで重要な視点を示しています。
特に、看護師のように患者さんの感情と自分自身の感情を同時に扱う職種では、感情対処の変化を測ることが欠かせません。
研修効果を見るときは、研修直後の満足度だけでなく、研修前、研修直後、一定期間後の変化を確認する必要があります。
そして、その結果を個人評価に使うのではなく、職場の支援体制を改善するために活用することが重要です。
感情労働ストレスの効果測定は、研修を職場改善につなげるための設計図です。
感情労働ストレス研修への活用
けんこう総研では、感情労働ストレスを抱えやすい医療・介護・福祉・教育・接客現場に向けて、研修と効果測定を組み合わせた支援を行っています。
研修前後の変化を確認し、受講者の気づきだけで終わらせず、管理職のラインケアや職場改善につなげたいご担当者様は、こちらをご確認ください。
参考文献
- 金子多喜子ほか「感情労働に伴う感情対処育成のためのWeb版教育プログラムの検討」日本看護科学会誌, 2019, 39, 45-53.
文責:タニカワ久美子