日本型感情労働ストレスとは|職場で見えにくい感情負荷

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感情労働ストレス

日本型感情労働ストレスとは|職場で見えにくい感情負荷

感情労働ストレスとは、仕事の中で本当はつらい、怒りたい、困っていると感じていても、相手の前では笑顔、冷静さ、丁寧な対応を求められることで生じるストレスです。

医療、介護、教育、接客、相談対応、クレーム対応、営業、管理職など、人と関わる仕事では、業務そのものだけでなく、感情の出し方まで求められる場面があります。
理不尽な言葉を受けても冷静に対応する、疲れていても明るくふるまう、怒りや不安を見せずに相手を安心させる、といった対応です。

こうした感情対応は、職場では「接遇として当然」「プロならできて当たり前」と見なされやすく、労働負荷として見過ごされることがあります。

本記事では、感情労働ストレスが日本の職場でなぜ見えにくいのか、どのように蓄積し、離職やバーンアウトにつながるのかを、人事総務・健康経営担当者向けに整理します。

感情労働ストレスとは

感情労働とは、仕事の一部として、自分の感情を調整しながら相手に対応する働き方です。
単に「感じよく接する」という意味ではありません。

本当は不快に感じているのに表に出さない、怒りを抑えて丁寧に対応する、不安を隠して相手を安心させるなど、感情を仕事に合わせて整えることが含まれます。

職場場面 求められやすい感情対応 蓄積しやすい負担
医療・介護 不安な患者・利用者や家族に、落ち着いて対応する 怒り、不安、疲労を表に出しにくい
教育 児童生徒・保護者に、冷静で公平に対応する 強い緊張や責任感を抱え込みやすい
接客・窓口 クレームや理不尽な要求にも丁寧に対応する 怒りや悔しさを抑え続けやすい
管理職 部下の不安や不満を受け止める 自分の不安や疲労を後回しにしやすい
相談・支援職 相手の感情を受け止めながら支援する 共感疲労や心理的消耗が起こりやすい

感情労働ストレスは、業務量や残業時間のように数字で見えにくいことが特徴です。
そのため、本人も周囲も「なぜ疲れているのか」が分かりにくく、気づいたときにはバーンアウトや離職意向につながっていることがあります。

日本の職場で感情労働ストレスが見えにくい理由

日本の職場では、感情労働ストレスが見えにくくなりやすい背景があります。
一つは、「お客様のため」「患者さんのため」「利用者さんのため」「保護者対応だから仕方ない」といった考え方です。

もちろん、相手を大切にする姿勢は重要です。
しかし、それが行き過ぎると、働く側の怒り、不安、悲しさ、疲労が軽く扱われてしまいます。

もう一つは、感情が「個人の性格」や「人間性」として見られやすいことです。
対応に疲れている社員がいても、「メンタルが弱い」「接客に向いていない」「気持ちの切り替えが下手」と見なされることがあります。

しかし、感情労働ストレスは、個人の性格だけで起こるものではありません。
職場の業務設計、クレーム対応の体制、管理職の支援、休憩の取りやすさ、チームで共有できる仕組みによって大きく変わります。

感情対応を個人の性格にすると、職場の負荷が見えなくなる

仕事中に感情を整えることは、「本人の人柄」「接遇力」「我慢強さ」として扱われやすい傾向があります。
しかし、仕事として笑顔で対応する、怒りを出さない、相手の不安を受け止める、クレーム後も次の対応に入ることは、労働の一部です。

見えにくくなる考え方 問題点 職場で必要な見方
感情対応は本人の性格による 負担が個人責任になりやすい 感情対応も業務負荷として見る
接遇だから仕方ない 傷つきや疲労が軽視されやすい クレーム後の支援や回復時間を整える
プロなら感情を出さないべき 感情を抱くこと自体が悪いと感じやすい 感情が出ることを前提に支援する
向いている人だけが続ければよい 離職や孤立を招きやすい 職場として継続できる仕組みを作る

人事総務・健康経営担当者がまず確認すべきことは、感情労働を個人の我慢や性格の問題にしていないかという点です。

感情労働の本質は、感情を抑えることだけではない

感情労働の問題は、「感情を抑えればよい」という単純な話ではありません。
本質的な問題は、感情を抑え続けることで、自分の本当の感情に気づきにくくなることです。

たとえば、看護師が患者や家族から強い言葉を受けたとします。
本心では怒りや悲しさを感じていても、職務上は冷静で丁寧な対応を求められます。

その場では、感情を抑えることでトラブルを防げる場合があります。
しかし、その対応が毎日続き、怒りや傷つきを「感じてはいけないもの」として扱い続けると、心の負担は蓄積します。

問題は、一回の対応ではなく、抑え続ける状態が続くことです。

表面演技と深層演技

感情労働では、「表面演技」と「深層演技」という考え方があります。

表面演技とは、本心とは違っていても、表情や言葉づかいを仕事に合わせることです。
深層演技とは、自分の感じ方そのものを仕事に合うように変えようとすることです。

種類 意味 職場での例 注意点
表面演技 表情や態度を仕事に合わせる 怒っていても笑顔で対応する 本心とのずれが大きいと消耗しやすい
深層演技 感じ方そのものを変えようとする 相手にも事情があると考えて怒りを和らげる 続きすぎると本音が分かりにくくなる場合がある

どちらが常に良い、悪いということではありません。
重要なのは、本人がつらさを感じているのに、それを言えないまま続いていないかを見ることです。

感情を抑え続けると何が起こるのか

感情を抑え続けると、本人の中で次のような変化が起こることがあります。

  • 自分が何に傷ついているのか分かりにくくなる
  • 怒りや悲しさを感じても「自分が悪い」と考えやすくなる
  • 仕事中は平気に見えるが、帰宅後に強い疲労が出る
  • 相手の感情に気を使いすぎ、自分の回復が後回しになる
  • 「もう何も感じたくない」という感覚が出る
  • 仕事へのやりがいより、消耗感が強くなる

この状態は、本人の弱さではありません。
仕事上、感情を整えることを長く求められた結果として起こり得る反応です。

感情が動きにくくなる状態に注意する

感情労働が長く続くと、自分の感情に気づきにくくなることがあります。
本当は傷ついているのに、何も感じないようにする。
本当は怒っているのに、「仕事だから仕方ない」と押し込める。
本当は疲れているのに、「これくらい普通」と考える。

このように、自分の自然な感情から距離ができてしまう状態は、感情労働ストレスが蓄積しているサインとして見る必要があります。

職場では、次のような変化に注意が必要です。

  • 以前より笑顔や反応が少なくなった
  • クレーム後も何もなかったように働いているが、疲労が強い
  • 「何も感じない」「どうでもいい」と言う
  • 利用者・顧客・患者への関心が薄くなる
  • 仕事への達成感より消耗感が強い
  • 休んでも気持ちが戻りにくい

これらは本人のやる気の問題ではなく、感情労働ストレスが蓄積しているサインかもしれません。

出来事の受け止め方でストレス反応は変わる

感情労働では、出来事をどう受け止めるかによって、その後のストレス反応が変わります。
たとえば、理不尽なクレームを受けた場合、社員は次のように考えることがあります。

受け止め方 本人の考え 起こりやすい影響
相手の問題として受け止める 相手が強い感情をぶつけている 自分を責めすぎることを防げる場合がある
自分の問題として受け止める 自分の対応が悪かったのではないか 改善につながる場合もあるが、自責が強くなることもある
職場環境の問題として受け止める 人手不足やルール不足が影響している 職場改善につなげやすい

大切なのは、どれか一つが正しいと決めることではありません。
その出来事を個人の責任だけにせず、相手の状況、職場の仕組み、本人の負担を合わせて見ることです。

日本型感情労働ストレスとは

日本型感情労働ストレスとは、業務内容だけでなく、職場文化や対人関係の中で、感情の抑制や配慮が強く求められることで蓄積する心理的負担です。

日本の職場では、「空気を読む」「迷惑をかけない」「丁寧に対応する」「お客様を優先する」といった価値観が強く働くことがあります。

その結果、働く人の怒り、不安、疲労、傷つきが表に出にくくなります。
本人も「これくらい我慢するもの」と考え、管理職も「問題なく対応できている」と見てしまうことがあります。

しかし、見えていないだけで、感情負荷は蓄積している場合があります。
人事総務・健康経営担当者は、感情労働ストレスを「本人の気持ちの問題」ではなく、職場の負荷として扱う必要があります。

人事総務・健康経営担当者が確認したいこと

感情労働ストレスを職場で扱う場合、個人のセルフケアだけでは不十分です。
次の点を確認してください。

  • クレーム対応後に、職員が一人で抱え込んでいないか
  • 医療・介護・教育・接客などで、感情対応を「当然」として扱っていないか
  • 管理職が、部下の感情疲労に気づけているか
  • 感情労働の負担が、離職や休職の背景にないか
  • 職場に相談・共有・振り返りの場があるか
  • クレーム対応や困難事例を、個人の対応力だけに任せていないか
  • 感情労働ストレスを研修や職場改善のテーマとして扱っているか

感情労働ストレスは、本人の我慢強さだけで乗り越えるものではありません。
組織として、感情対応を仕事の負荷として認識し、支援の仕組みを作ることが必要です。

タニカワ久美子の企業研修ではどう扱うか

タニカワ久美子の企業研修では、感情労働ストレスを「気持ちの切り替えが苦手な人の問題」として扱いません。
医療・介護・教育・接客・管理職など、人と関わる仕事に共通する職場負荷として整理します。

現場では、クレーム対応や利用者対応の後でも、すぐに次の業務へ入らなければならないことがあります。
その場では笑顔で対応できていても、帰宅後にどっと疲れが出る、眠れない、仕事への関心が薄れるという声もあります。

研修では、感情を抑え込む個人努力だけに頼らず、クレーム後の共有、管理職の声かけ、チームでの振り返り、相談しやすい職場づくりまで含めて扱います。
感情労働ストレスを見える化することで、離職防止、バーンアウト予防、管理職支援につなげることを重視しています。

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まとめ|感情労働ストレスは、見えにくい職場負荷である

感情労働ストレスは、仕事の中で笑顔、冷静さ、丁寧さ、配慮を求められることで生じる心理的負担です。

日本の職場では、感情対応が「本人の性格」「接遇力」「プロ意識」として扱われやすく、労働負荷として見えにくくなります。
しかし、怒りや不安、傷つきを抑え続ける状態が続くと、感情疲労、バーンアウト、離職意向につながることがあります。

人事総務・管理職に必要なのは、感情労働を個人の我慢や気持ちの問題として扱わないことです。
感情対応も仕事の負荷として見える化し、共有、相談、振り返り、クレーム対応後の支援、管理職の声かけを整える必要があります。

感情労働ストレスによる疲弊、離職、クレーム対応、管理職の支援に課題がある場合は、感情労働ストレス研修をご覧ください。

参考文献

  • Hochschild, A. R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.

文責:タニカワ久美子

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