ストレス計測・行動変容|健康経営のKPI設計と研修効果測定
デスクワーカーのストレス測定方法|健康経営KPIで見る心拍数と不安度
職場のストレス対策を考えるとき、「社員がどのくらい疲れているのか」「運動で体の反応がどう変わるのか」は、感覚だけでは見えにくいものです。特にデスクワーカーは、長時間座って働く時間が多く、体を動かす機会が少なくなりやすいため、心拍数や不安の感じ方にも個人差が出ます。
このストレス計測・行動変容カテゴリーでは、デスクワーカーを対象に、心拍数や心理的ストレスをどのように測ったのかを見ていきます。同じストレス管理でも、本記事は運動の効果を大きく見せる記事ではなく、ストレスや体の反応をどう確認したのかに注目します。人事総務・健康経営担当者が、社員の不調を感覚だけで決めつけず、測定結果を支援に役立てるためのヒントにしてください。
職場のストレス測定で見落としやすいこと
人事総務・健康経営担当者が職場のストレス対策を考えるとき、社員の疲労感や不安感は、本人の申告だけでは十分に見えないことがあります。本人が「大丈夫です」と言っていても、実際には心拍数が高い状態が続いていたり、運動後の回復に時間がかかっていたりすることがあります。
一方で、心拍数などの数値だけを見ても、社員のストレス状態を正確に判断できるわけではありません。緊張、睡眠不足、疲労、気温、カフェイン、運動習慣など、さまざまな要因で心拍数は変わります。
そのため、職場のストレス測定では、体の反応と本人の感じ方を分けて見たうえで、両方を合わせて考える必要があります。
ストレス測定のの対象者
本研究では、デスクワークを行う20代から50代の男女10名を対象としました。内訳は女性6名、男性4名です。
参加者には、Garmin製の手首型ウェアラブルデバイスを装着してもらい、運動中と運動後の心拍数とストレスレベルを確認しました。
対象者数は10名と少ないため、この結果だけでデスクワーカー全体に当てはめることはできません。本記事では、断定ではなく、職場でストレス測定を考えるときの予備的な見方として扱います。
調査の実施時期と場所
本調査は2024年7月に、東京都内のIT企業本社会議室で行いました。
実施場所は職場に近い環境であり、デスクワーカーが実際に働く場面を想定しやすい条件でした。参加者同士が過度に影響し合わないよう、個々のスペースを確保して行いました。
運動習慣をどう分けたのか
参加者の運動習慣は、週に2回以上、1回30分以上の運動を1年以上続けているかどうかで分類しました。
この分類により、ふだんから運動している人と、運動習慣が少ない人で、心拍数やストレスレベルの変化に違いがあるかを確認しました。
職場で運動施策を考えるときも、この視点は重要です。同じストレッチや軽い運動でも、ふだん運動している社員と、ほとんど体を動かしていない社員では、負担の感じ方が変わるからです。
心拍数とストレスレベルをKPIとしてどう見るか
心理的ストレスの確認には、日本版MMPI顕在性不安検査であるMASを使用しました。参加者は、自己記入式の質問紙に回答し、顕在性不安の程度を確認しました。
ここで見ているのは、本人が日常的にどの程度不安を感じやすいかという傾向です。顕在性不安が高いからといって、すぐに病気や不調を意味するわけではありません。
職場のストレス管理で大切なのは、不安の感じやすさを「弱さ」として見ることではなく、支援方法を考えるための一つの情報として扱うことです。
心拍数とストレスレベルをどう測ったのか
生理的な反応を見るために、手首型ウェアラブルデバイスを使って心拍数とストレスレベルを確認しました。運動中の心拍数は15秒ごとに測定しました。
集めたデータは、各ウェアラブルデバイスから集約し、オフラインで解析しました。対象者数が少ないため、統計的に大きな結論を出すのではなく、参加者ごとの変化を個別に確認しました。
具体的には、心拍数の平均値、最大値、運動中と運動後の変化を見て、運動習慣や不安度との関係を確認しました。
運動条件をどう設定したのか
運動は、職場でも取り入れやすい内容を想定し、セミナー形式で行いました。運動強度は、低い強度から高い強度まで段階をつけて実施しました。
運動中は、心拍数とストレスレベルをリアルタイムで測定しました。参加者が互いに強く影響を受けないよう、環境にも配慮しています。
このように、職場で行う運動支援では、単に「運動したかどうか」だけでなく、運動中と運動後に体がどう反応したかを見ることが重要です。
個別解析で見えたこと
個別解析では、運動習慣が少ない参加者や、不安度が高い参加者で、運動後も心拍数が高めに残る傾向が見られました。
ただし、この結果をもって「運動習慣がない人は必ずストレスが高い」「不安度が高い人は必ず回復しにくい」とは言えません。対象者数が少なく、個人差も大きいためです。
それでも、職場の健康支援を考えるうえでは重要な示唆があります。同じ運動をしても、体の反応は人によって異なります。全員に同じ強度、同じ時間、同じやり方を求めると、負担が強くなる社員が出る可能性があります。
測定結果を健康経営の支援にどう使うか
心拍数やストレスレベルのデータは、社員の状態を考える手がかりになります。しかし、数値だけで「この人はストレスが高い」「この人は問題ない」と判断することは避けるべきです。
| 測定項目 | 見えること | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 心拍数 | 運動中や運動後の体の反応 | 緊張、睡眠、疲労、気温などでも変わる |
| ストレスレベル | ウェアラブル上の体の反応の目安 | 心理状態そのものを直接示すものではない |
| 顕在性不安 | 不安を感じやすい傾向 | 本人の性格や能力の評価に使わない |
| 運動習慣 | 運動への慣れや体力差の目安 | 運動していない人を責める材料にしない |
健康経営で測定データを使う場合は、社員を評価するためではなく、職場の支援を見直すために使うことが前提です。データの扱い方を誤ると、社員が「監視されている」と感じ、不信感につながることがあります。
ストレス測定を職場に入れる前に確認したいこと
職場でストレス測定やウェアラブルデータを活用する場合は、実施前に次の点を確認しておく必要があります。
- 測定の目的を社員にわかりやすく伝えているか
- データを人事評価に使わないことを明確にしているか
- 測定後に、社員へどのように説明するか決めているか
- 数値だけで不調を決めつけない運用になっているか
- 運動が苦手な社員にも配慮した内容になっているか
- 参加を強制しているように受け止められないか
ストレス測定は、やればよいものではありません。目的、説明、データの扱い方、実施後のフォローまで決めておくことで、社員が安心して参加しやすくなります。
倫理的配慮について
本研究は、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の倫理審査委員会による承認を得て実施しました。
ストレスや心拍数のデータは、個人の体調や心理状態に関わる慎重な情報です。研究として扱う場合も、職場施策として扱う場合も、本人への説明、同意、データ管理、利用目的の明確化が必要です。
人事総務・健康経営担当者が同様の測定を職場で検討する場合も、社員が不安を感じないよう、何のために測るのか、結果をどう扱うのかを事前に共有することが重要です。
タニカワ久美子の企業研修で伝えていること
タニカワ久美子の企業研修では、ストレス測定を「数値で社員を判断するためのもの」として扱いません。研修現場では、心拍数の変化や体の反応を見ながら、社員自身が「自分は緊張すると体に出やすい」「軽い運動でも意外と負担を感じる」と気づく場面があります。
そのため、研修では測定データを絶対的な答えとして使うのではなく、自分の体調に気づくきっかけとして扱います。人事総務の担当者からも、座学だけではなく、全員で実際にできる軽い運動がある点を評価されています。
職場のストレス管理では、数値を集めるだけでは不十分です。社員が安心して参加でき、測定後に自分の働き方や休み方を見直せるようにすることが大切です。
ストレス測定は社員を評価するためではなく支援のために使う
本研究では、デスクワーカー10名を対象に、心拍数、ストレスレベル、顕在性不安、運動習慣を確認しました。対象者数は少ないものの、職場でストレス測定を行うときに注意したい点が見えてきました。
同じ運動をしても、心拍数やストレスレベルの変化は人によって異なります。運動習慣、不安の感じやすさ、疲労、働き方によって、体の反応は変わります。
人事総務・健康経営担当者がストレス測定を取り入れる場合は、数値だけで社員を判断するのではなく、支援の内容を見直すために使うことが重要です。測定はゴールではありません。社員が自分の体調に気づき、職場が無理のない支援を考えるための入り口になります。
職場のストレス測定やデスクワーカーの健康支援を、社員が安心して参加できる形で見直したい企業様へ。
けんこう総研では、ストレス管理・身体活動・職場の健康支援を組み合わせた企業向け研修を行っています。
