デスクワーカーの健康支援
デスクワーカーのストレス対策|HRVと軽い運動を健康経営に活かす
長時間座ったまま働く職場では、「疲れている社員が増えている」と感じても、人事総務の担当者がどこから支援すればよいか迷いやすいものです。デスクワーカーの疲労や緊張は、本人の自覚だけでは見えにくく、姿勢、休憩、運動習慣、睡眠、仕事中の不安感などが重なって表れます。
この記事では、デスクワーカーのストレス対策を、心拍変動(HRV)、長時間座位、軽い運動、研修後フォローの視点から見ていきます。HRVを測ること自体が目的ではありません。従業員が自分の疲れや緊張に気づき、職場で続けられるセルフケアにつなげるための考え方として紹介します。
健康経営の担当者が、デスクワーカー向けの研修や職場施策を考えるときの材料としてお使いください。
HRVは、ストレスを直接診断する数字ではありません。緊張、疲労、睡眠不足、運動、体調などの影響を受けながら変化する、体の反応のひとつです。健康経営の現場では、HRVの数値だけで従業員を判断するのではなく、働き方や本人の体感、研修後の行動変化と合わせて見ることが重要です。
デスクワーカーのストレスは、座りすぎと関係する
デスクワーカーは、一日の多くを座った姿勢で過ごします。長時間の座位作業が続くと、身体活動量が少なくなり、肩こり、疲労感、集中しにくさ、気分の落ち込みにつながることがあります。
座っているだけなら、体への負担は少ないように見えるかもしれません。しかし実際には、同じ姿勢が続くことで呼吸が浅くなり、肩や背中の筋肉がこわばり、血流も滞りやすくなります。そこに仕事の緊張や時間に追われる感覚が重なると、心身の疲れが抜けにくくなります。
健康経営の担当者が見たいのは、「座っている時間が長いかどうか」だけではありません。座り続ける働き方の中で、従業員がどのように疲れ、どのタイミングで回復しにくくなっているかを見ることが大切です。
HRVは、自律神経の状態を考える手がかりになる
HRVは、心拍変動とも呼ばれます。心臓の拍動は一定に見えても、実際には拍動と拍動の間隔がわずかに変化しています。このゆらぎを見ることで、自律神経の働きを考える手がかりになります。
自律神経には、活動や緊張に関わる交感神経と、休息や回復に関わる副交感神経があります。仕事中の緊張、締切前の焦り、人間関係の気疲れなどが続くと、心拍やHRVに変化が表れることがあります。
一般的には、強い緊張や疲労が続くとHRVが低下する傾向があるとされています。ただし、HRVは個人差が大きい指標です。他人と単純に比べるよりも、その人自身の変化を見るほうが、職場の健康支援では使いやすくなります。
HRVは、従業員を評価するための数字ではありません。本人が「自分は今、緊張が続いているのか」「休んでも回復しにくい状態なのか」に気づくための補助情報として扱うことが重要です。
長時間座位とHRVを健康経営で見る視点
長時間座って働くデスクワーカーでは、身体を動かす機会が少なくなりやすくなります。体を動かす機会が減ると、気分転換の機会も減り、仕事中の緊張が抜けにくくなることがあります。
HRVを見るときは、座位時間、休憩の取り方、歩く機会、軽い運動の有無を合わせて確認する必要があります。心拍やHRVの変化だけを取り出しても、職場の状態は見えにくいからです。
| 見る項目 | 確認したいこと | 健康経営での使い方 |
|---|---|---|
| 座位時間 | 長時間同じ姿勢が続いていないか | 休憩や軽い運動を入れるタイミングを考える |
| HRV | 緊張や疲労が続いていないか | 本人の体感と合わせてストレス反応を確認する |
| 運動習慣 | 日常的に身体を動かす機会があるか | 研修後のセルフケア行動につなげる |
| 不安傾向 | 仕事中の緊張や心配が強くないか | 管理職支援や相談しやすい環境づくりに活かす |
| 研修後の行動 | 休憩、呼吸、ストレッチが続いているか | 次のフォローアップ施策を考える |
軽い運動は、デスクワーカーのストレス対策に使いやすい
デスクワーカーのストレス対策では、激しい運動を求める必要はありません。職場で取り入れやすいのは、短時間のストレッチ、肩まわりを動かす運動、立ち上がる機会を増やすこと、呼吸を整えることです。
軽い運動は、体をほぐすだけでなく、仕事中の緊張をいったん切り替えるきっかけになります。従業員にとっても、「運動しなければならない」と構えるより、仕事の合間にできるセルフケアとして伝えるほうが受け入れられやすくなります。
健康経営の研修では、知識として運動の必要性を伝えるだけでは不十分です。実際にその場で体を動かし、「これなら職場でもできる」と感じてもらうことが、研修後の行動変化につながります。
不安傾向が高い従業員には、運動だけでは足りない場合がある
同じ軽い運動を行っても、すべての従業員に同じ変化が出るわけではありません。もともと緊張しやすい人、不安が強い人、失敗を強く恐れる人では、運動後も体の緊張が抜けにくい場合があります。
このような従業員に対しては、「運動すればよい」と単純に伝えないことが大切です。軽い運動に加えて、安心して参加できる雰囲気、無理をさせない進行、呼吸や休憩の取り方、相談先の案内も必要になります。
人事総務の担当者が見たいのは、運動の有無だけではありません。研修後に従業員が自分の状態に気づき、無理なく続けられる行動を選べるようになったかという点です。
ウェアラブルデータを使うときの注意点
近年は、ウェアラブルデバイスを使って、心拍、HRV、ストレスレベル、身体活動量を確認できるようになっています。職場研修でも、受講者が自分の状態に気づくための補助情報として使える可能性があります。
ただし、ウェアラブルデータは医療的な診断ではありません。測定機器、装着状態、体調、睡眠、カフェイン、気温、運動直後かどうかによって数値は変わります。
職場で使う場合は、個人の数値を評価や管理に使わないことが前提です。本人の同意を得たうえで、自分の体の反応に気づくための情報として扱う必要があります。
| 使いやすい扱い方 | 避けたい扱い方 |
|---|---|
| 本人が自分の疲れに気づく材料にする | 会社が個人のストレス数値を監視する |
| 研修前後の変化を見る | 一回の数値だけで状態を決める |
| 軽い運動や休憩の効果を振り返る | 高ストレス者を探す目的だけで使う |
| 部署全体の支援を考える参考にする | 人事評価や勤務態度の判断に使う |
先行研究から見えるポイント
先行研究では、HRVが自律神経の状態やストレス反応を考える手がかりになることが示されています。長時間座って働く生活、身体活動量の低下、心理的な緊張は、心身の状態に影響する可能性があります。
一方で、HRVだけですべてのストレスを説明することはできません。身体活動、運動習慣、不安傾向、睡眠、体調などが重なって変化するためです。
| 研究の視点 | 示されている内容 | 職場での読み方 |
|---|---|---|
| 長時間座位と自律神経 | 座位時間の長さが自律神経やストレス反応に関係する可能性 | 座りっぱなしの働き方を健康経営の課題として見る |
| 軽い運動とHRV | 短時間の身体活動がHRVやストレス反応に影響する可能性 | 職場で実施しやすい運動を研修に入れる |
| 不安傾向とHRV | 不安が強い場合、HRVの回復が弱くなる可能性 | 運動だけでなく心理的な安心感も支援する |
| ウェアラブル測定 | 日常環境で心拍や活動量を継続的に見られる可能性 | 測定データを本人の気づきと研修後フォローに使う |
この記事で扱う研究メモは、これらの知見をもとに、デスクワーカーのHRV、ストレスレベル、運動習慣、不安傾向を職場の健康支援にどう活かすかを考える内容です。
この研究メモで見る仮説
この研究メモでは、デスクワーカーを対象に、運動習慣の有無と不安傾向が、HRVやストレスレベルにどのように関わるかを見ています。
考え方の中心は、次の2点です。ひとつは、運動習慣のある従業員ではHRVが高く、ストレスレベルが低い傾向が見られる可能性があること。もうひとつは、不安傾向が高い従業員では、職場で軽い運動を行っても、すぐにはHRVが回復しにくい可能性があることです。
この視点は、健康経営の研修設計に役立ちます。全員に同じセルフケアを勧めるだけではなく、緊張しやすい人、疲れをためやすい人、運動に抵抗がある人にも届く伝え方が必要になるからです。
タニカワ久美子の企業研修での現場感
タニカワ久美子の企業研修では、HRVやストレスレベルを「良い・悪い」の判定には使いません。現場では、本人が「座って仕事をしているだけだから大丈夫」と思っていても、肩に力が入り、呼吸が浅く、集中しにくい状態になっていることがあります。
研修では、まず受講者自身に「今の体の重さ」「呼吸のしやすさ」「肩や背中のこわばり」を感じてもらいます。そのうえで、短いストレッチや呼吸、立ち上がる動作を入れると、体感が変わる人がいます。数値より先に、自分の体の変化を言葉にできることが大切です。
人事総務の担当者からも、座学だけではなく、全員で実際にできる軽い運動がある点を評価されています。デスクワーカー向けの健康経営研修では、知識を伝えるだけでなく、仕事中に続けられる行動へ変えることが必要です。
健康経営担当者が施策に活かす見方
デスクワーカー向けのストレス管理では、単に「運動しましょう」と伝えるだけでは行動が続きにくくなります。人事総務の担当者は、従業員が実際に続けられる形にする必要があります。
たとえば、長時間座位が多い部署では、短時間の立ち上がり、肩まわりの運動、昼休み前後の軽いストレッチを入れるだけでも、セルフケアの入口になります。緊張が強い職場では、呼吸や休憩の取り方、相談しやすい雰囲気づくりも重要です。
| 職場の課題 | 研修で扱う内容 | 研修後に見る変化 |
|---|---|---|
| 座りっぱなしが多い | 短時間の立ち上がり、肩まわりの軽い運動 | 休憩や姿勢を意識する人が増えたか |
| 疲労感が抜けにくい | 呼吸、睡眠、日中の回復行動 | 自分の疲れに気づけるようになったか |
| 緊張しやすい社員が多い | 不安を責めないセルフケア、相談先の案内 | 無理なく参加できる雰囲気があるか |
| 研修が単発で終わる | 研修後フォロー、行動変化の確認 | 1か月後も続いている行動があるか |
HRVは、デスクワーカー支援の入口になる
HRVは、デスクワーカーのストレスや自律神経の状態を考える手がかりになります。ただし、HRVだけで従業員の状態を決めることはできません。座位時間、運動習慣、不安傾向、睡眠、本人の体感を合わせて見ることが必要です。
健康経営の担当者にとって重要なのは、数値を集めることではありません。長時間座って働く従業員が、自分の疲れや緊張に気づき、職場で続けられるセルフケアにつながるかどうかです。
デスクワーカー向けのストレス管理研修では、HRVやウェアラブルデータを補助情報として使いながら、軽い運動、呼吸、休憩、相談しやすい職場づくりへつなげることが大切です。
デスクワーカーのストレス対策を、健康経営の施策として続けたいご担当者へ
けんこう総研では、長時間座位、HRV、軽い運動、研修後フォローを組み合わせたストレス管理研修と健康経営支援を行っています。
HRVやウェアラブルデバイスの測定データは、医師による診断や治療の代わりになるものではありません。疾病の診断、治療、予防を目的とした医療機器として扱うのではなく、健康経営研修における気づきや行動変化を支援する補助的な情報として使用します。
参考文献:Thayerら(2010年)、Healyら(2019年)、Kimら(2018年)、長峯邦明・関根智仁・時任静士(2020年)、Nakagomeら(2023年)、天笠志保・荒神裕之・鎌田真光ら(2024年)ほか。
文責:タニカワ久美子
