ストレス計測・行動変容|健康経営のKPI設計と研修効果測定
職場ストレスのリアルタイム測定|HRVと不安・運動習慣の研究発表
職場のストレス対策では、「社員の状態をどう測ればよいのか」で迷う担当者が少なくありません。この記事では、実際の職場でデスクワーカーの心拍変動(HRV)とストレスレベルをリアルタイムに測定した研究発表をもとに、健康経営でどのように活かせるかを見ていきます。運動習慣や不安の強さによって、ストレス反応がどのように変わるのかを考える内容です。人事総務・健康経営担当者が、研修後フォローや職場支援を考えるときの材料にしてください。
HRVやストレスレベルの測定は、従業員を判定するためのものではありません。緊張、疲労、睡眠不足、身体活動、職場環境などが重なって表れる体の反応です。健康経営で使う場合は、数値だけで判断せず、本人の体感、働き方、運動習慣、相談しやすさと合わせて見ることが大切です。
日本ストレス学術総会で発表した研究内容を、健康経営担当者向けに読みやすくまとめた記事です。
この研究で見たこと
本研究では、デスクワーカーを対象に、ウェアラブルデバイスを用いてHRVとストレスレベルの変化を確認しました。あわせて、運動習慣の有無や顕在性不安度が、生理的なストレス反応にどのように関わるかを検討しています。
従来のストレス研究では、実験室のように条件を整えた環境で測定するものが多くあります。一方で、職場のストレスは、会議、納期、対人関係、座りっぱなしの作業、休憩の取りにくさなど、日常の働き方の中で起こります。
そのため本研究では、実際の職場環境でデータを取得し、現実の働き方に近い状態でストレス反応を見ようとしました。健康経営の現場で使える知見に近づけるためには、この視点が重要です。
リアルタイム測定を行う意味
ストレス調査は、アンケートや面談だけでも一定の情報を得られます。ただし、本人が自覚していない緊張や、仕事中に変化する疲労感までは拾いきれない場合があります。
リアルタイム測定では、仕事中や研修中に体がどのように反応しているのかを、時間の流れとともに確認できます。たとえば、軽い運動の前後、緊張しやすい場面、休憩後の変化などを見やすくなります。
ただし、リアルタイム測定は万能ではありません。測定できるのは体の反応の一部です。本人の感じ方や職場の背景と合わせて見なければ、健康経営の判断材料としては不十分になります。
HRVとストレスレベルで見えること
HRVは、心拍変動のことです。心臓の拍動間隔のゆらぎを見ることで、自律神経の働きを考える手がかりになります。強い緊張や疲労が続くと、HRVに変化が出ることがあります。
一方で、HRVは個人差が大きい指標です。睡眠、体調、運動、年齢、測定状態によっても変わります。そのため、他人同士を単純に比べるよりも、その人自身の変化を見るほうが職場では使いやすくなります。
| 測定した内容 | 何を見るためか | 健康経営での読み方 |
|---|---|---|
| HRV | 自律神経の働きや緊張の続き方を見る | 数値だけでなく、本人の体感と合わせて確認する |
| ストレスレベル | 仕事中や研修中の反応の変化を見る | 一時的な変化か、継続的な負担かを考える |
| 運動習慣 | 日常的に体を動かす機会があるかを見る | 研修後のセルフケア行動につなげる |
| 顕在性不安度 | 不安や緊張の出やすさを見る | 運動だけでなく、安心して参加できる支援も考える |
運動習慣とストレスレベルの関係
本研究では、運動習慣がHRVやストレスレベルに与える影響を確認しました。従来の研究では、運動がストレス軽減に役立つ可能性が報告されています。しかし今回のデータでは、期待したほど明確な有意差は確認されませんでした。
この結果は、失敗ではありません。実際の職場で測る場合、運動習慣の内容、運動の頻度、仕事の忙しさ、睡眠、体調、測定時の緊張などが重なります。小さなサンプルでは、はっきりした差が出にくいこともあります。
健康経営で重要なのは、「運動は効く」と単純に言い切ることではありません。どのような人に、どの程度の運動なら続けやすいのか。仕事中に無理なくできる内容か。研修後も続く行動になるか。この視点が必要です。
顕在性不安度とストレス反応の関係
顕在性不安度とは、本人が感じやすい不安や緊張の傾向を見る考え方です。緊張しやすい人、不安を抱えやすい人では、同じ職場環境でもストレス反応が強く出ることがあります。
本研究では、顕在性不安度とストレスレベルの関係についても確認しましたが、明確な有意差は確認されませんでした。この点も、現場での測定では大切な知見です。
不安傾向がある人に対して、「運動すればよい」とだけ伝えると、かえって負担になることがあります。職場研修では、軽い運動に加えて、安心して参加できる雰囲気、無理をさせない進め方、相談先の案内が必要になります。
有意差が出なかった結果をどう読むか
研究では、有意差が出ることだけが価値ではありません。特に職場での実測データでは、人数、測定環境、働き方、心理状態が複雑に関わります。期待した差が出なかった場合でも、「なぜ出なかったのか」を考えることで、次の測定や研修の改善につながります。
今回の結果からは、運動習慣や不安傾向だけでストレス反応を説明するのは難しいことが見えてきます。職場ストレスは、個人の習慣だけでなく、業務量、休憩の取りやすさ、職場の人間関係、管理職の関わり方にも影響されます。
健康経営担当者が見るべきなのは、単一の数値や有意差だけではありません。従業員が自分の状態に気づき、職場としてどの支援を続けるべきかを考えることです。
リアルタイムモニタリングを健康経営で使うときの注意点
リアルタイムモニタリングは、職場のストレス反応を考えるうえで役立つ可能性があります。一方で、扱い方を間違えると、従業員に「監視されている」と感じさせてしまいます。
特に注意したいのは、個人のストレス数値を会社が細かく把握し、人事評価や勤務態度の判断に使うことです。これは健康支援ではなく、心理的な負担につながる恐れがあります。
健康経営で使うなら、本人の同意を前提に、研修中の気づきやセルフケア行動につなげる補助情報として扱う必要があります。
| 活かしやすい使い方 | 避けたい使い方 |
|---|---|
| 本人が自分の疲れや緊張に気づく材料にする | 会社が個人のストレス数値を監視する |
| 研修前後の変化を見る | 一回の数値だけで状態を決める |
| 軽い運動や休憩の効果を振り返る | 高ストレス者を探す目的だけで使う |
| 職場全体の支援を考える参考にする | 人事評価や勤務態度の判断に使う |
| 本人の同意と説明を前提にする | 目的を説明せずにデータを取る |
研究発表としての新規性
本研究の特徴は、実際の職場環境で、デスクワーカーのHRVとストレスレベルをリアルタイムに確認した点です。実験室ではなく、日常の働き方に近い場面で測定したことに意味があります。
また、運動習慣や顕在性不安度をあわせて見ることで、ストレス管理を一律の方法ではなく、個人差のある反応として捉えようとしました。今後、健康経営の研修やフォローアップを考えるうえで、この視点は重要になります。
さらに、ウェアラブルデバイスとデータ処理を組み合わせることで、職場でのストレス反応を時間の流れに沿って見る可能性を示しました。測定精度や対象人数などの課題は残りますが、実務に近い研究として価値があります。
タニカワ久美子の企業研修での活かし方
タニカワ久美子の企業研修では、HRVやストレスレベルを「良い・悪い」の判定には使いません。現場では、本人が「大丈夫です」と答えていても、呼吸が浅く、肩に力が入り、疲れに気づいていない社員さんがいます。そこで、数値を見せる前に、まず本人の体感を言葉にしてもらいます。
軽い運動や呼吸を行ったあと、「思ったより体が固まっていた」「少し楽になった」と気づく受講者もいます。この気づきがあると、ストレス管理は特別な時間を取らなくても、仕事の合間にできるものだと受け止めやすくなります。
人事総務の担当者からも、座学だけではなく、全員で実際にできる軽い運動がある点を評価されています。リアルタイム測定は、従業員を管理するためではなく、研修後の行動変化につなげるために使うことが重要です。
健康経営担当者が読み取るべきこと
この研究発表から健康経営担当者が読み取るべきことは、職場ストレスはひとつの指標だけでは判断できないという点です。HRV、ストレスレベル、運動習慣、不安傾向は、それぞれ大切な情報ですが、単独では職場の実態を説明しきれません。
職場で施策を考えるときは、測定データ、本人の体感、業務量、休憩の取りやすさ、管理職の関わり方を合わせて見ます。そうすることで、単なるデータ収集ではなく、研修後フォローや職場改善につながりやすくなります。
| 見るべき情報 | 読み取れること | 次の施策 |
|---|---|---|
| HRV | 緊張や回復状態の手がかり | 休憩、睡眠、軽い運動への支援 |
| ストレスレベル | 仕事中や研修中の反応の変化 | 研修前後の体感確認 |
| 運動習慣 | 日常的なセルフケアの有無 | 職場で続けられる運動の提案 |
| 顕在性不安度 | 緊張や不安の出やすさ | 無理をさせない進行と相談先の案内 |
| 本人の声 | 数値では見えない負担感 | 面談、管理職支援、職場環境の見直し |
職場ストレスのリアルタイム測定は、支援につなげて意味がある
職場ストレスのリアルタイム測定は、健康経営に役立つ可能性があります。ただし、測ること自体が目的になってしまうと、従業員の不安を増やすことがあります。
大切なのは、測定データを本人の気づき、セルフケア行動、研修後フォロー、管理職支援につなげることです。HRVやストレスレベルは、職場の状態を考えるための入口になります。
健康経営担当者にとって重要なのは、数値を集めることではありません。従業員が自分の疲れや緊張に気づき、職場で無理なく続けられるストレス対策につながるかどうかです。
職場ストレスの測定結果を、研修後フォローや健康経営施策につなげたいご担当者へ
けんこう総研では、HRVやストレスレベルの見方を踏まえながら、従業員が無理なく参加できるストレス管理研修と健康経営フォローアップを行っています。
HRV、ストレスレベル、ウェアラブルデバイスによる測定情報は、医師による診断や治療の代わりになるものではありません。疾病の診断、治療、予防を目的としたものではなく、健康経営研修における気づきや行動変化を支援する補助的な情報として扱います。
文責:タニカワ久美子
