感情労働ストレス
燃え尽き症候群を招くストレス対策疲れを見逃さない判断
ストレス対策として良い方法でも、社員本人に合っていなければ、かえって負担になることがあります。
運動が苦手な社員に「ストレスには運動がよいので、毎日続けましょう」と伝える。疲れている社員に、さらに健康イベントやセルフケア課題を増やす。前向きな考え方を勧めるつもりが、本人には「もっと頑張らなければ」と聞こえてしまう。
人事総務・健康経営担当者が見たいのは、ストレス対策を実施したかどうかだけではありません。
その対策が、社員にとって安心して使えるものになっているか。それとも、新しい負担になっていないかです。
この記事では、燃え尽き症候群を招くストレスを、忙しさだけでなく、報われない努力と合わないストレス対策という見方で整理します。
感情労働ストレスが職場に残りやすい理由は、感情労働ストレスが職場に残る理由で整理しています。この記事では、ストレス対策そのものが負担になっていないかという判断に絞ります。
良い対策でも、合わなければ負担になる
ストレス対策には、運動、睡眠、呼吸、ストレッチ、相談、記録、気分転換など、さまざまな方法があります。
どれも方法としては間違っていません。
けれども、社員本人の状態に合っていなければ、対策そのものが負担になります。
運動が苦手な人に運動を勧める。人に話すことが苦手な人に相談を強く促す。すでに業務で疲れている人に、健康施策への参加を追加する。
このような形になると、社員は「またやることが増えた」と感じます。
燃え尽き症候群を防ぐには、正しい対策を増やす前に、その対策が本人にとって続けられる形かを見る必要があります。
報われない努力が続くと、心は消耗する
燃え尽き症候群に近づくストレスは、仕事量の多さだけではありません。
努力しているのに認められない。相手に合わせ続けても感謝されない。感情的に重い対応をしても、職場では「できて当然」と見られる。
このような状態が続くと、社員は「自分の頑張りに意味があるのだろうか」と感じやすくなります。
特に、接客、教育、医療、介護、相談窓口、管理職など、感情労働が多い職場では、努力が見えにくくなります。
お客様の怒りを受け止めたこと。患者さんや利用者さんに丁寧に接したこと。保護者や相談者の不安に向き合ったこと。部下の相談を受け続けたこと。
こうした負担は、数字や記録に残りにくいものです。
そのため、本人の中では疲れが残っていても、職場では「対応できている」と見られやすくなります。
ストレス対策が「さらに頑張る課題」になっていないか
健康経営の施策として、運動プログラム、セルフケア研修、面談、健康イベントを実施することがあります。
しかし、現場の状態を見ないまま施策を増やすと、社員には新しい課題のように受け止められることがあります。
忙しい時期に研修が入る。疲れている社員に、前向きな行動を求める。全員に同じ方法を勧める。参加できない社員が、後ろめたさを感じる。
この状態では、ストレス対策が職場改善ではなく、社員にとっての追加負担になります。
人事総務が見るべきなのは、施策の数ではありません。その施策が、疲れている社員にも使える形になっているかです。
職場で見たい判断材料
| 職場で起きていること | 社員に起こりやすい反応 | 人事総務が見る判断 |
|---|---|---|
| 全員に同じストレス対策を勧める | 合わない人ほど負担を感じる | 選べる余地があるか |
| 忙しい時期に健康施策を追加する | 健康施策まで業務の一部に感じる | 実施時期が現場の負荷と合っているか |
| 運動や前向きさを強調する | できない自分を責めやすくなる | 苦手な人への別案があるか |
| 感情対応の疲れが見えない | 報われなさが残る | 見えにくい努力を上司が見ているか |
| セルフケアだけを求める | 職場の負担構造が変わらない | 業務・役割・相談体制も見ているか |
疲れている人ほど、対策を断りにくい
責任感の強い社員ほど、ストレス対策もまじめに受け止めます。
「やった方がよいと言われたから、やらなければ」
「参加しないと、健康意識が低いと思われるかもしれない」
「自分だけできないと言うのは申し訳ない」
このように考える社員は、対策が合っていなくても断りにくくなります。
本当に疲れている人ほど、自分の疲れを軽く言うことがあります。
だからこそ、人事総務や管理職は、参加率や実施回数だけで判断しないことが大切です。
見たいのは、社員が安心して選べているか、合わない方法を無理に続けていないかです。
運動が合わない社員もいる
運動は、ストレス対策として役立つ方法の一つです。
ただし、すべての社員に同じように合うわけではありません。
運動が苦手な人、体力に不安がある人、時間が取りにくい人、人前で身体を動かすことに抵抗がある人もいます。
その社員にとっては、「運動しましょう」という言葉が、励ましではなく負担になることがあります。
この場合、大切なのは運動を否定することではありません。
呼吸を整える。肩の力を抜く。席を立って水を飲む。昼休みに数分だけ静かに過ごす。感情的に重い対応のあと、一呼吸おく。
本人が使える小さな方法から見ていくことです。
専門職でも迷う判断ポイント
専門職でも迷うのは、良い施策を勧めているのに、なぜ現場で定着しないのかという点です。
運動も良い。セルフケアも大切。相談も必要。研修も意味がある。
それでも現場で使われない場合、社員の意識が低いとは限りません。
その方法が、今の職場の負担や本人の状態に合っていない可能性があります。
ここで見るべきなのは、社員のやる気ではありません。
施策が、さらに頑張る課題になっていないか。疲れている人が断りにくい形になっていないか。選べる余地があるか。感情労働の負担が残ったまま、個人のセルフケアだけに戻されていないかです。
研修前に整理したいこと
研修前に整理したいのは、ストレス対策の種類を増やすことではありません。
社員がどの負担で消耗しているのか。報われない努力がどこに残っているのか。健康施策が追加業務のように受け止められていないか。全員同じ方法になっていないか。
ここを見ないまま研修を行うと、受講者は「ストレス対策は大切だ」と理解しても、現場では「またやることが増えた」と感じる人が出ます。
この記事で扱うのは、問題の見方までです。実際の職場では、職種、業務負荷、管理職の関与、社員が選べる対策の幅を確認しながら、扱い方を分ける必要があります。
タニカワ久美子が見る現場の違和感
タニカワ久美子が研修現場で大切にしているのは、ストレス対策を根性論にしないことです。
以前、研修で「運動が嫌いな人に運動を勧めるのは、かえってストレスではないですか」と質問された方がいました。
その方は、弱音を言っていたのではありません。自分に合わない対策を続ける苦しさを、正直に言葉にしていました。
この違和感は、とても重要です。
ストレス対策は、良い方法を押し付けることではありません。社員が自分の状態に合わせて、無理なく使える形でなければ続きません。
人事総務や管理職が見たいのは、対策を実施したかどうかではなく、社員が安心して選べる状態になっているかです。
ストレス対策疲れを職場の判断材料にする
燃え尽き症候群を招くストレスは、忙しさだけではありません。
報われない努力、感情を抑え続ける働き方、そして本人に合わないストレス対策が重なると、心の消耗は深くなります。
良い施策のはずが、社員にとって「さらに頑張る課題」になっていないか。
ストレス対策を、本人の努力に戻さず、職場で見るべき負担として確認できていますか。
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。