ストレス管理
心理社会的ケアとは|職場メンタルヘルス支援の実践
このストレス管理カテゴリーでは、職場で起こる心身の反応を、社員の不調予防につなげる視点で扱っています。本記事の焦点は、社員一人ひとりにセルフケアだけを求めることではありません。心理社会的ケアとは、不安やストレスを抱えた社員を、職場の人間関係、管理職の声かけ、相談体制、業務負荷の見直しによって支える考え方です。人事総務・健康経営担当者が、社員の不調を本人任せにせず、職場として支援するための内容です。
心理社会的ケアとは
心理社会的ケアとは、心の状態だけを見るのではなく、その人を取り巻く人間関係や職場環境も含めて支える考え方です。
社員が不安やストレスを抱えているとき、本人の考え方や性格だけが原因とは限りません。仕事量が多い、相談しにくい、上司に言い出しにくい、職場の空気が張りつめている、情報が不足しているなど、周囲の環境が不安を強めていることがあります。
そのため、心理社会的ケアでは、社員本人のセルフケアだけでなく、管理職の関わり方、職場の情報共有、相談先の整備、業務負荷の調整まで含めて考えます。
メンタルヘルス対策は本人任せにしない
職場のメンタルヘルス対策では、「自分でストレスを解消しましょう」と伝えるだけでは不十分です。
深呼吸、ストレッチ、睡眠、気分転換は大切です。しかし、仕事量が多すぎる、相談できない、休憩が取れない、管理職に言い出せない状態が続いていれば、社員本人の努力だけでは限界があります。
心理社会的ケアでは、社員が自分の状態に気づくことに加えて、職場側が支えられる体制をつくることを重視します。
不安やストレスは自然な反応である
仕事の変化、感染症への不安、災害、組織変更、人間関係、業務量の増加などがあると、不安やストレスを感じるのは自然な反応です。
大切なのは、「不安になってはいけない」と考えさせないことです。不安やストレスを感じている社員に対して、「気にしすぎ」「前向きに考えよう」とだけ伝えると、本人はさらに話しにくくなります。
職場では、不安をゼロにすることよりも、不安を一人で抱え込ませないことが重要です。
心理社会的ケアが必要になる職場のサイン
心理社会的ケアが必要な職場では、次のような変化が見られることがあります。
- 社員が「大丈夫です」と言うが、表情が硬い
- 相談窓口はあるが、実際には利用されていない
- 管理職が部下の不調に気づきにくい
- 休憩や有給休暇を取りにくい空気がある
- 感染症や災害などの不安が職場に残っている
- 業務量の偏りが続いている
- 社員同士の雑談や声かけが減っている
- ストレスチェック後の対応が形だけになっている
このような状態では、個人のストレス解消法だけでは十分ではありません。職場全体で、声をかけやすい空気や相談しやすい流れを整える必要があります。
心理社会的ケアと4つのケア
職場のメンタルヘルス対策では、4つのケアという考え方があります。
- セルフケア:社員本人が自分のストレスや心身の変化に気づき、早めに対処すること
- ラインによるケア:管理職が部下の変化に気づき、声をかけ、職場環境を見直すこと
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医、保健師、衛生管理者、人事労務担当者などが支援すること
- 事業場外資源によるケア:外部相談窓口、医療機関、産業保健総合支援センターなどを活用すること
心理社会的ケアは、この4つのケアを現場で機能させるための考え方として使えます。社員本人だけではなく、管理職、人事総務、産業保健スタッフ、外部資源がつながることで、支援の抜け漏れを減らせます。
セルフケアだけでは届かない社員がいる
社員向け研修では、深呼吸、ストレッチ、睡眠、気分転換などのセルフケアを伝えることがあります。これらは大切ですが、すべての社員に同じように届くわけではありません。
疲れきっている社員は、セルフケアをする気力が残っていない場合があります。悩みを抱えている社員は、「自分が弱いだけ」と考え、相談できないことがあります。管理職に気をつかいすぎる社員は、不調を隠してしまうこともあります。
このような社員には、「自分でケアしましょう」だけではなく、周囲が気づき、声をかけ、必要な支援につなげることが必要です。
管理職の声かけが心理社会的ケアの入口になる
心理社会的ケアでは、管理職の声かけが重要です。
部下が疲れているように見えるとき、「大丈夫?」だけでは本音が出にくいことがあります。社員は反射的に「大丈夫です」と答えてしまうからです。
次のように、状態を具体的に聞く方が話しやすくなります。
- 最近、朝から疲れが残っていませんか
- 仕事量が続きすぎていませんか
- 休憩は取れていますか
- 相談しにくいことを一人で抱えていませんか
- 眠れている感じはありますか
- 今、優先順位を一緒に整理しましょうか
この声かけは、部下を評価するためではありません。不調が大きくなる前に、本人の状態と職場の負荷を一緒に確認するための入口です。
企業研修で見える「相談先はあるのに話せない社員」
タニカワ久美子の企業研修では、人事総務の担当者から「相談窓口はあります。でも、社員がなかなか相談してくれません」という声を聞くことがあります。
研修で社員さんに話を聞くと、制度を知らないわけではない場合があります。「どの程度の悩みで相談してよいかわからない」「上司に知られるのではないか」「自分だけ弱いと思われそう」と感じて、相談先があっても使えないまま抱えていることがあります。
ある研修では、社員さんが「不安はあるけれど、仕事はできているので相談するほどではないと思っていました」と話しました。しかし、よく聞くと、眠りが浅く、休日も仕事のことを考え、朝から疲れが残っていました。本人は不調だとまでは思っていませんでしたが、心身の回復は追いついていなかったのです。
このときタニカワ久美子が伝えるのは、「早く相談しましょう」だけではありません。社員が相談しやすくなるには、相談してよい目安、秘密が守られる範囲、相談後の流れが見えていることが必要です。制度があるだけでは、心理社会的ケアは機能しません。
人事総務・健康経営担当者にとっても、この視点は重要です。社員が相談しない理由を「意識が低い」と決めつけず、相談しにくさ、管理職への遠慮、職場の空気、情報の伝え方を見直すことで、支援につながる入口を増やせます。
不安をあおらない情報共有が必要
感染症、災害、組織変更、業務変更などがあるとき、社員は情報不足によって不安を感じやすくなります。
情報が少ないと、社員は自分で想像して不安を膨らませます。反対に、情報が多すぎても、何を信じればよいかわからなくなり、疲れてしまうことがあります。
人事総務・健康経営担当者は、必要な情報を、わかりやすく、繰り返し伝える必要があります。大切なのは、不安をあおることではなく、社員が次に何をすればよいかを理解できる形で伝えることです。
心理社会的ケアで整えたい職場の仕組み
心理社会的ケアを職場で機能させるには、日常の仕組みに落とし込む必要があります。
- 相談窓口の使い方をわかりやすく伝える
- 管理職に声かけの研修を行う
- 休憩を取りやすい空気をつくる
- 業務量の偏りを定期的に確認する
- 感染症や災害時の情報共有ルールを整える
- ストレスチェック後の対応を形だけにしない
- 産業医、保健師、人事総務、外部相談窓口の役割を整理する
心理社会的ケアは、特別なイベントではありません。社員が安心して働き続けるために、日常業務の中に支援の流れを入れておくことです。
個人の対処法も職場の支援と組み合わせる
心理社会的ケアでは、個人の対処法も大切です。ただし、職場の支援と切り離さないことが重要です。
社員本人ができることには、次のようなものがあります。
- 深呼吸をして身体の緊張に気づく
- 短いストレッチで気分を切り替える
- 眠れているかを確認する
- 不安な情報を見続けすぎない
- 飲酒や喫煙だけに頼らない
- 早めに誰かへ相談する
これらは、社員本人のセルフケアとして役立ちます。しかし、職場の負荷が強すぎる場合は、本人の努力だけでは足りません。職場側の調整とセットで考える必要があります。
人事総務が確認しやすいチェック項目
心理社会的ケアを進めるとき、人事総務・健康経営担当者は次の点を確認します。
- 社員が相談窓口の使い方を理解しているか
- 管理職が部下の不調サインに気づけているか
- 社員が不安を話しても責められない空気があるか
- 業務量や残業が特定の社員に偏っていないか
- 休憩や休暇を取りにくい雰囲気がないか
- ストレスチェック後の面談や支援につながっているか
- 産業医や外部相談窓口と連携できているか
これらは、制度を増やすための確認ではありません。既にある制度や支援が、社員にとって使える形になっているかを見るための項目です。
心理社会的ケアは、社員の不安を一人にしない支援である
心理社会的ケアは、社員の不安やストレスを本人だけに背負わせないための支援です。
深呼吸や運動などのセルフケアは大切です。しかし、それだけでは届かない社員がいます。相談先があっても使えない社員、管理職に気をつかって不調を隠す社員、疲れているのに「大丈夫です」と言う社員もいます。
人事総務・健康経営担当者が見るべきなのは、社員が自分で対処できているかだけではありません。職場として支える流れがあるか、相談してよい空気があるか、管理職が早めに気づけるかです。
心理社会的ケアを職場のメンタルヘルス対策として整えたい場合は、ストレスマネジメント研修をご確認ください。