ユーストレス(良性ストレス)
職場に入れる運動の選び方|ストレス軽減につながる施策選定
職場のストレス対策として、運動を取り入れたいと考える人事総務・健康経営担当者は多いのではないでしょうか。
ストレッチ、体操、ウォーキング、ヨガ、筋力トレーニング、スポーツイベントなど、候補はいくつもあります。
ただ、職場で大切なのは、「運動なら何でもよい」と考えないことです。
同じように体を動かす活動でも、ゆっくり呼吸を整える運動、全身を使う運動、筋力を使う運動、競争性のある運動では、社員の受け止め方が変わります。
運動後に気分が軽くなる社員もいれば、疲れすぎたり、人と比べられることが負担になったりする社員もいます。
職場に入れる運動を選ぶときは、運動の効果だけでなく、強度、設備、着替えの有無、参加しやすさ、体力差、競争性、継続しやすさを合わせて見る必要があります。
この記事では、4つの運動形式を比べた研究を参考にしながら、人事総務・健康経営担当者が、自社の職場に合う運動を選ぶための視点を整理します。
職場の運動は、種類選びで成果が変わります
ストレス対策として、運動を取り入れる企業や学校は少なくありません。
運動には、気分転換、緊張のゆるみ、達成感、睡眠の改善、体力維持などにつながる可能性があります。
仕事で頭がいっぱいになっているとき、少し体を動かすだけで、気持ちが切り替わることもあります。
ただし、職場で運動を使うときは、「とにかく運動すればよい」と考えると失敗しやすくなります。
運動の種類、強度、競争の有無、本人の好み、体力、服装、場所、参加しやすさによって、ストレス軽減につながる場合もあれば、かえって負担になる場合もあります。
職場の健康経営では、運動をすすめる前に、社員が安心して参加できる内容かどうかを見ておくことが大切です。
4つの運動形式から、職場導入の違いを考えます
参考になる研究の一つに、BergerとOwenによる1988年の研究があります。
この研究では、次の4つの運動形式が、ストレス軽減や気分の変化にどのように関係するかが調べられました。
- スイミング
- ボディコンディショニング
- ハタヨガ
- フェンシング
ここで大切なのは、「運動なら何でも同じ」と見ていない点です。
ゆっくり呼吸を整える運動、全身を使う運動、筋力を使う運動、相手と競う運動では、心と体への伝わり方が違います。
職場の運動施策でも、この違いを見ずに一律で導入すると、参加しやすい人と参加しにくい人が分かれてしまいます。
| 運動形式 | 特徴 | 職場導入で見る点 |
|---|---|---|
| スイミング | 水中で全身を使い、呼吸とリズムが関係する | 施設、着替え、移動時間が必要で、職場では導入条件が限られる |
| ボディコンディショニング | 筋力トレーニングや有酸素運動を含む身体づくり | 強度調整が必要で、運動が苦手な社員には負担になりやすい |
| ハタヨガ | 姿勢、呼吸、ゆっくりした動きを組み合わせる | 短時間・低強度にしやすく、研修や休憩時間に組み込みやすい |
| フェンシング | 相手との駆け引き、瞬発力、集中力が必要な競技 | 競争性があるため、緊張や比較が負担になる社員もいる |
この4つをそのまま職場に入れるという意味ではありません。
人事総務が見たいのは、自社の職場に合う運動を選ぶときに、どの条件を比べるかです。
運動を選ぶときは、効果より先に職場条件を見ます
運動施策を選ぶとき、先に「何が効果的か」だけを見てしまうと、現場で続かないことがあります。
研究上は気分の変化が期待できる運動でも、職場では設備がない、着替えが必要、時間が取れない、体力差が大きい、参加しない人が目立つ、という問題が起こるからです。
職場で運動を選ぶときは、次の順番で考えると失敗を減らしやすくなります。
| 選定視点 | 確認したいこと | 職場での意味 |
|---|---|---|
| 時間 | 勤務中に短く入れられるか | 忙しい部署でも取り入れやすくなる |
| 場所 | 会議室・自席・休憩室でできるか | 特別な設備がなくても実施しやすい |
| 服装 | 着替えなしでできるか | 心理的なハードルが下がる |
| 強度 | 軽め・普通・見学を選べるか | 体力差や体調差に配慮しやすい |
| 競争性 | 順位や比較が強すぎないか | 参加しない社員や苦手な社員への負担を減らせる |
| 継続性 | 研修後も職場で使えるか | 単発イベントで終わりにくくなる |
職場の運動施策では、効果がありそうな運動を選ぶだけでは足りません。
社員が安心して参加でき、日常業務の中に無理なく置けるかどうかを先に見ておきます。
気分の変化を見る研究は、施策選定の参考になります
BergerとOwenの研究では、気分の変化を見るためにPOMSが使われました。
POMSは、気分の状態をいくつかの面から見る心理尺度です。
主に、緊張や不安、落ち込み、怒り、活力、疲労、混乱などを確認します。
職場で考えると、POMSのような考え方は、研修や運動プログラムの前後で「社員の気分がどう変わったか」を見るときの参考になります。
ただし、点数だけで社員の状態を決めつけることはできません。
本人の体調、仕事量、睡眠、職場環境、参加したときの気持ちも合わせて見る必要があります。
職場の運動施策では、「気分がよくなったか」だけでなく、「疲れすぎていないか」「参加しやすかったか」「仕事中にも使えそうか」まで見ることが大切です。
不安の感じ方にも個人差があります
BergerとOwenの研究では、不安の変化を見るためにSTAIも使われました。
STAIは、不安の状態を見る心理尺度です。
不安には、その場で高まる一時的な不安と、ふだんから不安を感じやすい傾向があります。
- 状態不安:その場で感じている一時的な不安
- 特性不安:ふだんから不安を感じやすい傾向
職場のストレス対策でも、この違いは重要です。
ある社員が一時的に緊張しているのか、長く不安を抱えているのかによって、必要な支援は変わります。
運動で気分が軽くなる人もいれば、運動の場面そのものが不安につながる人もいます。
そのため、運動施策を選ぶときは、社員全員に同じ反応を期待しないことが大切です。
ハタヨガ型の運動は、職場に入れやすい候補です
ハタヨガは、職場のストレス対策として取り入れやすい運動の一つです。
強い競争がなく、呼吸や姿勢をゆっくり整えやすいからです。
会議前の短い呼吸、研修中の軽いストレッチ、昼休みの簡単な身体ほぐしなどは、職場でも取り入れやすい方法です。
人事総務の担当者にとっても、特別な設備がいらず、短時間で行いやすい点は大きな利点です。
ただし、ヨガにも注意点があります。
体が硬い人、痛みがある人、床に座ることが難しい人、ヨガという言葉に抵抗がある人もいます。
そのため、全員に同じポーズを求めるのではなく、椅子に座ったままできる動きや、無理のない範囲を選べる形にしておくことが大切です。
スイミング型の運動は、職場では置き換えて考えます
スイミングは、水の浮力やリズムのある動きによって、気分転換や身体のリラックスにつながる可能性があります。
一方で、職場の健康経営施策として考えると、プール施設、移動時間、着替え、費用、衛生管理などの課題があります。
そのため、企業研修で直接スイミングを導入するよりも、職場で使いやすい形に置き換えて考える方が現実的です。
たとえば、リズムのある軽い運動、呼吸を整える動き、関節への負担が少ない身体活動などです。
「研究でよい可能性があるから、そのまま会社で実施する」のではなく、自社の職場環境に合わせて使える形に変えることが、施策選定では重要です。
ボディコンディショニング型は、強度調整が欠かせません
ボディコンディショニングは、筋力トレーニングや有酸素運動を含む身体づくりです。
体力づくりや姿勢の改善、気分転換につながる可能性があります。
ただし、職場で取り入れる場合は、強度の調整がとても重要です。
運動に慣れている社員にはちょうどよい内容でも、運動が苦手な社員や、疲れがたまっている社員には負担になることがあります。
「全員で同じ回数を行う」「できない人が目立つ」ような形にすると、健康施策のはずがストレスになります。
職場では、回数や強度を選べるようにし、座ったままでも参加できる動きを用意しておくと安心です。
フェンシング型の競技運動は、対象者を選びます
フェンシングのような競技型の運動は、相手との駆け引き、瞬発力、集中力を使います。
競技が好きな人には、よい刺激や達成感になることがあります。
しかし、競争が苦手な人、失敗を気にしやすい人、体力に不安がある人にとっては、かえって緊張や不安が強くなることがあります。
職場で運動を取り入れる場合は、競争性の強い活動を中心にしすぎない方が安全です。
社員同士を比べる運動よりも、自分の体調に合わせて選べる運動の方が、健康経営には向いています。
もし競技型の活動を入れる場合は、全社員向けのストレス対策ではなく、希望者向けの交流企画として位置づける方が扱いやすくなります。
職場に入れやすい運動の条件
4つの運動形式を参考にすると、職場で使いやすい運動の条件が見えてきます。
大切なのは、運動の効果だけでなく、参加しやすさと継続しやすさです。
| 条件 | 職場で使いやすい状態 | 避けたい状態 |
|---|---|---|
| 時間 | 1分から5分程度で入れられる | 長時間の参加を前提にする |
| 場所 | 自席・会議室・研修会場でできる | 特別な施設が必要になる |
| 強度 | 軽く、本人が調整できる | 全員に同じ負荷を求める |
| 競争性 | 順位や比較がない | 勝敗や記録が目立つ |
| 参加方法 | 立位・座位・見学を選べる | 参加しない人が目立つ |
| 継続性 | 研修後も職場で再現しやすい | イベント当日だけで終わる |
たとえば、椅子に座ったままのストレッチ、立ったままできる肩回し、昼休みの自由参加ウォーキング、研修中の短い呼吸法などは、職場に入れやすい方法です。
運動の目的は、社員を鍛えることではありません。
気分を切り替え、心と体を立て直しやすくすることです。
運動はユーストレスになる場合があります
運動は、心や体に一定の負荷をかけます。
その負荷が本人に合っていて、終わったあとに気分転換、達成感、回復感がある場合、ユーストレスとして考えることができます。
ただし、運動が強すぎる、参加を強制される、体力差が配慮されない、競争が強すぎる場合は、ディストレスになることがあります。
つまり、職場で大切なのは「運動を入れること」だけではありません。
社員が安心して参加でき、無理なく続けられる形にすることです。
ユーストレスの意味やディストレスとの違いについては、ユーストレス(良性ストレス)とは|職場で活かすストレス資源の全体像で詳しく紹介しています。
人事総務・健康経営担当者が選定前に見たいこと
職場で運動を取り入れるとき、人事総務・健康経営担当者は、次の点を確認しておきたいところです。
- 運動が苦手な社員も参加しやすい内容か
- 強度を選べるようになっているか
- 競争や順位づけが強くなりすぎていないか
- 体力差、年齢差、持病、痛みへの配慮があるか
- 短時間でも取り入れられるか
- 着替えや移動の負担が大きくないか
- 参加しない社員が責められる雰囲気になっていないか
- 研修後も職場で再現できる内容か
健康経営の目的は、社員に運動を強制することではありません。
社員が自分の体調に気づき、自分に合った回復方法を選べるようにすることです。
専門職でも迷うポイント
職場に入れる運動を選ぶときは、専門職でも迷うことがあります。
理由は、運動そのものが健康によいイメージを持たれやすいからです。
運動した方がよい。歩いた方がよい。筋力をつけた方がよい。呼吸を整えた方がよい。
これらは間違いではありません。
ただし、職場で扱う場合は、社員の体調、体力差、業務時間、参加しやすさ、心理的な抵抗感まで合わせて見ます。
専門職でも迷うのは、身体に良い運動と、職場に入れやすい運動が同じではないからです。
健康に良さそうな運動でも、着替えが必要、場所がない、強度が高い、競争が強い、参加しない人が目立つ形であれば、職場施策としては続きにくくなります。
社内で動かしにくい理由
運動施策の選定が社内で動かしにくいのは、関係者が見ているものが違うからです。
人事総務は、健康経営やストレス対策として見ています。
管理職は、業務時間、参加しやすさ、現場の忙しさを見ています。
社員は、自分の体調、運動への得意不得意、周囲の目、参加しない時の見られ方を気にしています。
社内支援者や専門職は、疲労、体調、心理的安全性、強制感の有無を見ています。
それぞれの見方は、どれも間違いではありません。
ただ、同じ基準で話せていないと、「効果がありそうだから」「楽しそうだから」「他社もやっているから」という理由で運動施策が決まりやすくなります。
職場に入れる運動は、種目名だけで選ばないことです。
強度、競争性、設備、時間、参加しやすさ、継続しやすさで選ぶと、社内で説明しやすくなります。
タニカワ久美子が企業研修で見てきたこと
タニカワ久美子の企業研修では、ストレス対策として軽い運動を取り入れることがあります。
人事総務の担当者からも、座学だけではなく、全員で実際にできる軽い運動がある点を評価されることがあります。
ただし、現場では、運動が好きな社員と苦手な社員が同じ場所にいます。
体力に自信がある社員もいれば、人前で体を動かすことに抵抗がある社員もいます。
疲れが強く、本当は運動よりも休みたい社員もいます。
そのため研修では、強い運動や競争ではなく、椅子に座ったままできる動き、呼吸を整える方法、短時間で気分を切り替える動きを中心にしています。
研修現場では、「ヨガという言葉だと構えてしまうけれど、椅子に座ったままの肩回しならできそう」「運動は苦手だけれど、呼吸を整えるだけなら職場で使えそう」という反応が出ることがあります。
管理職からは、「運動は元気な人が参加するものだと思っていた」「休憩と組み合わせて考える必要があると分かった」という声が出ることもあります。
職場の運動施策で大切なのは、社員に「やらなければ」と感じさせることではありません。
自分の体調に気づき、「今日は少し動く」「今日は呼吸だけ整える」「今日は休む」と選べるようにすることです。
まとめ|職場に入れる運動は、種目名ではなく条件で選びます
BergerとOwenの研究は、運動の種類によって、ストレス軽減や気分向上の出方が変わる可能性を示しています。
運動は、すべて同じではありません。
ハタヨガのように、呼吸やゆっくりした動きを含む運動は、職場でも取り入れやすい方法です。
一方で、競争性が強い運動や強度の高い運動は、人によって負担になる場合があります。
職場の健康経営では、「運動すればよい」と考えるのではなく、社員が安心して参加できる運動を選ぶことが大切です。
種目名だけで選ばず、強度、競争性、設備、時間、参加しやすさ、継続しやすさを見て選ぶと、職場で使いやすい施策になります。
けんこう総研では、ユーストレスとディストレスの考え方をもとに、社員のセルフケア、軽い運動、管理職の声かけ、ストレスチェック後の職場改善につながるストレス管理研修を行っています。
参考文献
- Berger, B. G., & Owen, D. R. (1988). Stress Reduction and Mood Enhancement in Four Exercise Modes: Swimming, Body Conditioning, Hatha Yoga, and Fencing. Research Quarterly for Exercise and Sport, 59(2), 148–159.
文責:タニカワ久美子