ストレス研究ノート|研修現場から読むストレス科学
ハンス・セリエのストレス理論|抵抗期の意味を解説
このストレス科学ラボ・用語バンクカテゴリーでは、ハンス・セリエのストレス理論について解説します。
同じストレス管理でも、本記事は具体的な対処法ではなく、ストレスという言葉の起源と、セリエが示した一般適応症候群の抵抗期に焦点を当てています。
人事総務・健康経営担当者が、職場改善や研修設計に活かせる視点で整理します。

ハンス・セリエのストレス理論とは何か
ハンス・セリエは、ストレスを生体の反応として整理した研究者として知られています。
現在では「ストレス」という言葉は、仕事の悩み、人間関係、疲労、緊張、不安など、幅広い意味で使われています。
しかし、もともとストレスという言葉は、心理学や医学だけの言葉ではありませんでした。
セリエ以前の「ストレス」は、主に物理学や工学の分野で使われていました。
物体に外から力が加わったとき、その内部に生じる抵抗や負荷を表す言葉として使われていたのです。
セリエは、この考え方を生体の反応に応用し、人間や動物が外からの刺激に対してどのように反応するかを説明する枠組みを示しました。
物理学で使われていたストレスという言葉
物理学や工学では、ストレスは「応力」として使われます。
たとえば、建物、橋、機械部品などに外から力が加わったとき、その材料の内部には抵抗する力が生じます。
この内部に生じる力が、ストレスと呼ばれていました。
| 用語 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| ストレス | 外から力が加わったとき、物体の内部に生じる抵抗 | 橋や建物に荷重がかかる |
| ストレイン | 力によって生じる変形 | 材料が曲がる、伸びる、ゆがむ |
| 応力とひずみ | 力と変形の関係を示す考え方 | 材料がどこまで耐えられるかを評価する |
この考え方を職場に置き換えると、社員に仕事上の負荷がかかったとき、心や体にも何らかの反応が生じると考えることができます。
ただし、人間は物体ではありません。
同じ負荷でも、本人の体調、経験、支援の有無、職場環境によって反応は異なります。
セリエはストレスを生体反応として整理した
セリエは、ストレスを単なる心理的な悩みではなく、外からの刺激に対する生体の反応として捉えました。
ここでいう外からの刺激は、ストレッサーと呼ばれます。
ストレッサーには、寒さ、暑さ、痛み、疲労、過労、心理的緊張など、さまざまなものがあります。
人がストレッサーを受けると、体はその負荷に対応しようとします。
この反応を整理した考え方が、一般適応症候群です。
一般適応症候群とは何か
一般適応症候群とは、強い負荷を受けたときに、体がどのように反応し、適応しようとするかを示した考え方です。
セリエは、ストレス反応を大きく3つの段階で整理しました。
| 段階 | 意味 | 職場での見え方 |
|---|---|---|
| 警告反応期 | 負荷に対して体がすばやく反応する段階 | 緊張する、心拍が上がる、焦る |
| 抵抗期 | 負荷が続く中で、体が何とか適応しようとする段階 | 忙しくても何とか頑張れているように見える |
| 疲憊期 | 負荷が長引き、回復の力が追いつきにくくなる段階 | 疲労感、不調、集中力低下、欠勤などが表れやすくなる |
職場のストレス管理では、特に抵抗期をどう捉えるかが重要です。
なぜなら、抵抗期は、本人も周囲も「まだ大丈夫」と見誤りやすい段階だからです。
抵抗期とは何か
抵抗期とは、ストレスが続く状況の中で、体が何とか適応しようとしている段階です。
この時期の社員は、表面上は仕事をこなし続けているように見えることがあります。
締め切り前に集中力が上がる、忙しい時期に普段以上に動ける、多少の疲れを感じても働き続けるといった状態です。
しかし、これは余裕があるという意味ではありません。
体と心が負荷に対応しようとして、エネルギーを使い続けている状態です。
そのため、抵抗期が長く続くと、疲労や不調が蓄積しやすくなります。
抵抗期で起こりやすい職場の見え方
抵抗期では、社員が一時的に高い集中力や作業量を保つことがあります。
そのため、職場では「頑張れている」「問題なく働いている」と見られやすくなります。
しかし、内側では緊張や疲労が続いている場合があります。
| 職場で見えやすい状態 | 背景として考えたいこと | 人事総務・管理職の見方 |
|---|---|---|
| 忙しい時期でも仕事をこなしている | 負荷に適応しようとして無理をしている可能性 | 成果だけでなく疲労や休息も確認する |
| 残業が続いている | 回復時間が不足している可能性 | 勤務時間と休息のバランスを見る |
| 表情が硬い | 緊張状態が続いている可能性 | 声かけや相談しやすい雰囲気を整える |
| ミスが少し増える | 集中力や注意力が落ち始めている可能性 | 叱責よりも負荷の整理を優先する |
| 休憩を取らない | 休みにくい職場風土がある可能性 | 休息を取りやすい仕組みを確認する |
抵抗期で大切なのは、社員が倒れる前に、負荷と回復のバランスを見直すことです。
抵抗期を放置すると、疲憊期へ進むリスクがある
抵抗期は、体が負荷に適応しようとしている段階です。
しかし、ストレスが長く続き、休息や回復が足りない状態が続くと、次第に対応する力が低下していきます。
この状態が進むと、疲憊期に近づきます。
疲憊期では、疲労感、睡眠不調、集中力低下、意欲の低下、体調不良などが表れやすくなります。
職場では、遅刻、欠勤、ミスの増加、会話の減少、急な休職などとして見えることもあります。
人事総務・健康経営担当者にとって重要なのは、疲憊期に入ってから対応するのではなく、抵抗期の段階で早めに支援することです。
抵抗期を「頑張れている時期」と誤解しない
職場では、忙しい時期に成果を出している社員ほど、支援の対象から外れやすくなります。
しかし、抵抗期の視点で見ると、成果が出ていることと、健康に余裕があることは同じではありません。
むしろ、責任感が強い社員ほど、疲労や不調を隠して働き続けることがあります。
この段階で「まだ大丈夫」と判断してしまうと、休息や相談につながるタイミングを逃すことがあります。
人事総務や管理職は、成果だけではなく、疲労、睡眠、表情、会話量、ミスの変化、残業の継続なども合わせて見る必要があります。
職場で抵抗期を見逃さないための視点
抵抗期を見逃さないためには、社員の状態を一つのサインだけで判断しないことが大切です。
複数の変化を合わせて見ると、早めの支援につなげやすくなります。
- 繁忙期が終わっても疲労感が抜けていない
- 睡眠不足や朝の不調を訴えている
- 残業や休日対応が続いている
- 表情や会話量が以前と変わっている
- 小さなミスや確認漏れが増えている
- 休憩を取らずに働き続けている
- 相談する前に一人で抱え込んでいる
これらは、すべて病気のサインという意味ではありません。
ただし、職場として早めに声をかけ、業務量や休息を確認するきっかけになります。
抵抗期で行いたいストレスマネジメント
抵抗期で必要なのは、本人の努力をさらに求めることではありません。
負荷を整理し、回復の時間を確保し、必要な支援につなげることです。
| 支援の視点 | 具体的な対応 | 目的 |
|---|---|---|
| 業務量の整理 | 優先順位、締め切り、担当範囲を確認する | 負荷の集中を減らす |
| 休息の確保 | 休憩、退勤時間、勤務間の回復時間を確認する | 疲労の蓄積を防ぐ |
| 相談導線 | 上司、人事総務、産業保健スタッフへの相談先を明確にする | 一人で抱え込ませない |
| セルフケア | 呼吸法、軽いストレッチ、睡眠の振り返りを取り入れる | 自分の状態に気づきやすくする |
| 職場改善 | 同じ負荷が繰り返される原因を確認する | 個人対応だけで終わらせない |
抵抗期でのストレスマネジメントは、根性で乗り切るためのものではありません。
疲憊期へ進まないよう、早めに負荷と回復を整えるためのものです。
タニカワ久美子の研修では、抵抗期を職場の言葉に置き換える
タニカワ久美子のストレス管理研修では、セリエの理論を専門用語の説明だけで終わらせません。
抵抗期は、「まだ働けているが、内側では負荷に対応し続けている状態」として説明します。
受講者には、疲れを隠して頑張ることが必ずしも良い状態ではないこと、自分の疲労サインに早めに気づくこと、休息や相談を選択肢に入れることを伝えます。
管理職には、成果が出ている社員ほど疲労が見えにくいこと、表情やミスの変化を責めずに確認することを伝えます。
人事総務の担当者からも、ストレス理論を職場の健康支援に使える言葉へ置き換える点を評価されています。
人事総務が押さえたいポイント
ハンス・セリエのストレス理論を職場のストレス管理に活かすとき、人事総務・健康経営担当者が押さえたい点は次のとおりです。
- ストレスという言葉は、もともと物理学・工学でも使われていた
- セリエは、ストレスを生体の反応として整理した
- 一般適応症候群では、警告反応期、抵抗期、疲憊期という段階で説明される
- 抵抗期は、働けているように見えても負荷に対応し続けている段階である
- 抵抗期を見逃さず、疲労・睡眠・業務量・相談導線を確認することが重要である
この視点を持つことで、ストレス管理研修は「ストレスをなくす」話ではなく、負荷と回復を整える健康支援として設計しやすくなります。
まとめ:セリエの抵抗期は、職場の早期支援に活かせる
ハンス・セリエは、ストレスを生体が負荷に反応し、適応しようとする過程として整理しました。
一般適応症候群の中でも、抵抗期は職場で特に見逃されやすい段階です。
なぜなら、抵抗期の社員は、表面上は仕事を続けられているように見えるからです。
しかし、その内側では、負荷に対応するために心身のエネルギーを使い続けている場合があります。
人事総務・健康経営担当者に求められるのは、社員が疲憊期に進んでから対応することではありません。
抵抗期の段階で、疲労、睡眠、業務量、休息、相談導線を確認し、早めに支援できる職場づくりを進めることです。
ストレス理論を職場の健康支援に活かしたいご担当者様へ
けんこう総研では、ハンス・セリエのストレス理論、ラザルス理論、自律神経、睡眠、疲労の視点を、社員が理解しやすい言葉に置き換えたストレスマネジメント研修を行っています。理論を職場の行動に変え、セルフケアと職場改善につなげます。
参考文献
- Selye, H. The Stress of Life. McGraw-Hill, 1956.
- Selye, H. A syndrome produced by diverse nocuous agents. Nature. 1936.