健康経営
サービス品質は、社員のストレス設計で決まる ― 健康経営の現場事例
こんにちは、けんこう総研のタニカワ久美子です。
健康経営のご相談を受ける中で、
サービス業・対人業務を行う企業から、
共通して聞かれる悩みがあります。
「サービス品質を高めたいが、現場が疲弊している」
「お客様対応の負荷が高く、離職が止まらない」
本記事では、
お客様と向き合う現場で何が起きているのか、
そして健康経営の視点でどのように構造を見直したのか
という事例をもとに整理します。
お客様を喜ばせる力が試される瞬間
企業のサービス力が本当に試されるのは、
平常時ではありません。
トラブルやクレーム、想定外の出来事が起きたとき
です。
どのような職業であっても、
働く人の真価が問われるのは、
問題が発生した際に、
どれだけ冷静に状況を把握し、
適切な対応ができるかという点です。
特にサービス業では、
「自分に起きた不都合」よりも、
「お客様に起きた不都合」を優先して考える力
が求められます。
この対応力は、
精神的な余裕があってこそ発揮されるものです。
経営者からの問い:「どうすれば気持ちの良いサービスができるのか」
以前、ある経営者から次のような質問を受けました。
「どうしたら、うちの社員が気持ちの良いサービスを提供できるようになりますか?」
この問いは、
多くの経営者が日常的に感じている
本質的な疑問だと思います。
一見すると、
「サービススキルを高めればよい」
「接客研修を強化すればよい」
という答えが浮かびがちですが、
そこに大きな落とし穴があります。
「お客様第一」が社員をすり減らす構造
お客様を喜ばせること自体は、
サービス業において間違いではありません。
しかし、
「お客様を喜ばせること」を唯一の最優先事項にしてしまう
と、
社員の状態が視界から消えてしまいます。
長年にわたり、
顧客対応を最優先にしてきた結果、
- 社員が常に緊張状態にある
- 失敗が許されない空気が生まれる
- 感情を抑え続けることが当たり前になる
このような構造が固定化すると、
社員は「お客様が喜んでいる」と錯覚しながら、
実際にはストレスを蓄積し、疲弊していきます。
その結果、
離職やサービス品質の低下という形で、
経営に跳ね返ってきます。
サービスの量と、社員のストレスは比例するのか
多くの業界で、
サービス内容は次第に似通ってきています。
いわゆるコモディティ化の状態です。
ある調査では、
顧客の約8割が
「同業他社のサービスはどれも同じに見える」
と感じているという結果もあります。
差別化を図るために、
さらに手厚いカスタマーサービスを求める。
しかしその裏で、
現場の感情労働の負荷が増大していることに、
十分な目が向けられていないケースが少なくありません。
感情労働としてのカスタマーサービス
カスタマーサービス業務では、
- クレーム対応
- 問題解決のための対人調整
- 感情をコントロールしたコミュニケーション
といった高度なスキルが日常的に求められます。
一見すると、
「コミュニケーション能力」の問題に見えますが、
実際には個人の能力だけで支えきれるものではありません。
社員のストレスが高い状態で、
顧客満足度を上げ続けることは、
構造的に不可能です。
健康経営の視点で行った調査と気づき
けんこう総研では、
感情労働が多いカスタマーサービス業を対象に、
社員の経験値とストレスの関係を整理しました。
サービス対応力に関わる要素
- 自己効力感(セルフエフィカシー)
- 顧客理解力
- 傾聴力
- 状況に応じた柔軟な対応力
- 問題解決に関する知識
- 感情に左右されない冷静さ
一方で、
プラスに働くストレス(ユーストレス)が生じる場面
- 自分なりの工夫が評価されたとき
- 知識を応用して対応できたとき
- 代替案を提示できたとき
- 役に立てたという実感が得られたとき
重要だったのは、
これらが個人の資質だけで決まらないという点です。
同じサービス業でも、前提条件は異なる
調査では、
企業形態によってストレス構造が大きく異なることも分かりました。
- コールセンター専門会社
- サービスと営業を兼ねる会社
- 社内サービス部門
- 外部委託されたサービス部門
- 支店・支社に集約されたサービス業務
同じ「サービス業」でも、
組織構造や役割期待が違えば、
必要な健康経営の設計も変わります。
一律の対策では、
現場の負担を減らすことはできません。
この事例が示す、健康経営の本質
顧客満足度と社員のストレスは、
対立するものではありません。
しかし、
社員のストレス構造を無視したまま、
顧客満足だけを追い求めると、
結果として両方を失います。
健康経営とは、
社員を守るためだけの施策ではなく、
サービス品質を持続させるための経営戦略です。
この視点に立ったとき、
健康経営は「できないもの」ではなく、
「設計されていないだけのもの」だと分かります。
本事例は、
多くの中小企業が健康経営を実施できない理由と、
そこから抜け出すヒントを示しています。