感情労働ストレス
感情労働をやりがいにする職場と我慢にする職場の判断
感情労働は、働く人のメンタル不調やバーンアウトと関係することがあります。
ただし、感情労働そのものが悪いわけではありません。
相手の不安を受け止める。場の空気を整える。相手に伝わる言葉を選ぶ。こうした働き方は、看護、介護、教育、接客、相談窓口、管理職など、人と関わる仕事では大切な専門性です。
問題は、その感情労働が本人の判断で行えているのか、それとも職場の中で「我慢して当然」と固定されているのかです。
この記事では、感情労働を悪いものと決めつけず、人事総務・管理職が「やりがいにつながる感情労働」と「メンタル不調につながりやすい感情労働」を見分けるための視点を整理します。
感情労働ストレスが職場に残りやすい理由は、感情労働ストレスが職場に残る理由で整理しています。この記事では、感情労働を我慢にしないための見方に絞ります。
感情労働を悪いものと決めつけない
感情労働は、相手に合わせて自分の表情、声、言葉、態度を整える働き方です。
この働き方には、心をすり減らす面があります。
一方で、相手との関係を整え、仕事の手応えや達成感につながる面もあります。
たとえば、看護職が患者さんに安心感を与える。介護職が利用者さんの不安を受け止める。教員が生徒の変化に気づく。管理職が部下の不安を受け止める。
これらは、単なる我慢ではありません。
職場で見たいのは、感情労働があるかどうかではなく、その感情労働が本人の中で納得できる仕事になっているかです。
やりがいになる感情労働には選べる余地がある
感情労働がやりがいにつながる職場では、本人にある程度の選べる余地があります。
相手にどう声をかけるか。どのタイミングで距離を取るか。どこまで自分で対応し、どこから上司やチームに共有するか。
この判断が本人に残されていると、感情を整えることは仕事の手応えにつながります。
一方で、どんな相手にも笑顔でいなければならない。絶対に反論してはいけない。つらさを出してはいけない。困難対応も自分で何とかするしかない。
このような状態では、感情労働はやりがいではなく、我慢になります。
感情労働の負担を見るときは、本人に選べる余地があるかを確認する必要があります。
我慢になる感情労働は、職場に残りやすい
我慢として固定された感情労働は、外から見えにくいものです。
社員は笑顔で対応しています。報告もしています。お客様や利用者、患者さん、生徒、部下の前では落ち着いています。
だから、周囲からは「対応できている」と見えます。
けれども、本人の内側では、本心と仕事上の態度のずれが大きくなっていることがあります。
本当は怒っているのに、笑顔で対応し続ける。本当は納得できないのに、丁寧に説明する。本当は疲れているのに、周囲には平気な顔をする。
この状態が続くと、心の余力は少しずつ減っていきます。
職場で見たい判断材料
| 見る視点 | やりがいにつながりやすい状態 | 我慢になりやすい状態 |
|---|---|---|
| 自律性 | 本人が対応方法を選べる | 決められた感情表現しか許されない |
| 共有 | 困難対応を上司やチームに話せる | 対応後の感情負担を一人で抱える |
| 支援 | 必要に応じて担当交代や相談ができる | 対応できる人に難しい案件が戻り続ける |
| 承認 | 見えにくい気遣いも上司が見ている | 笑顔や丁寧さが当然として扱われる |
| 回復 | 重い対応のあとに整える余地がある | すぐ次の対応に入るしかない |
感情管理スキルだけを求めない
職場では、感情管理、対人力、コミュニケーション力という言葉が使われることがあります。
これらは大切な力です。
ただし、社員に「もっと感情をうまく扱いましょう」と求めるだけでは、職場の負担は変わりません。
むしろ、うまくできない社員が「自分の対応力が足りない」と感じてしまうことがあります。
人事総務や管理職が見るべきなのは、社員の感情管理力だけではありません。
感情を抑えなければならない場面が多すぎないか。困難対応が特定の人に集中していないか。対応後に相談できる相手がいるか。職場側の負担の置き方を見る必要があります。
支援のつもりが負担になることもある
感情労働で疲れている社員には、声のかけ方にも注意が必要です。
周囲の前で「大丈夫?つらそうだけど」と言われると、本人は支えられたというより、弱っている姿を見られたと感じることがあります。
一方的な励ましや、「あなたなら大丈夫」という言葉も、さらに頑張るよう求められているように聞こえることがあります。
必要なのは、目立つ支援ではありません。
個別に短く声をかける。状況を確認する。困難対応を一時的に分ける。対応後に気持ちを整える余地をつくる。
感情労働の支援は、声をかけることだけではなく、実際の負担が少し軽くなる形で行う必要があります。
専門職でも迷う判断ポイント
専門職でも迷うのは、感情労働をどこまで本人の専門性として見て、どこから職場の負担として扱うかです。
相手に合わせて対応できることは、仕事の大切な力です。
しかし、対応できる人に困難対応が戻り続けているなら、それは専門性ではなく負担の集中かもしれません。
笑顔で対応できているから問題ない。落ち着いているから大丈夫。相談してこないから困っていない。
この見方が続くと、感情労働は職場に残ります。
見るべきなのは、社員の態度だけではありません。その態度を保つために、どれだけ感情を使っているかです。
研修前に整理したいこと
研修前に整理したいのは、感情労働の一般的な説明ではありません。
社員がどの場面で感情を抑えているか。本人に対応方法を選べる余地があるか。困難対応が特定の人に戻っていないか。支援のつもりが、さらに頑張らせる言葉になっていないか。
ここを見ないまま研修を行うと、受講者は「感情管理は大切だ」と理解しても、現場ではまた個人の我慢に戻ります。
この記事で扱うのは、問題の見方までです。実際の職場では、職種、顧客対応、相談対応、管理職の関与範囲、人事総務への共有基準を確認しながら、扱い方を分ける必要があります。
タニカワ久美子が見る現場の違和感
タニカワ久美子が研修現場で見てきたのは、感情労働が上手な社員ほど、負担が見えにくくなるということです。
笑顔で対応できる人。相手の話を丁寧に聞ける人。場の空気を悪くしない人。管理職や同僚に心配をかけない人。
こうした社員は、職場の中で頼られます。
しかし、頼られていることと、支えられていることは別です。
人事総務や管理職が見たいのは、感情労働ができているかどうかではありません。その社員に、選べる余地と支援があるかです。
感情労働を我慢にしない職場の見方
感情労働は、悪いものではありません。
相手の状態を読み取り、言葉を選び、関係を整える力は、対人業務の専門性です。
ただし、その専門性が本人の我慢だけに支えられているなら、メンタル不調やバーンアウトにつながりやすくなります。
感情労働をやりがいにできる職場か、我慢として固定している職場か。
その違いを、自律性、選べる余地、共有、支援、回復の視点から確認できていますか。
参考文献・参考概念
- Hochschild, A. R.『管理される心』
- 感情労働論、感情社会学、バーンアウト研究、ワーク・エンゲージメント研究
- 感情管理、自律性、ソーシャルサポート、共感疲労に関する先行研究
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。