感情労働とメンタル不調|悪化する職場・支えられる職場の違い

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感情労働とメンタル不調|悪化する職場・支えられる職場の違い

感情労働は、働く人のメンタル不調やバーンアウトと関係があると言われることがあります。

ただし、感情労働をしているから必ず心を壊す、という話ではありません。

感情労働には、心をすり減らす面があります。

一方で、相手との関係を整え、仕事のやりがいや達成感につながる面もあります。

大切なのは、感情労働そのものを「悪いもの」と決めつけることではありません。

どのような職場で、どのくらい感情を抑え、本人にどれだけ選べる余地があり、周囲の支援があるかを見ることです。

この記事では、感情労働がメンタル不調につながる職場と、やりがいにつながる職場の違いを見ていきます。

感情労働によるストレスを職場全体で確認したい場合は、感情労働ストレスの考え方も参考になります。

感情労働とメンタル不調の関係は単純ではありません

感情労働は、看護職、介護職、教員、福祉職、接客業、窓口対応、コールセンターなど、人と関わる仕事で起こりやすい働き方です。

相手の不安や怒りを受け止める。

自分の疲れを見せずに対応する。

本当は納得できない場面でも、仕事上ふさわしい表情や言葉を選ぶ。

こうした働き方が長く続くと、心が消耗しやすくなります。

しかし、感情労働そのものが必ずメンタル不調を引き起こすわけではありません。

同じ感情労働でも、職場に裁量や支援があるかどうかで、働く人への影響は大きく変わります。

見る視点 問題になりやすい状態 職場で必要な支援
感情労働の量 長時間・高頻度で感情を抑え続けている 対応時間、休憩、担当交代を見直す
感情労働の質 怒り、不安、悲しみを飲み込む場面が多い 感情を言葉にできる場をつくる
本人の自律性 対応方法を本人が選べない 対応基準と現場判断の余地を両立させる
職場の支援 困難対応を個人の我慢に任せている チーム共有、管理職支援、研修につなげる

感情労働を見るときは、「あるか、ないか」ではなく、「どのように支えられているか」を見る必要があります。

感情労働がメンタル不調につながる職場

感情労働がメンタル不調につながりやすいのは、本人の本心と、職場で求められる感情表現との間に大きなずれがある場合です。

たとえば、次のような状態です。

  • 本当は怒っているのに、笑顔で対応し続ける
  • 理不尽な要求を受けても、冷静で丁寧な態度を崩せない
  • 相手の不安や怒りを受け止めても、自分の感情を出す場所がない
  • 困難対応のあとも、すぐ次の対応に入らなければならない
  • つらさを話すと、対応力が低い人と思われそうで言えない

このような状態が続くと、心の消耗が蓄積します。

特に起こりやすいのが、情緒的な疲れ、自己疎外、バーンアウトです。

情緒的な疲れ

情緒的な疲れとは、人に向き合うための心のエネルギーがすり減っている状態です。

朝から気が重い、人と話すことがつらい、仕事中に感情が動きにくいといった形で表れます。

自己疎外

自己疎外とは、自分の本心と仕事上のふるまいが離れ続け、自分が何を感じているのかわかりにくくなる状態です。

「仕事だから仕方ない」と思い続けるうちに、自分の感情を後回しにすることが当たり前になってしまいます。

バーンアウト

バーンアウトは、情緒的な疲れ、相手への冷淡な態度、仕事への達成感の低下などが重なった状態です。

対人援助職や接客職のように、相手の感情に向き合う仕事では特に注意が必要です。

感情を抑え続けることで出やすい限界サインは、感情を抑えるストレスでも確認できます。

感情労働は必ず悪いものではありません

感情労働には、肯定的な面もあります。

相手の状態を読み取り、適切な言葉を選び、場の空気を整えることは、対人職における重要な専門性です。

たとえば、次のような場面です。

  • 看護師が患者さんに安心感を与える
  • 教員が生徒の不安に気づく
  • 介護職が利用者さんの尊厳を守る
  • 接客担当者が顧客の不満を落ち着かせる
  • 管理職が部下の不安を受け止める

これらはすべて、感情を扱う高度な仕事です。

感情労働が、やりがいや職務満足感につながる場合もあります。

その違いを分ける大きな要素が、自律性です。

自律性のある感情労働と、他律的な感情労働の違い

感情労働がメンタル不調につながるかどうかは、本人に自律性があるかどうかで大きく変わります。

自律性のある感情労働とは、本人が状況を判断し、自分の言葉や態度を選べる状態です。

相手に合わせる必要はあっても、対応方法を自分で工夫できるため、仕事の手応えにつながりやすくなります。

一方で、他律的な感情労働とは、職場や上司、マニュアル、顧客要求によって、本人の感情表現が一方的に決められている状態です。

「どんな相手にも笑顔で」

「絶対に反論しない」

「不満を出してはいけない」

このような働き方が続くと、心の負担は大きくなります。

感情労働の状態 特徴 メンタルヘルスへの影響
自律性のある感情労働 本人が状況を判断し、対応方法を選べる やりがい、達成感、職務満足につながりやすい
他律的な感情労働 組織や顧客から一方的に感情表現を求められる 情緒的な疲れ、自己疎外、バーンアウトにつながりやすい
支援のない感情労働 困難対応を個人の我慢に任せる 孤立感、共感疲労、離職意向が高まりやすい
支援された感情労働 チームで共有し、対応基準や相談先がある 負荷を抱え込みにくく、回復しやすい

感情労働を支えるには、本人に「もっと感情を整えなさい」と求めるだけでは足りません。自律性と支援を職場で用意する必要があります。

暗い感情労働と、明るい感情労働

感情労働には、暗い面と明るい面があります。

暗い感情労働とは、自分の本心を押し隠し、組織や顧客が求める感情だけを演じ続ける働き方です。

この状態では、自分の感情が仕事のために切り取られ、自分らしさを失いやすくなります。

一方で、明るい感情労働とは、感情管理を専門スキルとして使い、相手との関係づくりや仕事の成果につなげる働き方です。

自分の判断で感情表現を選べる場合、感情労働は仕事の充実感につながります。

ただし、注意したい点があります。

感情管理をスキルとして強調しすぎると、「感情をうまく扱えない人が悪い」という自己責任論になってしまうことです。

感情労働をスキルとして扱うなら、同時に組織側の支援設計が必要です。

感情管理スキルだけでは職場は変わりません

近年、感情管理、対人コミュニケーション力、EQ、EIなどの言葉が人材育成の場で使われるようになりました。

これらは、職場の対人関係を整えるうえで役立つ視点です。

しかし、感情管理スキルだけを社員に求めると、負荷の原因が個人に戻されます。

本来は、感情管理が必要になる業務量、顧客対応の基準、苦情対応の分担、管理職の介入ルール、相談できる仕組みまで整える必要があります。

「感情をうまく扱いましょう」だけでは、職場の感情労働ストレスは減りません。

むしろ、うまく感情を扱えない社員が自分を責める危険があります。

職場で必要なのは、感情管理の強化だけではなく、感情労働が発生する場面そのものを設計することです。

ソーシャルサポートが逆効果になる場合もあります

職場のストレス対策では、上司や同僚からのサポートが重要です。

ただし、感情労働の現場では、サポートの出し方に注意が必要です。

たとえば、周囲の前で「大丈夫?つらそうだけど」と声をかけると、本人は支援されたと感じるよりも、弱っている姿を見られたと感じることがあります。

本人が求めていない助言や、過剰な励ましも負担になることがあります。

感情労働に疲れている人には、見えやすいサポートよりも、安心して話せる場、業務を一時的に分担できる仕組み、困難対応を個人任せにしないルールが必要です。

避けたい支援 なぜ負担になりやすいか 望ましい支援
人前で心配する 本人が弱さを見せたと感じやすい 個別に短く声をかける
一方的に励ます 気持ちを理解されていないと感じやすい まず状況を確認する
本人の対応力だけを褒める さらに我慢を求められているように感じやすい 業務分担や対応基準を見直す
相談先だけ案内する 現場の負荷が変わらない 管理職が業務調整に入る

支援は、声をかければよいというものではありません。

本人が安心して話せる形にし、実際の業務負担を軽くするところまでつなげる必要があります。

タニカワ久美子が企業研修でこのテーマをどう扱うか

タニカワ久美子の研修では、感情労働を「我慢できる人を増やす研修」として扱いません。

現場で見てきたのは、我慢強い社員ほど、周囲から「大丈夫な人」と見なされ、さらに困難対応を任されてしまう構造です。

企業研修では、まず参加者に「どの場面で自分の感情を抑えているか」を書き出してもらいます。

クレーム対応、保護者対応、患者対応、上司への報告、部下への注意、同僚との調整など、感情労働はさまざまな場面に隠れています。

管理職には、「感情管理が上手な社員ほど負荷が集中しやすい」と伝えます。

笑顔で対応できているから問題ないのではありません。

笑顔の裏で、どの程度の感情調整が起きているかを見る必要があります。

研修で重視しているのは、感情労働を個人の性格や接遇力にしないことです。

感情労働を職場の負荷として言葉にし、支援の基準をつくることで、バーンアウトや離職を予防する方向へつなげます。

職場で必要なのは、感情管理の強化ではなく感情労働の設計です

感情労働によるメンタル不調を防ぐには、社員の感情管理スキルだけを高めるのでは不十分です。

必要なのは、感情労働が発生する場面を職場として把握し、支援と回復の仕組みを設計することです。

1. 感情労働が発生する業務を洗い出す

クレーム対応、相談対応、苦情処理、看護、介護、教育、接客など、どの業務で強い感情調整が起きているかを確認します。

2. 感情労働を個人の能力にしない

「あの人は対応がうまいから」と特定の人に困難対応を集中させると、見えない負荷が蓄積します。

対応者の偏りを確認する必要があります。

3. 自律性を確保する

マニュアルで感情表現を固定しすぎると、本人の裁量が奪われます。

対応基準は必要ですが、現場判断の余地も残すことが重要です。

4. 困難対応をチームで共有する

感情労働の強い対応は、個人の経験として終わらせず、管理職やチームで共有する仕組みが必要です。

5. 回復時間を設計する

強い感情労働のあとに、すぐ次の対応へ入ると消耗が蓄積します。

短い休憩、担当交代、記録時間の確保など、回復の設計が必要です。

よくある質問

感情労働はメンタル不調の原因になりますか?

感情労働そのものが、必ずメンタル不調を引き起こすわけではありません。ただし、本心と求められる態度のずれが大きく、本人に裁量や支援がない場合は、情緒的な疲れやバーンアウトにつながりやすくなります。

感情労働は悪いものですか?

悪いものではありません。相手の感情に配慮し、関係を整える力は重要な専門性です。ただし、組織がその負荷を見えないものとして扱うと、社員の心身を消耗させます。

感情管理スキルを高めれば解決しますか?

感情管理スキルは役立ちますが、それだけでは不十分です。業務量、裁量、管理職支援、困難対応の分担、回復時間の設計が必要です。

管理職は何を見ればよいですか?

笑顔で対応できているかだけではなく、困難対応が特定の社員に集中していないか、感情労働のあとに回復時間があるか、相談しやすい体制があるかを確認する必要があります。

感情労働ストレス研修では何を扱いますか?

感情労働ストレス研修では、感情労働の基本理解、感情を抑えることで起こるストレス、バーンアウト予防、クレーム対応、管理職のラインケア、職場での支援設計などを扱います。

まとめ|感情労働のメンタル不調は、自律性と支援設計で変わります

感情労働は、働く人のメンタル不調やバーンアウトと関係します。

しかし、感情労働そのものが悪いわけではありません。

問題は、本人の感情が一方的に管理され、裁量がなく、支援もなく、負荷が個人の我慢に任されることです。

一方で、自律性があり、職場の支援があり、感情労働が適切に言葉にされていれば、感情労働はやりがいや専門性にもつながります。

職場で必要なのは、社員にもっと感情管理を求めることではありません。

感情労働がどこで発生し、誰に集中し、どのような支援が必要なのかを設計することです。

感情労働ストレス研修への活用

けんこう総研では、対人業務で生じる見えにくい感情負荷を言葉にし、離職防止、クレーム対応、管理職支援、職場改善につながる研修を行っています。

社員にさらに我慢を求めるのではなく、感情労働を職場として支える仕組みに変えたいご担当者様は、こちらをご確認ください。


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参考文献・参考概念

  • Hochschild, A. R.『管理される心』
  • 感情労働論、感情社会学、バーンアウト研究、ワーク・エンゲージメント研究
  • 感情管理、自律性、ソーシャルサポート、共感疲労に関する先行研究

文責:タニカワ久美子

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