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セリエとラザルスのストレス理論|職場ストレス管理での違い
セリエとラザルスは、どちらもストレス研究を理解するうえで重要な人物です。
ただし、2人が見ていたストレスの側面は同じではありません。
セリエは、ストレスを受けたときに体の中で起こる生理的な反応に注目しました。一方、ラザルスは、人が出来事をどう受け止め、どう対処するかという心理的な評価に注目しました。
この違いは、健康経営や職場のストレス管理を考えるうえで重要です。
社員の不調を「体の疲労」として見るのか、「仕事の受け止め方」や「支援不足」として見るのかによって、必要な対策が変わるからです。
この記事では、セリエとラザルスのストレス理論の違いを、人事総務・健康経営担当者がラインケアや研修設計に活かせるように整理します。

セリエとラザルスの理論を理解すると、職場ストレスを「体の反応」と「受け止め方」の両面から整理できます。
セリエとラザルスの違いを先に整理する
セリエとラザルスの違いは、次のように整理できます。
| 比較軸 | セリエ | ラザルス |
|---|---|---|
| 中心視点 | 身体がストレスにどう反応するか | 本人が出来事をどう評価するか |
| 代表概念 | 汎適応症候群、警告期、抵抗期、疲憊期 | 一次評価、二次評価、コーピング |
| 職場での見方 | 疲労、過労、回復不足、不調リスクを見る | 脅威か挑戦か、支援があるかを見る |
| 実務での活用 | 長時間労働、睡眠不足、慢性疲労の対策 | ラインケア、面談、研修、職場改善 |
簡潔に言えば、セリエは「体のストレス反応」を説明し、ラザルスは「心がストレスをどう意味づけるか」を説明しました。
健康経営では、この2つを分けて理解することが重要です。
セリエのストレス理論とは
ハンス・セリエは、ストレスを受けたときに体がどのように反応するかを研究しました。
セリエの理論では、ストレス反応は単なる気分の問題ではありません。体は外部からの負荷に適応しようとして、生理的な反応を起こします。
代表的な考え方が、汎適応症候群です。これは、ストレスに対する体の反応を次の3段階で説明するものです。
- 警告期:ストレスに気づき、体が反応を始める段階
- 抵抗期:体がストレスに適応しようとする段階
- 疲憊期:ストレスが長く続き、心身の消耗が進む段階
職場で見ると、繁忙期、長時間労働、夜勤、睡眠不足、慢性的な緊張が続く状態は、この考え方で理解しやすくなります。
最初は頑張れていても、回復しない状態が続けば、やがて集中力低下、判断ミス、体調不良、欠勤、離職につながる可能性があります。
ラザルスのストレス理論とは
リチャード・ラザルスは、ストレスを「出来事そのもの」ではなく、本人がその出来事をどう受け止めるかによって変わるものとして考えました。
同じ仕事量、同じ期限、同じ異動であっても、人によってストレスの感じ方は違います。
その違いを説明するのが、認知評価とコーピングです。
一次評価
一次評価とは、本人がその出来事をどのように受け止めるかです。
たとえば、新しい仕事を任されたときに、「成長の機会だ」と感じる人もいれば、「失敗したらどうしよう」と感じる人もいます。
同じ出来事でも、本人が「挑戦」と受け止めるか、「脅威」と受け止めるかによって、ストレス反応は変わります。
二次評価
二次評価とは、自分に対処できる力や支援があるかを判断することです。
たとえば、相談できる上司がいる、仕事の優先順位が明確である、必要な情報がある、休める時間がある。このような支援資源があると、同じ負荷でも対応しやすくなります。
反対に、相談できない、裁量がない、失敗を責められる、休めない状態では、負荷はディストレスになりやすくなります。
コーピング
コーピングとは、ストレスに対処するための考え方や行動です。
ラザルスの理論では、コーピングは大きく2つに分けられます。
- 問題焦点型対処:問題そのものを変えようとする対処
- 情動焦点型対処:不安や怒りなどの感情を整える対処
職場では、業務量の調整、優先順位の見直し、相談、手順改善などが問題焦点型対処にあたります。
一方、深呼吸、休憩、気持ちの整理、周囲からの心理的支援は情動焦点型対処にあたります。
健康経営では、セリエとラザルスをどう使い分けるか
健康経営では、セリエとラザルスの理論を対立させる必要はありません。
むしろ、両方を使い分けることで、職場ストレスをより正確に理解できます。
セリエの理論は、過労、睡眠不足、慢性疲労、長時間労働など、体の消耗を見逃さないために役立ちます。
ラザルスの理論は、同じ負荷でも、人によって「挑戦」になるのか「脅威」になるのかを見分けるために役立ちます。
つまり、職場のストレス管理では、次の2つを同時に見る必要があります。
- 体が回復できる状態にあるか
- 本人がその負荷を挑戦として受け止められる条件があるか
この2つを分けずに、「本人の気持ちの問題」として扱うと、職場改善の方向を誤ります。
ラインケアでの活用ポイント
管理職が部下のストレスを見立てるときは、セリエとラザルスの両方の視点が必要です。
セリエの視点で見るサイン
- 疲れが抜けていない
- 睡眠不足が続いている
- 体調不良を訴えることが増えた
- 集中力や判断力が落ちている
- 残業や休日対応が続いている
これらは、体が回復できていないサインです。本人のやる気だけでは解決できません。
ラザルスの視点で見るサイン
- 仕事を脅威として受け止めている
- 失敗を過度に恐れている
- 相談できる相手がいない
- 何を優先すべきか分からない
- 自分には対処できないと感じている
これらは、認知評価や支援資源の問題です。管理職の声かけ、業務整理、相談導線が重要になります。
ユーストレスとディストレスを見分ける視点
ラザルスの認知評価理論は、ユーストレスとディストレスを理解するうえでも重要です。
同じ負荷でも、本人が「挑戦できる」と感じ、必要な支援と回復機会がある場合、そのストレスはユーストレスとして働く可能性があります。
一方で、「自分には無理だ」「助けを求められない」「休めない」と感じている場合、そのストレスはディストレスになりやすくなります。
ユーストレスとディストレスの全体像は、以下の親ページで整理しています。
ユーストレス(良性ストレス)とは|職場で活かすストレス資源の全体像
人事総務・健康経営担当者が確認すべきこと
職場のストレス対策を見直すときは、次の観点で確認してください。
- 長時間労働や睡眠不足など、身体的な消耗を見逃していないか
- 同じ業務負荷でも、部署や個人によって受け止め方が違うことを前提にしているか
- 管理職が部下の「挑戦」と「脅威」を見分けられているか
- ストレスチェック後の面談や職場改善が、本人任せになっていないか
- ラインケア研修で、認知評価とコーピングを扱っているか
この確認ができると、ストレス対策は「リフレッシュしましょう」という一般論ではなく、職場の設計課題として扱えるようになります。
研修設計にどう落とし込むか
セリエとラザルスの理論は、研修の中で次のように使えます。
- セリエの理論:疲労、睡眠、過労、慢性ストレスの理解に使う
- ラザルスの理論:認知評価、コーピング、ラインケアの理解に使う
- ユーストレスの考え方:挑戦として機能する負荷と、消耗につながる負荷を見分けるために使う
人事総務向けには、職場改善やストレスチェック後の施策に結びつけることが重要です。
管理職向けには、部下の疲労サインを見逃さないこと、業務を脅威ではなく挑戦として受け止められるように支援することを扱います。
従業員向けには、自分のストレス反応を知り、問題焦点型対処と情動焦点型対処を使い分ける力を育てます。
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まとめ|セリエは体の反応、ラザルスは受け止め方を見る理論
セリエのストレス理論は、ストレスによって体がどのように反応し、消耗していくかを理解するために役立ちます。
ラザルスのストレス理論は、人が出来事をどう評価し、どのように対処するかを理解するために役立ちます。
職場の健康経営では、どちらか一方だけでは不十分です。
体の疲労や回復不足を見るセリエの視点と、本人の認知評価や支援資源を見るラザルスの視点を組み合わせることで、より実務に合ったストレス対策ができます。
けんこう総研では、これらのストレス理論を、健康経営、管理職ラインケア、ストレスチェック後の職場改善、従業員向けセルフケア研修に落とし込み、現場で使える形にして提供しています。
参考文献
- Selye, H. (1956). The Stress of Life. McGraw-Hill.
- Selye, H. (1976). Stress in Health and Disease. Butterworths.
- Lazarus, R. S. (1966). Psychological Stress and the Coping Process. McGraw-Hill.
- Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, Appraisal, and Coping. Springer Publishing Company.