ストレス管理
けんこう総研タニカワのSTOP!ストレスの有害扱い
職場のストレス対策というと、「ストレスを減らすこと」「ストレスをなくすこと」が中心になりがちです。
もちろん、長時間労働、人間関係の負担、ハラスメント、不安定な勤務体制など、心身を消耗させるストレスは減らす必要があります。
しかし、ストレスをすべて悪いものとして扱うと、仕事への挑戦、集中、成長、助け合いまで見えにくくなります。
ストレスには、心や体を守る反応もあれば、やる気や行動を支える反応もあります。一方で、負荷が強すぎたり、回復できなかったりすると、心身を消耗させる悪いストレスにもなります。
この記事では、ストレス反応の基本を整理し、人事総務・健康経営担当者が職場のストレス対策で見直したいポイントを解説します。
ストレスはすべて悪いものなのか
「ストレスは体に悪い」と聞くことは多いと思います。
たしかに、強すぎるストレスや長く続くストレスは、心身に悪影響を与えることがあります。
しかし、日常で使われる「ストレス」という言葉には、かなり幅があります。
たとえば、締切前の緊張、初めての仕事への不安、人間関係の悩み、過重労働、ハラスメント、災害やトラウマ体験。これらをすべて同じ「ストレス」と呼んでしまうと、問題の大きさや必要な対応が見えにくくなります。
職場の健康管理では、ストレスをひとまとめにせず、どのような負荷なのか、どのくらい続いているのか、本人が回復できているのかを見ることが大切です。
ストレス反応とは何か
ストレス反応とは、外からの負荷や刺激に対して、心と体が対応しようとする反応です。
危険を感じたとき、人の体はすばやく動けるように準備します。心拍数が上がる、呼吸が速くなる、筋肉に力が入る、注意が向きやすくなるといった反応が起こります。
この反応は、本来は自分を守るための仕組みです。
しかし、現代の職場では、実際に走って逃げたり、戦ったりする場面はほとんどありません。
そのため、強い緊張や怒り、不安が続いても、体だけが反応し続け、休まる時間が少なくなることがあります。
これが続くと、眠りにくい、疲れが抜けない、集中できない、イライラしやすいといった状態につながることがあります。
危険から身を守るストレス反応
ストレス反応の代表的な考え方に、危険を感じたときの「戦う・逃げる」反応があります。
これは、強い恐怖や危険に直面したとき、体がすぐに行動できるように準備する反応です。
たとえば、急に危険を感じたときに心臓がドキドキする、体に力が入る、周囲に注意が向くといった反応です。
この反応そのものは、悪いものではありません。危険から身を守るために必要な反応です。
問題は、現代の職場では、実際の命の危険ではなくても、同じように体が緊張し続けることがある点です。
上司との関係、顧客対応、納期、クレーム、評価面談、職場の空気などによって、心と体が休まらない状態になることがあります。
現代の職場では、反応と現実が合わないことがある
人の体には、危険に備える反応が備わっています。
しかし、現代の職場では、その反応がそのまま役に立つとは限りません。
たとえば、リストラへの不安、ハラスメントへの恐れ、難しい人間関係、介護や教育現場での感情的な負担などは、走って逃げれば解決する問題ではありません。
また、怒りや不安のまま行動すると、かえって人間関係が悪化したり、判断を誤ったりすることがあります。
そのため、職場のストレス対策では、「ストレスを感じないようにする」だけでは不十分です。
ストレスを感じたときに、すぐ反応するのではなく、いったん落ち着き、相談し、調整し、休める職場の仕組みが必要です。
ストレスは挑戦する力にもなる
ストレスは、危険や不安だけに関係するものではありません。
新しい仕事に挑戦するとき、発表の前、研修で人前に立つとき、難しい課題に取り組むときにも、心と体は反応します。
この反応によって、集中力が高まったり、準備をしようと思えたり、行動を起こしやすくなったりすることがあります。
つまり、ストレスはいつも悪いものではありません。
負荷が本人に合っていて、支援があり、終わったあとに回復できるなら、そのストレスは成長や達成感につながることがあります。
これが、ユーストレス、つまり良いストレスとして考えられる状態です。
良いストレスと悪いストレスの違い
良いストレスと悪いストレスを分ける大きなポイントは、負荷の強さと回復です。
良いストレスは、適度な負荷があり、本人が意味を感じられ、周囲の支援があり、終わったあとに回復できます。
一方で、悪いストレスは、負荷が強すぎる、長く続く、相談できない、休めない、本人の努力だけでは変えられない状態です。
職場では、同じ仕事でも、人によって受け止め方が変わります。
ある人にとっては成長の機会でも、別の人にとっては強い負担になることがあります。
だからこそ、人事総務や管理職は、「この仕事はやりがいがあるはず」と決めつけず、本人の状態、仕事量、相談先、休息の取りやすさを合わせて見る必要があります。
ストレス解消のための飲酒に注意する
ストレスを減らすために、お酒を飲む人は少なくありません。
一時的には気分がゆるんだように感じることがあります。しかし、飲酒に頼りすぎると、睡眠の質が下がったり、翌日の疲れが強くなったり、生活リズムが乱れたりすることがあります。
ストレスを悪いものとして避けようとしすぎると、「とにかく気分を変えたい」という行動に頼りやすくなります。
職場の健康管理では、ストレス解消法を個人任せにするのではなく、休憩、相談、睡眠、軽い運動、仕事量の調整など、複数の方法を持てるようにすることが大切です。
職場のストレス対策で見直したいこと
職場のストレス対策は、「ストレスを減らす」だけでは不十分です。
もちろん、有害なストレスは減らす必要があります。長時間労働、ハラスメント、過度なノルマ、相談できない職場は、早く改善すべきです。
一方で、適度な挑戦、学び、役割の明確さ、達成感、助け合いは、働く人の前向きな力につながります。
そのため、人事総務・健康経営担当者は、次の点を分けて見る必要があります。
- 減らすべきストレスは何か
- 本人の成長につながる負荷は何か
- 社員が相談しやすい環境があるか
- 負荷のあとに回復できているか
- 管理職が部下の変化に気づけているか
- 研修が一度きりで終わっていないか
この整理ができると、ストレス対策は単なるリラクゼーションではなく、職場づくりの一部として考えやすくなります。
人事総務・健康経営担当者が確認したい職場のサイン
ストレス反応は、社員の様子や職場の空気にも表れます。
たとえば、次のようなサインです。
- 疲れているのに休憩を取らない社員がいる
- 新しい仕事への不安を相談しにくい
- ミスが増えているのに、個人の注意不足だけで処理している
- 管理職が「やる気がない」と受け止めてしまう
- 研修後も現場の行動が変わっていない
- ストレスチェック後の改善が続いていない
このような状態がある場合、社員個人のセルフケアだけでは限界があります。
仕事量、休憩、相談先、管理職の声かけ、研修後の確認まで含めて見直すことが必要です。
ユーストレスとディストレスを分けて考える
ストレスをすべて悪いものとして見ると、社員の挑戦や成長の機会まで減らしてしまうことがあります。
反対に、「ストレスは成長に必要」と言いすぎると、過労やハラスメントを見逃す危険があります。
大切なのは、ユーストレスとディストレスを分けて考えることです。
ユーストレスは、適度な負荷があり、支援や回復がある状態です。ディストレスは、負荷が強すぎる、長く続く、逃げ場がない、回復できない状態です。
この違いを知っておくと、職場のストレス対策を「減らすだけ」ではなく、「有害なものは減らし、成長につながるものは支える」という考え方に変えられます。
ユーストレスの意味や、ディストレスとの違いについては、ユーストレスとは|職場での活用と科学的エビデンス解説で詳しく整理しています。
健康経営としてストレス対策を見直すには
ストレス対策を健康経営として進めるには、研修を一度実施して終わりにしないことが大切です。
社員が自分のストレスサインに気づけているか、管理職が部下の変化に気づけているか、相談しやすい職場になっているかを確認する必要があります。
また、ストレスチェックの結果や研修アンケートだけでなく、現場で実際に行動が変わっているかを見ることも重要です。
たとえば、次のような確認です。
- 研修後にセルフケア行動が続いているか
- 管理職が部下の疲労や不安に気づけているか
- 相談先が社員に伝わっているか
- 忙しい部署ほど休憩が取りにくくなっていないか
- ストレスチェック後の職場改善が止まっていないか
こうした確認を行うことで、ストレス対策を一度きりの取り組みではなく、職場改善につなげやすくなります。
まとめ|ストレスは悪者にするだけでは足りない
ストレスは、すべて悪いものではありません。
危険から身を守る反応もあれば、挑戦や集中を助ける反応もあります。一方で、強すぎる負荷や長く続く負荷は、心身を消耗させます。
職場の健康管理で大切なのは、ストレスを一律に悪者にすることではありません。
減らすべきストレスと、成長や働きがいにつながる負荷を分けて考えることです。
人事総務・健康経営担当者は、社員の努力だけに頼らず、仕事量、相談しやすさ、休憩、管理職の関わり、研修後の確認まで含めて見直す必要があります。
けんこう総研では、ストレスを「減らすだけ」で終わらせず、ユーストレスとディストレスの違いをふまえた健康経営フォローアップを行っています。
健康経営フォローアップ【まとめ】で、研修後の定着と職場改善の進め方を見る
文責:タニカワ久美子