ストレス管理
看護師の感情労働ストレス|患者感情と自分の感情を守る対処法
看護師のストレスは、仕事量の多さや夜勤の負担だけでは説明できません。
看護の現場では、患者さんの不安、痛み、怒り、悲しみを受け止めながら、看護師自身は落ち着いた表情や声かけを保つことが求められます。
このように、自分の感情を調整しながら相手に安心感を与える働き方を、感情労働といいます。
看護師の感情労働が難しいのは、患者さんの感情を大切にしながら、自分自身の感情も守らなければならない点にあります。
患者さんに共感しすぎると心が消耗します。一方で、自分の感情を抑え続けると、疲労感やバーンアウトにつながります。
この記事では、看護師の感情労働ストレスを、患者感情、自分の感情、認知再構成、研修による支援の視点から整理します。
看護実践に求められる感情労働とは
看護師の仕事には、医療処置や観察だけでなく、患者さんの不安を受け止めること、安心して治療を受けられるように声をかけること、家族の心配に対応することも含まれます。
このとき看護師は、自分の気持ちをそのまま出すのではなく、場面に合った表情、言葉、声の調子、態度を選んでいます。
これが看護職における感情労働です。
| 看護現場の場面 | 看護師に起こりやすい感情 | 求められる対応 |
|---|---|---|
| 患者さんが不安を強く訴える | 心配、焦り、責任感 | 落ち着いて説明し、安心感を与える |
| 痛みや苦痛を訴えられる | 共感、無力感、緊張 | 状態を確認しながら、寄り添って対応する |
| 患者さんや家族から強い言葉を受ける | 傷つき、怒り、不安 | 感情的に返さず、状況を整理する |
| 忙しい中で説明やケアを求められる | 焦り、疲労感、葛藤 | 安全を保ちながら優先順位を判断する |
| 看取りや急変に関わる | 悲しみ、緊張、責任感 | 患者・家族・チームへ配慮し続ける |
看護師の感情労働は、単なる接遇ではありません。
患者さんの生命、苦痛、不安に関わるため、感情の負担が深くなりやすい特徴があります。
看護師のストレスは量的負担と質的負担の両方から起こる
看護師の職務ストレスには、大きく分けて2つの負担があります。
一つは、仕事量の多さ、夜勤、長時間勤務、人手不足などの量的負担です。
もう一つは、患者さんや家族の感情を受け止め続ける質的負担です。
| 負担の種類 | 内容 | 看護現場での例 |
|---|---|---|
| 量的労働負荷 | 仕事量や時間の負担 | 多忙、夜勤、記録、処置、急変対応 |
| 質的労働負荷 | 感情や判断の負担 | 患者の不安対応、家族対応、看取り、苦情対応 |
| 感情労働の負担 | 自分の感情を調整し続ける負担 | つらくても落ち着いて対応する、怒りを抑える、共感し続ける |
看護師のメンタルヘルス対策では、仕事量だけを見るのでは不十分です。
どの場面で感情を使っているのか、どの対応の後に疲れが残るのか、誰が難しい対応を抱えているのかを見る必要があります。
看護師に必要な4つの感情対処
先行研究では、看護師の感情対処にはいくつかの傾向があると整理されています。
ここでは、実務で理解しやすいように4つに分けて説明します。
| 感情対処の種類 | 意味 | 起こりやすい問題 |
|---|---|---|
| 患者感情優先対処 | 患者さんの感情を最優先にする | 自分の感情を抑え込み、疲れやすい |
| 自己感情優先対処 | 自分の感情を優先して守ろうとする | 患者さんとの関係がぎくしゃくすることがある |
| 両感情調整対処 | 患者さんの感情と自分の感情の両方を扱う | 支援があればバーンアウト予防につながりやすい |
| 両感情回避対処 | 患者さんの感情にも自分の感情にも向き合わない | 一時的には楽でも、関係性やケアの質に影響しやすい |
看護現場で大切なのは、患者さんの感情だけを優先することではありません。
看護師自身の感情を無視し続けないことも必要です。
患者さんの不安に寄り添いながら、看護師自身の怒り、不安、悲しみ、疲れも整理できることが、感情労働ストレスを軽くする鍵になります。
患者感情だけを優先するとバーンアウトにつながりやすい
看護師は、患者さんを支える専門職です。
そのため、「患者さんのために」「自分が我慢すればよい」と考えやすい仕事でもあります。
しかし、患者さんの感情だけを優先し続けると、看護師自身の感情が置き去りになります。
この状態が続くと、次のようなサインが出ることがあります。
- 患者さんにやさしくしたいのに、心が動きにくくなる
- 小さな言葉に傷つきやすくなる
- 仕事の後も患者さんのことが頭から離れない
- 怒りや悲しみを感じても、すぐに抑え込んでしまう
- 休んでも気持ちが戻らない
- 看護の仕事に意味を感じにくくなる
これは、本人の弱さではありません。
感情労働が続き、自分の感情を整理する機会が不足しているサインです。
認知再構成とは何か
看護師の感情労働ストレスを軽くする方法の一つに、認知再構成があります。
認知再構成とは、出来事の受け止め方を見直し、心身への負担を軽くする方法です。
難しい言葉に見えますが、現場では次のように考えると理解しやすくなります。
| 場面 | 負担が強くなる受け止め方 | 見直した受け止め方 |
|---|---|---|
| 患者さんから強い言葉を受けた | 自分の対応が悪かったのだ | 患者さんの不安や痛みが強く出ているのかもしれない |
| 説明しても納得してもらえない | 自分には説明力がない | 今は相手の不安が強く、理解に時間が必要なのかもしれない |
| 忙しくて十分に寄り添えなかった | 自分は看護師として足りない | 安全を守るために優先順位を選んだ。次に補う方法を考えよう |
| 患者さんのつらさを受け止めきれない | もっと共感できない自分は冷たい | 一人で抱えず、チームで支える必要がある場面かもしれない |
認知再構成は、無理に前向きに考えることではありません。
自分を責める考え方に偏っていないかを見直し、現実的で安全な受け止め方に整える方法です。
深層演技は良い面もあるが、使い方に注意が必要
感情労働には、表層演技と深層演技があります。
表層演技は、内心とは別に表情や態度だけを整えることです。
深層演技は、相手の事情を理解しようとして、自分の感じ方そのものを調整することです。
看護の現場では、深層演技が役立つ場面もあります。
患者さんの背景を理解し、「この人は怒っているのではなく、不安が強いのかもしれない」と受け止め直すことで、対応しやすくなることがあります。
ただし、深層演技も続きすぎると負担になります。
常に相手の事情を理解し、自分の感情を変え続けようとすると、看護師自身の本音が見えにくくなるためです。
大切なのは、患者さんの感情を理解しながら、自分の感情もなかったことにしないことです。
看護現場で必要な職場支援
看護師の感情労働ストレスは、個人の努力だけでは解決できません。
職場として、感情を使う業務を支える仕組みが必要です。
1. 感情労働が強い場面を共有する
急変対応、看取り、家族対応、苦情対応、認知症患者への対応など、感情を多く使う場面をチームで共有します。
「大変だったね」で終わらせず、どの対応にどの負担があったのかを言葉にすることが重要です。
2. 若手看護師を一人で抱え込ませない
若手看護師は、技術面だけでなく感情面でも多くの負担を抱えます。
患者さんに寄り添いたい気持ちと、業務をこなす必要との間で苦しみやすい時期です。
指導者や管理職は、技術評価だけでなく、感情の負担も確認する必要があります。
3. 患者感情と自己感情を分けて振り返る
振り返りでは、「患者さんはどう感じていたか」だけでなく、「看護師自身はどう感じたか」も確認します。
この二つを分けることで、共感しすぎによる消耗や、自責感の強まりを防ぎやすくなります。
4. 管理職が感情労働を業務負担として扱う
管理職は、看護師の感情労働を「向き不向き」や「性格」の問題にしないことが重要です。
難しい患者対応や家族対応が、特定の看護師に偏っていないかを確認します。
5. 研修で感情対処の共通言語をつくる
表層演技、深層演技、患者感情優先、自己感情優先、両感情調整といった考え方を、現場の言葉で共有します。
共通言語ができると、看護師が自分のストレスを説明しやすくなり、管理職も支援しやすくなります。
タニカワ久美子が医療・看護職向け研修でこのテーマをどう扱うか
けんこう総研の研修では、看護師の感情労働を「患者さんにもっとやさしくしましょう」という話にはしません。
看護師は、すでに十分すぎるほど患者さんの感情に配慮しています。
私が研修現場でよく見るのは、患者さんや家族を大切にしようとする看護師ほど、自分の感情を後回しにしている姿です。
強い言葉を受けても笑顔を保つ。患者さんの不安を受け止めた後も、すぐ次の業務に入る。家族対応で緊張した後も、記録や処置を続ける。
そうした日々の積み重ねが、本人の中で疲れとして残っていきます。
私は研修で、「患者さんの感情を大切にすることと、自分の感情を消すことは違います」と伝えます。
そして、患者さんの感情、自分の感情、業務上の判断を分けて整理します。
管理職向けには、「対応が上手な看護師ほど、感情労働が集中していないか見てください」と伝えます。
看護師の感情労働を扱う目的は、看護師を弱い人として見ることではありません。
専門職として働き続けるために、感情を使う業務を職場で支える仕組みに変えることです。
よくある質問
看護師の感情労働とは何ですか?
看護師の感情労働とは、患者さんや家族に安心してもらうために、自分の感情を調整しながら、表情、声、言葉、態度を選び続ける働き方です。
看護師の感情労働はなぜストレスになりやすいのですか?
患者さんの不安や苦痛に深く関わるためです。共感しながらも冷静に判断し、自分の感情を抑える場面が多いため、心の消耗が起こりやすくなります。
患者さんを優先することは悪いことですか?
悪いことではありません。ただし、患者さんの感情だけを優先し続け、自分の感情を無視すると、バーンアウトにつながりやすくなります。
認知再構成とは何ですか?
出来事の受け止め方を見直し、自分を責めすぎない現実的な考え方に整える方法です。看護現場では、患者対応後の振り返りや感情整理に役立ちます。
病院や看護部では何から始めればよいですか?
まず、感情労働が強い場面を職場で共有することです。急変対応、看取り、家族対応、苦情対応など、看護師が感情を多く使う場面を見える化することから始めます。
まとめ|看護師の感情労働対策は、患者感情と自己感情の両方を守ること
看護師の感情労働ストレスは、患者さんの感情を受け止めることと、自分の感情を抑え続けることの間で起こります。
看護師に必要なのは、患者さんを大切にする力だけではありません。
患者さんの感情と自分の感情の両方を扱う力です。
そのためには、個人のセルフケアだけでなく、職場としての支援が必要です。
感情労働が強い場面を共有し、若手看護師を一人で抱え込ませず、管理職が感情負担を業務負担として扱うことが重要です。
看護師の感情労働を見える化することは、バーンアウト予防、離職防止、メンタルヘルス一次予防につながります。
感情労働ストレス研修への活用
けんこう総研では、看護職、医療機関、介護施設、福祉職、対人サービス職に向けて、感情労働ストレス研修を行っています。
患者さんや利用者さんの感情を支える職員が、自分自身の感情も守りながら働き続けられるよう、現場で使える言葉と支援方法に整理してお伝えします。
看護師のバーンアウト予防、若手職員の定着、管理職ラインケア、感情労働の見える化に課題があるご担当者様は、以下のページをご覧ください。
参考文献
- 金子多喜子ほか「感情労働に伴う感情対処育成のためのWeb版教育プログラムの検討」日本看護科学会誌, 39, 45-53, 2019.
- Hochschild, A. R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.
- Zapf, D. (2002). Emotion work and psychological well-being: A review of the literature and some conceptual considerations.
- Morris, J. A., & Feldman, D. C. (1996). The dimensions, antecedents, and consequences of emotional labor.
- Grandey, A. A. (2000). Emotion regulation in the workplace: A new way to conceptualize emotional labor.
文責:タニカワ久美子