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ラザルスのストレス対処法とは 認知評価とコーピング理論をわかりやすく解説
ラザルスのストレス対処法とは、ストレスを「出来事そのもの」だけで判断せず、本人がその出来事をどう受け止め、どう対処するかに注目する心理学の考え方です。
同じ出来事でも、ある人には強いストレスになり、別の人には挑戦や成長の機会になることがあります。この違いを考えるうえで重要なのが、認知評価とコーピングです。
認知評価とは、自分にとってその出来事がどのような意味を持つかを判断することです。コーピングとは、そのストレスに対して実際にとる対処行動のことです。
この記事では、ラザルスのストレス対処法を、認知評価とコーピング理論の視点から整理し、職場のストレス管理や健康経営でどのように活用できるかを解説します。

ストレスに強くなるとは、我慢することではなく、状況に応じた対処法を選べるようになることです。
ラザルスのストレス理論とは
リチャード・S・ラザルスは、ストレスを単なる外部刺激としてではなく、人が出来事をどう評価し、どう対処するかによって変化するものとして整理しました。
つまり、ストレスは「出来事そのもの」だけで決まるのではありません。
たとえば、急な仕事の依頼があった場合でも、次のように受け止め方は分かれます。
- 自分には無理だと感じる
- 成長の機会だと感じる
- 上司に相談すれば対応できると感じる
- 業務量が限界なので危険だと感じる
この受け止め方の違いが、ストレス反応の強さや対処行動に影響します。
職場のストレス管理では、この考え方が重要です。同じ業務量でも、支援、裁量、経験、相談先、本人の状態によって、ストレスとしての意味が変わるからです。
認知評価とは何か
認知評価とは、ある出来事に対して「自分にとってどのような意味があるか」を判断する過程です。
ラザルスの理論では、ストレス反応は、この認知評価によって大きく変わります。
認知評価は、大きく分けると次の2つで整理できます。
| 認知評価 | 内容 | 職場での例 |
|---|---|---|
| 一次評価 | その出来事が自分にとって脅威か、損失か、挑戦かを判断する | この仕事は危険なのか、成長機会なのかを判断する |
| 二次評価 | 自分に対処できる資源や手段があるかを判断する | 時間、スキル、上司の支援、同僚の協力があるかを考える |
たとえば、難しい業務を任されたとき、一次評価で「これは大きな負担だ」と感じても、二次評価で「上司に相談できる」「期限を調整できる」「過去の経験が使える」と判断できれば、ストレス反応は弱まりやすくなります。
反対に、対処できる見通しがないと感じると、同じ業務でも強い不安や負担につながります。
コーピングとは何か
コーピングとは、ストレスに対して行う対処行動のことです。
ラザルスのストレス理論では、コーピングは大きく次の2つに分けられます。
| コーピングの種類 | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| 問題焦点型対処 | ストレスの原因そのものに働きかける | 業務量を調整する、期限を交渉する、役割を整理する、相談する |
| 情動焦点型対処 | ストレスによって生じた感情を整える | 深呼吸する、気持ちを書き出す、話を聞いてもらう、考え方を整理する |
どちらが優れているというものではありません。
状況を変えられる場合は、問題焦点型対処が有効です。一方で、すぐには状況を変えられない場合や、まず感情を落ち着ける必要がある場合は、情動焦点型対処が役立ちます。
重要なのは、ストレス状況に応じて対処法を選ぶことです。
問題焦点型対処が向いている場面
問題焦点型対処は、ストレスの原因に直接働きかける方法です。
職場では、次のような場面で有効です。
- 業務量が多すぎる
- 期限が現実的でない
- 役割分担が曖昧
- 情報共有が不足している
- 相談先が分からない
- 作業手順が非効率である
このような場合、本人の気持ちを落ち着けるだけでは不十分です。業務量、期限、支援体制、手順、役割を見直す必要があります。
| ストレス原因 | 問題焦点型対処の例 | 職場での支援 |
|---|---|---|
| 業務量が多い | 優先順位を整理する、期限を調整する | 管理職が業務配分を見直す |
| 役割が曖昧 | 担当範囲を確認する | 責任範囲と期待水準を明確にする |
| 相談できない | 相談先を決める | 面談やチーム内共有の機会を作る |
| 手順が複雑 | 作業工程を見直す | マニュアル化や改善活動につなげる |
問題焦点型対処は、職場改善や管理職ラインケアと相性がよい対処法です。
問題焦点型対処について詳しく整理した記事は、ラザルス理論に基づく問題焦点型対処で進めるストレス管理で解説しています。
情動焦点型対処とは何か
情動焦点型対処とは、ストレスの原因そのものをすぐに変えられないときに、感情の揺れを整える対処法です。
たとえば、相手の反応をすぐには変えられない、結果を待つしかない、病気や災害など自分の力では状況を動かせないといった場面では、まず感情を安定させることが必要になります。
情動焦点型対処には、次のような方法があります。
- 深呼吸やリラクゼーションで身体反応を落ち着ける
- 不安や怒りを書き出す
- 信頼できる人に話す
- 一時的に距離を置いて気持ちを整理する
- 出来事の意味を捉え直す
- 自分を責めすぎないように考え方を調整する
情動焦点型対処は、問題を放置するための方法ではありません。強い感情に巻き込まれすぎず、次の行動を選びやすくするための方法です。
情動焦点型対処が向いている場面
情動焦点型対処は、特に次のような場面で有効です。
| 場面 | 起こりやすい感情 | 有効な対処 |
|---|---|---|
| 結果を待つしかない | 不安、焦り、落ち着かなさ | 呼吸、気持ちの書き出し、相談 |
| 相手をすぐに変えられない | 怒り、無力感、疲労感 | 距離を置く、認知再評価、支援者に話す |
| 失敗後の落ち込み | 自責、恥ずかしさ、不安 | 出来事と人格を分けて振り返る |
| 介護・病気・災害など | 悲しみ、不安、先の見えなさ | ソーシャルサポート、休息、感情の整理 |
情動焦点型対処は、すぐに解決できないストレスに対して、心身の消耗を抑える役割があります。
ただし、情動焦点型対処だけに偏ると、問題の根本的な解決が遅れることがあります。必要に応じて、問題焦点型対処と組み合わせることが重要です。
問題焦点型対処と情動焦点型対処の使い分け
ストレス対処で重要なのは、どちらか一方を選ぶことではありません。
状況に応じて、問題焦点型対処と情動焦点型対処を組み合わせることです。
| 状況 | 優先しやすい対処 | 理由 |
|---|---|---|
| 原因を変えられる | 問題焦点型対処 | 業務量、期限、役割、手順を改善できるため |
| 原因をすぐには変えられない | 情動焦点型対処 | 感情を整え、消耗を減らす必要があるため |
| 感情が強すぎて考えられない | 情動焦点型対処から始める | 落ち着いてから問題解決を考えやすくなるため |
| 同じ問題が繰り返される | 問題焦点型対処へ移る | 構造的な原因を見直す必要があるため |
たとえば、業務量が多すぎてつらい場合、まず深呼吸や相談で感情を落ち着けることは有効です。しかし、それだけでは業務量は変わりません。
その後、優先順位の整理、期限調整、上司への相談、チーム内の業務分担見直しといった問題焦点型対処が必要になります。
職場でラザルス理論を活かす意味
ラザルスのストレス理論は、職場のストレス管理に非常に使いやすい考え方です。
なぜなら、職場のストレスは「出来事」だけでなく、本人の受け止め方、支援の有無、対処可能感によって変化するからです。
同じ仕事でも、次の条件があるとストレスは軽くなりやすくなります。
- 目的が明確である
- 期限が現実的である
- 相談できる上司や同僚がいる
- 自分で調整できる裁量がある
- 必要な情報やスキルがある
- 休息と回復の時間がある
反対に、支援がなく、裁量が少なく、相談しにくい職場では、同じ業務でも強いストレスになります。
健康経営では、本人のストレス耐性だけに注目するのではなく、職場側が対処可能感を高める設計を行う必要があります。
管理職が使えるラザルス理論の視点
管理職が部下のストレスを支援するとき、いきなり「頑張って」「気にしすぎないで」と声をかけるのは適切ではありません。
まず確認すべきなのは、部下がその出来事をどう評価しているかです。
| 確認したいこと | 管理職の問いかけ例 | 目的 |
|---|---|---|
| 一次評価 | この業務で一番負担に感じている点は何ですか | 何を脅威・負担と感じているかを確認する |
| 二次評価 | 対応するために足りないものは何ですか | 時間、情報、支援、裁量の不足を確認する |
| 問題焦点型対処 | 業務量や期限で調整できる部分はありますか | 原因への働きかけを検討する |
| 情動焦点型対処 | 今の不安や疲労を少し下げるために必要なことはありますか | 感情面の消耗を軽減する |
管理職に必要なのは、部下の感情を否定せず、対処できる条件を一緒に整理することです。
ストレスチェック後の職場改善との関係
ストレスチェック後の職場改善でも、ラザルス理論は有効です。
ストレスチェックの結果だけを見ると、「この部署は高ストレス」「この社員はストレスが高い」と数値で判断しがちです。
しかし、実務ではその背景を確認する必要があります。
- 仕事量が多すぎるのか
- 裁量が少ないのか
- 上司支援が不足しているのか
- 相談しにくい風土があるのか
- 役割が曖昧なのか
- 本人が対処不能と感じているのか
このように、ストレス要因と対処資源を分けて見ることで、研修や職場改善につなげやすくなります。
ラザルス理論は、ストレスチェック結果を単なる数値で終わらせず、職場の対処可能性を高めるための視点として活用できます。
まとめ:ラザルスのストレス対処法は選べる対処を増やす理論
ラザルスのストレス対処法は、ストレスを出来事そのものだけで考えず、本人がどう受け止め、どう対処するかに注目する理論です。
認知評価では、その出来事が自分にとって脅威なのか、挑戦なのか、対処できるのかを判断します。その評価によって、ストレス反応の強さや対処行動が変わります。
コーピングには、原因そのものに働きかける問題焦点型対処と、感情を整える情動焦点型対処があります。
職場のストレス管理では、感情を落ち着けるだけでも、問題を解決するだけでも不十分な場合があります。状況に応じて、両方を使い分けることが重要です。
健康経営では、従業員に「ストレスに強くなりましょう」と求めるだけでなく、相談、裁量、情報、休息、職場改善によって、対処できる条件を整える必要があります。
職場のストレス管理研修への活用
けんこう総研では、企業・介護施設・教育機関向けに、ラザルスの認知評価理論、コーピング、セルフケア、管理職ラインケア、ストレスチェック後の職場改善を含めたストレスマネジメント研修を行っています。
ラザルス理論を理解すると、ストレスを個人の弱さとして扱わず、出来事の受け止め方、対処資源、職場環境の問題として整理しやすくなります。
従業員のセルフケア力を高めたい場合や、管理職が部下のストレス対処を支援できるようにしたい場合は、以下のページをご覧ください。
参考文献
- Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, Appraisal, and Coping. Springer.
- Lazarus, R. S. (1999). Stress and Emotion: A New Synthesis. Springer.