健康経営
健康経営で押さえるべきメンタルヘルスの考え方
― 施策が効かなくなる企業に共通する構造 ―
「最近、体調が今ひとつで……」
これは、先日ある業界の経営者懇親会で実際に出た言葉です。
詳しく話を伺うと、
社内報での情報発信や、希望者を募って実施してきたメンタルヘルス研修が、
以前ほど社員に響かなくなっているという悩みが背景にありました。
このような声は、決して特別なものではありません。
企業を訪問するたびに、総務・人事・健康経営担当者から聞かれる、
非常に共通性の高い課題です。

健康経営におけるメンタルヘルスは「施策」では機能しない
多くの企業では、メンタルヘルス対策を
- 社内報での啓発
- セミナーや研修の実施
- 相談窓口の設置
といった個別施策の集合として捉えがちです。
しかし、健康経営の文脈で見ると、
メンタルヘルスは単独の施策で改善するテーマではありません。
なぜなら、メンタルヘルスは
- 働き方
- 組織構造
- 業務設計
- 評価・マネジメント
と密接に結びついており、
現場の行動や意思決定の積み重ねとして現れる状態だからです。

健康経営の方法論は「管理」から「プロセス設計」へ
健康経営の考え方は、この数年で大きく変化しています。
従来のように、
- 上位組織が計画を作り
- 現場に展開し
- 守らせる
という統制型の運用では、
メンタルヘルス領域はほとんど機能しなくなりました。
理由は明確です。
- 雇用形態が多様化している
- 業務スピードと負荷が増大している
- 「我慢」による調整が限界に達している
この環境下では、
指示された健康施策ほど形骸化しやすいのです。

メンタルヘルスを機能させる鍵は「エンパワーメント」
健康経営において、メンタルヘルスを実装するために重要なのが
**エンパワーメント(empowerment)**という考え方です。
エンパワーメントとは、
現場で働く社員自身が、健康管理に主体的に関与できる状態をつくることを指します。
ここで重要なのは、
- すべてを会社が管理しない
- すべてを社員任せにもしない
という中間設計です。
社員が、
- 自分の状態に気づき
- 業務や生活を調整し
- 周囲と協働できる
この状態を支える構造そのものが、
健康経営におけるメンタルヘルス対策になります。

コラボレーションという現実的な選択
すべての社員の健康管理を、
社内だけで完結させることは現実的ではありません。
そこで重要になるのが、
外部専門機関とのコラボレーションです。
- 企画・運営の一部をアウトソースする
- 社内では判断しづらい領域を外部視点で補完する
- 社員が安心して相談できる「社外の窓口」を持つ
このような分業と協働が、
メンタルヘルスを「特別対応」ではなく
日常のマネジメントプロセスに変えていきます。
健康経営は「身体」と「メンタル」を分けて考えない
健康経営の現場では、
- 身体の数値
- 生活習慣
- メンタル不調
を別々に扱ってしまうケースが少なくありません。
しかし実際には、
これらは密接に連動しています。
たとえば血糖値の変動は、
- イライラ
- 集中力低下
- 強い眠気
- 倦怠感
といったメンタル面の不調として現れやすく、
結果として業務効率や判断力に影響します。
「数値の改善」ではなく、
日常の不調感覚と結びつけて理解することが、
行動変容の起点になります。
健康経営におけるメンタルヘルスの本質
健康経営で扱うべきメンタルヘルスとは、
- 不調者を見つけること
- 問題社員を管理すること
ではありません。
本質は、
- 不調が生まれにくい業務設計
- 調整できる組織構造
- 気づきを行動につなげるプロセス
をつくることにあります。
これを見極め、設計できなければ、
健康経営戦略は成立しません。
健康経営の「プロセス戦略」という視点
健康経営に必要なのは、
施策の数ではなくプロセスの質です。
- どこで不調が生まれ
- どこで見過ごされ
- どこで調整できるのか
この流れを設計することが、
健康経営におけるメンタルヘルスの核心です。
執筆・監修
タニカワ久美子
株式会社けんこう総研
代表取締役
東京大学大学院 情報学環研究生